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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-73 格の違い2


「きゃっ!」
「っっ!!」

誰かの悲鳴や息を呑む声をかき消し、鼓膜を破らんとする程の轟音と地響き。
そして、空だけを(・・・・)染めて落ちてこない雷光に一同はただ静まりかえる。
まるで透明な壁が落雷を受け止めているようだとソレが何かを知る彼らも
我が目を疑った。何せその雷光は見渡す限りの全天を覆い尽くして夜空を
完全に皆の目からその一瞬とはいえ遮っていたのだから。

「…………さすが、土御門家の屋敷。結界もとんでもないわね」

そんな文字通り視界を覆うほどの光が過ぎ去った後。
最初に口を開いたのはそのあり得ない雷を落とした当人だ。
壊すつもりだったのに、と嘯きながら敷地内を覆う結界の強度に感心していた。

「フ、フハハッ、とっ、当然だ! 我らが宗主さまが張られた結界だぞ!
 お前のような卑しい血を引いた者が、にゃ、なにをしようと破れるわけがっ!」

道真は大言壮語だとトモエを指差し、滑稽だといって大いに笑う。
ただその声は途中どもっていたり盛大に噛んでいたりと様にならず。
しかも今の揺れで再び地に伏した状態であり、その表情に血の気は微塵もない。
ふらつく事もなくきちんと両足で立っているトモエに対して彼のその様子は
誰の目にも虚勢である事は明白であり、またそれこそ滑稽な光景だった。
されどそれを自覚できる余裕も、指摘できる余裕のある者もいなかった。
行ったトモエ自身が苦笑しているのさえ誰も気付いていない。

「……うそ、でしょ……いま結界ごと屋敷が揺れたわよ」

部屋の中─一部は崩壊しているが─からでもわかったその異常と規模。
身近な柱にしがみつくようにして震える彼女はまだその衝撃から抜け切れない。
この屋敷を覆う結界は霊的な攻撃や怪異の侵入を防ぎ、尚且つ周囲の人々から注目
されないように人避けや認識阻害の効果まで持つ複合型で現在の当主が張ってから
一度も破られた事がない代物だ。現在その記録は続いているが破られる寸前
まで追いつめられたのは階位の低い彼女らでも充分感じられた。

「な、中で起こった異常だから外は揺れてないでしょうけど、
 ……あれのどこが雷神召喚よ、術の規模が違い過ぎるじゃない!」

難易度の高い術で彼女らは誰一人使えないが本来あれは一筋の雷を落とすもの。
優れた術者が使ってもせいぜい雷の本数が増えていくだけのはずであった。
だが今のはもう落雷を超えていた。まるでSF映画にでも出てくるような
都市を一撃で吹き飛ばす超兵器による砲撃といった方が正しく見える。
それを時代劇さながらの屋敷に張られた異能の結界が防ぎ切った光景は
見ようによっては悪い夢だ。これは耐え切った結界を称賛すべきか。
それだけ大規模な雷を易々と落とした彼女を畏怖すべきか。

「本当に雷神さまがやってきたかと思った……これが巴さまの、実力!」

「……低く見てたつもりなんて無かったのに、全然わかってなかったっ」

素性を隠していた以上その全てを知っていたとは思っていなかった彼女らも
一年以上間近で見てきた自負があったつもりだった。そこから上方修正して
評価していたが実際はそんな予想すらはるかに上回る力をトモエは持っていた。
知らなかったのは単に振るうべき時が幸か不幸か来なかっただけに過ぎない。

「こんなものかしら」

彼女らも、そして無意識下では道真すら驚嘆としているその所業。
静まりかえる中、しかし行った当人は先述のように苦笑いしていた。

「威力しか見る所のない術も驚かすには充分よね。音でかいし。
 あいつには初見で切り払われて、散々こき下ろされたけど」

驚いている理由を些か誤解しつつ、いつかの鍛錬で彼に使った時を回想する。
これよりは“多少”威力は抑えたものだったが彼はいとも簡単に切り裂き、
次の瞬間には呆気なく肉迫され「焦って大技とかアホか」と呆れた目で一言(バッサリ)

それから淡々と、威力があり過ぎて加減ができない。余波が大きい。
雷光で自分の視界も塞いでいる。光と音が強烈で人目を集めてしまう。
空から落とすため距離感を間違え、落下点がずれやすい。等と散々な酷評を
受けた事で威力のみを求める時か“こういう用途”でもなければ使えない術に
彼女の中でカテゴライズされていた。

「ああ……やっぱり先にそっちが来ちゃうわよね」

思い出し苦笑いをしていたトモエは集まってきた気配に苦笑の意味を変える。
その視界を覆うように、そして庭園を支配するように多数の“黒”が出現した。
前もって広げた感覚によって感知していた屋敷の外にいたこちら側の者達。
闇夜に紛れるような黒装束と覆面で性別も年齢も隠す影がおよそ80人程。
まるで忍者軍団ね、と言葉にはしないものの彼女は呆れるように苦笑したまま。
確かに暗がりに紛れるには適当だが現代日本でそれが通じる場所はいったい
いくらあるだろうかと時代錯誤か伝統を重視し過ぎるきらいを感じる。
それを思えばスーツ姿の道真が一番まともに見えるのだからおかしい。

「若様、ご無事ですか?」

「バっ、馬鹿かお前達は! これのどこが無事に見える!」

落ち着き払った黒の言葉とそれへの返しも道真の方が正しく思えるが、
おそらく死に至るか行動不可能になるほど致命的なダメージを受けているか否か
を問うているのだろう。彼は顔を派手にやられているが言ってしまえばそれだけ。
霊的な能力を持つ相手との戦いで見た目だけで状態を推察するのはかえって危険だ。
またその程度の傷なら実戦慣れしているらしい黒装束の者達には普通なのだろう。

「お元気なご様子で安心しました。あとはお任せを」

「おいっ、だからこれのどこがっ! くそっ、さっさと治療しないか、のろまめ!」

「……基準がくい違う部下と上司の会話って虚しいわね」

あえてか本気かいつものことと流しているのか。
そんなことをいう黒とそれに激昂する道真の会話は微妙にずれている。
だがそれでも命令には忠実なのか治癒術に長けているらしい黒が数名駆け寄り、
その邪魔はさせないということか10人程の黒がトモエの前に立ちはだかる。
縁側近くにいる彼女を半円状に囲む。屋敷にまで上がらないのは破壊には
関与してないと示すためかその背後にまで敵意を向けて刺激しないためか。

「伊達にそんな格好してないようね。
 次代があれじゃ宝の持ち腐れでしょうが、腐っても鯛とは笑えないわ」

勝手にこちらを見下しきって油断していた道真と違い、そこに隙はない。
霊格や術の練度を見れば大きく下回るが集団でありその慣れた動きは脅威だ。
落ち目だった葛木家の者達と対峙した後だからこそ、その練度の差がわかる。
伊達に長年退魔一族の中枢にいた津守家が抱える部隊ではない。

「………一応聞くけど、黙ってそいつ連れ帰ってくれない?
 こっちはそいつが襲ってきたから応戦しただけなんだから」

これらをまともに相手にするのは骨が折れると念のために問うが応えは無い。
少々都合よく事実を捻じ曲げたとバレたのか主家の者以外からの言葉に
応じないよう教育されているのか。

「ふ、ふざけるな! 
 その紛い物を今すぐ私の前から、いやこの世から抹消しろ!
 私を傷つけた罪をその卑しい身に徹底的に教え込んでやれ!」

どの道、その主人の怒りを買っている時点で無駄な交渉か。
治療が進んで痛みが引き、そして味方が増えて気が大きくなったのだろう。
先程までのトモエに対する畏怖は消え、その目には嗜虐的な色が浮かんでいる。
典型的な小者だともはや怒りも呆れも無い彼女はただ目を細めて刀印を結ぶ。

「と、巴さまお逃げを!」

「いくら巴さまでもこの数は!」

「あ、でも一緒に連れていってくれると嬉しいな巴さま」

「だからっ、さま付けしないで! って図々しいこと言うわね美紀!」

背後から真剣に心配する声が届くのだが、最後と様付けが彼女の緊張感を
台無しにしてしまう。しかし目線も纏う雰囲気も微塵も揺らがぬ様子を見て、
それを隙と考える黒装束の者は誰一人としていなかった。

「今だ! かかれ!!」

黒装束は、だが。
主家の者の命令は絶対。そんな教育を受けているのだろう。
呆れや不満さえ感じさせずに囲んでいた黒たちが一斉に動く。
一人置きに霊符を投げつけ、それに半歩遅れる形で残りが飛び掛かる。
手にしている─隠している─のは刃がいくらか通常より長い寸鉄状の武器。
呪詛に似た気配を纏うそれは人間相手に当たれば必殺の武器であろう。
襲い来る霊符の群れも属性が整えられた捕縛術の気配で彼女は感心する。
連携に慣れた反応と精錬された動きはじつに参考にしたいと思っていた。

そう、彼女にはまだそんなことを観察し考察する余裕があった。

葛木家の者達より動きがよくても彼女が知る上限とは雲泥の差である。
急速に目が肥えたおかげでどの程度までなら自分が対応できる速さと距離で
あるのかを感覚的に理解できるようになっていた。そして視野もまた広げた。
仮にこれらを諸共に吹き飛ばしても次撃の準備が襲撃者達の背後に見えていた。
それも()の行う嫌がらせ(鍛錬)に比べればなんとも優しい対応に
感じてしまうのだから不思議である。だから。

「あ──?」

ソレに誰よりも先に気付き、眉根を寄せた。
そして即座に半歩引いたのは巻き添え(・・・・)を嫌ったからに他ならない。

「─────っ!!」
「─────ぇ!?」
「─────っっ!」

瞬間彼女の視界を霊力の光が遮った。さすがに気付いた彼らだが時既に遅し。
悲鳴や息遣いすら無きにして光の束が一網打尽とばかりに黒達を呑みこんだ。
その光の幅と濃さは10名程の黒装束を完全にその中に消してしまう。

「っ………」

「…………は?」

文字通り割り込んできたその光への絶句と困惑のそれは誰のものか。
この場にいる者なら誰しもが見慣れているはずの霊力の輝き。
だがそれをこんな形で見たことがある者は、トモエ以外にはいないだろう。
彼女は仏頂面で光が右から左に通り過ぎていくのを見送った。時間にして7秒。
言葉にすると短いが体感だとそれなりの時間放出された莫大な(馬鹿げた)霊力。
後に残ったのは位置も装束にも変わりが無いのに意識を失い地に倒れた黒達の姿。
そこへ。

「よう……オレも混ぜてくれないか」

軽快な声と共に縁側からひとりの少年が庭に下りてくる。トモエと共にさらわれ、
彼女がいた部屋よりさらに奥の部屋で寝かされていたもう一人の被害者(加害者)
シングウジ・リョウ。彼の『どうだ、驚いたか?』というしてやった顔に彼女は一言。

「…………あたしより起きてくるのがだいぶ遅れたとあいつに報告するわ」

間。

「や、やめろ!! 頑張ったんだよ、オレ超頑張った!」

一瞬の愕然とした顔のあと彼は必死の形相でそう叫んでいた。
気持ち他の黒装束集団を見据えていた彼の意識もそこで完全にトモエに向く。
信じられないという驚愕とそれだけはやめてくれという懇願の色がそこにある。

「すさまじく眠いのを強引にぶっ飛ばしたら近くで爆発音だぞ?
 何かと思ったらすぐに男の気持ち悪いうめき声が聞こえて、あの轟雷だぞ?
 おっかなびっくり外を見たらなんかエセ忍者集団がぞろりだぞ?
 出るタイミングが見つからなかったんだよ!」

何が起こっているか分からず、行動が遅れたと釈明する。そして状況を見ていたら
トモエに襲い掛かったのを見て─大丈夫だとは思ったが─これは逃せないと動いたのだと。

「むしろ無駄な行動をしなかった点を褒めてくれ!」

「そう、あいつにも同じ言い訳をするといいわ」

しかしドヤ顔で助けに入った幼馴染に苛立っている彼女の返しは冷たい。
狙いや必要性はどうであれ助けようとした行動には感謝したい気持ちはあるが
いかにも今気付きました、間に合っただろといわんばかりの顔は癪に障った。
何よりリョウの何の工夫も調整も知識も必要としない単純な霊力放出による
理不尽なまでの必倒の一撃は─アイディアが自分とはいえ─苦々しい想いがある。
これまで多くの知識と長い鍛錬を積み上げてきた術者の一人として、
その研鑚を無遠慮に跳び越えられてはどうしても目が睨むようになる。

「うっ、で、でも一緒に連れ込まれた以上どっちにしろこれ一緒に説教コースだろ?」

そんな半ば以上敵を見る目になっている幼馴染に腰が引けつつもリョウは
同罪じゃないか、黙っててくれ、と訴えるがトモエの不機嫌さは変わらない。

「だからこそ、よ。
 どうせ諸共ならあんたを売ってあたしは少しでもその時間を短くしてみせる」

「お前は鬼か!」

そうだ、こういう奴だったよ。と傍若無人なそれに悲鳴をあげながら彼は
振り返りもせずに背後に裏拳を叩きこんで飛び掛かってきた黒を一人仕留め、
続く二人を手もかざさないで背中から放出した霊力の爆発で弾き飛ばす。

「邪魔すんな! こっちはいま生きるか死ぬかの交渉をしてるんだ!」

そしてお前らのことなど知ったことか、と。
怒気全開で一喝すると彼はトモエを拝むようにして頭を何度も下げながら頼み込む。
その姿には情けないものがあるが周囲はその前に行った所業に意識が向いている。
道真は最初の霊力の束のような放出の時点で開いた口が塞がっておらず、
黒装束たちは今の動きに警戒の度合いを跳ね上げて迂闊に動けなくなっていた。

「リョウさまの霊力がとんでもないのは分かってたけど……」

「もうあれ霊力による砲撃だよ、さすがはリョウさまってこと?」

「教えを受けてない分、リョウさまは常識にとらわれないのでしょうね」

一方でふたりの背後の三人は驚嘆の息をもらしながらその輝きに冷や汗だ。
自分達の力量が低いと分かるだけに、目の前に立ち並ぶ太陽二つは眩しすぎる。
見ているだけで矮小な身が蒸発してしまいそうな錯覚に陥りかけていた。
それだけ普段は抑えているトモエの霊力がいま枷を外して解放されており、また
垂れ流しだったリョウも今や戦意に呼応してか研ぎ澄まされていたモノを放っている。
感じ取れる“目”を持つ者ならその圧力は気を抜けば意識を奪いかねない。
尤も。

「───っっ、だ、誰だいま気色悪い呼び方した奴!?」

当人は突然の様付けへの気持ち悪さからぶるりと震えて鳥肌を立てていたが。
そこで初めて彼は半壊している部屋にいる面々の顔を認識して、固まった。

「って、あいつらお前の同好会の……え、なんでここに!?」

「…どうも退魔一族の関係者だったみたい。
 ついでにいえばあたしらをさらったの多分あの子達よ」

「……ま、マジで?」

「マジよ、でも詳しい事情を聴く前にそこの坊ちゃんに襲われたから…」

詳しいことはわからない、そう続けるつもりだった彼女の言葉は遮られる。
苛立ちと唾を多分に含んで張り上げられた声は静まった状況にやけに響いた。

「おい、下女ども! 貴様らっ、私はさま付けで呼ばなかったくせに!
 その紛い物どもにはさまを付けるとはどういう了見だ!」

「お、小物感アップな台詞いただきました」

「喋れば喋るほど残念な奴ね……」

言い方はあれであるが内容としては自分と扱いが違うと駄々をこねているかのよう。
そういう風にしか聞こえなかった両名はほぼほぼ聞き流しているのだが下女と
言われた少女たちの見解は違うらしく強く反論した。

「はぁ? 当然でしょ!
 この方々は我ら退魔一族の三大宗主家であった安倍家、神宮寺家の最後の一人!」

「その血筋を受け継ぎ、これほどの力を持つ方をさま付けしない方がおかしいです!」

「当主も存命で他にいくらでも代わりのいるあんたと同列なわけないでしょ!」

実力と存在価値が違うのだと煽りや嘲りではなく彼女らはわりと本気で口にした。
尤も。

「……なんだろう。
 どっちも選民思想じみててちょっと気持ちが悪いんだけど?」

「同感だ。今更有難がられてもなぁ……」

これまた当人たちには響かない右から左に聞き流す内容であった。
学園や今の社会で生きる彼らはどこか個人実力主義あるいは実績主義な所がある。
血筋や家が優れているから敬えという思想はどうにも受け入れがたいものがあった。
この一族のそれは今更といえば今更なので彼らに是正する気はゼロなのだが。

「というか三人とも、自分でどうにかできないのに相手を煽ってどうするのよ?」

「……そこは、まあ……お二方におんぶにだっこで?」

「大丈夫、虎の威を借るのは得意なんです私達!」

「今までの鬱憤がたまってるから存分にやっちゃって!」

「……あ、あなたたちっ!」

くらりとふらつく。してもいない眩暈を錯覚する。
まさに頭痛が痛い。あんまりな─普段通りっぽい─言い分にそんなフレーズが過る。
よくいえば調子がいい。悪くいえば刹那的で考えが足りないのが彼女達であった。
年齢を考えれば、さほど珍しい性格ではないのだが。

「お前、もうちょっと友達選べよ」

「弟くんぐらいしかいないあんたがいうな!」

だからこそ感情的ではあるがつい深く思考を巡らしてしまう彼女と欠けたピースを
補うかのように合致してしまったがゆえに今まで交友が続いていたのであった。

「お、お前達っ、この私を無視して談笑とはふざけた態度を!」

「……今のが談笑に思えるなら眼科と耳鼻科に行った方がいいぞお前」

思わず、といった風にリョウはわりと真剣に心配して呟くがそれがトドメ。
嘲笑や侮蔑よりも哀れみというものが彼にとっては一番腹立たしい扱いで
もはや血管が切れるような音を幻聴した道真は完全に冷静な思考を失っていた。

「若様っ、この場所でそれは!?」

自身の懐をまさぐり、取り出したモノを見て周囲が慌てふためく。

「黙れ!
 このまま舐められて終われるか! 私は津守家の次期当主なのだぞ!」

しかし諌めに入った黒装束を突き飛ばし、ソレを地面に叩きつけた。
まるでガラス(作り物)が割れたような音を立てながら砕けたのは白いナニカ。
音は不自然であったがそれは月明かりが戻ってきた中では充分に視認できた。

「骨?」

見間違えようのない質感と形状をした骨。
即座に叩き割られて四散したせいで元の形状は断言できないが、
一瞬遠目にも視えたそれは人の手─腕の半ばから掌まで─の骨ではないか。

「っ!」

一瞬の怖気と寒気にトモエはリョウの─皆の─前に出て柏手(かしわで)を打つ。
それとほぼ同時に黒装束らも道真を抱えて骨の破片から逃げるように飛び退く。
途端、砕けた骨が一気に膨張して破裂する。破片がさらなる破片を生み出すが
そんなものよりも吹き出すようにまき散らされたものの方が有害だった。
薄紫色をした煙。誰もが“視える目”を持つこの場でそれを危険視しない者はいない。
それは退魔一族が『瘴気』と呼ぶ全ての生命体にとって有害な空気。いわば霊的な毒ガス。
彼女が簡素な方法でも邪気払いをしていなければそれの直撃を受けていただろう。
そのおかげでトモエ達が立つ縁側周辺を境目とするようにソレは侵入できない。

「いったいなにを─────っ!?」

霊力を纏って防御できても濃い瘴気は道真側にとっても有害な代物だ。
だから黒装束は彼を避難させた。だがソレだけなのかという確信に近い疑問が出る。
確かに彼女達もこれには容易に触れたくない。だが、即座に命を脅かすものでも
自分達の行動を縛れる程のものでもない。多少視界を遮っているが気配での探知
ができる彼女らにはさほど関係がない。ならば本命は。

「っ……今なんか面倒臭い感じがする震動がしたぞ」

「奇遇ね、あたしもそう思った所よ」

そこへ響いた学園生徒たちにとっては覚えのある地面から響くそれ。
先程の落雷の衝撃とは別のゆっくりだがその重さを感じさせる地響き。
それが何か巨大な存在が闊歩した時に発生するものだと彼らは経験で知っている。
ふたりは自然と、あるいは気配を察知してか揃って空を見上げて乾いた笑みをこぼす。
爆発するように広がった瘴気は一時空を覆っていたがこの場所が持つ自浄能力が
徐々に薄めていき、その奥に隠していたモノをさらけだしていく。闇夜の空で
揺らめくような怪しい光が五対も輝く。カタカタと下駄でも鳴らすような音は
それらがこすれあったものか。あるいは不揃いで歪な下顎骨を揺らして彼らが笑う声か。


「────────ガシャドクロ」


肉を持たない白骨の巨人たちが夜空を隠すように並び立っている。
その全ての昏い眼窩が彼らを品定めでもするように不気味に見下ろして笑っていた。
+注意+
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