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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-56 リボンの絆

順調に遅れております(苦笑
現在、一話の長さで色々悩んでおります。
短くしてもっと早いスパンで更新するか。
今まで通りある程度まとめて更新するか。


………どっちにしろ書いてからの話ですが(汗


あ、今回の話は、何かでかい騒動のあと、と思ってください

 彼がその場所に視線を向けたのには別段深い意味はなかった。
ただそこにいるだろう人物に対して少し用事があったに過ぎない。
だからその何でもない姿に暫し見惚れていた自分に後々彼は驚いたという。


アースガンドの王侯貴族が重宝している避暑地にある一際大きな屋敷。
そこの人目には付きづらいが、日当たりや風通しは悪くない裏庭の一角。
いくらか開けたその場所で庭木の間にピンと張られた幾本かの紐がある。
そこには洗濯されたばかりのシーツや衣服などが干されていた。
否、現在進行形で干されているというべきだろう。

慣れた手つきと動作で淀みなく、一人だというのに順調に。
その度に彼女(・・)の背ではさらさらとまとまりのない水色の髪が揺れる。
何とはなしに目で追いかけながら少年は屋敷の壁に寄りかかるようにして
どうしてかその作業をじっと眺めていた。

「なにか御用でしょうか?」

気配と視線に気づいていたのだろう。
洗濯物を干す女性は手を休める事も振り返る事もなく声をかける。
それに少年はさも驚いたといわんばかりに大仰に間を開けて返した。

「お前…………………本当にメイドだったんだな」

ある意味とんでもなくズレている発言を。
さすがの彼女も呆気にとられて動きも思考も停止させられてしまう。
その職業にある種の誇りを持ち、完璧な所作を身に付けている彼女だ。
それはこれまでの仕事ぶりからも窺い知ることのできる話である。
また服装からしても解りやすい。頭には飾り気の少ないホワイトブリムに
踝まで隠す丈の長い黒のワンピース。その上にフリルのついた白いエプロン。
それらを身に付ける彼女自身は標準的とはいえない豊潤な肉体を持つが
この世界でもそれは標準的としかいいようのない侍女(メイド)服であった。
心も動作も格好もメイドである彼女をどう見ていれば今更そう思えるのか。

「今までなんだと思っていたのですか?」

僅かに胡乱で、恨みがましい視線と声を肩越しに向けながらいう。
ただしあくまで視線だけで表情そのものは無感情で意思は希薄に見える。
尤も見えるだけでありその内心は目の方が雄弁なまでに語っていた。
だから少年はその目に倣って正直に答えた。

「え、四次元メイド服を着てる無表情なお姉ちゃん」

「………一つ意味が解らない単語がありますが、
 概ね的を射ているのがじつに悔しいです………死ねばいいのに」

メイドである事に拘りと誇りを持つ彼女にとってそう見えなかったのは屈辱だ。
付け足すようにそんな暴言が出たのはその辺りの感情から出た意趣返しである。

「おい、聞こえてるぞ」

「聞こえるように言いましたが、なにか?」

ふん、と再び前を向いて洗濯干しを続けるメイドにおかしいなと首を傾げる少年。

「だったらなんで四日四晩寝ずの看護をしてくれたんだ?
 あのまま放っておけばまず間違いなく死んでたぞ、俺」

「何の話でしょう?
 あなたの看護は全員が交代で行ってましたよ」

間髪を入れずに切り返した彼女は無難に受け答えた──ように見える。
が、わずかに髪の毛の揺れ方に変化が出たのを少年は見逃さなかった。
尤もそんな微細な変化を見抜く必要性はそもそもないのだが。

「とぼけても無駄だぞ。お前の上司の証言だ。
 ついでにお前が出した箝口令も解除してたぞ、あのお姫様(リリーシャ)

おかげで他のメイド達からも詳細な話を聞けたとくすくすと彼は笑う。
曰く確かに他の(メイド)達は交代で看護をしていたが彼女だけは仮眠すら取らずに
ずっとベッド横に控えて眠り続ける少年(カレ)を見守り続けていた、と。
あのテンコリウスすら三日目からは仮眠をとっていたというのに。

「……………」

まさかの主人命令による密告にさすがに絶句して固まるメイド長・ステラ。
これではとぼける意味がまるでないと何故か痛くもない頭に痛みを覚えた。

「なあ、どうしてそこまでしてくれたんだ?」

しかし件の少年本人からの心底不思議だといわんばかりの声に
言いようのない苛立ちを覚えながら平素の口調で淡々と質問に答えた。

「まだ半月程度の付き合いとはいえ、あなた様はリリーシャ様のご客人。
 しかも今回は完全にこちらがご迷惑をおかけしてそうなったのです。
 治療と、最低でも目覚めるまでのお世話は当然の対応でしょう」

「それはお前だけがずっと看護していた理由にならないぞ?」

「私を指名して後を任されましたので、全力を尽くしただけです」

そう、それだけのはずだと自分に言い聞かせるようにステラは断言する。
少年は納得したのかこれ以上はどう聞いても何も出てこないと思ったのか頷いた。

「………そっか、ありがとな。おかげで久しぶりによく眠れたよ。
 さすがに生死の境を彷徨ってると夢は見ないらしい、新発見だ」

「……夢?」

こっちの話だと誤魔化す少年に訝しんだ彼女だが、まだ洗濯物はある。
引っ掛かるが追及する程の事でもないと黙って作業を進めていく。
彼はそれを眺めつつ雑談のつもりなのか浮かんだ疑問を口にした。

「ところで、なんでお前だけで洗濯物干してるんだ?
 話を聞く限りお前が一番疲れていそうなのに……」

わずかにステラの眉が寄る。遠因が何をいっている、と。

「それを……あなたがいいますか。
 他の者は今頃あなたの用意した氷菓子(アイス)に夢中になっているか。
 あなたが力技で掃除(・・)したキッチンの後片付け(・・・・)で使い物になりません」

「うっ、それは………なんかすまん。一応日頃世話になってる事と
 看護してくれた事の礼のつもりだったのだが……かえって仕事を増やしたよな」

ぐうの音も出ない指摘に少年は素直に謝罪しつつ肩を落とす。
いかんせんどうにもこの少年はいくつかの過程が必要な物作りが苦手らしい。
一つ一つならこなせるが連続させようとするとどこかで無理矢理な力尽くになる。
アイスなる彼の故郷の食べ物は確かにメイドたちの舌を唸らせたのだが、
そのために犠牲となったものもまた大きかった。具体的にはキッチンが
半壊したといえばその被害の程がわかるだろう。無論彼は修復をしたが
細かい部分になるとこれまた不器用な点が出てきて結局メイドたちや
専門業者を呼ぶ羽目になってしまった。

「ホント、悪かった。
 こういうのがどうも昔からうまくいかなくてな、ははっ」

本気で落ち込んでいるのか。この半月で一度も聞いた事のない
力の無い卑屈な声で笑う彼にステラは納得できないものを感じつつも、
言葉ではやんわりと、しかし語気は強めでその心配りに拒否を示した。

「この程度どうということはありませんが、何にせよ私達に礼など不要です。
 日々の仕事の給金はきちんと国やリリーシャさまから頂いております。
 また先程もいいましたが今回のコトは私達に落ち度がありますので」

だからこれは当然のことなのだと。
原因はこちらだとそう強く誇示するが当人は不思議そうな顔で首を傾げた。

「え、だってあれ殆ど俺が勝手に持っていった(・・・・・・)ものだぜ。
 それ以外だって油断からついたものだし俺の自業自得じゃないのか?」

などと冗談か本気か判別がつかない軽い調子で言葉を返す。慌てて
肩越しに少年に振り返った彼女はその表情(呑気さ)を見て唖然という意思を見せた。
彼が負った傷は決してそんな言葉と顔で片づけていい原因と数では無かったのに。

「………そ、それで死にかけておいてなんて軽い」

「いや結局死んでないし、なんとなく大丈夫な気配はしたぞ、うん」

「どんな気配ですかそれは………信じられないっ」

重傷を負って生死の境を彷徨った彼を四日四晩看護し続けた彼女からすれば、
今こうしてぴんぴんとしている方がおかしいといえるのだが、それ以上に
その他人事のような態度に呆れと妙な苛立ちを彼女は覚えた。しかし
これでは仕事が終わらないと作業を再開させる。

「……え、えっと、手伝おうか?」

しかしその苛立った雰囲気は俄かに周囲に伝搬して空気をピリピリとさせる。
どうやら怒らせたらしいと彼がご機嫌取りに走るほどに目に見えて怖い空気だった。

「結構です。だいたいその腕でどうやって手伝う気ですか?」

だがにべもなく断られてしまう。尤もそれは彼の腕を見れば一目瞭然。
右腕は全体が包帯で覆われ、左手に至っては三角巾で吊っている状態である。
籠に入った洗濯物を渡すぐらいしかできそうにないが彼女の仕事ぶりを見れば
余計な手間をかけてしまいそうである。また無理に手伝って万が一傷が開き、
洗濯した物を血で汚したなんてことになれば目も当てられない。

「あははぁ…………そうでした」

だから一通り苦笑して、がっくりと肩を落とす。
どうやら今の自分は平時以上に何もできないらしい、と。
治癒魔法で即座に回復させる事も可能だが緊急時以外では推奨されない。
肉体にかかる負荷や後々の健康を考えれば出来る限り自然治癒が望ましい。
彼の場合は他が重傷過ぎたため命に影響の少ない傷や骨折は後回しとなり
腕の負傷が残ったのだ。現在は負荷のない範囲での自然治癒促進効果を持つ
アースガント王国製の医療用マジックアイテムである包帯で治療中なのだ。

「あなたはおとなしくしていてください。
 私たちの看護とその高価なアイテムを無駄にしないために」

余談だが包帯であるがゆえにソレは基本使い捨てである。

「うっ……りょ、了解です……」

その点を突かれると弱いのか言い返す事もできず素直に下がる。
何となくこの少年の動かし方を理解しつつあるステラであった。
しかしそれでも部屋に戻るという気は彼には無いらしく、先程までと
同じく屋敷の壁に背中を預けるようにして彼女の仕事ぶりを眺めていた。
何が楽しいのかと訝しむが気にもしてられないと多量の洗濯物を干していく。
先日起こった事件の影響と後始末で屋敷での仕事が幾分溜まっていたのだ。
各所に指示を飛ばす長たる彼女が一個人に掛り切りだったというのもあって
大物の洗濯がどうしても溜まっていたのである。

「…………」

「…………」

そうして互いに無言のまま一方は仕事に勤しみ、一方はそれを眺める状態が続く。
だが彼女の仕事が終わりかけた時、それを狙っていたのかはたまた偶然か。
少年はステラの仕事ぶりをこう評して彼女の眉間に皺を作らせた。
どうにも今日の彼はお喋りである。

「…………なんだろうな。洗濯物を干す後ろ姿を見てたら、
 なんかお前ってメイドっていうよりお母さんみたいだな」

「……み、未婚の女性にいうセリフではありませんね。訂正を求めます」

「うん、なんか嫁にしたいぐらいグッときた!」

妙なテンションでサムズアップしながらの訂正に彼女も胡乱な顔をする。
まだ傷が熱を持っているのではないかとステラはわりと本気で疑った。
少しばかり高鳴った鼓動を気のせいだと流しながら。

「………………それは、意味合いが変わってませんか?」

「そうか? 伴侶に母性を求める男もいると聞くぞ」

「そういう意味ではないのですが………あなたもその類だと?」

「俺の場合は半分以上ホームシックが入ってるがな」

くすくすと微笑んでいるのか苦笑を浮かべているのか分かり難い笑みを浮かべる。
視線だけは背後に向けていた彼女はそれを目撃して、失念していた事実を思い出す。
彼は異世界人だ。故郷と、家族と、友と、意図せず引き離された者だと。
それに気付くとどうしてか彼の笑みを見てられず視線を白いシーツに戻した。

「おっと、そんなつまらん話をしにきたんじゃなかった。忘れてた、忘れてた」

「え?」

瞬間、屋敷の壁際にあった気配が突然背後まで迫って驚く。
正確にはそれに対してまるで警戒していない自分に、だったが。
ただそれ以上に首元で髪の毛が結われたのを感じ取って目を白黒させる。

「な、なにを?」

「ほれ」

ようやく思考が復帰して振り返ろうとしたそこへ何かを投げ渡された。
思わず受け取ったステラは戸惑いつつもそれの正体を認識して目が点になる。
そしてその意味を悟ると妙に素っ気ない態度で言葉を返した。

「別段、気にすることではないでしょうに………片手でよくやります」

彼が押し付けてきたのは複数の色違いのリボン。彼女にはそれが先日の事件で
少年の落ち度─というより事故─で切れてしまったリボンの代替品だと理解した。
同じモノでいま髪を彼に─片手で─結われたのだということも。

「ははっ、これぐらいはな。
 それに俺が気にするんだよ。借りはさっさと返す主義だしお礼の意味もある。
 とはいっても、見ての通りの安物なんでそこは勘弁してほしいところだが」

悪いな、と軽くおどけていう少年。
それは日本人らしい謙虚さではなく実際にそうだったからこその言葉。
大国の王族に仕える彼女は高級品を扱う事もあって自然と優れた目利きとなった。
その目で見れば確かにそれはどこにでもありそうな布きれで作られたリボンだ。
材料も作り手も二流にすら程遠い。美点はせいぜい丈夫そうな事ぐらい。
しかし。

「……私達はリリーシャさまに仕える者です。
 主人より目立つなど以ての外。華美な物も高価な物も使いません」

どこか突き放すような声色なれどその言葉はそうではない物なら使うとも取れた。
実際ステラは自分が使うなら“そういったモノ”の方が好ましく思う性質だった。
そしてシンイチはその本音の方を容易く見抜くと頬を緩ませながら頷く。

「それはありがたい………俺の故郷では髪は女の命といわれている。
 折角そんなに長くてキレイなんだ。大事にしてほしいと……まあ勝手に思ったんだ」

気に障ったのなら許せ、と少し照れくさそうに笑う。勝手な事をしたか、と。
彼は時折故郷の文化を語りつつもそのあり方を強要しないよう心掛けていた。
きっと少年なりの異世界人ゆえのマナーなのだろうとステラは考えている。

「………そう、ですか」

実際ファランディアには特別女の髪を大事にする文化は無い。
肉体の中で最も魔力伝達と保有量に優れているために男女関係なく
魔法に携わる者なら一時的に体外に魔力を溜め込む場所と考える程度。
彼女自身も自らの髪に思い入れはなかった。しかしそこまで評価されると無性に
この数日の手入れの怠慢っぷりが気になってしまう程度にはステラも女だった。

「気になさらずともよいと思いますが、
 そういうことでしたらありがたく使わせてもらいましょう。
 その……一応お礼を……ありがとうございます」

今すぐにでも浴室の使用許可を取って念入りに洗いたくなる衝動を隠しながら
いつもの無表情で、されどどこかぎこちない仕草で礼を口にして軽く頭を下げた。
もう少し愛想よくすべきだったかとやったあと思った彼女だが顔を上げた時
快く受け取ってもらえたと喜ぶような彼の顔があって、しばし動きが止まる。

「………っ!」
「なんだ!?」

だが一瞬にして周囲に沸いた気配に敵襲かと思わず身構えたふたりはしかし。

「メイド長の卑怯者ぉっ!」

「抜け駆けは許しません!」

「なにこのいい雰囲気っ!」

「これが狙いだったのですねっ」

「あざとい、じつにあざといよ!」

地の底から響くようなどこか恨みがましい女の声に囲まれて、戸惑う。
その顔も姿格好も自分達のよく知る者達だがどうにも雰囲気がおかしかった。

「はい?」

「お前たちなにを?」

「ずるいですよ、メイド長!」

そう突然訴え出した集団(メイドたち)に呆気にとられてしまうのは仕方ないだろう。
転移魔法による急襲戦術をこんな事のために使われたのだ。当然の反応だった。

「そうです、私達もメイド長ほどではありませんが看護しましたよ!」

一方で彼女らはそんな呆れなど知ったことかと彼女だけ特別扱いするなという。

「そりゃ確かに一番看護したのはメイド長ですけどぉ」

「差があるのは構いません。
 けど私達にもそれなりの権利はあるはずです!」

「それにメイド長がひとり占めをするのはいけないと思います!」

「私達にも彼をお世話をする権利を寄越せーー!」

そうだ、そうだと声を揃えて労働環境改善を訴えるストライキが如き訴えだ。
内容は微妙に礼や仕事云々というより自分達にも平等にチャンスを寄越せと聞こえる。
たが少年はそれよりも感情をあらわにしているメイド達の姿に目が点になっていた。

「……え、なに、こいつらこれが素?」

「遺憾ながら、騒がしい妹達で申し訳ありません。
 しかしそこは(・・・)気付いていなかったのですね、意外です」

「性格や趣味は半月も見てれば解るがこれは……俺以上の仮面の被りっぷりだな、おい」

「……あなたのは物理的な話でうちの妹達は表情的な話ですが?」

「ただの比喩に突っ込むなよ」

「その表現が合って無いと申し上げているのです」

細かい奴め、と少年が半眼で睨めば、ただの注意です、とメイドはすまし顔。

「「「「そこっ、自然(ナチュラル)にイチャつかない!!」」」」

さすがは姉妹か長年の同僚か。
ふたりを取り囲んだ状態で一斉に彼らを指差して抗議をする。
当人たちからすればそんなことはしてないと言い返したい所だが、
そうすると喧々諤々の騒ぎとなるのは目に見えていたのでその点は黙った。

「ああ、ええっと……つまりは看護のお礼の要求か?
 さっきやったアイスにはそういう意味もあったのだが?」

「あれはあれで確かに美味しかったのですが!」

「ぜひ、また頂きたいところですが!」

「私たちは形が残る物が欲しいのです!」

「というか後片付けで結果プラマイゼロですよ!」

「あ、もちろん高価じゃなくていいです!」

「出来れば身に付けられるものを!」

「全て右に同じ!」

「以下同文!」

流れるように告げられた要求に痛くもない頭に痛みを感じて額を押さえる少年。
問題なく叶えてあげられそうな内容と自分の失態をあげられると辛いものがある。
が。

後片付け(それ)を言われると弱いが………って!
 おい、なんでリリーシャやヨーコまで混じってる!?」

それこそ自然(ナチュラル)に混ざっていた彼女らの主人と少年の従者に本気で頭が痛くなる。
彼女らは当たり前のようにそのメイドたちの集団に入り込んで声を張り上げていた。
後者に至っては基本使用するなといわれている人身状態で。

「場所や治療の魔力を提供したのは私ですよ!」

「私もずっとおそばにいて御身を守護しておりました!」

もらえる権利はあるはずだと目を輝かせながら一緒になって少年に迫る。
その後詰めでもするかのようにメイドたちも並んで上目使いで追従してきた。
どちらがあざといのか小一時間ぐらい問い質したい気分になる彼である。

「……はぁ、まあ毎日世話になってるしアイスで余計な迷惑かけたしな。
 この近辺にある店の物でいいなら出来る限りのお返しはするよ、全員にな」

「はいっ、ありがとうございます!」

「さっすが主様、太っ腹!」

「それじゃあみんな一人2時間ずつということで!」

「「「異議なーし!」」」

「………お前ら、完璧に打ち合わせしてから来ただろ?
 というかなんだその具体的かつ妙な時間は? 買い物だよな? なあっ!?」

あらぬ予感に若干の身の危険を覚えて叫ぶがそれに答えてくる者は誰もいない。
主従関係なく全員がハイタッチで言質は取ったと祭りのような賑わいである。
そこへ彼とは別のこの状況を喜ぶような少年の笑い声が届く。

「あははっ、やっぱりこうなったね」

「……なんだカイト、からかいに来たのか?」

メイドたちが現れた時から気配でいるのは分かっていたが関わらなかった彼へ
咎める視線を送る少年だがカイトは気付いた様子もなくさわやかな笑顔を見せる。

「まさか!
 ただ僕も色々手伝ったんだから何かおねだりしていいかなって」

「ふん、男にプレゼントするための金なんか一円も無い」

「うわっ、なんて潔い男女差別発言!?」

にべもない即答の返事に笑顔が崩れたカイトは愕然としつつ少年に縋る。

「そんなことをいわずに新しい武具を見繕うの手伝ってよ信一!
 あの事件からもう怖くて今までのは使いたくないんだ!」

「うるせえっ、知るか!
 自分で目利きする経験を積め! そして請求はアースガントに回せ!」

「あっ、その、出来ればそれはやめてほしいな、なんて。
 今回の件で色々出費が嵩んでいますのでいま本国にお金を無心するのはちょっと……」

一言でカイトの懇願を斬って捨てたがそれが今度はお姫様を呼び寄せてしまう。
さすがにお祭り騒ぎしていても中央に請求という話は聞き逃せなかったらしい。
しかし。

「必要経費だ、バカ!
 ファランディアで一、二を争う大国なんだそれぐらい出させろ!
 出せないならあのショタジジイからいくらでも巻き上げてこい!」

それは少年の激昂という形の叱責を呼び寄せてしまい真正面から彼女は怒られた。
その剣幕にビクッと体を震わせた姫はしかし、一転して蕩けた顔を見せる。

「はうっ、叱られた!
 で、でも、やだっ、胸のときめきが止まらないですわ!!!」

いやんと体をくねくねさせながらしなをつくる大国の姫。
彼の叱責はこの姫を変な意味で喜ばしてしまうだけだった。本当に変な意味で。

「あちゃあぁ、姫さまがまたおかしなことを言い出しました……」

「重病ですねぇ、これはもう治らないんじゃ?」

「おい俺のせいみたいな視線を向けるな! いや確かに俺のせいだけど!!」

誰の行動で発病したかという点では否定する気はない彼だがどうにも釈然としない。
そこへ傾国の美貌を持つヨーコが主人に近づきつつもメイドたちを牽制する。

「こらお前達、主様はまだけが人ですよ。静かになさい」

一瞬それに染み付いた奉仕精神が働いて引いたのを見てヨーコは笑う。
そして白い谷間を見せつける衣装でそれを押し当てながらしなだれかかる。

「うふふ、ねえ、主様ぁん!
 そんなドM姫放っておいて私と一緒に部屋に行きましょう。
 私の2時間分でたっぷりと四日もためこんだ殿方の欲望をいくらで、あいたぁっ!?!」

男を蕩かす甘い声での色仕掛けはしかし、問答無用のチョップで沈められた。

「お前の頭にはそれしかないのかこのエロ狐!
 俺がまだけが人だって言った口で何をいうか!」

「え、治ったらしていただけるのですね!?」

痛みから頭を押さえていたヨーコはしかし。
その言葉に獣耳をぴこぴこと動かしながら嬉しそうに飛び跳ねる。
だがその瞬間、少年の額に青筋が浮かんでスッと右手が構えられた。

「お前のその耳は飾りか! どうして今のがそう聞こえる!?」

「あいたぁっ!!」

再びのチョップに今度は地面に沈み込むファランディアの神獣。
そこには伝説の中で語られる高貴さも美しさも感じられない残念さだけがある。

「って、おいステラ! この状況でしれっと仕事に戻るな!」

そんな騒がしくなっていく場からメイド特有の周囲への気配同化で
離れていく彼女を目敏く見つけた彼は助けを求めるように叫ぶ。わりと本気で。

「こいつらの相手を俺一人にさせる気か!? ボケばっかりじゃないか!
 折角助かったのにツッコミし過ぎで過労死するレベルだぞ、これ!!」

「いいえ、何も問題などありませんとも」

「あなたさまはただ何もせずにお休みを」

しかしその周囲をずらりと微笑みを湛えたメイドたちが取り囲む。
ただその瞳には余計な感情が、何かよく分からない熱意が宿っていた。

「ここからは私たちのターンです!」

「四日はメイド長に独占させたのですから!」

「一から十まで、全てお世話させていただきます!」

「おはようからおはようまでアースガント最強のメイド部隊にお任せを!」

「それ24時間ずっとって意味だよな!? 本当に何する気だてめえら!!」

本気で身の危険を覚えた少年は叫ぶがメイドたちには意に介されない。
色々吠える彼の魂の叫び(ツッコミ)と彼女らの喧騒を尻目にステラは静かに作業に戻る。
結果的に邪魔が入ってまだ洗濯物は残っているのだ。仕事に戻るのは当然。
されど。

「…………」

白いシーツの前に立つと無言で手の中の代物を見下ろす。
そのどこにでもありそうな安物のリボンをステラはただじっと見詰める。
そしてまるで隠すようにその贈り物を愛しげに胸元でぎゅっと抱きしめた。
彼女がその時薄く微笑んだのはシーツに隠れて誰の目にも映らなかった────






────そしてベッドの上で一人の少年がむくりと起き上がる。

「ああ、なんだ…………つまりそういうことか?」

夢から目覚めた彼は開口一番そうこぼす。
昨日から続けて見た悪夢(いつも)と違う夢。時系列は逆だが共通する人物は解り易い。
だからこそ自らの夢が訴えたいものがいまいちよくわからず少年(シンイチ)は困惑する。

「ここ地球だぞ、あいつらに何かあるとしても俺にどうしろってんだよ?」

何らかの問題が彼女らの周囲に起こるのだとしても今はそれをどうにもできない。
だが、おかしい、とも思う。これまでこの夢は概ね自分に降りかかる何かを
無意識に推測して類似性や関係性のある過去の光景を見せていたはずだ、と。

「………俺は俺に戻れっていいたいのか? 無理をいうなよ」

本当にそれどころではないのだ。今の彼はこの世界から離れるわけにはいかない。
マスカレイドとして世界の監視もあるがどの段階でどう時間がずれたのか不明な
現状では迂闊に世界間の移動をするのは再び長期的な行方不明扱いになる危険性がある。
それらの問題が片付かなくては彼が再びファランディアの地を踏むことはない。

そもそもナニカを思い違いしていると頭の奥で警鐘が鳴っている気がするのだ。
が、その“ナニカ”に思い至れない。この妙な予知夢の厄介な所は直接的でないため、
曖昧さや抽象的な部分を持つ通常の予知・予言の類以上に解読が難解になっている事だ。
今は彼女らに関するナニカであるという程度しか判明していない。世界すら違う以上、
警告も相談もできない。そして考えたくとも材料が少なすぎる。棚上げするしかない。
そう頭を切り替えてベッドから降りてカーテンを開く。窓越しに空を見れば
明らんできたそれが見える。日の出直前といったところだろう。

「二度寝する気分じゃねえな…………よしっ、あいつら叩き起こしに行くか!」

まるで近所に遊びに行くかのような気軽さでニヤリと笑う。
幻想の国から夢の国の住人となっているだろう弟子の快眠を乱す気満々。
彼の主張としては昨晩は遠慮してやったんだから早朝はいいだろう。
というトンデモ理論。しかし残念ながら覆らない。覆せる者がいない。

「………ご愁傷さまです」

寝ずの番をしていたヨーコはやれやれと肩を竦めて彼らの無事を祈ると
主人と入れ替わるようにして静かに仮眠に入るとベッドの上で丸くなるのだった。

今更ですが、シンイチが見てる夢は同じ場面での彼視点です。
文章中に表現されているのはその場であったこと全体です。
彼が見れてない部分は当然知りません。
+注意+
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