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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-63 露天風呂で

クリスマスだ!
例年通りというか大元の国らしいというか家族(実家)で過ごしたよ!


毎晩のことなので別に何もなかったですけど。


というわけで(?)プレゼントフォーユーということで温泉回だ!

映像は微塵もないがな!









「ん、んぅぅっ~! ああぁっ、気ぃ持ちいいっ!!」

大きく伸びをするように栗色の髪の少女はその快感を存分に味わっていた。
視線をあげれば夕暮れ時の茜空を眺められ、その色に染まる嵐山が望める絶景。
それだけでも心に残る風景ではあるが彼女にとって自らを包む暖かさこそ至高。

「生き返るぅ、このまま溶けていきそう…ううん、いっそ溶けたい……」

そこは彼女一人が手足を伸ばしても誰の邪魔にならない広さを誇る露天の岩風呂。
今回学園(シンイチ)が手配した宿泊施設の特徴は彼等を急遽を受け入れられる程の
キャパシティの大きさとおもてなしの精神が行き届いたサービスである。そして
そんな絶景と心地よさを同時に楽しめる露天の大浴場もまた目玉であった。
彼女は今にも頭までつかってしまいそうな程にそれらを堪能していた。
ただ同じく湯船につかっている黒髪の少女はおかしそうにそれを眺めている。

「トモエは大げさねえ、確かに気持ちいいけどそこまで?」

「………陽子にはわかんないわよ……
 一戦した後だってのに容赦なくボコボコにしてくるんだから」

あんたの兄貴は。
と聞こえないように声量は絞りつつもその文句を口に出す。
それはもうひどい目にあったと思い返そうとして頭が回想を拒否する。
実戦より鍛錬の方が何十倍もきついとはどういうことなのか。
何せ彼女は最終的にどうやって旅館まで戻ったかの記憶が無いほどに
疲弊しており、気付けば入浴時間が来るまで部屋で呆けていたのだから。
魂が抜けたようであったとは同室になった同級生たちの証言である。

「でもホントにあたしどうやって……」

戻ってきたのだろうかと微かに思い出す事が出来た記憶の断片を並べる。
慌てているリョウ。苦笑するシンイチ。ふわりと浮かぶ体。包むような暖かい感触。
そして、妙に見慣れたような距離にある誰かさんの顔。騒ぐ同好会メンバー。

「ん?」

「トモエ?」

「あ、ううん、なんでも──」

ない、といいかけて声が止まる。
今まで温泉の気持ちよさに蕩けて気が付かなかったと彼女は愕然とした。
結い上げられた日本人らしい黒髪。上気した桜色の肌とあらわになったうなじ。
生まれたままの姿となってしっかりと見えた凹凸のはっきりしたボディライン。
大きすぎず、小さすぎず。そして出過ぎず、引っ込み過ぎない親友のそれが目に入る。

「ちょっ、どこ見てんのよ! 凝視するのはマナー違反よ!」

「フッ……神様は理不尽よね……ハハッ」

一瞬。そう本当に一瞬自らを見下ろし、水面に映った顔を眺め、隣を凝視し、
トモエは乾いた笑みを浮かべた。幼少期に母と似ていない容姿を気にして、
こうだったらいいのに、と思い描いた理想がそこにあった。トモエが
陽子に興味を持った最初の理由はじつはそれである。

「ねえ、一度でいいから体を取り替えっこしない?」

だからつい、そんな冗談を─本気(マジ)な目で─親友になげかけていた。
彼女がそれを感じ取って顔をひきつらせたのはいうまでもない。実際問題、
トモエがその力と知識を総動員すればできなくもないのが恐ろしい。

「あ、あんたね。たまーに日本人コンプレックスを拗らせるの直しなさいよ。
 私から言わせたらその青い目とか栗色の髪とかわりといいなって思うんだから」

無い物ねだり。隣の芝生は青い。
そういうものとして流しなさいと説教臭く語られるが母親への強い敬愛ゆえ
その特徴をまるで継げなかった事に妙な気後れを感じているトモエには響かない。
父方の外見的要素を受け継いだ容姿が嫌なわけではないが何か一つ分かりやすい
母の特徴(モノ)を引き継いでいたかったという想いは娘としてあるのだ。

「言いたいことは、わかるんだけど……(こっち)も母様と似てないし」

トモエの記憶が正しければ彼女の母は人並みのボリュームはあったはずだ。
だが現実は非常だ。視界の隅で確かめるように見下ろせば足の付け根が見えた。
そこだけ日本人らしいといえなくもないが母を連想できるものではない。
むしろ母性の象徴が無いように感じてトモエは暖かい湯船の中だというのに
どうして心が寒く感じられた。

「母親と似ていたら似ていたで、私は面倒ではあったがな」

え、と急に割り込んできた他者の声へと顔を向けた二人は色んな意味で言葉を失う。
邪魔するぞと気安い調子で歩み寄ってくるのは肩に小さなタオルをかけただけで
その生まれたままの姿を堂々とさらしている女性。呆然と自身を見つめる二人の
視線を気にした様子すらなく彼女らの前で湯に入る。なんでもないその動作も
彼女のその女の理想のような体で行われては少女たちは見惚れるしかなかった。
すらりと伸びた長く白い脚、引き締まりつつ女性らしいふくらみがある腰回り、
存在感を放つ母性的なナニカ、が順番に湯船に沈んでいく。
ただし────背中に流した美しく輝く白い長髪ごと。

「ん、んぅ……はぁ……とはいえ、すまんな。
 女らしい悩みを今まで抱えてこなかったせいか。
 適切なアドバイスが出てこない……私は母と容姿が似ていて損したからな」

入り慣れていないのか。
妙に甘い吐息をもらしながら入浴した彼女は困ったものだと何か助言が
できればいいのだが、と真剣に悩む。そんな思考をする彼女は教師の鑑だろう。
されど、そんな様子は残念ながら生徒たる二人の視界には入っていない。

「あ、あぁっ! 先生、髪! 髪の毛!」

「駄目ですってそのままじゃ! せめて結んでください!」

あえてナニが、とはいわないが。
圧倒的なボリュームを前にして絶句した彼女らもさすがにその扱いは無視できない。
慌てて近寄ってそう言い募るが肝心の当人は不思議そうな顔で首を傾げていた。

「ん、すまん。
 基本シャワーなせいかルールがよくわからん。何かまずかったか?」

などと女教師(フリーレ)は何を注意されているのか理解してない様子。
湯船に浮かんで方々に散っていく髪の毛をすくいあげながら真剣に問うてきた。

「陽子、ゴムある?」

「あるある、手伝って」

彼女らは一瞬の唖然の後、持っていた髪留めゴムを手にフリーレを一旦
岩に腰掛けるように上がらせると背後に回って白髪を結い上げる作業を始めた。
一瞬湯に濡れた極上の女体に同性ながらくらりと眩暈を感じたが全力で意識の外に。
二人とも自分が長髪であるためか手慣れた様子であれよあれよという間に
垂れ流されていた白髪がきれいにまとめあげられていく。

「う、む、すまん。こういう場ではそうすべきなのか?」

生徒にやらせているのを申し訳なく思いつつもどうするのが
正しいのか分からない彼女はされるがままになるしかなかった。

「湯船につけるのは不衛生ですし他のお客さんの迷惑になります。
 何より髪の毛自体によくありません、痛めますよ?」

「そうですよ。
 先生の髪すごくキレイだって女子の間じゃ有名なんですから。もったいない」

どこかうっとりするような目で艶のある白髪に見惚れる二人はしかし、
その持ち主たる彼女から驚きの言葉が出てきてまたも唖然とする。

「そう、なのか? 特に何もしていなかったのだが……」

「え、ナチュラルでこの状態!?
 ………これで手入れしたらどうなっちゃうの?」

「もう白を超えて白銀になっちゃうわよ!」

「い、いや最近はちょっと人に注意されて一応気を付けているんだが、
 やはり慣れていない者がやるとどうにも中途半端なことになって……」

一方で直接的に褒められるのを慣れてないせいか謙遜気味に言葉を返すも、
それでこれなのか、と今度は愕然となってしまう年頃の女子二名である。

「ふふ、ドゥネージュ先生ったら。
 もう少し周囲からの目にも気を使ってくださいな」

そんな様子をどこから見ていたのか。湯船内を移動してくる人影。
白い湯気が漂う場とはいえその姿を、一番の特徴(縦ロール)を隠した姿とはいえ、
その漂うオーラを持つ者が誰かというのを気付かぬ学園生徒はいない。
むしろ少女たちはまたもソレに圧倒されていた。

「せ、先輩?」

「わ、分かってはいたけど……こっちもとんでもないっ!」

普段は目立つ髪型を完璧に結い上げ、白い肌とうなじを完全にさらした女生徒。
堂々としているフリーレと違い、軽い羞恥心から気持ち体を隠すような仕草を
しているのが逆に妙な色香を漂わせておりトモエも陽子も見惚れてしまう。
女教師と負けず劣らずの豊満なそれが湯船に浮かび、湯船越しの肉体の
ラインはなめらかさと丸みのバランスが極まっていた。同年代ゆえに
余計に彼女たちにとっては衝撃的な神の造形がそこにあった。

「パデュエールか。しかしな、私はどうにもこういうのは……」

「それでも教師として人前に立ち、いずれは領民の前に立つ身ですよ。
 わたくしたちは常に誰かに見られていることを意識すべきだと思います」

「それを言われると弱いな……ん、ありがとうセンバ、サーフィナ」

痛い所を突かれて苦笑しつつも結い上げが終わってフリーレは礼を口にした。
尤も彼女らは前々からそうだろうと気付いてはいたがその冗談のような美貌と
スタイルを間近で見てしまったことで色々と呆けてしまっていた。

「い、いえ……こちらこそ眼福で、あ、いえなんでもないです」

「これが持てる者と持たざる者の差なのね……ごくりっ」

「トモエ、分かるけど! 気持ちはわかるけど、はしたないから生唾飲まない!」

再び湯船につかりながら異世界の大貴族の二姫を鑑賞してしまう。
トモエに至っては結い上げている時から背中からでも分かるボリュームに完全に
圧倒されてしまい、今も目を離せずに湯船に浮かぶ二つの双山を凝視しながら
つい生唾を飲みこんでいた。もはや嫉妬よりその豊かなバストが放つ魔力に
吸い込まれるように魅了されている。そしてそれは何も彼女だけの話ではなく
周囲から遠巻きに眺める他の女子たちも似たり寄ったりであった。
ただ一部は魅了とは正反対の感情を持った生徒達もいた。
そう所詮あれを“脂肪の塊”と蔑むある特定の女子集団である。

「ふ、ふふっ……男も女もそんなにでかいのが好きかぁっ!!」

その学園代表を自称する─勝手に─彼女は痛々しささえ感じる悲鳴のような
絶叫をあげた時にはもう人心地ついていたアリステルの背後にいた。
ある少年には通用しないが彼女の気配遮断はそれを容易に可能とする。

「え、きゃあぁんっ!?」

そして何の躊躇いもなく豊満な山並を鷲掴み。
突然の事態に被害者はただ悲鳴をあげる。
さすがに近くで控えていた─また口許に×印のある─リゼットが止めに入るが
下手人(彼女)の鬼気迫る顔に睨み付けられ、固まってしまう。余談ではあるが
彼女の胸もまた主人ほどではないが大きい部類であった。

「ミューヒなにを!?」

小柄ながら特徴的な狐耳と尾を逆立てた女は陽子の言葉を無視して揉みしだく。
ナニをとはいわないが、ただただ一心不乱に、親の仇だといわんばかりに。
その目には正気の色も暖かみの欠片も存在しない。

「これか! これがいいのか! こんな無駄な肉が!!」

「やんっ、ちょっ、ちょっとミューヒさんやめっ、こらっどこ触って、あぁ!」

もみもみ、ぐにぐに、と。好き勝手にソレを弄ぶ。が。
小柄な少女の小さな手では全く覆いきれないボリュームを直で感じてか。
彼女の表情はより氷点直下となり、もはや視線だけで温泉を凍らせてしまいそう。

「こっ、だ、めっ、あんっ!」

「ちくしょう! なんなんのよこれ!
 適度な張りがあって感度もいいとかふざけんなぁっ!!」

それでも動き続ける手と漏れ出る甘い声にミューヒの機嫌はより悪化していく。
はっきりいって悪循環であったが残念ながらこれを止められる適切な(・・・)者は
ここにはいない。いないのだ。何せこの場で一番上の立場の者もまた。

「ルオーナ、少し落ち着っ、あ、こらっ!」

「これだけあるんだから少しはボクにも寄越せ!!」

さすがに騒ぎ過ぎだと止めに入った女教師であったが彼女では火に油だ。
学園二大巨頭という怨敵を前に暴走状態のミューヒが落ち着けるわけがなかった。
むしろ堂々と恥ずかしげもなくさらしているのが余計に癪に障っている。

「あ、はぁ……も、もう……ダメ、ですわ……」
「────っ!!」

顔を何故か赤くしたお嬢様を揉み捨て、声の出せない従者が声なき悲鳴をあげる中。
彼女は次の巨大な山へと真正面から突撃をかましてその豊満さに立ち向かっていく。

「んあっ、ひ、人の胸を勝手に揉むな、離れないか! ひゃんっ!
 くっ、このっ、なんでいつもよりパワー発揮してるんだお前は!?」

引きはがそうとするフリーレだが乱暴はできないと加減しているのをいいことに、
にぎにぎ、と白い巨大な山を縦横無尽に好き勝手に揉み解して形を変えていく。が。
その感触と何もかも受け入れてしまいそうな大きさを実感して愕然とする。

「おおうっ、なんて柔らかさ! 指がこんなに埋まるとかどんだけ!?
 ちくしょうっ、この無自覚お色気教師が! 将来たれてしまえ!!」

「あっ、ん……このっ、いうにことかいてなんてことを!
 私だってそういうこといわれると傷つくんだぞ!!」

最後の一言にショックを受けてもはや加減はいらぬと彼女を強引に投げ飛ばす。
筋力や体格の差もあって軽々と遠く離れた湯船に叩きつけられて湯に沈む。
しかし即座にミューヒは立ち上がる。湯を割るようにして現れた姿は彼女の
小柄さを打ち消すような威圧感を漂わせていた。その目にやはり正気の色は無く、
むしろ怪しく光ってより悪化しているようにも見えた。

「と、止めなくていいのルームメイト兼風紀委員さん!?」

「あの子、胸のことになると時々暴走するのよ……私には無理」

ごめん、と小さく呟いて遠くを見つめる横顔には憂いがある。
そこには以前も暴走した事があり、誰が被害者になったかが書いてあった。

「なに今回は他人事みたいな雰囲気してるのかにゃー?」

「わっ、いつのまに!?」

だがミューヒ自身は陽子を見逃す気は無かったらしい。もう目の前だった。
隣のトモエはスルーしていたがそれを悲観する余裕は彼女にはない。
親友に危機が迫っている。

「ひっ、ま、待ってミューヒ! 落ち着きましょう!
 それに平均サイズの私を襲ってもしょうがないと思うわ!」

「ふふっ、自分はただの普通だと?
 ではボクはそれ以下だって事だね、キミまでそう思ってたんだぁ」

「い、いやそういうことじゃなくて!」

胸元を庇いながらもゆっくりと距離をとろうとする陽子に、
両手の平をにぎにぎとさせながらじりじり迫っていくミューヒ。
いま彼女を止められる者はいない。山側の声はそもそも届いておらず、
平野側はどこか遠巻きにしながら彼女と同じような邪気を放っていた。
冷静になってしまったトモエもこの状態の彼女を抑えられる自信は無い。
元より平時の彼女ですらトモエの手に余るというのに。

「あのふたりのは、いらつくけどまだいいんだよ。
 とんでもないけど、だからこそ高すぎる山だと思える」

ゆらゆらと幽鬼のような怪しさとゆらつきを見せながら徐々に距離が詰まる。
言葉使いが急に静かに、そして穏やかに諭すような語りなのが逆に恐ろしい。

「でもね、ヨッピー……キミのはとっても現実的過ぎるんだ。
 そう、なんか見てるだけで希望と羨望がわいてくる罪深い丘なんだよ」

「あ、それわかる!」

「トモエ!?」

まさかの裏切りに陽子は絶叫するがミューヒは無視している。
けれど目に浮かぶ狂気に変わりは無い。だから周囲は気圧されたように動けない。
あるいは自分(大きいの)では余計に話がこじれるとさすがに女教師も感じ取っていた。

「大丈夫、任せて……じっとしてればすぐに終わるから…気持ちよくしてあげる」

優しい声色で、いやらしく手をわきわきと動かしながら幽鬼のような狐娘が迫る。

「ど、どこのセクハラオヤジよそれ! 正気に戻りなさい、このっ!」

怯えながら後ずさりつつ叫んだ彼女は咄嗟に手元に偶然あった桶を放り投げた。
普通なら危険な行為だが相手がミューヒとなると牽制程度にしかならない。
彼女はその抵抗を可愛いものでも見るように薄い笑みを浮かべて軽々と避ける。

「えっ?」

だがその次の瞬間、彼女の狐耳は何かの音を拾うと嫌な予感に震えた。
それはフィンガースナップで出したような音。誰かさんが何かをする前に
好んで使う音だ。ミューヒはさっと血の気が引いたが、時すでに遅し。

「ぁ、ぎゃんっ!?!」

後頭部に入った謎の衝撃に目から火花を散らしながら彼女は思った。
無銘(ウチ)を脅しつける程に過保護なお兄ちゃんがいるのを忘れていた、と。






「─────で、何かいうことはあるかしらミューヒ?」

怒気を孕んだ声と青筋の浮かんだ顔に冷めたような視線。
造形は似ていないのにどこか誰かと似た雰囲気にミューヒは固まっている。
何故か空中で跳ね返って(・・・・・)きた桶の直撃を受けた彼女はざばんと湯船に沈んだ。
慌てながら誰よりも先に彼女を拾い上げて意識やけがの有無を確認したのは陽子。
反応や表情もよく似ていると自分を覗き込む顔を見ながらミューヒは感心していた。
尤も無事がわかればもう陽子に彼女を手厚く看護する理由は無い。
岩風呂から上がらせると石畳の上で正座させると最初のセリフである。
恩情でタオルは体に巻かせてもらっているが湯気の中なのにどこか寒々しい。
威圧感という点では兄とは天と地ほど差があるが雰囲気の酷似のせいで
ミューヒは無意識に気圧されて冷や汗を流してしまう。しかし。

「ど、どっちも最高の感触でした!」

そんな状況でもふざけてしまう辺り件の少年と似ているのは彼女も、だろう。
相手の怒りを買うと分かっていてもついやってしまうのだから。

「あん?」

だが決して甘くないどすのきいた声と共に装備していた端末から武装が出る。
浴場とはいえ否、無防備な状況になる場所だからこそ装着が推奨されているのだ。
律儀にそれを守っていた陽子は威圧効果を考えてなのか頭部が巨大なハンマーを
取り出すとミューヒの前にどんと置いた。本来なら正当防衛以外ではクトリア外で
武装の類は攻撃スキル同様使用禁止ではある。しかし諌めるべき女教師は
遠くの空を眺めるように黙認だ。ミューヒの自業自得、ではなく彼女もまた
陽子の怒っている雰囲気に誰かを連想して無意識に目を背けていたりする。
そして陽子の親友や学園一位はそれどころではない(・・・・・・・・・)ため援軍は望めない。
他の面々も多かれ少なかれ触らぬ神に祟りなしの状態だった。

「そ、そんなの使ったらお風呂壊れるよ!?」

「そこは考えて使うし、壊したらちゃんと自分で直す」

尤も直すんだから壊してもいいと暗に考えている辺り陽子もあれの妹である。
そしてだからこそ彼女は何かも察して縮み上がる。これ絶対にやられる、と

「ご、ごめんなさーーい!!」

彼女は即行で土下座して謝罪する道を選んだ。
今回襲い掛かった両名にも頭を下げ、勢い余ったように隣の男湯にまで下げた。
陽子はそれを前に表情を一切変えずにただ彼女の耳と尻尾を見た。力無く垂れている。

「はぁ……次やったら一か月はお昼奢ってもらうわよ?
 もちろん私達三人によ、それでよろしいですか先生、パデュエール先輩」

本気の反省らしいと判断して陽子は次への釘を刺して同意を求める。
彼女らが頷いたのを見て、少し安堵したような顔をした彼女はやはり
どこか変な所で苦労性で甘い誰かにそっくりだった。

「それじゃもう入っていいわよ。風邪でもひかれたら困るし」

「アイアイサー、キャプテン!」

「……本当に反省してるの?」

「うぇっ、ホ、ホントウニハンセイシテマスヨ!」

それに油断してつい軽い調子に戻れば即座に冷めた声が返ってきて片言となる。
陽子はその様子に溜息を吐きながら頭を振るが揃って湯船につかることにした。

「まったく、おかげで大騒ぎになっちゃったじゃない。
 たまたま学園以外のお客さんがいなかったから良かったけど…」

「けど?」

「男湯方面に少なからず話を聞かれたわよね、はぁ」

ちらりと女湯と男湯を分ける境目となっている高い竹柵に視線を送る。
襲われたかけた時はそれで精一杯だったが少し落ち着くとこの騒ぎの会話は
決して男子勢に聞かれたいと思える内容ではない。

「いやいや騒いでたの基本ボクだけなわけで……」

「そうね。
 あなたは他人(ヒト)の胸の感想を大きな声でいいまくってたわね」

「ス、スミマセン」

再度青筋を浮かべた顔でどうしてくれると睨まれてミューヒも返す言葉がない。
だが予想外なことに陽子の懸念に否という答えを出した人物がいた。フリーレだ。

「心配するな。フォスタを通して柵付近を見てみろ。
 遮音型の無色のバリアが張っているのが見えるはずだ」

「え…あ、ホントだ」

いわれるがまま確かめてみれば確かに遮音系のバリアが壁のように張られていた。
それも詳しく解析してみれば人の声のみを遮断するよう設定を改変させられてもいた。
これなら自然音は互いに違和感なく聞こえるが人の声だけは相手の湯に届かない。
しかも無色なので風景を損なわせず、存在に気付かせない気配りが感じられる。

「元々、これだけ人数を連れていると何人かは羽目を外しすぎる奴が出てくる。
 悪乗りして覗こうとかな。それを抑止する者をあっちに配置しておいたんだが、
 声までは私も考えていなかったよ。相変わらず妙な所で気のまわる男だ……」

竹柵を、正確にはその向こうで男子達が暴走しないように見張っている誰かを
見るようにしてフリーレはくすりと信頼と親密さを窺わせる顔で微笑んだ。
その柔らかな表情に女子たちは思わず呆けたように見入ってしまう。
珍しく髪をまとめあげ、白い肌と豊満な裸体をさらしているせいもあるのか。
誰もが初めて見たその表情には同性すら虜にするような色香が漂っている。
そこには見間違いようのないほどに“女”の顔があった。

「おっと、誰かは聞くなよ?
 私の名をかけて信頼できる男だといえるが、まだ旅行は続くんだ。
 知ったらお互いに気まずいだろう。一番女湯に近い所にいるのは事実だからな」

尤も彼女自身はその視線を見張り役が誰か聞きたいという風に受け取った。
間違ってはいないが理由は大きく勘違いしている。殆どの女子たちは
“あの”フリーレにそんな顔をさせたのは誰か、に興味津々なだけだ。
それを突っ込める猛者はせいぜいミューヒぐらいなのだが陽子が
隣にいる状況で、出てくると問題のある人物の名を引き出したくはない。

「……でしたらもっときちんと“誰か”を隠して欲しかったですわ。
 それ、絶対にあの方じゃないですか……ううっ、恥ずかしい」

「し、しかも桶のあの動き。
 声は聴こえてなくても、あれ女湯の状況分かってるじゃないっ」

一方で桶があり得ない動きをした時点でなんとなく察していた両名は
嬉しくもないフリーレの補足で確信したことで自らをかき抱いていた。
そして深く湯船につかって男湯に背を向けて顔を赤くしている。
それは当然、温泉の熱さとは別のナニカが原因であろう。

「あれ、先輩もトモエもどうしたんですか?」

「えっ、えっと………お構いなく」

「お、お気になさらず。アハハ……」

“誰か”の名前が出せないトモエと単に気恥ずかしさからのアリステルは
理由は違えど共に苦笑するという形で追及をやんわりと拒否して誤魔化した。
それを陽子やリゼット、原因のフリーレでさえ首を傾げるがミューヒは理解する。
恋する乙女達は大変だねぇ、と他人事のように呟きながらもう痛みのない
後頭部をさすって男湯に視線を向けるのだった。







女湯と男湯を別ける仕切りの竹柵の前。その境界線に一番近い岩風呂を
構成する岩の一つに腰掛けるシンイチの視線が雄弁に男子達を圧倒していた。
その怖さを知るあの3クラスの男子達は諦めたようで遠くで温泉を堪能している。
いち早く熱暴走を冷めさせられた、ともいうが。

「ど、どけ、お前! その向こうには桃源郷があるんだ!」

「そうだ! 旅行に来たからには女湯を覗くものだろう!」

「やらねばならん、そう! 男として生まれたからには!」

しかしそれは逆をいえばまだ熱暴走してる者がいるという事でもあった。
旅行といういつもと違う状況とそれに不慣れ過ぎたことが災いしたのか。
妙にテンションが上がり過ぎてしまっている一部の男子が修学旅行で女子風呂は
覗くものだと思い込んで熱狂していた。ただその手の描写がよくされる代物全般を
遠ざけていた彼らがいったいどこでその認識を得てしまったのかは謎である。
8年以上前に見た何かの記憶が蘇ってしまったのかと内心で推測しながらも
表の顔は無感情なそれであり、見る者を威圧するかのように視線は冷ややか。
暴走する男子たちですら若干腰が引けていた。

「────言いたいことは、それだけか?」

「ひっ! く、くそなんでこんなに怖いんだよ!」

「最下位のくせに!」

その順位を頭で分かっていても飛び掛かれない程に本能的な恐怖が勝っていた。
実際のところかなり大人気ないレベルで彼らを威圧しているシンイチである。
理由としては嫁入り前の妹の裸を誰が見せてやるか、という想いが一番にあった。
ただその次ぐらいに親しい女性陣の裸体を見られたくないと考えており、
フリーレから突如頼まれて面倒だと思いながらも“本気”でやっていた。
それでも5、6人の男子はそこから離れないのだからある意味根性がある。
不健全なぐらいに女湯に興味があるともいえるが。

「おい、お前ら落ち着け。ちょっと興奮しすぎだみっともねえ」

「一応、俺は副風紀委員らしいからね。覗きは許せないな」

しかしそこへ彼らからすれば厄介な援軍が左右を固めてしまう。
片や男子トップという─成績上─最も強い物理的な実力を持っているリョウ。
片や副風紀委員という─実際には全くない─権限を持っている陽介である。
覗きへのハードルがさらに高まっているのは彼らも理解せざるを得ない。
尤もリョウからすればそれ以前の話に思えていた。

「お前らさ、この向こうに誰がいるかじつは忘れてねえか?
 オレより上のワンツー決めてる女子と学園最強の女教師だ。
 それに品行方正な風紀委員さまもいる………覗いた瞬間殺されるぞ?」

実際問題殺傷沙汰にはならないだろうが間違いなくリンチにはされるだろう。
そしてその後、学園では村八分となると彼は現実的な未来を提言した。だが。

「それでも!
 そう、それでもアリステルさまの麗しいお姿を見られるのなら!」

「ドゥネージュ先生に罰せられるとかむしろご褒美でしょ!」

「ケモミミサイコー!!」

ここまで居残っただけはあり彼らは猛者だった。
おそらくはたぶん、というか絶対どこか残念な方向にズレた形の。

「…サブカルチャーと離れているわりに染まってる奴が少しいるよな、学園って」

考えてみればその筆頭(ヴェルナー)を友人にしていたと苦笑するシンイチ。
珍しく趣味と鍛錬を両立できた強者なのだろうと埒もなく彼は考えていた。
ただ、もしここで彼女()に関する不適切な発言が出ていたら瞬殺しているが。

「あ、あはは……よくも悪くもずば抜けた人が多いからねぇ……ほっ」

それが分かっている陽介は苦笑しながらも露骨に安堵の息をもらす。
身内なだけに兄が何に一番怒りやすいかをよく知っているのである。
そして怒った時にどれだけ手が付けられないのかもよく知っている。
記憶にある数少ないそれらを回想してぶるりと震える陽介であった。

「それともなにか! お前らだけで堪能しようってか!」

そんなことを知る由もない男子たちはそんな言いがかりをつけてきた。
呆れるような溜息を吐きながら諭そうと口を開いたシンイチは、しかし。

「あのなぁ、俺も男だ。気持ちは────あれ、よくわからんぞ?」

言葉途中で真剣に考えだした彼は思わず首を傾げてしまう。
どう考えても女湯を覗きたいという感情が彼はよく理解できなかった。
その思わず漏れ出たといわんばかりの本音に両サイドの男子がずっこける。

「お、おいっ、マジか!?
 オレもやりたいとは思わんが、気持ちぐらいは……なぁ?」

「え、そ、そこで俺!? 困るよそれ!
 何をいっても姉ちゃんに怒られる未来しか見えない!」

是としても否としてもそれはそれでお叱りを受けそうだと震える弟を尻目に
真剣に考えていたシンイチはやはりわからないと首を傾げながら正直に話した。

「女の裸を見たいって欲求はわかるが、覗きたいって欲求がわからん」

「え、それ何が違うの?」

「いや、全然違うだろ。そもそも女の裸って覗くものじゃなくて、
 自分の手で脱がすか本人に脱がさせるから見る意味があるモノだろう?」

「だ、だろうっていわれてもな…」

「そんなのどっちも経験ないよ! ってか脱がさせるってなに!?」

同意を求められた二人だがその手の話の経験が無く、顔を赤らめながら動揺する。
他の事に全力で邁進していたというのもあるが母親と姉の事が中心だった陽介と
周囲から強く注目されている中で友人がいなかったリョウは共に色恋沙汰は勿論、
男の欲求を叶えるジャンルの代物にもなかなか手を出しづらかったのであった。
そんな背景を知ってか知らずかシンイチは持論を展開する。

「あれはご褒美みたいなものだろうに。。
 頑張って自分磨いて、意中の相手を口説き落として、誘って、やっと見れる。
 だから価値があるんだろうが。不特定多数を覗き見て何が楽しいんだお前ら?」

その言葉には心底わからないといいたげな感情がありありと込められていた。
これにはほんの僅かな時間だったが男湯の空気が固まるようにして凍りつく。
そして次の瞬間には爆発した

「Dクラスの落ちこぼれだというのに、なんだこの漂うリア充感!?」

「負けている、だと!? 雰囲気からして何か俺ら負けているぞ!」

「くっ、正論だ。だが、しかし! だからこそなお腹立たしい!」

「なんだよ、この女に不自由してない空気! モテない男子の意地を見せてやる!」

さも当然のような雰囲気に慄きながらも男としての矜持を刺激されて燃え上がる男子。

「火に油注いじゃったね」

「なにやってんだよ。
 それともあれか。怒らせて意識の方向ずらすお前の十八番か?」

「………いや、正直な俺の意見だったんだが。
 覗き魔なんていういやしい犯罪者がいるのは知っているが、あれは異性と
 向き合う気のない臆病者の負け犬だ。そんな奴が学園にいるわけないだろう?」

なあ、と今度は覗きとシンイチへの敵意に燃えていた集団に問いかける。
一転してにこやか表情でのそれにリョウは額を押さえ、陽介は唖然とした。
ガレスト学園の生徒の大半はその立場である事にかなり高い矜持を持っている。
それだけ入学に苦労し成績争いで日々しのぎを削っている自負があるからだ。
だから暗に、お前らはそういう存在なのか、という言葉が冷水となって降りかかる。
目の前の男の余裕ある態度は気に入らないが感情的になって飛び掛かるのは
その時点で負けたように思えてしまって二の足を踏む。そこへ。

「まあ、それでも来るっていう犯罪者志望のガキなら─────潰すよ」

「ひっ!」

視線を意味深に下げての朗らかな笑顔の恫喝に左右にいた彼らも縮こまる。
男子たちの中には怯えるようにしてソコを守るように両手で庇っている者までいた。
本気であると示す為かあるいは彼が少し面倒臭くなって威圧のレベルを上げたからか。
彼等はすごすごと逃げるようにして柵から離れ、遠くの湯殿で心を癒す事に。
リョウと陽介はそれを何故か同情的に見送りながら首を振る。

「なんだろうな。
 正しい事した気がするのにナカムラが悪党に見えて仕方がない。
 ってかお前本気でやめろよっ、オレまでヒュンッてなったじゃねえか!」

「アハハッ、悪い悪い。でもこれが一番効果的だしね。
 それより二人とも助かったよ。名前が知られてる奴がいると説得力が違う」

おかげで思ったより早く睨めっこが終わったと悪びれる様子なくシンイチは笑う。
リョウはそんな態度に頭を痛めながらも諦めたように首を振って溜め息である。

「はぁ、ったく。お前に本気で睨まれたらたいていの奴はたまらないよ」

「いやな、Dランクとしてはそれぐらいしか対抗手段がなくてな」

「……けろっとした顔で言いやがって。こっちは疲労困憊だってのに」

表向きそうであることを否定できないため語気は弱まるが声には呆れがある。
彼とてトモエほどではないものの仮面のしごきに疲労感を覚えているのだ。
言葉の裏にそれを匂わしてもう少し手加減してくれというが彼は笑うだけ。
リョウはやっぱりかと嫌そうな顔をするが期待していなかったので表情はまだ明るい。
しかし、そのどこか気心知れたような様子にもう一人は驚愕の表情を浮かべた。

「……ふ、ふたりって、もしかして仲良かったの?」

何が、なのかは横に置くが。
信じられないといいたげな顔にシンイチとリョウは顔を見合わせた。
前者は無表情だったが後者は完全にしまったという表情を浮かべている。

「え、ああ……なんだ、その……なんとなく気が合って?」

思わず出た誤魔化しはリョウ自身が“無い”と思える程度の低いもの。
案の定それを聞いた陽介の顔にはいくらか疑念が浮かんでいた。が。

「そうだな。
 俺たちは方向性は反対だがどっちも学園男子トップだからな」

上と下の。
だからこそ通じ合えるものがあったんだ。
そうもっともらしくシンイチが語れば陽介は納得したように頷いた。
意外なほどに、不思議なほどに、いっそ不気味といっていい程あっさりと。

「……そんなんで納得するのかよ、おい」

唖然としながらも自分のが下手な言い訳だった自覚のあるリョウの呟きは小さい。
猪突猛進の気がある姉がいるせいか一歩引いて周囲を見たり考える事が多い弟が
ここまで素直に相手の言葉を受け取っている姿はかなり珍しい。それほどまでに
陽介(おとうと)シンイチ()を信頼しているのを彼はまだ知らない。

「さてと、これでもう一安心かな」

当人であるシンイチはそれを気付いているのかいないのか。
誤魔化せたとあって自然に立ち上がると男湯の出口に向かって足を向けた。

「あれ、もう出ちゃうの?」

「ちょっとな。外の見回りに行こうと思って。
 折角フリーレ先生に頼まれたんだ。やるなら徹底的に、だ」

「外? あ、道具とかスキル使おうとする奴ってことだね、一人で大丈夫?」

頷きながら、なんならついていくと言いたげな顔の陽介にだが彼は首を振る。

「うちのが先に見張ってるからそれに合流するだけだよ、ゆっくり浸かってろ」

そういって自分の頭の上を指差しながらシンイチはそのまま出ていった。
それが何を示しているのか分かった二人は、陽介は感心しリョウは呆れていた。

「アマリリスがいないなとは思ってたけど……もう見張らせてたのか」

「あいつ、マジで顎で使ってるからな。
 見てるとこっちはビビるけど当人達は平気な顔してるから性質が悪い」

「それはなんとも……」

恐ろしい光景だと口にせずとも表情で語った陽介は彼と共に苦笑を浮かべた。
そしてさすがにずっと湯の外にいるのは冷えてきたのか。どちらからともなく
湯船に浸かる。そして温泉の心地よさを堪能するが彼らの間に会話は無かった。
険悪さも緊張したそれも無いただ自然と沈黙を選んだだけの空気は気を許しては
いるが不必要に近寄ってもこない適切な距離を作っているようであった。
だから陽介はそういう態度を取る彼に好ましいものでも見るように笑う。

「……ルオーナさんもそうだけどシングウジも意外に気を使う人だよね。
 彼と俺たちのこと、あれを見たら何かあると思うのに何も聞かないんだもん」

転入した日に幸か不幸か再会したあの瞬間その二人は居合わせていたのだから。
そして今は彼らに追い払われて周囲に誰もいない絶好の機会でもあるのに。
しかも今しがた陽介は明らかにシンイチの味方をしたというのに。
どちらにもある“なぜ”をリョウは当たり前のように聞かなかった。
尤も彼はそんな評価に──ではなくその顔に嫌そうな顔をしつつ言葉を返す。

「どっかの誰かみたいな笑い方しやがって………意外は余計だ。
 あんな突っ走りだしたら止まらないような幼馴染がいたらそうなるっての」

「ああ、なるほど」

学園ではつい最近までの態度(高校デビュー)が原因で粗暴で鼻持ちならない男と思われているが
実際は負けん気が強いだけで気遣いのできる少年である。陽介とは似たような
性格の少女から被害を受けているためか互いに無意識の仲間意識を持っている。
それは彼が態度を改めた今はさらに強くなっていた。

「それに誰にだって言いたくない事はあるだろ……ナカムラは特に多そうだ。
 でも、だからトモエとずっと一緒にいてくれそうな気がするんだよな」

あいつ解り難い寂しがり屋だからな、と。
その辺りもすぐに気付いてくれそうな男は彼としては逃せなかった。
そんな想いがつい口から漏れて、まさかと陽介は一気に頬を引き攣らせた。

「え、にい…あの人、サーフィナさんとも仲がいいの?」

思わず続柄で呼びかけてしまいそうになるほどの動揺と共に。
それでも何とか自分の疑問全てに答えてくれそうな問いかけをする。これには
“姉の親友である”や“リョウが恋仲を期待する程に”という言葉が隠れている。

「あっ、ぁぁ………その、なんだ……」

だが彼はまず、しまった、という顔をする。陽介がシンイチに対して何かしらの
複雑な感情をあらわにしていなかったのとさっきの自然な様子から彼ら同士の
関係は悪くないのだと察して油断していたせいで口が滑ってしまったのだ。
しかし。

「この際だ、お前も巻き込んでおくか」

どうせ自分ひとりではろくな援護ができないと困っていた所だった彼は
これ幸いだと厄介な相手の片割れを味方に引き込もうと黒い笑みを浮かべた。

「な、なんだろう。
 そのどこかで見たような怖い顔。すごく悪い予感がしてくるんですけど!?」

「正解だと思うぜ。なにせ本人は全く気付いてないが、
 あいつの腐れ縁として言わせてもらえば間違いなくナカムラに惚れてるぜ」

「…………………………マジかぁ………」

イイ笑顔での断言にたっぷりと間をとって陽介は天を仰ぐようにそう呟く。
それほどまでにその事実を受け止めるのに手間がかかったのだ。それが
発覚した時に誰が一番過剰な反応をするかが手に取るように視えたから。

「それってうまくいってもいかなくても。
 ううん、知った時点で姉ちゃんが荒れる未来しか見えてこない……」

それはなんて地獄だろうか。どうやっても宥められる自信が無い。
青ざめて肩を落とす彼にリョウも少なからず罪悪感を覚えたのか一言。

「………ガンバレ?」

「他人事みたいにいうな!」

巻き込んだのは君じゃないか、と無責任な励ましに思わず吠える。

「悪い、悪い」

そう謝るもこれでお前も共犯だといいたげな笑みをこぼすリョウ。
この少年も充分に誰かさんの影響を受けているに違いなかった。
そうとも知らずに最近彼の性格が悪くなっていると思う陽介である。
呆れるように疲れた息を吐く彼だが、ふと視線を浴場の出入口に向ける。
そこにはもう彼の兄の姿も気配もない。だからか。それともそれこそが
リョウの話を受け止めるのに手間取った本当の理由だったのか。
何気なく、そして誰に語るでもなく陽介はそれを呟いていた。

「まさか、あの人を好いてくれる(・・・・・・)人がいるなんて(・・・・・・・)ね」

「は?」

言葉とは裏腹にそこにはシンイチを貶めるような感情は微塵も無かった。
風向きの関係ではっきり聞こえてしまったリョウはそこに親愛さえ感じる。
けれど淡々と語る声には、やっとか、と憤っているニュアンスもあった。
そこにはリョウが知る陽介には似つかわしくない程にシンイチの周囲に
かつていた人間達に向けられた強烈な不快感ともいうべき憎悪の声があった。
それに一瞬呑まれかけた彼だがこれだけは告げなくてはいけないと口を開く。







「───────少なくともあと3人いるぞ」

「え?」






弟君ついに衝撃の事実を知る(笑



残念ながら、これが、今年最後かもしれん。

ああ、せめて今年中にガレストに行くまではやりたかった……だからではないが、


来年もよろしく!!(まだ約一週間あるけど!)

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