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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-67 ヘルメット着用必須



まあ、被ってても、意味ないけどね!



「よっと」

背後で一旦跳びあがったシンイチは紫電の網に捕らわれる事なく無事に着地した。
代わりに、というわけではないが使用者以外は皆一様に泡を吹いて倒れている。
ガレストに数多くある殺さずに相手を無力化するスキルの一つ、スタンバースト。
地を這うように走る電撃とその衝撃が人の神経に作用して意識を奪うスキルだ。
本来軽く跳んだぐらいでは有効範囲から逃れられないが、さすがに5m以上の
高さにある天井まで跳べば、そこは射程外である。とはいえ、走る紫電に
気付いてからでは遅いので弱点とは考えられていないが。

「お姉ちゃんすげえっ、今のスキル!?」

尤も浩太少年からすればほぼ一瞬でその高さまで跳びあがった事よりも
それによって床一面を支配した紫電の輝きを見れた事の方が心を捕えたようだ。
少し興奮した様子でトモエに憧憬の眼差しを向けている。どうやら
一般の子供にとってはまさしく『魔法』そのものの扱いらしい。

「え、ええ、そうよ」

そんなキラキラとした目に彼女も照れが入りながら頷く。
すると、すごい、すごい、とさらに連呼されてしまい苦笑してしまう。
何せスキルは慣れとある程度の精神ランクがあればたいていの種類が使える。
勿論効果的な運用や発動までのタイムラグは本人の力量次第ではあるが、
浩太が興奮しているのはその現象を起こした事なので受け取りに困る賞賛だ。
それを教えるべきか子供の夢を守るべきかで少し葛藤するトモエである。
だがそれも長くは続かなかった。

「ん?」

「え、なに───っ、嘘でしょ!?」

誰よりも先に彼がそれに勘付く。少し遅れてトモエもまた気付く。
ほぼ倉庫の中心にいた彼らから見て奥からナニカが動き出そうとする気配。
正確にいえば気配というよりは音。重低音にも似た空気を震わす機械の駆動音だ。
そしてソレがなんであるかに関してはトモエの方が正確に認識していた。

「ちょっと、どうすんのこれ!?」

彼と彼女は姿を消しながら倉庫の裏手から侵入している。
だからそこに何が鎮座していたのかを見ていた彼女は叫んでいた。
その言葉は周囲で倒れている男達を暗に示しており、シンイチは溜め息。

「どうやら俺もお前も手加減をし過ぎたようだな。
 こっちの一般人は脆すぎて加減が難しいぜ、まったく」

「冷静に分析してる場合!?」

事実としてはそうなのだろうが、あまりに冷静でどこか他人事なそれに
怒号を浴びせれば、全く悪びれずに悪い悪いと謝りながら彼は指を鳴らした。
直後。

「やりやがったなクソガキどもが!!」

「よ、よくも俺のムスコを!!」

「ひっ、うわぁっ!?」

ソレは奥から商品の箱や備品の棚を吹き飛ばしながら姿を現した。
怨嗟のこもった怒声に縮こまる浩太を落ち着かせながら彼はそれを見上げる。
電灯の下で浮かぶシルエットは巨大。成人男性の二倍はあるかという全高と
三倍の肩幅を誇る人型が二体並んで彼等の前でその鋼の躯体を見せつけていた。
そして胴体にあたるほぼむき出しのコクピットで男達が憤怒を纏って睨み付けてくる。
シンイチが吹き飛ばし、トモエが急所を蹴り上げた相手であった。

「舐めたことしやがって! ぶっ殺してやる!」

「女の方はそれだけじゃすまさねぇっ!!」

「……ホントその指パッチンどういう理屈か教えてほしいわね」

「これが終わったらな……たいして意味はないし」

視線をソレから離さずに周囲から気配が消えたのを感知したトモエは嘆息。
軽く了承しながらも確信を呟くシンイチもそれは同じ。どちらも相手の
怒号など端から聞く気はゼロであった。

「お、お兄ちゃん? お姉ちゃん?」

彼等の血走った眼とドスのきいた声に浩太は怯えつつも落ち着き払う彼らに
訝しげな顔を向ける。二人は安心させるように笑顔を見せながらも飛び退いた。
次の瞬間には人間の胴体程はある鋼の剛腕が床に突き刺さって倉庫を揺らす。

「うむ、ガードロボもどきかと思ったが外骨格もどきだったか」

驚いた風もなくふわりと着地しながらその挙動をそう評すシンイチ。
何せ彼らは操縦席に乗っているというより鋼の機体を着込んでいる、
といった方が正確でその手足を腕部と脚部に差し込むようにして纏っていた。

「死にさらせぇっ!!」

その両腕を我武者羅に振り回しながら飛び退いた少年少女らを狙う。
鋼の暴力が周囲の物を次々と弾き飛ばしながら迫りくる。だが。

「わっ、わわっ!!」

「で、実際はなんなのあれ?」

「……あれ? おっ、わっ、お兄ちゃんすげえっ!」

毛程も動揺せずにそれらを易々と避けながらも同じ状態のトモエに彼は問う。
抱えられている浩太も最初は怯えていたがかすりもしない事に気付いてか。
彼に憧憬の眼差しを送りながら絶叫マシーンにでも乗ってる気分になっている。
彼女はその光景に苦笑するも彼特有の妙な物知らずに呆れつつ早口で答えた。

「去年に発売された新型重機よ!
 外骨格の基礎理論をこっちで出来る限り再現して土木作業用に調整したの!
 本家には何もかも劣るけど生身の人間相手なら凶悪な兵器も同然よ!」

「ああ、なるほど。あの大きさにしかならなかったのを有効利用したわけね。
 でかいはでかいが従来のに比べれば場所取らねえし動かしやすそうだ」

外骨格は人間サイズの、という前提があったうえでだが
『人型で空を飛べる戦車』と地球人向けに比喩される事が多い。
それが『人型の重機』に戦闘面では格下げされても生身では充分脅威だ。
だからトモエは飛び交う物体を回避しながらその巨体の圧迫感に緊張感を滲ませる。
シンイチはそれを余所に他人事のような雰囲気ながら人型重機を観察していた。

一般的なサイズのショベルやブルドーザーより一回りは小型で
何より人型なため直立した状態の幅は比べ物にならないほど細い。
立ち並べれば一台の駐車スペースで2~3体は並ばせられそうである。
また人型であり胴体に人間が入って手足の延長として動かす仕組みは
これまでの重機と比べれば動作の難度を下げてもいる。さらに手足には
ジョイントらしき部位も見え、作業内容や場所に応じてアタッチメントを
取り替えれば複数の種類を所有するより様々な面で安上がりとなるだろう。
パワーの程も床に出来た窪みの規模と深さ。あるいは弾き飛ばした物品の
潰れ具合や叩きつけられた方の破損具合を見れば本当に重機並といえた。
生身のただの人間ならばまともに一撃入れば肉片となるだろう。
尤も。

「ま、それ以前に弱点丸出しだがな」

学園生徒(かれら)に相対するにはあまりに貧弱な装備といえなくもない。
授業でガードロボや本家外骨格とも対峙する者からすれば下位互換相手では
余程の油断をしない限り脅威といえる相手ではない。彼の考える弱点も致命的だ。
ただ用途を考えればそれは当たり前の話ではあったが。

「重機を兵器目線で評価してるんじゃないわよ!?
 本当は人に攻撃するなんて事もできないのに……こいつらプログラム弄ったわね!」

「なにごちゃごちゃ言ってやがる!」

「ちょこまかと! 黙って潰れやがれ!!」

軽い地響きのような震動を起こしながら鋼の足で一歩ずつ迫る人型重機が二体。
こちらに怯えもしなければ暴れさせた両腕も弾き飛ばした物も当らない事に
焦れてより肉迫しようとしていた。無論それで慌てる彼ではない。

「これ以上は明日の朝、従業員たちが腰抜かすな」

むしろここの関係者を気遣う余裕すらあった。ただし。

「とっくに後片付けだけで数日潰れるレベルよ!
 下手したら何人かクビになっちゃうわよ!」

彼女からいわせるとそれを気にするならもっと早くしてやれと言いたい。
少なくとも正面から見た場合の倉庫の前半分は嵐が過ぎ去った後の状態だ。
ここを所有する会社の金銭的な損失はその感性が一般人のトモエからすると
目を背けたくなる程だ。地味に斜め上にズレている彼は最悪自分が補填
すればいいなどと考えて平然としているが。

尤も彼女がそう思っていても手をこまねいていたのは相手が二体だからだ。
一体だけならばトモエは即座にシンイチがいう弱点を攻めて倒している。
だがもう一体いるためにその隙をあのパワーで襲われてはたまらなかった。
簡易外骨格が使えればまだ話は別なのだが今夜は使用許可をもらっていない。
どうするのだと彼女が視線で問えば、彼は目線を一瞬背後に向けて一言。

「出よう」

「了解!」

それに応えて揃って背後に向かって跳んだ。
男達が激情のままに暴れた結果、大きくへこんだシャッターの隙間へと。
重機搬入用の正面入り口。その全体からすれば小さな隙間だったが何度か
飛来物が激突したために人間が一人や二人通るには充分な穴が出来ていた。

「は? ま、待ちやがれ!」

「くっくそっ、逃がしやしねえぞ!!」

相手が落ち着きすぎていたために逃げられる事を失念していた男達は一瞬
呆けるがすぐさま虚仮にされたとより己の激情に油を注いで脚部内にある
アクセルを踏み込むとエンジンをふかして二体でシャッターに体当たり。
歪んだそれを弾き飛ばすと両者は並ぶようにして外に出た。

「あいつらどこだ!?」

しかし明るい室内からいきなり灯りのない外の闇を覗こうとしても難しい。
目が暗順応するまでの僅かな時間彼らの視力は半ば役立たずと化す。
ただ、もしまともに使えたとしても意味は無かったかもしれないが。

「はい、残念賞」

何せその声は“上”から彼らに届いたのだから。
男達は殆ど何も考えずに反射的に“見上げる”という行動をとってしまう。
そうして月を背にするように落ちてくる二つの影を認めた時にはもう遅かった。

「あぎゃっ!?」
「ごがっ!?」

ちょうど彼らの視界を覆うように、潰すように。
鋭くも深く少年少女の蹴りが男たちの顔にめり込んだ。
ごきりと何かが折れたあるいは潰れたような音をたてながら、その顔をさらに
蹴飛ばすように空中で反転して、倒れる重機を背に少年と少女は軽々と着地する。
これがあまりにも分かりやすい弱点。戦闘という観点から見た場合、この重機の
操縦席は露出部分が多すぎた。扱いやすさと動きやすさ、視界確保のために
胴体以外は制限する物が一切なかったのである。余談だが操作マニュアルには
専用ヘルメット装着が義務付けられているとあるがこの場では誰も知らない事だ。

「ふぅ、フォスタのおかげで安全だって分かってても、
 あの高さから飛び降りるのってけっこう怖かったわね」

人形重機よりも高い場所にある倉庫の屋根を見上げながら呟くトモエを尻目に
シンイチはそれに対する返しのようなまとめのような一言を口にした。

「良い子も悪い子も真似しちゃダメだぞ?」

誰にいってるんだと一瞬呆れた彼女だが、浩太だと気付いて口を紡ぐ。
高い所から飛び降りるようにして蹴りを入れるなど真似すればケガは必須だ。
注意はしておくべきだろうと一応は納得するトモエである。

彼等は外に出た後すぐに倉庫の上に跳び上がって、後から飛び出してきた二体に
向かって飛び降りるように蹴りを入れたのだ。万が一顔に当たらずとも倒して
しまえば起き上がるまでの無防備な状態を狙う事を見越して。

「で、どうするの? とりあえず引きずり出して縛っておく?」

もうひと働きくらい楽勝だと肩を回す彼女だが彼は静かに首を振った。

「いや、そろそろ…」

「っ、今度はなに!?」

だがそれを遮るようにトモエは武器を取り出して構えた。同じ失態はできないと
警戒を続けていた彼女の感覚が近づいてくる自動車の疾走音を感知した。
視線を向ければ10台もの黒塗りの普通車(セダン)が制限速度を超えたスピードで
アスファルトを焦がすように迫ってきていた。そして急ブレーキをかけると
まるで自分達を囲むように並んで停止する。途端に続々とスーツ姿の男達が
飛び出してくると車の壁の隙間を覆うように並び立った。誰一人として
堅気には見えない強面の集団にトモエの警戒心が跳ね上がる。

「なに、なにっ!? もう援軍が来たの!?」

「うむ。丁度いいはいいんだが、早いのか遅いのか微妙なところだな」

外見だけを見れば先程打ち倒した男達と同類に見えるために彼女は身構える。
だがシンイチの方は平然として落ち着いている。これはいつもの通りともいえるが、
同時に事情を知っているようにも思えて、彼女はどう行動すべきか分からないまま
刃を潰してあるブレードを取り出して構えていた。

「あ」

そして先頭を走っていた車から最後に出てきたのは他と雰囲気が違う男だった。
年恰好でいえば周りと同年代に見えるが、がたいのしっかりした染めた金髪に
傷が入ったいかつい顔と鋭い眼光には強い意志があり思わずトモエも息を呑む。
着ているスーツも周囲と意匠こそ似ているが比べれば段違いに上等な代物だと分かる。
少なくともこの男達の中では一番上の立場だとは見て取れた。外見も、中身も、だ。
存在の威圧感ともいうべきものが周囲とは桁違いに強いと彼女は感じ取っていた。
彼に比べれば先程までの連中は偽者もいいところの迫力違いである、と。
そんな彼を──

「おじちゃん!」

「え?」

──浩太少年はあまりに嬉しそうな様子で呼びかけ、彼もそのいかつい相貌を崩す。
それを見てシンイチが浩太を下ろすと地に足がつくやいなや一目散に男に駆け寄った。
そしてその偉丈夫な肉体に抱え上げられあっという間に肩車されていた。

「は?」

「ケガはなかったか浩太?」

「うん! あのお兄ちゃんとお姉ちゃんが助けてくれたんだ!
 かっこ良かったよ! ババンって一気にみんな倒しちゃったし、
 あのでっかいのもぜんぜん当たらなくて、キックで一発KOだったんだよ!」

「あははっ、そいつはすげえな」

「………はい?」

少し興奮気味ながらもその気心知れた態度に男もその部下らしき男達も
シンイチですら当たり前のように受け入れている中で彼女だけが置いてけぼり。

「どゆこと!?」

疑問符だらけの顔を向けられたシンイチだが肩を竦めるだけで答えは無かった。

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