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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-72 格の違い1

なんでも耐性がつけば、最上級を知ればいいというものではない。


つまりは、これもまた奴のせい(汗


そこは日本人ならば誰しもがイメージするような日本家屋。
あるいは時代劇に出てくるような武家屋敷そのものといってもいい建造物。
正確な歴史を辿ればそこが武家の屋敷だった事実は一度としてないが京都という
場所柄か一見すれば観光名所かそうでなくとも歴史的建造物かと疑うそれは
しかし個人の邸宅。されど昼も夜も人が興味を引く事も近寄る事も無いままに
市内で有数の土地と歴史を保有しているという不可思議な物件でもあった。

「ああっ、どうしようっ、どうしよう!?」

そんな屋敷の一角で。
小さな学校の体育館ぐらいは収まってしまうのではないかという程の
広さを誇る庭園を望める縁側を三人の少女たちは慌てながら進む。

「巴さまにどう説明するの!? もう解呪されちゃった!」

「私達が三人がかりで作った術で稼げたのがたった30分だなんて!」

「30分も、というべきね。不意打ちでなきゃそもそも決まらなかったわ」

彼女らが身に包むのは、トモエが最後に見た黒い衣装そのもの。
より正確にいうのなら黒系統の色合いを持つ巫女服といえる代物だ。
そう、この少女達こそが二人を襲って、ここまで運び込んだ下手人。
実行時は特徴のない黒い面で顔を隠していたが今は素の顔を見せている。
トモエの友人にしてスポチャン同好会のメンバーであるその顔を。

「あれが本物の血統が持つ力……畏れ多くて嫉妬する気にもならないわ」

「わかってるわよ、そんなこと!
 ああもうっ、なんて間が悪い。まさかミコトさまがいないだなんて!」

「リョウさまの方は……ダメ、あっちもあと数分で起きちゃう!」

「教えを受けられていないというのに無意識下で強引に破りにきてるわね」

現在進行で伝わってくる術の状態に彼女らは焦燥感を募らせる。
自分達が合同でかけた術は片や完全に霧散し、片や崩壊寸前。
短時間しか効果が無いことは分かっていたがあまりに早い。
今は先に目覚めたのを感知したトモエのもとへ慌てて向かいながらも
その後どれだけ説明し、何を懇願し、どうすれば納得してもらえるのか。

───何もかも予想外で想定外で、どうすればいいか解らない

あの時はこれが一番正しいと思って行動したのに今振り返れば
単に後先考えていない無謀な行動であったと自覚せざるを得なかった。
焦燥感にかられて行ったことによって現在も焦っているのは皮肉である。
何より一番頼りになる直属の上司と連絡が取れないのが痛かった。
この古都・京都で現在起こっている裏と表の境界線上でのごたごたへの
対応と情報収集に追われて─請われて─現在この屋敷(自宅)にその姿はない。
式文は飛ばしたが問題の対処に時間が取られていれば帰宅は遅れるだろう。
幸いだったのはその問題のおかげで屋敷はほぼ空となっていたことだろう。
でなければ勝手な行動によって一族から外れた人間を運び込むことは難しかった。
一族において立場でも血筋でも実力でも彼女らは下から数えた方が早い。
出来ることはあまりに少なく、だからこそ“外”に配置してもらえたともいえた。

「怒られる、よね?」

「それは、どっちの話?」

「いちいち聞くことじゃないわ。どっちにも、に決まってるじゃない」

彼女らの上司にも、トモエにも。
果たしてそうなった時、自分達の行く先はどうなるのか。
どちらも今までのような関係ではいられず、最悪どちらの居場所も失うだろう。

「学校、大変だったけど楽しかったよね」

「やめてよ、いやになる……失敗したなぁ、そっちは完全アウトよね」

「そうでしょうね、でもあいつはあまりに恐ろしすぎる。
 私達は勝手をしたけど、やっぱり巴さまのそばに置いておくわけには……」

そこだけは見解が一致しているのか揃って頷きを見せるが、曲がり角を曲がると
揃って深い溜め息も出る。もうトモエを寝かした部屋は目と鼻の先にあった。
彼女の激昂しやすい所を知るがゆえにここから先への一歩が重い。
何よりここからは昨日までの学生生活との別れの道なのだから。
しかし。


「───やはりここへ不純物を運び入れたのはお前達だったか」


そこへ詰問というにはあまりに嘲りを孕んだ声が背後から投げかけられた。
気配など寸前までまるで感じなかった三人は前に向かって跳びつつ振り返る。
それぞれが印を結び、懐の霊符を掴みながら見据えた人影は見知った者。

「っ、津守(つもり)道真(みちざね)……!」

されどそれは歓迎すべき人物とはお世辞にも言えない相手であった。
まず目に入るのは着崩した高級感漂うスーツに覆われた細見の長身と
その上にある端正な顔立ち。年の頃は二十代前半という程のそれ。
まるで見下ろしてくるような眼光には威圧感がある。否、その視線に
乗る色を見れば、ような、ではないのは誰の目にも明白だ。彼こそは
一族の若い女性の中で鑑賞する“だけ”なら一番だと噂されている男。
その理由は推して知るべしであろう。

「さま、だ」

「は?」

「道真さま、だろう。
 下女の分際でこの私を呼び捨てとは礼儀を弁えたまえ」

静かな語気は、それど隠しようが─隠す気が─ない侮蔑がある。
確かに一族の中核に位置する津守家に麒麟児ありといわれた男と
既に廃れて久しい家系の薄れた血筋の少女たちとでは立場も実力も
天地ほど差があるだろう。その視線にはそれらを見せつけるような
“圧”があり、それに睨まれると彼女らはいつも竦んでしまう。
いつもなら、だが。

「ひ、必要ありません!」

しかし、どうしてか三人は以前ほどその視線に迫力が無いと感じた。
それはこの中では気弱な方な少女が強気に言い返した事から見て取れた。
一方で真正面から即答に近い形で否と返され、しばし呆然とする道真は
声色を冷えたものに変えながら続けた。

「………聞き間違いか、あり得ないことをいわれたが?」

だがそれすらもどうしてか彼女達には物足りないほど暖かい代物だった。

「いえ、あなたの耳は正常です……私達自身は確かに取るに足らない者。
 しかし勘違いなされぬように。私達はミコトさま直属の配下です」

「幹部の方々や家々のご当主さまや大先輩の方々ならばともかく、
 津守家次期当主候補の一人でしかない若輩者にへりくだる必要はありません」

それまで何度も高圧的且つ侮蔑まじりに扱われてきた鬱憤がたまっていたのか。
意趣返しだといわんばかりにすらすらと今までは言えなかった主張を行っていた。
一方取るに足らないはずの相手が、今まで自分の前で怯えるだけだった者達が、
毅然と言い返して(刃向って)きた事に彼は我慢できずついに声を荒げた。

「……いうじゃないかっ。
 土御門家の威を借るしか能がない溝鼠風情が無礼な!」

「聞かなかったことにします。しかし津守道真殿()、わかっておいでか?」

「ここはミコトさまのお屋敷です。
 あなたが来るという話は特に聞いていません。案内の者もいないご様子。
 主人の留守中に勝手に上り込んでいるのならそちらこそ無礼では?」

「っ、貴様ら!」

痛い所を突かれたせいか端正な相貌が屈辱に歪む。
彼はこれまで通り自らの立場であれば多少の無作法は押し切れると考えていた。
しかし古来より男が口で女に勝つことは非常に難しいと相場は決まっている。
今までの勝利は彼女らが怯んで応じなかっただけの不戦勝でしかなかったのだ。
いざその舞台に上がられては三人も集まった女を相手に男が勝てる道理はない。
道真という男はそれを知らなかった。されど、彼女達もまたわかっていない。
口で女に勝てない男が次に取る最もありがちな行動というものを。




────霊力が爆発した









────霊力が爆発した

その波動を感知する前から彼女はもうここを敵地として認定していた。
衣服や装飾品はそのままで乱れもなく、本格的な身体チェックを受けた様子はない。
だが、やはり武器になりえる自らのフォスタと霊符は取り上げられていた。
しかし睡眠誘導以外は術をかけられておらず、部屋自体にも結界の類はない。
それらを感じ取ったトモエは術による探査ではなく、師曰く『感覚だけを広げる』
『万物の気配を読み取る』という方法で周囲の状況を把握していた。
その爆発はまさにその最中に起こった。

「っ、────オン!」

だからその爆発と吹き飛ばされたモノ(・・)を感知した時点で刀印を結んでいた。
即座に媒介を必要としない大津家式・式鬼を組み立てる。否“全身は”間に合わない。
ならばといらぬ部分を省略して式鬼が完成したのは障子が吹き飛んだのと同時。
加速した思考の時間。現実では瞬きほどの中の出来事。

「受け止めなさい!」

弾け飛んだ障子の破片を不可視の風を操って身を守りつつ、
それらに僅かに遅れるように飛ばされた三つの影へ式鬼がその腕を伸ばす。
まるで鎧武者のようなその意匠と打って変わって柔軟性を持たされたそれは
見事にクッション代わりとなって防御術ごと吹き飛ばされた少女達を受け止めた。

「あっ、あたたっ……って鬼!?」

それでも衝撃はあったのか痛みを訴えた一人は見上げた先の黒い鬼面に慄く。
どことなく人懐っこい笑みを浮かべているような顔だが鬼は鬼である。
いきなりその距離では驚くというもの。

「……足のない鬼さんってことは幽霊の鬼さんなのかな?」

「じつは地獄に落ちたとかそういうオチかしら?」

その声によって自分達を受け止め抱えている存在に気付いた他二名も
式鬼をつぶさに観察するように眺めると、力無い笑みと共にそう評した。
およそ人間半分程の大きさの黒鬼面を中心に左右に腕が生えただけの式鬼が二体。
それがまさに幽鬼の如くといわんばかりに宙に揺らめいていた。
三人の少女たちをそれぞれで守るように抱えながら。

「案外冷静なのね、あんたら……あたしはまだ少し状況が分からないんだけど?」

若干その光景を─自ら作り出しておいて─シュールに思いつつも、
意外にいつもの調子で喋っている三人に呆れたように彼女はいう。
だがそこで漸くトモエの存在に気付いた少女達は心底慌てた。

「うっ、え、巴さま!?」

「巴さま、えっとそのこれは!」

「ごごっ、ごめんなさい巴さま!」

「っっ、さま付けしないで気色悪い!!」

彼女達からすれば内心はずっとそう呼んでいたのが表に出ただけだが
トモエからすればずっと呼び捨てで気安いはずの友人達から突然の様付けである。
顔を歪めて不快そうにしながら鳥肌をたててしまうのは仕方あるまい。しかし。

『くくっ……だってさ。苦しゅうないとかいってみるかお姫様?』

なぜかある男がこれを見て笑いながら自分を姫様扱いしてくる光景を
トモエは幻視する。気のせいだと強く自分に言い聞かせながら振り返る。
風通しの良くなった部屋に踏み込んできた男の姿がよく見えた。

「───他人の屋敷で随分と乱暴なノックね。
 あなたの家では基本的な礼儀作法さえ教えていないのかしら?」

そして彼女自身が驚くほど冷静に、冷めた視線と声を向けていた。
じつのところ直前までの彼と彼女らの会話内容をトモエは知らないのだが、
彼女が口にした皮肉はまるでそれを聞いていたかのように適切で痛烈だった。
さすがに感情に任せて霊力を放ち、屋敷を破壊したのは失態と感じているのか。
あるいはそこまでの事をしたのにこたえてない彼女らに自尊心を傷つけられたか。
端正な顔立ちは忌々しげに歪み、お前のせいだといわんばかりに睨み付けてくる。
分かりやすく怒りと敵意が向けられ───誰かの想いを知れた気がした。

「ふ、ふふっ」

「っ、なにがおかしい!
 卑しい身の分際でこの私に説教したばかりか嘲笑うか!」

「別にあんたのことじゃないわよ。ただこういう状況ばっかだったから
 あいつの口の悪さは鍛えられたのかもって思っただけよ……生来かもしれないけど」

「訳の分からないことを……」

つい真似をしてしまった敵対者への挑発と侮蔑による意識の誘導。
それは果たして何のためだったのか。元々の意地の悪さもあったのだろうが
きっと今の自分と同じだったのではないかとトモエは思ってしまったのだ。

「涼香、美紀、尚子……詳しい話はあとでじっくり聞くから」

その理由に振り返る事をしないまま。
されど低い声色と怒れる背中で、覚悟しなさい、と言外に訴えるトモエ。
守ること(それ)怒ってること(これ)は彼女の中では当然別の話なのである。
彼女らは相手が見てもいないというのに激しく何度も首を縦に振るしかない。
その慄きゆえ自分達を守る結界とバリア(・・・)が張られたのに気付かなかった。

「一応聞くけど、引く気はない?」

そしてさらに彼女らを下ろした式鬼たちに囲むように裏で守護させる。
気取られぬよう男から視線を決して離さずに、一歩前に出ると少し上から問いかけた。

「あたしもなんでここに連れてこられたのかよく分かってないし、
 ここ土御門家の屋敷でしょ。暴れたらあんたの立場はなくなる。
 まさかそんなことも分からないとは言わせないわよ?」

屋敷の構造と開けた部屋から見えた庭園の風景。変わらないそれに
幼少期に何度か訪れた事のあるその屋敷だと彼女は気付いてた。
日本の退魔一族の事実上トップに君臨している宗主の屋敷である。
そこでの狼藉は彼にとっては百害あって一利無しだ。普通なら、だが。

「ハッ、汚れた血を持つ豚の分際で偉そうに。
 誇り高き我ら退魔一族の宗主さまの屋敷に貴様のような不純物を
 放置する以上の不敬や狼藉があるものか。誉れ高き津守家の名を継ぐ者として、
 次代の退魔一族を背負う者として、連れ込んだ下女もろとも紛い物は粛清する!」

それは果たしてどこまで本気でどこまでが建前なのか。
そんな使命感と選ばれし者という自負で彼は自らの行いを正当化している。

「……ま、そうくるとは思ったけど、なんとかなんないのかしら
 あんたらのその異国アレルギー。現代では生きづらいだけでしょうに」

あまりに侮蔑的な物言い。あまりに時代を見てない狭い視野。
怒るより、不快に思うより、まず哀れにトモエは思えて頭を振る。だからか。
侮辱されているのについ可哀想なモノでも見るような目を向けてしまう。
その意味を感じ取ってか道真の顔に嫌悪が浮かぶ。

「やめろ! その気色の悪い色の目で私を見るな!」

我慢を知らぬ男はそこで言ってはならないことを口にした。

「っ、ふんっ!」

瞬間、彼の目はトモエを見失う。
微かに捉えられたのは彼女が踏みしめていた畳が割れた光景と
視界いっぱいに広がるデニムに覆われた膝頭だけであった。

「ぁ─────っっ!!?」

続いてきた衝撃と痛みに悲鳴をあげることさえできず、
何かが砕けるような音を自分の中から聞きながら道真は縁側から転げ落ちる。
受け身、どころか反応さえまともにできないまま彼は地面に倒れ伏していた。

「お、お見事」

「わあ、飛び膝蹴りだ……生で初めて見たかも」

「あぁ~あ、色男が台無し、ぷふっ」

背後で三人がそれぞれの反応を見せているが、トモエは納まらないのか。
足元を霊力で保護して裸足で庭に降りると彼を見下ろす位置に立つ。

「ぐっ、つぅっ、な、なにが……いった、い…あっ、ああっ、血、血が!?
 わ、わわ私の血がっ、おおおっ、お前! 私の顔を足蹴に!」

そこで漸く、顔面を襲う激しい痛みと滴り落ちる血で何をされたのか彼も理解した。
端正だった顔立ちは見る影もない。前歯は幾本も折れ、潰れた鼻から血を垂れ流す。
これだけを見たら先程までの自信に満ち溢れた美青年と同一人物とは思えない程だ。

「貴様っ、汚れた血筋の分際で! この私の顔をよくも!」

自らの容姿が整っている自負はあったのだろう。
それを人とも思っていない血の混じった相手に潰されたのは屈辱だった。
だからこそ歪んだ顔をさらに歪めるほどの怒りの形相でトモエを睨み付けた(見上げた)
が。

「よくも高貴な私の血をっ、ひっ!」

そこにはそれ以上に冷たい怒気を孕んだ青い瞳があった。
魂が底冷えするのではないかと錯覚させるほどの絶対零度。
目を離した瞬間燃やし尽くされる光景を幻視する激情の炎。
それらが両立するブルーアイが月明かりの下で地べたを這う彼を怯ませる。

「あんた、あたしが父さまからもらった目をバカにしたわね?」

何せこの男は彼女の触れてはいけない点に触れたのだから。
トモエは確かに日本人らしい容姿に憧れを持つ少女である。
だがそれと自らが父から受け継いだ容姿を大事に思わない事は別の話。
それを気色悪いなどと表現されて冷静でいられるほど彼女の両親への敬愛は安くない。

「……いい度胸じゃない。古臭くて濁った血筋(汚物)の分際で!」

「きっ、貴様!」

だからトモエは彼の言い回しを使って言ってやった。自分が汚れた血筋ならば、
不純物の混ざった紛い物だというのならお前たちはそういうものなのだと。
これには怯んでいた道真も激昂して術を叩き付けんとばかりに刀印を振り下ろす。

「死っ───あぎゃぁっ、ぶくぅっっ!?」

されどトモエはそれが術の形式を取り切る前に片手で掴んであらぬ方向に
へし折ると空いている方の手で歪んでいる顔面を即座に殴り飛ばしていた。

「あ、すごい。攻撃されると思ったら身体が動いた」

全て反射的な動作だった。
その流れるように綺麗に動いた体に頂点を越していた怒りがすっと冷めた。
あいつの教育(しごき)って肉体に刻まれるのね、などと苦笑と共にこぼしながら。

「ま、前々から本気で怒ると肉体言語派ではあったけど……」

「バイオレンスっぷりが進化してるよ!」

唖然としているのは少女たちだ。その傾向はあったとはいえさらに容赦がない。
再び地面に伏している道真の顔には最初の膝蹴りとは別の凹みが出来上がっていた。

「あ、あぎゃ、ゆびっ、わたっ、私の指ぃっ!! うぐっ、こっ、この野蛮人が!!」

逆方向に曲がった自らの人差し指と中指に震えながらもはや原形を忘れそうな
ほどに歪んだ顔に憤怒を宿らせる道真だが返ってきたのは鼻で笑う声だった。

「ハッ、いきなり霊力をぶっ放してきた奴にいわれたくないわね。
 っていうか最初に自分に身体保護か強化の術ぐらいかけなさいよ。
 そしたらもっと軽いケガで済んだのに、最初に教わらなかったお坊ちゃん?」

彼等は人ならざるモノを相手にする退魔師だ。いくら鍛えようとも
素の身体能力のままでは何の準備も無しにまともに戦えるわけがない。
それはステータスを鍛えてない人間が輝獣に立ち向かうのが難しいのと似ている。
だから彼らが初期に教わる術というのはそこを補うものが多い傾向にある。
トモエはさらわれたと認識した時からすでに自らに強化術をかけていた。
ステータスの恩恵もあるがこの結果は彼女がそれを忘れず、彼が怠っただけ。

「ぐっ、うっ!」

彼女の言葉はそんな基礎もできていないのかと嘲笑う声だった。
元々敵と認識した相手には遠慮や容赦がないトモエだが、
誰かの悪影響を受けていないとは言い切れない口の悪さである。

「ゆるっ、さん! 許さんぞ!」

それに対する怒りと痛みが動揺を上回ったのか。
治癒や止血効果のある霊符を貼り付けながら射殺さんばかりに睨み付ける。
だが立ち上がらんとする両足はまるで力が入らず生まれたての小鹿のよう。
肉体的なダメージに不慣れな彼に顔面膝蹴りに物理的な指折り、顔面グーの
コンボは十分に足にくるものだった。

「────雷電神勅、急急如律令」

それにもう哀れむ視線すら送らず。
何の感情も見えない静かな声で彼女は雷神(カミナリ)の力を厳かに希う。
瞬間いつのまに天を覆ったのかという雲の隙間で稲光が生まれ───大地が縦に揺れた。
+注意+
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