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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-66 息子





京都市の中心からは離れた場所にある企業が所有する倉庫があった。
今は完全に営業外の時間ゆえか。人気と灯りは無い──はずである。
縦長のそれは正面のシャッターから見れば奥行はおよそ100m。
幅は30m程でその空間に所狭しと自社商品や備品が詰まった棚等が積み上り、
何らかの作業機械が電源を落とした状態で鎮座していた。それらを通り過ぎた先。
倉庫全体でいえばちょうど中央辺りに従業員の詰所なのかプレハブ小屋が一つ。
外部からでは分からないからかそこだけは完全に灯りがつけられていた。
そしてそこには人もいた。

「ひっ、ぐっ、ううっ、ひぐっ、うぇっ……」

男の子が泣いている。
空腹や痛みがあるからではない。
知らないところに無理矢理つれてこられたからでもない。
怖い顔をした男達に刃物片手に睨まれているからでもない。
いや、それらも確かに理由ではあるが大きな原因ではないのだ。

「ひっぐ、ごめんっ、お母さん。ごめん、なさいっ……」

彼─浩太少年は幼いながら男達がなぜ自分を閉じ込めているのか理解していた。
母と一度だけ電話で会話させられた後で男達は怒鳴るように何かをしろと言った。
内容はよくわからなかった彼もそれが悪いことなのは察しがついていた。それも
旅館を営む自分達にとっては最悪なことに客を傷つける内容であることを。
その後、今はいない男達をも交えて笑いまじりに喋っていた内容も覚えている。

『あれを()ってしまえば夜には全員おねんねさ』

『そうなりゃあとはもう男も女もひんむいてしまえば、くくっ』

『今から楽しみだぜ、あちらの令嬢や噂の剣聖さまもイイ体してやがった』

『男に興味はねえが、弱みにはなる。同級生がやられてる横で裸だからな』

『やりすぎんなよ、それで脅して密輸ルートと金づるを作るのが計画なんだからよ』

『さっすがアニキ、今日聞いてすぐにこんなこと思いつくなんて!』

『当たり前だ。俺はこんな下っ端で終わる男じゃねえよ』

半分以上何が目的なのか彼には解らなかったが酷い事をしようとしているのは
子供ながらに感じ取って、それが自分のせいであると思って泣いていたのだ。
母が優しい人なのはわかっている。きっという事を聞いてしまう。一緒にいる
時間が少なくなった事を気にしてくれているのもわかっていたのに。
自分が悪戯などして気を引こうと思わなければ。あのあと旅館から出なければ。
自分のせいなのだと。自分が悪い事したから母も悪いことをしてしまう。
ごめんなさい、ごめんなさいと彼は自分を責め続けて泣いていた。

「あぁ、ピーピー、ピーピー、うるせえぞガキ!」

「ひっ!」

それが癇に障ったのか。それまで事務机に脚をあげて端末を弄っていた男は
積み上がっていた何かしらのファイルを蹴飛ばすも威力が足らなかったのか。
狙いが悪かったのか。中途で勢いが弱まったり、浩太に当たる前に落下していた。
当てる気だった喚いた男はその結果に舌打ちしつつも怯える子供に近寄る。

「そんなにママが恋しいか?
 これだからいやなんだよ、乳臭いガキは……もういらねえか?」

恐怖から体が竦んだ彼の頬をナイフの腹で二、三度叩く。
その目には子供に対する同情も慈悲もない。あるのは煩わしさだけだ。
彼にとって浩太は女将にいう事を聞かせるだけの道具でしかなかった。
ならばそれが済んだ時点で男の中でその必要性は急激に落ちている。

「え、やっちまうんですか?
 せめてあの女将から報告があってからの方が……」

それに彼より立場が下らしい男がやんわりと難色を示す。
ただそれも子供を可哀想だと思っている風ではなく、確実に実行したという
報告が来るまで女将に自棄を起こさせないための人質という程度の認識だが。

「はっ、あの手の女がガキを人質に取られて逆らえるかよ。
 そのうえあの旅館は亡き旦那の忘れ形見ってもんだ。
 俺達と一緒に客を嵌めたなんて表沙汰にはできねえよ、くくっ」

「へへっ、ならあの女将もいいですかね? 未亡人とかたまらないんですよ俺!」

「お前も相変わらずだな。いいぜ、好きにしな」

男達はぎゃははと下卑た笑みを浮かべながら楽しげに語る。
彼等はただただ自分達の思いつきの計画がうまくいく未来を見ていた。
ガレスト学園という日本の一般社会から見ればエリート学校に通う者達を
凌辱し、それを脅しのネタとして資金や異世界の道具を得てのし上がる。
そんな未来設計はしかし──

「子供の前で聞かせたい会話ではないな」

「まったくよ、最っっ低っ!!」 

──今この瞬間ただの下卑た妄想に成り下がる。
突如として少年と少女─だと思われる─声が響いて男達は固まった。
そして次の瞬間には空間が揺らめくようにして声の主たちが目の前に出現する。
正確にいうならばその体を隠していたを術を解除しただけなのだが只人に
分かるわけもなく、想像した事もない理解不能な現象を前にした人間は
ただただ体と頭を停止させるだけだった。

「へ、なっ、がぁっ!!」

その隙を見逃さなかったのは少年の方。男の手から武器を叩き落とすと
相手が驚いている間に胸部に掌打を叩き込んで息を詰まらせ、吹き飛ばす。
プレハブの壁面に叩きつけられた男はそのまま壁をぶち抜いて暗い倉庫内に消えた。

「え、ア、アニ、あぎゃぁぁぁっっ!?!?」

遅れて理解した舎弟もまた予想外の衝撃に飛び跳ねるようにのた打ち回って倒れた。
これは経験が皆無だったというわけではない痛みだったがしていようがいまいが
この衝撃を耐えれる“男”はそうそういない。何せ少年に続いた少女が天誅だと
いわんばかりに容赦なく男の股間を蹴り上げたのだから。

「……気持ちはわかるが、男の子の前でするな」

油断なく残心を取るポニーテールの少女に黒髪の少年は呆れて注意する。
慌てて彼女が振り返った時には浩太は怯えて少年の背後に隠れていた。
若干内股になっているのは男児としての本能であろう。

「うっ、ごめん」

「はぁ……大丈夫だからな。このお姉ちゃんは凶暴だけど悪い奴以外蹴らないぞ」

浩太と目線を合わせるようにしゃがんだ少年はそういって彼を安心させようとした。
背後では誰が凶暴だと少女が吠えているが無視して穏やかに笑いかけた。が。

「ひっ、うぅっ、ぐすっ、じゃあオレ蹴られちゃう。
 おれのせいでこんなことになったからっ、おれ、オレが悪い子だから!」

だから罰が当たったんだ。
と、涙声で訴える男の子に二人は一瞬目を見張るがすぐにそれを緩めた。
同じ子供であり親に対して想いが強い彼らにはその心情はよく伝わっていた。

「だとさ。お姉ちゃん、蹴る?」

「誰が蹴るかっ! こんなイイ子蹴る奴がいたらあたしがとっちめるわよ!」

「おおっ、さすが女ガキ大将。いうことがカッコイイ。そして実際にやりそう」

ただ本当に今しがた蹴った相手をさらに踏み潰しに行きそうな雰囲気なので
それをなだめながら少年は浩太の頭にそっと手を乗せながら優しく撫でる。

「うん、それじゃ浩太。お母さんに謝りに行こうか」

そしてそれ以上に穏やかな声で浩太の想いを認めて、行こうと告げる。

「ひぐっ、ぐすっ、え?」

「悪いことしたって思うならまずは謝らないとな………出来るだろ?」

「ひっ、ぐっ……うっ、うん!」

しゃくり上げる声を抑えこんだ彼は自ら涙を袖で拭いて力強く頷いた。
上出来だと軽く頭を叩いた少年は軽々と浩太を片手で抱き上げてしまう。
一気に視線が高くなって戸惑う浩太ににんまりとした笑みを見せながら彼は
少女に視線を向ける。

「いい面構えだ……よしっ、行くぞ」

「…………」

されどそれに対する返事はなく、呆けたような顔で彼女は少年を見ていた。
そこへさらに声をかけると慌てたように首を振ってなんでもないと返る。

「あ…べ、別になんでもない。わかったわよ。
 …………こいつ、たまに父さまとダブって見えるのよね」

年下で性格最悪なのに、と納得いかない気持ちのままプレハブ小屋の扉を蹴破る。
先頭は少女─トモエ。少年─シンイチの役目は忍び込む前から浩太の警護と
決めていたので予定通りだ。救出してからの露払いはトモエが請け負う。
シンイチは片手が塞がっても戦えるが彼女はまだそこまでの自信がない。
無論このまま脱出するのは容易だが結局は彼らに追い回されるか再び旅館の
関係者が狙われるのならここで一度潰しておく必要がある、という判断だ。
ほぼほぼシンイチの考えであるが。

「さて、騒ぎに気付いて外で見張ってた連中がやってきたぞ。
 誰も残さずに全員入ってくるとは、頭が足りなさ過ぎる。
 それとも見張りに飽きて、これ幸いと入ってきたか……猿以下だな。
 ミトコンドリアからやり直してこい」

そんな自己評価と回想を彼女がしている間に敵の動きを彼は掴んでいた。
ただその中身は予想以下の低能だという辛辣な毒まみれであったが。
そしてまるでそれを合図とするかのように倉庫内に灯りがついてく。
電灯に照らされた下で浩太を抱えた二人に複数の足音が近寄っていた。

「12時の方角から四人、10時から三人、3時から三人。
 武装は懐の拳銃とナイフに、後ろポケットにスタンガンだな」

身構えたトモエを余所にフォスタを覗く事もなくそう断言する彼。
それに彼女は一瞬の驚きのあと大いに納得したように頷いた。

「っ、ホントに見えなくてもわかるんだ」

ここに到着した時に粗方の事情と露天風呂の件について彼女は色々聞いていた。
だからこれが敵情報の共有と本人が主張した「見聞きしなくてもわかる」事への
証明だと勘付く。この距離なら彼女とて、物音も込みではあるが気配の数と位置は
おおよそ把握する事ができる。ただ所持する武器の種類まで把握できるとなると
シンイチのそれはもう精度が桁違いでありそういった所でふざける男ではないと
知る彼女は微塵も疑っていない。

「気配を掴めるようになれば見聞きできなくても周囲の動きは分かる。
 知ってる奴の気配なら尚更だ。それをもっと鍛えれば物の位置や動きも感じれる。
 というか八百万神とかお前らの領分だろう。どんなモノにだって気配はある。
 生物とは感触が違うだけだ」

さらに彼は空気の流れも感じ取ってしまうので本気で感覚を広げると
目や耳という器官を一切使わずに、されど正確に周囲の状況を把握できる。
たださすがに彼女にそこまで話す気はシンイチには無かった。なにせ。

「そうか、万物に魂は宿る。そう考えればよかったのね…」

純粋に感心しながらもそう一言でまとめあげて納得した風のトモエは
感覚的にそれがどういうものなのか把握しているように感じられたからだ。
これを使いこなすための苦心を思い返せばすんなりと納得はできない。
不愉快そうに眉根を寄せたシンイチは注意とも嫉妬とも取れる発言をする。

「………今はするなよ、いや習得できても滅多に使うなよ?
 これ慣れても消耗がきついから俺も普段は使ってないんだ。
 まあどうせお前ならすぐに使いこなせるんだろうけど……」

精神と脳への負担が激しいのも事実だが簡単に使いこなされてはたまらない。
恨みがましい視線を向けられて、頷きながら掴みかけた感覚を隠すトモエだ。
尤も目が盛大に泳いでしまっているのでシンイチにはバレバレなのだが。

「さっきの音はいったいなん……だ、誰だお前ら!?」

そこでようやくか。待ち構える形で動かなかったトモエたちの周囲に
物音で集まってきた男達がやっと集合する。先程の二名とよく似た風体の
いかにもな連中は見慣れぬ少年少女が自分達が誘拐した子供を抱えているのを
見て、素直に驚愕していた。当然といえば当然の反応だが、
彼らの反応には当然ではない事情がある。なにせ。

「な、なんだ…顔が、くそっなんでそんなコロコロ変わる!?」

「気持ち悪い、いったいなんなんだこいつら!?」

見るたびに、瞬きのたびに、一秒ごとに少年少女の相貌が別人に変化する。
髪色でさえ一定ではなく、髪型ともども切り替わって目が、脳が困惑する。

「……立体映像をよくもまあこんな使い方するわね」

その戸惑いと気味が悪いものでも見るような視線に肩を竦めながら、
背後の下手人に向けて感心半分呆れ半分の気持ちでその“映像の覆面”を評す。
これは相手に顔を隠す普通の意図の裏で認識してる顔が次々と変化するという
あり得ない異常を使って、理解しようとする精神と脳を疲弊させる魂胆がある。
効果があったらしく、いくらかの者達は疲れたように目を伏せていたり、
気分を悪くして若干ふらついている者までいた。しかしそれでもその程度。
これの比重は効果の度合いより彼らに苦痛を与えようという目的の方が重い。

「地味にあくどい」

「地味に光栄だ」

「?」

余談だが、映像であるがゆえに光を操作すれば特定の相手に見せない事も可能。
浩太少年にはふたり本来の顔が見えているため首を傾げていたりする。
救出対象を気味悪がらせる意味はなく、また一度しか会ってないとはいえ
見知った顔(シンイチ)があった方がいいと彼は判断したのだ。

「おい、見ろよあそこ!」

だがそんな嫌がらせによる困惑も長く続くものではない。
いやむしろそのせいでというべきか。顔から視線をずらした誰かが
仲間が詰めていたプレハブが半壊しているのを見つけて指差しながら訴える。
何があったかなどさすがに考えるまでもない。

「てめえらっ──」
「──で、どうすんのよこいつら?」

仲間がやられた。自分達の計画に泥を塗られた。
その激昂を─意図的に─無視するように彼女は背後に振り返らず問う。
若干眉根を寄せた彼だがソレを散々見せてしまったのは自分だとして端的に返す。

「一撃で潰せ」

全員を。手段は問わず。

「了解」

言葉にあらずとも声には乗っているその意志を笑顔で受け取る。
そして躊躇いなく彼女はフォスタを装着した腕を床に叩きつける。

「『スタンバースト』!」

走る紫電が電灯とは比べ物にならないほど鮮やかに、そして力尽くで倉庫内を染め上げた。

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