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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-65 当たるも当たらぬも───何が?

「────迷子の捜索?」

露天風呂で温泉と騒動を充分に堪能したトモエは部屋に戻ると夕食までの時間を
スポチャン同好会の友人たちと雑談等で潰していたのだが、そこへシンイチが訪れた。
彼女らは“話していた内容”のために大いに慌てたが彼は気にした風もなく、
トモエ以外を一睨みで追い出すと彼女にそれを頼んだ。
尤も彼の興味は別の所にも向いていたが。

「お前の力なら簡単なはずだ。
 まあ本当ならお前の湯上り姿をいくらか堪能したい所だが時間がなくてな」

にやりと意味ありげな笑みを浮かべて浴衣姿のトモエを上から下まで目で舐める。
常とは違う結い上げた髪型と湯上りの余韻がまだ残る火照った肌。異国然とした
相貌でもどこか着慣れた様子の浴衣姿は堂に入っており違和感なく似合っている。
年頃の少女が持つ愛らしさと独特の色香を彼女は充分に見せつけていた。
つまりは────じつに彼らしい堂々としたセクハラであった。

「っ、あ、あんたねえ! そういうの挟まないと会話できないわけ!?」

思わず後退りながら自らの体を抱きしめるように防御してしまう。
そんな反応こそが彼を楽しませてしまっているのは分かっているが。

「アハハっ、悪い悪い。
 でも迷子はマジだ。女将さんの息子さんがなかなか帰ってこないらしい。
 それで旅館か息子かでおろおろしてたから子供の方を請け負ってきた」

暇だったから、と嘯く彼に訝しげな顔を向けるが続くようにして、
頼むよと手を合わせて拝むように助力を求められては彼女も満更ではない。
育った環境ゆえその力を求められた事が少ないトモエは純粋に嬉しがっている。
それが鍛錬等では手も足も出ない相手からなのだから余計に。
にんまりと勝手に緩んでしまいそうな口許を抑えながら
不承不承といったていで頷いてみせた。

「まったく……分かったわよ。でも何の情報も無しにっていうのは……」

「そこは大丈夫。もらってきた」

無理だと続けようとした彼女の前に並べられたのは求めた情報だった。
最近撮られたらしい迷子(浩太)本人を撮影した写真が幾枚も並べられ、
メモ用紙に書かれた簡単なプロフィール一覧に子供用キャップ。

「必要になりそうな情報と縁深い持ち物、ついでにそれについてた本人の髪の毛だ」

足りるかと目で問うてくる彼にトモエは若干顔を引き攣らせながら充分だと頷く。
むしろ多すぎるが、多くて困ることはないので彼女はこれらをなんといって
もらってきたのだろうかという疑問を呑みこんでまず用紙に手を伸ばす。
その内容に目を通して記憶するとそれを慣れた手つきで人形(ヒトガタ)に折る。
手書きのそれが母親の書いたものであると感じ取ったからだ。その縁と想いが
探し人への道となる。途中霊力を帯びさせた当人の髪の毛をも折りこんで印を結んで
形代としそれを本人自身と縁が深い帽子にこすりあわせ、術を使って結びつけた。

「地図を」

準備していたのか短い言葉に反応して紙面の京都市内地図を彼は開く。
霊符を一枚取り出したトモエはそこに『探』の字を入れて人形に翳す。
すると吸い込まれるように符が消え、人形はひとりでに起き上って歩き出す。
地図の上を数秒彷徨ったそれは途端に一直線に進み、ある地点を目指しだす。
そして見つけたのかとある所で止まるとそのまま倒れた。

「え、ここ? 子供の足で行ける距離じゃ……」

「山木組の下部組織と関係あり、か……間違いなさそうだな」

導き出した当人が戸惑ってる裏でフォスタでそこを調べた彼は納得顔。
そして即座に腰を上げた。

「ありがとな、助かったよ」

「……ねえ、あたしはいいの?」

一緒に行かなくて、という言葉を隠して短くトモエは問いかける。
思わず振り返ったシンイチだが彼女は地図を眺めるだけで顔を見せない。
ただの迷子ではないのだろう事はシンイチがあまりに多くの代物を集め、
またそれを特殊な術を持つ自分の所に持ってきた時点でいくらか気付いていた。
だからきっとこの男らしい問題が起こっているのだと察した。それを踏まえて、
何も言わない彼にこれ以上の助力はいらないのかとトモエは暗に問うていた。

「……ふふっ」

一瞬呆然としたシンイチだが言葉の裏にあった思いと気遣いに笑みがこぼれた。

「お前はいい嫁さんになれそうだ」

「なっ!? なによそれ! いつもの調子で誤魔化さないでよね!」

応でも否でも、どちらへも返答を用意していた彼女もそれは予想外に過ぎた。
顔を赤くしながら伏せていた顔を上げて叫ぶ。正面から見合うと付いていきたい
という感情(ワガママ)を読まれそうで嫌だったのだがそれすら忘れていた。

「くくくっ、わかってるよ。大丈夫だ。
 場所がわかればいい。お前はもう今日は休め、それも鍛錬の内だ」

彼自身今日は朝から今まで彼女に酷な消耗を強いていた自覚ぐらいあった。
だからそういってトモエに背を向けたシンイチだが呼び止められる。

「そう……でもこの子が移動したらどうする気?」

「……なに?」

「もし何かしらの手段で移動したらあんた居場所を追いかけられるの?」

目の前でソレが行われたのならきっとこの男は見失わないだろう。
だが、もしここからそこへ向かうまでの間に浩太が移動してしまったら。
いくらシンイチといえども見ていない所で何が起こったかなど分からない。
トモエは彼の情報収集能力を正確に把握しているわけではないが、それで
見つけられなかったかそれ以外の不安があって自分の所に来たと判断している。
だから、という言外の訴えとその主張に彼は笑みから一転して渋面を浮かべた。

「…………前言撤回だ。お前はいいお母さんになれそうだ」

彼女のしてやったりな顔を見ながら半分呆れるシンイチだ。
頼んだ時からもうそれを理由についてくる気だったな、と。
実際彼はエリア単位でなら絞り込めてはいたが正確な居場所は分からず、
移動させられたら街中の防犯カメラ等を覗いても確実に捕捉できるとは限らない。
浩太の居場所を捕捉し続けられる彼女の助力はこの時点ではまだ必要といえた。
普段は自分が引っ張り回す側なのに要所で痛い所をついてくると残り半分で感心する。
ただ、少しばかり詰めが甘い、と笑みもこぼれたが。

「ねえ、それ何がどう違うの?」

一方で評価の微妙な変化にトモエは怪訝そうに眉根を寄せていたが。

「前者は男の立て方を、後者はさらに男の動かし方を分かってるってことさ」

男の意志とプライドを尊重しつつ自らの希望を通す手腕を持つ。
良き妻、良き母とはそういう人物だとシンイチは個人的には考えている。
トモエにはきっとその素質があるのだろうと彼は内心で白旗を振る。
未だにただの息子でしかない自分が勝てる訳がない、と。

「嫌いじゃないけどね………付いて来るなら、40秒で支度しな」

強引に断る選択肢もあったが彼はあえてそちらを選んだ。
心地よい敗北感を味わいながら、それだけなら待つと告げて部屋の外へ向かう。
しかしその台詞を聞いた彼女はさらに訝しげな顔を浮かべて去る背中に一言。

「ねえ、最後のそれ。絶対言いたかっただけでしょ?」

「くくっ、バレたか」

悪戯な笑みを振り返って見せてきた彼にトモエはただ溜息を吐くだけ。

「まったく、どこでもなんでも真剣にやりながらふざけるんだから」

呆れてものもいえないと頭を振る少女は、だがしかし。
彼が完全に退室したのを確認すると懐に隠していた数枚の霊符を取り出した。
それはシンイチが訪れる前に同好会メンバーから請われて行った占いの結果。
ある人物について占ってほしいとどこか茶化されながらもしつこく頼まれたのだ。
基本的には当人以外からの依頼は断っているトモエだが彼女自身が気になっており、
またこの旅行中の運勢ぐらいならと軽い調子で占ったのだ。だが。

「……一体全体どう解釈すればいいのかしら?」

不可思議な結果を前にしてトモエはさっきとは違う意味の溜め息を吐く。
本格的な『占術』をするとなると道具や対象の情報がいくらか足りないのだが、
“よく当たる”程度の『占い』なら彼女オリジナルの霊符に相手の名前と顔が
分かれば、今までとこれからの大雑把な運勢や吉兆・凶兆ぐらいは見えてくる。
霊符を手順を踏んで並べれば自動で文字が浮かび、その並びと配置を読み解く事で
彼女は対象のそれらを知ることが出来る。百発百中とはいかなくてもそれなりの
的中率を持つと自負していたその占い。対象とする期間と何についてを
限定すればさらに高まるはずのそれが見せた結果は。

「見事に大ハズレよね、これ」

間違いなく外れていると逆に太鼓判を押せるほど当たっていなかった。

──可もなく不可もなし

──問題は起きない

──負担にはならないが恩恵もない

そんなわけがあるかと思わず深くまで再度占った彼女は余計に困惑する。
“彼”の人生には大きな不幸もとびきりの幸福も用意されていないと出た。
低空飛行で山谷は存在せず、誰とも縁が結ばれずにゆっくりと老いて死ぬ。
平坦で何のドラマもなく、幸か不幸かもよくわからない一生がぼんやり見えた。
あり得ない。そんな事は知り合ってまだ数日の彼女ですら分かる事なのに。






「ねえ、これ誰のことなのよ───────信一」





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