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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-68 始末



冷たい感触と全身に何かが当たったような感触に男の意識はゆっくりと覚醒する。
最初に目に入ったのは空っぽのバケツを持った黒いスーツの男。水をかけられたの
だと目覚めたばかりの脳が理解したのとほぼ同時にそこがどこかも認識した男は
即座に気絶してしまいたくなる衝動にかられた。

打ちっ放しのコンクリートで四方を覆われた空間。
薄汚れた内壁のあちこちにある赤黒い染みと染みついている嫌な匂い。
彼はそこがいったいどこが所有する何のための部屋かよく知っていた。
自分がその部屋の床で捨てられるように転がされているその意味も。
取り囲む見覚えのある男達がどこの誰なのかも。

何故という疑問はある。途切れた記憶のあと放置されたのだとしても
どうしてそこに彼らがやってきて自分を捕えてここに運び込んだのか。
分からないがその時点でもう彼らの中で男の有罪は決まっていたのだろう。

見下ろしてくる視線はどれも冷たいを通り越した路傍の石ころを見るそれで
彼は背筋を凍らせる。どうして眠ったままにしてくれなかったのかと見当違いな
文句が頭を過ぎって、それ以上の恐怖の象徴が目の前に現れた。

「よう、やっとお目覚めか青島」

人垣を割るように現れた一際威圧感のある偉丈夫に男はびくりと震え上がる。
否応に目立つ染めた金髪に傷のある厳つい顔の男はタバコを吹かしながら現れた。
青島と呼ばれた男からすればいま最も会いたくない相手であった。
いや彼に捕まった時点でもう男の人生は終わったも同然だ。

「っ、こ、近藤の兄貴!」

二人の年恰好はさほど変わらないが潜ってきた修羅場の数とその影響力は段違い。
この業界に足を踏み入れればどこかで必ず名前を聞く男と所詮その他大勢の男。
身に付けている高級スーツが嫌味にもならないぐらい馴染みながらその威圧感や
存在感をより強く演出して青島は反射的に身を縮ませていた。

「ほう、まだ俺を兄貴と呼ぶか。俺はてっきり下剋上でも企んでるのかと思ったぜ?」

「な、なにを…そんなバカなこと……」

あり得ないと彼は首を振るもその野心が無かったといえば嘘になる。
同年代の男でありながらも天地ほど違う立場に劣等感と嫉妬があった。
学園生徒の弱みを握り、ガレストとの繋がりを得る事で追い落とそうという
願望が彼の頭にはあることはあったのだ。ただその目論見は隅々まで甘すぎた。
特に近藤という男の本気度を彼は侮っていた。

「そうだな、呆れるほどに馬鹿だよお前は。
 ……言ったことも守れないとはガキにも劣る」

「っ、がはっ!?!」

冷め切った目で見下ろしながら近藤の足先が彼の腹に叩き込まれる。
肺から空気を追い出されたような息苦しさと遠慮のない衝撃の痛みに
たまらず悶絶する青島の頭をスーツ姿の誰かが掴み上げてその顔を
無理矢理近藤の方へ向けた。

「ひっ!」

それまで表面的にはまだ穏やかだった相貌はもう般若のそれだ。
それでいて視線は変わらず冷たく、氷のような冷え切った鋭い怒気と
容赦のない殺気を真正面から叩きつけてきて、思わず悲鳴をあげていた。

「あっ、や、やめっ、ちがっ、違うんです俺っ!」

「……前に言ったよな。俺は昔、あの旅館の人たちに世話になったってな。
 だから何があってもあそこには手を出すなと言っておいたはずだ」

そうだよな、と同意を求めるような言葉に青島は答えられない。
勿論覚えてはいた。だが彼はそれをこの男の弱みとしか思っていなかった。
あるいはバレなければ問題はないと高を括っていたのだ。自分はうまくやれる
という根拠のない自信の結果がこれだという事を彼はまだ自覚出来ていない。
あるいはこれから自らに待つ境遇に怯えてそれどころではないかもしれないが。

「俺やお前は悪党だ。
 いい子ちゃんやれとはいわないが貸し借りや恩義を忘れちゃ、
 俺らみたいなはみ出し者はこの世界でやっていけねえんだよ」

それも最初に教えたよな、としゃがみこんで視線を合わせる。
冷め切った怒りに燃える目は男らが故意に破ったのだと確信している。

「っ、あ、ぁぁ…それはっ……」

「なあ青島、俺はお前が出来ないことを言ったか?」

それでいて静かな声と共に男の頬を何度となく叩く。
答えを求めるような言葉を投げかけながらそれを妨げるように。

「だっ、いえっ、ぎゃっ、あがっ、や、やめっ、がほっ!」

そして時折思い出したようにもう一方の手で腹を殴りつける。

「大統領でも殺せといったか? 100億稼いでこいとでもいったか?
 100mを5秒で走れといったか? なあ、俺はそんな難しい事いったか?」

そんなどう考えても難題で、一介のチンピラには不可能に近い事を命じたか。
確認するように追い詰めながら何度も少しずつ一撃により力を入れていく。

「おがっ、がはっ、ち、ちがっ、ぶべっ、がふっ!?」

「それとも俺の言ったことはこの頭に毛ほども残らなかったか?」

「だっ、ごふっ、あ、いえ、違うんです、これは、あがっ!!」

言い訳はできない。されど何もいわなければ殺される。
その恐怖から何かを必死に言い募ろうとするがそもそも彼に聞く気がない。
喋ろうとするタイミングで一撃を見舞って強制的に口を閉ざさせていた。

「俺も舐められたもんだ。
 てめえみたいなただのチンピラ風情に虚仮にされるとはな!」

この行為の理由のいくつかがその報復と面子のためといえるのだから。
尤も彼の場合それにかこつけて個人的な怒りをぶつけているともいえる。
だからだろう。

「───どっから宿泊客の情報を得た。賛同したのは全部で何人だ?」

いくらかそんなことを続けた後。
すぐに、そして正直に答えるわけがないと分かっていて詰問した。

「そ、それはっ、あぎゃぁぁっ!!!」

言い淀んだ途端に火のついたままのタバコを男の手の甲に押し当てた。
半ば反射的に振り払おうとしたが黒服の部下達が押さえつけて動かせない。
約800度はあるというそれが自らの手を焼いている熱という衝撃に
彼の絶叫が室内に響くが近藤はその手を無表情で灰皿代わりにするだけだ。

「気持ちの悪い鳴き声だ。ペットにもならねえな───全部吐かせろ」

「任せておいてください。丁寧にかわいがってやりますよ」

その場の部下たちが頷いたのを見て任せると一足先に彼は部屋を出る。
廊下もまた打ちっぱなしのコンクリートでどこか冷たい印象のある場所。
組織所有の、そのため、の場所。最低限の光源しかないため薄気味悪さも
あるが不思議と人気だけは感じる。彼が出てきた部屋からだけではない。
ここにはそこと同じ分厚い扉がずらりといくつも並んでいた。
どれからも薄らと絶叫のような音が断続的に聞こえてきているが、
彼はそれを気にとめない。“彼ら”はもう優しい光の下には出られない。

「ふんっ」

もうここには用はないとばかりに足を進める。
懐から新しいタバコを取り出すと自ら火をつけて紫煙で肺を満たす。
部下の目があれば誰かにやらせるが一人の時ぐらい自分でしたかった。

「ふー………兄さん、すまねえ。
 あんなのに手を噛まれて浩太と遥さんに迷惑かけちまった」

だからその数少ない一人でいる時間に部下達の前では決して
吐けない謝罪を苦々しい顔ながらも誰にともなく呟いて、首を振る。
そして外に出ると待たせていた部下達の幾人かが走り寄って報告を重ねた。

「動かされてた連中は他にいませんが、隣町の連中の動きが妙です」

「傘下組織の幹部が数名大金持って国外に出ようとしてましたので捕まえました」

「奴に薬を渡したヤブ医者が吐きました。
 脅されたといってますが、かなりの報酬を受け取ってます。
 いまもっと締め上げているところです」

「今回の件と関係は不明ですがこっちにちょっかいかけてきた地主の葛木家や
 そこと提携してた会社で政変があったらしくあの地域でごたごたが起きてます」

「子供達はいま無事に旅館に戻ったと連絡が。
 入れ替わりで中に潜んでた連中も引き取りました」

「すぐにここにつれてきて、全部吐かせましょう。
 念のため次がないか若いのにしばらく旅館を見張らせておきます」

「そうか、頼む………ちっ、あのガキなにしやがった?」

軽く頷きながらも想定していたより大きい騒ぎに内心渋面で呟く。
これと少年とを結びつけたのは何より彼自身が別れ際に残した言葉だ。


──本当なら貸し二つだけど、俺らが原因な事もあるし一つにまけておくよ


貸し二つの意味は察している近藤だがいったい今のどれが、
あの少年と少女が関わった事なのか。何にせよアレにまだ貸しがあるのが薄ら寒い。

自分達には決して本当の顔を見せなかった少年と少女。
少女の方も職業柄時折見かける得体の知れない者達と似た雰囲気があったが、
それ以上のモノを感じさせた無貌の少年からはさらに血生臭い気配があった。
自分の手を幾度も血で汚した事のある者特有のそれに同類(・・)は敏感だ。
彼自身も生半可な少年時代では無かったがあそこまでだったかと問われれば
さすがに首を振る程にあまりに彼は気配(ニオイ)がこびりつき過ぎている。
あれはもう独りだけ生きていた時代が違うようにさえ男に感じさせた。

「運が良かったのか悪かったのか」

そんな相手が即座に気付いて介入してくれた事が。
最悪を避けられて助かったはずなのに素直に喜べない存在だった。
顔は不明でも少年の目は語っていたのだ。“下手を打ちやがって”と。
あの短い時間でどこまで把握されたというのか末恐ろしい少年だ。
今更だがそんな相手に浩太を預けた事の是非が頭をもたげる。

「は、なにか?」

しかしどの道、自分が言えた義理ではないと訝しむ部下に対して彼は首を振る。
世間的にこの業界の者と学園生徒とでは比べるまでもないと自らを納得させた。
半ば、どころか殆ど無理矢理に、だが。

「いや……もう行くぞ。報告は逐一俺に回せ。
 それとここいらで傘下の連中をもう一度引き締める。
 (俺ら)に逆らったらどうなるかを思い出させてやれ!」

無言で頷く気配を受けて、彼は肩で風を切るように夜の街に消えていった。


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