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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-71 惨劇の前夜

ちょっと短めですが……




気落ちした少年の吐いた息が静かな夜に響く。

美しい満点の星空も彼の消沈した気持ちを浮上させられない。

少しだけ振り返れば、灯りがもれる教会から楽しそうな声。

それに頬を緩めるも、少年は戻ろうとはせず再度息を吐く。

とぼとぼと逃げるように、自らを邪魔者とするかのように距離を取る。

そんな少年の耳朶に風に乗って軽やかな歌声が聞こえてきた。

なんだろう、と誘われるように足を向ければ見知った者の背があった。

彼らが今回の宿泊先とした小さな村を見渡せる小高い丘。

そこで星空を見上げるのではなく村を見ている独りのシスターがいた。

ただし少年の常識からすればトンデモという頭文字がつくシスターが。

残念ながら、この世界の常識からしてもトンデモなシスターが。

普段の豪快さが嘘のような柔らかな歌声を響かせていた。

彼女は少年に気付いているのかいないのか。

誰に聞かせるでもなく、シスターはただ静かに独り歌う。

その内容を少年は“当時は”よく理解できなかったがそれは人間賛歌。

しかしそれはただヒトという種族全体を賛美しているわけでも、

特定のナニカをなした英雄を賛美しているわけでもない。

朝目覚めて、おはようと言い合って働きに出て、汗水を流し、

夕方になると家に戻って家族で食卓を囲んで、夜になると眠りにつく。

あまりに普通で、あまりに当たり前の日々を生きる誰かたちへの賛歌。

そんな日々への憧憬であり、そんな日々を送る人々への応援の歌。

あなたたちの日々には価値があるのだと“見上げながら”歌う。

いつしかそれに聞き惚れていた少年は、しかしそうでありながら

いつのまにか歌い手たる彼女の隣に立って同じ光景を見ていた。

村中にある小さな家々に灯る小さな光。

一つ一つの中にいる彼らにとっての平穏で当たり前のそれ。

どうしてか。

どうしても。

その輝きに勝るものを少年もシスターも知らなかった。

このふたりの前では世界一美しい宝玉ですらただの石ころだろう。

性別すら超越する魔性の美貌でも彼等の目にはただの顔としか映らない。

満点の星空が見向きもされないのも当然であった。



『……シン、あんたはやっぱりこっち側なんだね』



歌い終えた彼女は隣立つ少年を見ることなく、嬉しそうに呟くのだった。










───何か、大切な記憶を覗き見たような気がした


唐突に、そして自らを塞いでいた蓋を壊すかのように意識が浮上する。
微睡みの誘惑に一瞬引きずられるが彼女の意識は今の夢に向いていた。

「……あれは、信一?」

今より少し幼い姿だったが今見た夢に出ていた少年は間違いなく(シンイチ)だ。
一緒にいた、トモエが知るのとは違う修道服姿の女性は皆目見当がつかなかったが
ふたりは同じモノを見て、同じ感想を抱き、同じように見惚れているようだった。

「夜、か……そこから陽を、平穏を見守る者なのね、あんたは……」

自分達(退魔師)が中間に立って調和を保とうとするのは合理的で実利的な理由だ。
そこに立つのが一番無難でどちらにも目が届くから、などというもの。
それに比べ、その見守り方には尊さを感じてしまう。夜の中で輝きに
憧れながらも決して冒さず、されど闇に閉ざそうとする存在を食らう。
日常という輝きを消し去る程の強い光が差せば夜の影で覆って隠す。

あの光景だけできっとあの二人はそうするという確信が持てた。
女性は夢見越しでも豪快な輝きが見て取れたがそれと同程度の影を見え、
彼も今程ではないが陰寄りで影の中からその輝きを嬉しそうに眺めていた。
必要なものなのだと知っているだけの自分達とは違う目を彼等は持っている。
夜の意味と価値の中にいながら小さな輝きを羨みつつも見守ろうとする意志。
それはなんと高潔で尊い在り方か。それでいて、とてつもなく孤高だ。
その場所は普通の者は耐えられない。己が心の影が濃ければ飲み込まれ
羨望の念を嫉妬の炎にして日常を侵すだろう。光が強ければ影を認められず、
人々の目を焼くことだろう。そこに立てるだけでもう普通ではないのだ。

だから夢の女は嬉しそうだったのだろう。
彼女はそこで初めて同胞に会えたのだから。
同じ位置に立って、同じモノを見て、同じことを想える相手。
立つ場所が他と違い過ぎる者にとってそれはどんなに待ち望んだ相手か。
少年は見ていなかったが不確かな夢の視点は確かに彼女の表情を見せた。

「……まったく、あんたの女癖の悪さはこの時から健在だったわけ?」

まるで前世の恋人にでも再会できたような。失われた半身に出会えたような。
同性である彼女ですら胸が高鳴ってしまう蕩けるような微笑がそこにあった。
けれど、どうしてか。それを見ていた彼女の胸には自分のではない寂しさと
悲しみが溢れていた───二人の別れはこの時もう避けようがなかったのだ。
トモエが知る由もない確信が、その笑みを見たせいか胸に痛い。

「ん」

目元に溜まったそれを拭いながら起き上がる。
何気なく胸元を押さえてそこに預かったペンダントの感触があるのに安堵した。
預かった途端に失くしたのでは彼にどんな呆れ顔されるか分かったものではない。
それは嫌だな、とペンダントの由来を薄ら察しながら微笑む。が。

「─────待って、なんであたし着替えてないの?」

表情が凍る。
見下ろした格好は浩太少年を助けに行った時の衣服のまま。
そのまま寝てしまったのかと記憶を思い返しながら周囲を見て息を呑む。

「っ……あ、ははは………ここ、どこ?」

いくらなんでも夢に意識を取られ過ぎていたと苦笑をこぼす。
それこそ、間抜け、とこちらを半眼で睨む少年の姿が脳裏を過ぎる。
雰囲気が似通っているせいで気付くのが遅れた、とは言い訳にもならない。
彼女が寝ていたのは畳の上に敷かれた布団の中。部屋の広さは十六畳。
木目が見える木の柱に白い障子と襖で仕分けされているかのような構造。
どこからどう見ても和室としか表現できない内装だが旅館の和室と
日常生活を送る住宅の和室では趣がいくらか違う。これは後者だ。
そもそも内装や物の配置─というほど物はないが─がまるで違う。
否、それ以上にこの部屋を、それを内包する建造物全体が持つ雰囲気
ともいう気配が違い過ぎる。ここはあの旅館ではない。時計の類が無く、
彼女のフォスタもどうしてか手元にないため時間が分からないが
障子越しに見える外の暗さを信じるならまだ夜だと思われる。

それらの把握と同時進行で思い出したのはあの後のこと。
ペンダントを預かった後シンイチと彼女はエレベーターホールで別れた。
彼は一階にある個室でトモエは三階の四人部屋の一つであったからだ。
シンイチは部屋まで送ろうとしていたが同じ階層や同室の者に姿を見られて
もいいのかと暗にその交友関係を仄めかして注意すれば先に部屋に戻るしかない。
親友(陽子)を盾にしてまで一人になった彼女にはすぐに調べたい事があったのだ。
そしてフォスタで呼び出そうとしたのとその張本人がやってきたのは同時。
『よっ、二人して夜遊びか?』などと笑いながら告げてきたリョウである。
どこからどこまでを見知っていたのかはトモエには分からなかったが
二人揃っていなくなっていたことには気付かれてしまっていたようだ。
楽しそうなその表情から邪推されているのは感じ取れていたが訂正
するより彼女にはリョウを使って確かめたいことがあった。
やってきたエレベーターに強引に連れ込んで完全に人目を無くすと
ほぼ問答無用でリョウを占った。今まで彼女は帰還者を占った事は無い。
次元の壁を天災によって通過してしまった彼らはいってしまえば一度この世界の
枠組みから外れてしまった存在ともいえる。これでリョウもまた大外れなら
単に帰還者には適応していない占い方法だったというだけの話。
あのおかしな結果にも納得がいくと考えた彼女はしかし、そこで。

「──っ!?」

思考を、その記憶の回想を遮るような頭痛に襲われる。
しかし半ば反射的にその痛みを霊力で跳ね返した彼女ははたと気づく。
いま自分が攻撃したのは自らにかけられていた対象を眠らせようとする術だ、と。

「あちゃぁ、占いに集中しすぎて防御できなかった。
 これ絶対信一に叱られるパターンじゃない………ってつまりあたしたちは──」

それを跳ね除け、曖昧になっていた最後の記憶を掘り起こして見えたのは
目的階に到着して開いた扉の向こうから突如放たれた強烈な睡眠誘導の術。
そしてそれを放ったらしい黒い巫女装束を身に纏った三つの人影だった。

「───さらわれた?」




連鎖しますねぇ、なかなか夜が明けません(汗
+注意+
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