挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

125/179

04-59 毒を持って善を制す?



────東大寺

それは広大な奈良公園内に存在する日本を代表する寺院の一つだ。
しかしそれよりも『奈良の大仏』がある所といった方が日本人には伝わるだろう。
初めてそこを訪れたものはまずその大きさに圧倒されるといわれる。映像や画像で
見知っている気になった者も目の当たりにして感じるその荘厳さに息を呑む。
さらに続けてその大仏殿にて『奈良の大仏』こと東大寺盧舎那仏像を見上げれば
深い感慨を覚えるのは間違いない。もはや奈良県の観光名所としては定番の場所
ではあるが日本人として一度は訪れたい場所でもある。

「うぇ、きっつぅ……」

ただ、その想いが他者より強いはずの彼は南大門さえ越えられていない。
他の観光客の邪魔にならぬ大門前の脇でシンイチは蹲って気分の悪さに参っていた。

「ナカムラ、おい大丈夫か?」

既に引率の教師を含めて彼ら以外の全員が東大寺の中へと足を進めていたが
彼に付き添うという形で居残ったフリーレが励ますようにその背をさすっていた。

「キュイイ」

心配げに鳴くヨーコはとっくに主人からは降りて複雑な表情で彼を見上げている。
こうなることは分かっていた。しかし行きたいという彼の意思とそれとは別の
目的を聞いていた彼女にそれを止めることはできなかったのだ。

「水でも持ってくるか? それとも薬か?」

〈体温低下と脈拍の乱れを検知。しかし原因は不明〉

「心配するな、理由はわかってる。体質的な問題だ。薬じゃどうしようもない。
 ったく、予想通りだが、予想以上だな。頭がくらくらしやがる」

手足をついている地面がぐにゃりと歪んでいるような錯覚の中。
南大門越しに東大寺を睨むように見据えて、されど即座に視線を外す。
それどころか金剛力士像すらまともに見ることができないでいた。

「っ、千年以上も人々の想念を受け止めてきたのは伊達じゃないか」

それだけの歴史が力を持たせたのか。はたまた元からそういうものだったのか。
どちらにしろ彼の属性(邪神)とはあまりにも相性が悪い場所だと言わざるを得ない。
門の近くにいることさえ苦痛に感じてしまうほどに。

「なにをぶつぶつと……これはバスまで戻った方がいいか?
 動くのがつらいならどこか休めるところを……」

「ははっ、あんたとなら二時間でも一晩でも一緒に休憩したいね」

それでもそんなことを口に出す辺りまだ余裕がある、ともいえる。
あるいは余裕がないのを軽口で誤魔化している、のかもしれないが。
ただ。

「何をいっているお前?
 それで回復するなら看病ぐらいするが、本職を呼んだ方がいいだろう」

「……はい?」

〈マスターにその手の冗談は通じません。
 基本的に知識が足りず、まだ経験もありませんので……いかがでしょう?〉

その方面で無知であったフリーレにはまるで通じていなかったらしい。
代わりに白雪には通じた事に体調不良とは別に頭が痛くなってくるシンイチだ。
しかもさりげに際どい情報を開示しながら推奨してくるのだから余計に。
尤も当人は意味が分かってないのか首を傾げているが。

「よく話がわからんが、自分で動けないなら運ぶぞ?」

「……大丈夫、ここから離れれば治る。それよりいま俺と同じように
 体調の悪い奴がいたら、そうだな。ここに集めてくれないか?」

空間に投映した奈良公園のマップの南大門から一番近い休憩所を彼は指差す。

「なに?」

「生徒か教師かは分からないけど俺と似た感じなのが三人いるはず。
 そういう情報は先生(・・)なら入ってるでしょ、お願い」

体調不良ゆえかどこか弱々しい表情ながらも片手で拝むように頼む様子に
また何か企みごとかと眉根を寄せて渋い顔をするが一度頭を振って溜め息。

「確認だが、傷つけるような真似はしないな?」

「相手が襲ってこなければね」

「その可能性があるというのか。それで、私は?」

「外してくれると助かる……地球側の問題だ」

再度溜め息を吐くがそのフレーズの前には彼女も前に出にくい。
“悪い”とは思っているらしい苦笑顔の彼にフリーレも分かったと頷く。

「先にそこに連れてきておこう。お前は本当に大丈夫なんだな?」

「ああ、ここから離れれば大丈夫だ」

「……何かあったらすぐに連絡をしろよ。
 なんでかお前の自分に対する『大丈夫』は信用できん気がするんだ」

「…………よく言われる」

やっぱりか、とその呟きに呆れながらも何度か同じことを確認して、
それでもシンイチがまた頷くのを見てから首を振ってフリーレは動いた。
最後には何かあったら呼んでくれとヨーコの方に頼む形で。

「信用ねえな、俺」

「ご自身のことに関しては主様は根本的にいい加減で大雑把ですからね」

駆けていく背を見送りながらの呟きに当然ですという“彼女”の声がかかる。
そうなのかとシンイチ自身が驚いたような顔で従者を見れば即座に答えが返る。

「主様とある程度関わっていれば自然と理解しますよ」

「そういうものか…………いるんだろ、巴。もう誰もいないぞ」

ヨーコがいうならそうなのだろうと興味なさげに頷くと声をあらぬ方に向けた。
するとそこに不機嫌さを隠しもしない表情で霊符を構えている少女が突如現れる。
隠形の術によって隠れていたトモエだ。

「あんたね、予想がついてたのなら先にいいなさいよ!」

どかどかと表情通りの苛立ちのまま歩み寄ると複数の霊符を投げつけた。
受け取るのも避ける力もないのか顔に当たって地に落ちたそれを彼は拾う。

「はは、すまん。助かる」

一枚に『界』の字を浮かばせて自らに張り付けると楽になったのか息を吐く。
今だけ彼の体はその霊符による“仕切り()”によって霊的な干渉を阻害していた。

「空気が清廉としてたからもしかして、って思ってまた探したら
 門さえ通れてなかったなんて、まったく………浮かれたあたしが馬鹿みたいじゃない」

呆れた声色と視線で彼を責めながらも自省の言葉を小さく呟くトモエ。
ほんの数分前の感謝と頼み事に喜んで、知っていたはずの彼の体質を失念していた。
理由までは知らずとも彼が『魔』や『陰』寄りである事は先日知ったばかり。そして
奈良と京都には歴史的に見てそういった物に対する結界が今もなお効力を持ったまま
比較的あちこちに残っている土地である。さすがに人間であるので弾かれはしないが
あてられてしまう程には相性が悪いのは予想できたことだった。

「悪い、見るぐらいはなんとかなるかなって思ったんだが」

シンイチは彼女の後悔を察するが触れずに自分の不注意・油断のように語る。
それを額面通り受け取ってか考えが甘いとトモエは彼に怒り顔で指摘する。

「あのねぇ、ここがどれだけ歴史あると思ってんのよ。大仏は伊達じゃないのよ!
 名前だけじゃない。長く残っているものはそれだけで力があるっていうのに
 日本中どころか世界にだって知られてる場所なの、すごいんだから!」

「ああ、昔はわりと神仏とか冷めて考えてたけど、今は解るよ。
 でもそうなったらそうで今度は近づけもしないと来たか、出来の悪いコントだ」

それどころかその領域に入ることもできないと自嘲気味に笑って南大門を、
その先にある東大寺を、その中に本尊まで覗こうとするような視線を飛ばす。
だがそれもすぐに彼自身から反らした。霊符の力の下でもそれは辛い。
『見る』という行為はそれだけで双方に(・・・)影響を与えてしまう。

「………じっとしてて」

残念そうな彼の顔に何を見たのか。感じたのか。
新しい霊符を手にしてシンイチが反応する前にその額に張り付けてしまう。
彼からは見えないがそこには『繋』という文字が浮かび上がっていた。

「おい」

「少しだけ見せてあげる、いい、少しだけよ」

反論も質問も許さない雰囲気で一方的に言い切ると短く真言を唱える。

「なに、を───」

途端彼の頭に浮かぶ光景があった。まるで自分がそこに立っているかのような
臨場感で東大寺という建造物が目の前にあった。圧倒されるほど厳かな雰囲気に
軽く呆けながら足を進めれば中に入ることもでき、映像でしか見たことがない
かの大仏を間近から見上げられて感嘆の息がもれる。その言葉では言い表せない
様々な“大きさ”は雄大さでありその心身の広さのようで反射的に拝みたくなる
空気を持っていた。

「すげえな、ハハッ」

だが同時に“今の身”ではどこか申し訳無さも覚えてつい視線を反らす。
しかし反らした先で同じ顔をして大仏を見上げる男女を見つけたシンイチは
その様子を見てどこか満足そうに破顔した。

「───結局あんたはそっちか」

「……ありがとな」

視界を戻す。彼女の見た記憶との繋がりが切れて現実に戻る。
だが呆れているようで物悲しそうでもある声色を無視して感謝だけを告げた。
それを静かな拒絶と受け取ったトモエは何もいわずに霊符をはぎ取ると
背を向けて「もう戻るわ」と短く告げて隠形して去ってしまった。

「あんた、周りに気を使いすぎ。それとあたしをバカにしすぎ」

そんな叱るような言葉だけを残して。

「うぬ、気を使ったのバレてるな、これ。怒らせたかな?」

「どちらかといえば『悔しい』でしょうね。失念していたのは事実。
 それを責められもせず当人に気遣われては立つ瀬がありませんよ。
 いくらか主様にも落ち度や目的があってもいい気持ちではないでしょう」

頼み忘れていたのもそれを都合がいいと連絡しなかったのも彼自身である。
だからその点でシンイチは彼女を責める気はなかったから気遣ったのだが
それは少し彼女のプライドを傷つけてしまったようだと彼は頭をかく。
まさにトモエを馬鹿にして気を使いすぎた結果だった。

「聡い娘です。感情的な似非ツンデレかと思いきや、
 こういう事には気が回って、多くを聞かない配慮もできる。
 是非主様の近くに置いておきたい娘ですね、いかがです?」

「お前まで何を言うか。
 けど、まあ詫び代わりぐらいのことはしておこうか。
 ……お礼を兼ねるには少々外道なやり方だがな……」

最後の一言には呆れたように頭を振るが即座にその目を剣呑に細めて立ち上がる。
元より最初からそのつもりで『毒』を仕込んだがその優しさと気遣いに触れては
俄然とやる気に満ちてしまう。仕込まれた側にはたまったものではないだろうが。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか、それとも………悪人が出るか善人が出るか」

「オーガとかナーガの方が楽でいいんですけどねぇ」

「確かに」

人間の方が面倒だと彼らは笑い合いながらも目だけは真剣なそれのまま。
少し前まであれだけ苦しんでいたとは思えぬ確かな足取りで彼はそこへ向かった。






「ちょっとびっくりだ。まさかあんたらだったとはね」

まるで驚いていない表情でそう嘯く彼の顔には既にもう感情が無い。
驚きがないといえば嘘だがそうではないかという予想は無意識化にはあった。
全てが木造の日除けの屋根と鹿避けの柵。その中にある机と腰掛けにどこか
ぐったりとした様子で三名の生徒が座っていた。その少し見知った顔ぶれに
彼の中で浮かんだ感情は「やはり」だけだった。一方でその三名はシンイチが
来た事には気付いたがそれに対してまともな反応もできないほど気怠いらしい。

「……私は席を外していればいいんだな?」

「助かる。悪いな、なんかいつも変なこと頼んで」

休憩所に入ってきた彼と入れ替わるように出ていくフリーレは全くだと嘯くと
すれ違いざまに「近くにはいるぞ」と呟いて周囲の木々の中に消えていった。
姿そのものは見えないものの気配はそれほど遠くにまでは行っていない。
それが彼女として出せる最大の譲歩なのだろう。気分の悪い複数の生徒を
一か所に集めて放置するのは確かに教師として問題がある。だが原因が不明で
同じ症状のシンイチが集めてくれという以上解決の手段があると判断したのだ。
ある意味正解で間違いの考えに申し訳なく思いながら彼もまた腰掛けた。
何せ彼女ら(・・・)の体調不良の原因は間違いなく彼なのだから。

「さて俺も先輩たちとほぼ同じ状態だから正直きついんです。
 だから単刀直入で聞きますが……聞いてます先輩たち?」

「え?」

「お、同じって」

「なに、を……」

おそらくは熱がある時のように頭がぼんやりしているのか反応が鈍い。
効きすぎたかと懐に仕舞った霊符を服の上から確かめるように触れる。
それには『聖』の文字が浮かんで進行形でシンイチ“を”苦しめていた。
ただそれを表情に見せずに振る舞うため彼女らはその言葉の意味が分からないでいる。

「質問に答えたら元に戻しますよ……あなたたちはどこの誰ですか?
 そして何のために学園に……いや、そも巴に近づいた目的(・・・・・・・・)はなんだ?(・・・・・)
 教えてくださいよ、スポーツチャンバラ同好会のみなさん?」

無表情にそう問えば気怠そうにしていた彼女らは一斉に反応を示して顔をあげた。
そこではっきりと見えたその顔は皆スポーツチャンバラ同好会の基本メンバーのそれ。
あの時の明朗快活さは見る影もないが確かにトモエの友人たちであった。

「も、目的って、なんの…こと?」

「ぅ、気分が悪いんだ、ナカムラ、冗談は…」

「その顔色で誤魔化そうとする気概はすごいですね先輩。ご褒美です。
 体調不良の理由を教えてあげますよ、といっても鹿せんべいの拾い食いは
 よくないってだけの話ですが。特に俺みたいな男から受け取っちゃダメだ。
 どんな毒を含んでいるか分からないんですから」

危ないよねと口許だけで三日月を作ってほほ笑むと彼女らは見るからに青ざめた。
みるみる内に元々悪かった顔色がより悪化して驚愕に全員が目を見開く。
彼女らにはその話の意味が正確に理解できてしまった。
そして彼はトドメとばかりに彼女らをこう呼んだ。

「あれはどういうことかな鹿A、B、Cさん?」

「っ!?」

輝獣を一掃したあとで近寄ってきた三頭の鹿。
それらは全て彼女らがそれぞれで遠隔操作していた鹿に似せた式だった。
トモエが離れたあと近寄ってきたのは彼女以外にはバレないと踏んだからだろう。
気付いたシンイチはわざわざ知られぬように毒という名の術式を含んだせんべいを
食べさせて一部の感覚を術者たる三人と繋げたのだ。そのため彼がいま感じている
不快感や気怠さなどが流れ込んでいるのである。尤も。

「いっておきますが先輩たちが感じている気持ち悪さは俺の十分の一です」

「うぅ、えっ?」

「なにを、いって…ぁぅ」

そんなバカなと愕然とする彼女らにシンイチはにこやかな顔で告げる。
丁寧な言葉使いがどこかより一層残忍に、残酷に聞こえるようにゆっくりと。

「答えてくれないなら分母を減らしていこうと思いますが、どうします?」

「えっ、うそ、でしょ?」

「ではまず分かりやすく八分の一に」

「っっ!? うえぇっ!!」

「あがっ、なにこれっ、震え止まらっ、おえぇっ!」

「なにっ、あ、頭割れっ、る!」

何をされたのかよく分からないまま彼女たちは机や腰掛けから崩れ落ちた。
数字を信用するなら突然二割ほど格段に強くなった症状に耐えられなかったのだ。
ある者は胃液の逆流のような感覚に呻き、ある者は寒気から震えが止まらなくなり。
ある者は頭が割れるかのような激しい頭痛に襲われた。しかもあくまで
それは当人が一番強く感じている症状であり他の症状も感じていた。

「あ、汚した所はあとで俺が片づけますから好きなだけ吐いてください。
 できれば胃の中身ではなくて俺の質問の答えを吐いてほしいんですが」

耐え切れずに吐き出してしまった彼女らに他人事のようにそう告げる。
しかしその朗らかな口調に色んな意味で信じられないという視線を向けるのが
精一杯で彼女たちは何も答えることができないでいた。それに困りましたねと
肩を竦めたシンイチはあっさりと無情な数字を口にした。

「では六分の一」

「ひっ、あっ……うえぇっ、おえぇっ!!」

「やめっ、やだっ、あぁっ、寒い。寒いよぉ、ぁぁ……」

「痛いっ、痛い痛いっ! もうやめてぇっ!」

もう吐く物など無いのにこみ上げてくる不快感。
まるで極寒の地に薄着で放置されたかのような寒気と震え。
本当に頭部を殴りつけられているかと錯覚するような頭痛。
悲鳴さえあげて地面を転がる彼女らに丁寧だが冷たい声が落ちる。

「それでお答えは?」

僅か二日前に会った時とはまるで違う顔。彼自身の手によるとはいえ
痛み苦しむ者を前にして眉を潜める事も同情する事も無ければ悦にも浸らない。
あまりに事務的で機械的な対応に自分達が感じる症状とは別の震えが全身に走る。

「五分の」

「わ、わかった! 言う! 話すから、おねがいこれ止めてぇっ!!」

告げられかけた数字にもう無理だと誰かが降参したがそれを非難する声はあがらない。
全員が苦痛の中にありながらそれでも余力を振り絞るようにして首肯していた。

「わかりました。一度止めましょう。
 いつでも戻せることは言わずともわかりますよね?」

怯えたように頷く彼女らに彼もまた笑顔で頷いて感覚共有を一時的に止めた。
一気にこれまでが嘘のように体の不調が消えて安堵したのと同時に慄く。
本当に今のはこの男の仕業なのだと何よりも明確に示されたのだから。

「止まったでしょう? ほら早く座って話をしてください」

そんな彼から何とか起き上がれただけの彼女らに容赦なく促す。
その態度にいくらか恐怖が混じった疑問が湧いて思わず口から出てしまう。

「あなた、本当にいまの6倍もの苦痛を耐えてるの?」

「ははっ、よく信じられないといわれます。あり得ないともね。
 けど昔から得意なんですよ、我慢って奴…………必要があれば、ですが」

無ければこんな辛いことしませんよ、と
爽やかな─胡散くさい─笑みを浮かべる彼に、だが背筋が凍る想いの三人だ。
確かに、よく見れば彼の顔色は彼女らが知るそれより明らかに悪かった。
汗も多くかいており、平然とした様子に気付かなかったが病人の顔だ。

「それより早く座ってくださいよ。
 一応ここでの会話は外にもれないように配慮してありますから、で?」

しかしそんな素振りなど微塵も感じさせない態度が恐ろしい。
あんなものの数倍上の苦痛を我慢程度で耐えれるこの存在(ナニカ)はなんだ、と。
それに怯えるように腰掛けに座ると力無く頷きながら一人が代表するように口を開く。

「わかった。い、いえ分かりました。ちゃんと話します。
 でもこれだけは先に聞かせて、ください。あなたこそどこのだれ、ですか?
 何が目的で、どうして、巴さまに近づいたのですか?」

それだけは先に聞かなくては語れないと乱れた息を整えながらも訴える。
吹けば折れてしまいそうな虚勢ではあったが譲れない一線だとも感じさせた。
同時に、彼が事前にいくつか予想した背後関係の中で上位の面倒臭さもだが。

「……さま、と来たか。しかも正しい言霊だ。お前ら安倍一族の関係者か?」

「っ!?」

式を使っていた時点で退魔一族の関係者なのは間違いはない。
だがその中で彼女本来の名前を知り、様付けで呼ぶ所以を持つ者は少ない。
だからこそ一番可能性の高いものを彼は口にしたがかなり当たっていたようだ。
何せ彼女らは表情を強張らせてその目に良くない決死の色を浮かべたのだから。

「やめてくれ、お前達が命をかけた所で俺には毛ほどの傷も与えられんよ。
 そもそも目が正直すぎる。相手に気付かれた時点でほぼほぼ意味が無い」

それを容赦なく酷評して無駄・無意味だと斬り捨てて、言外に牽制する。
唇を噛んで悔しがる仕草に再び感覚共有させようかと嗜虐的な考えが浮かぶが
それ以上に憐憫の情が湧いた。厄介なカードを引き当てたお互いに対して。
相手は邪神、こちらは善人か。などと考えながら砕けた口調でおどけていう。

「信じる信じないは自由だが俺はお前ら一族とは関係がない。
 存在を知ったのだって学園に来て巴と知り合ってからだ。念のため
 自分の血筋も調べたがどう遡ってもどこにでもいた農民一家の末裔だよ。
 歴史に名を遺した偉人も著名人も芸能人すらどこにもいなかった。
 まあ悪党らしい悪党もいなかったのでそこはホッとしたけどな」

実際ついでという感覚で退魔一族を知った後で少し調べたのは事実だった。
繋がりの確認というより本命は自らの血筋への厄介事の有無の調査である。
結果は今語った通り以外のことは何も無かったが。

「まさにザ・一般人の家系だ………俺だけこうなっちまったがな」

どうやら厄介なのは自分だけらしいと自嘲気味に、そしてどこか
人を食ったような笑みを浮かべる彼にどう反応したものかと彼女らは戸惑う。
まるで違うのだ。数秒前まで機械的だった彼に確かな人の感情が現れて、
逆にどちらが演技であるのとか余計に彼女らは困惑させられていた。

「さて、タダで答えてやれるのはここまでだ。
 俺や俺の周囲に害を与える者ではないと確信すれば他にも答えてやるよ、話せ」

「ひっ」

そして今度は一転しての鋭く睨むような視線を浴びせられて身が竦む。
狙ってやっているというよりは、その反応に徐々に面白がってきた、が正しい。
言葉とは裏腹に敵とはいえない相手だと思い始めた事で遊びの部分が顔を出したのだ。
彼の中で敵をからかうのは攻撃だがそうではない相手となると趣味の遊びなのである。
そんな内心を知らぬまま彼女らは白旗を掲げるように自らの事を語り出す。

「私達は─────」

「はぁ?」

だがその中身に彼は終始渋い顔を浮かべることになるのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ