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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-54 中の人などいない!





爆弾は全部で22個。ランド内に分散する形であちこちに仕掛けられていた。
入場ゲート。トルネードマウンテン山脈内。園内レストラン。移動汽車。
アウーラキャッスル城門。スタッフルーム。地下自家発電施設。飛行場。
放置していたらどうなっていたのかと想像するだけでぞっとする各所から
脅威を排除しつつその“9個目”の場所はランドの完全な裏側である広大な
倉庫のような場所だった。そこに収められている様々なモノには目もくれずに
捜索したがどうしても見つからず残り時間から後回しにするしか無かった。
最終的にそれ以外の21個を解除して再度捜索したがそれだけが見つからない。

「やはりここには無いな。受信機の反応がない」

最初に見つけた集団やあの男女から奪ったのはその端末だけではない。
遠隔爆破するためのスイッチと思わしき無線機のような装置もあった。
現代ではもう旧式な代物だが園内ならばどこからでも爆破できる代物。
構造としては単純であった爆弾とは違ってフォトンを用いず、また複雑な
基板を用いた爆弾のスイッチというのはシンイチでは下手に中身をいじれない。
だがそれでもその信号を受け取る受信機の反応をフォスタで探る事は出来た。
ただし規格というべきか下地にある技術の違いというべきか。ある一定の
距離までに近づかなければ判断できない程度の精度ではあったがそれでも
保管庫内に無いことを早々に確定させることはできた。

「ど、どうします!? 一個だけでも人が集まってる所で爆発したら!」

大参事は免れないとスタッフ─木村─は慌てふためきながら叫ぶ。
それをふたりは落ち着かせながらも内心そういう場所にあると考えていた。
ここまでの傾向を考えれば人が集まる場所かランドの施設へのダメージを
狙っているのは明白であり9個目もそうであると考えるのは当然だった。

「……ここだけ嘘の情報だった、ということでしょうか?
 あるいは計画上はここでしたが担当の者が急遽違う場所に?」

「そんな浅知恵すら回る連中には見えなかったがな………やはりか。
 いま警備システムにハックして確認したがここに不法侵入した輩はいた。
 警備員が仲間だったせいかどこにも通報されなかったようだが」

フォスタを片手にそんな解説をすればアリステルは難しい顔で唸る。
それが指し示す意味に察しがついてしまったのだ。

「だけど実際にはここにはありません。
 爆弾が勝手に歩くわけもなし、となれば」

「意図してか偶然か、持ち出されたとみるべきだな。だが、どれだ?
 記録上今日だけでも何度かヒトの出入りがある。どうやって特定を……」

唸りながら熟考するシンイチを横目にアリステルは念のため見落としがないか
薄暗い保管庫内に視線を巡らすが、その少し異様な雰囲気に若干気圧される。
爆弾探しに意識が向いている時は気にならなかったが無いと分かると
その存在が目についてしまう。

「……ミ、ミスタ・キムラ、ここはそもそも何の保管庫なのでしょうか?」

「え、ああ、名目上キャラクターたちの控室って奴です。
 正確にはその、えっと……着ぐるみや関連の小道具なんかの保管庫と
 中の人の休憩所をかねた場所です。今はちょうどフル稼働中で誰もいませんが。
 本当はお客さん入れるわけにはいかないんですけど、緊急事態ですので」

「それはご協力ありがとうございます。ですけど、その。
 人が入ってない着ぐるみは何か言いようのない雰囲気がありますわね」

自分達をいることを匂わせないため灯りは最小限のみにしていた。
そんな暗い倉庫内で本来ランドのあちこちで元気に動いていたキャラクター達が
死んだように動かず、乱雑に置かれている光景は説明の難しい恐怖感がある。
一体か二体なら今にも動き出してしまいそうなのが余計に想像をかきたてる。
輝獣という倒せる、倒してもいい怪物はいくら恐ろしい姿でも平静に対峙
できる自信がある彼女だが地球のホラーテイストな雰囲気や文化は苦手だった。
勉強として初めて触れた時は怖くて三日は満足に眠れなかったほどである。

「……変だ。なんでここに仕掛けたんだ?」

なんとかそれを顔に出すまいとしていた彼女にそんな呟きが届く。
熟考から僅かに意識を戻した彼はそもそもの疑問点に辿り着いていた。
ここは人が集まるような場所ではなくランドの機能を維持する施設でもない。
ここだけが他と違い設置目的が読めず、そしてここだけ爆弾が移動している。
ならばそこには何か意味や理由があるはずだ。

「木村さん、いまここに何が無いか分かります?」

「いえ、その、すいません。
 私はここの担当じゃないので本来何があるかまではちょっと……」

「そうですか。なら、いまここに無い奴や物はどこで何を?」

「え、当然あちこちでお客さんの相手をしているか……あああっっ!!!」

「ひっ、な、なんですかいったい!?」

突如として彼があげた大声に思わずびくついた彼女には気付かず、
木村は愕然とした表情を浮かべながら小さく、思い出した、と呟く。
これは当たりを引いたとシンイチはニヤリと笑みを浮かべながら促す。

「なにか心当たりがあるんですね?」

「パレードです! ここにいないキャラたちは大半がそれに出演予定の奴だ!
 色んな演出をするからここにあった何かの小道具もいくつか使ってます!
 それに今日のは特別なパレードで、だからいつもよりお客さんも多くて!」

幸か不幸かそこに学園の修学旅行が被ったことで余計に人が増えたのだろう。
それを考えると彼がバックヤードで犯人らと遭遇したのは偶然とは言い切れない。
内心そういう連鎖が起こったかと考えながらシンイチはその情報に頷きを返す。

「なるほど、今日だったのはそれが目的か。
 ならそのパレードを狙わない方が不自然。仕掛けたと考えるのが自然だ」

「けどパレードに使うフロート車は準備と警備に大勢のスタッフが
 今日はずっとついてて直接仕掛けるのは難しかったはずです。
 犯人が何人か紛れ込んでも人目を避けるのは無理だと思います」

「……だからパレードで使うナニカに仕込んでスタッフ自身に運び込ませた?」

「そ、それですきっと!
 でもこの時間はもう動きだしてお客さんの前です。今からじゃ止められません!」

「そういえばあのテロリストの女性、パレードの最後を彩ると言ってましたわ。
 爆弾のタイマーにセットされた時間がそれを見越してのものだとすれば」

「間違いありません。予定通りに進めばその時間はパレードの終盤。
 一番盛り上がる最後の演出の最中、きっと大勢の人が集まってますよ。
 今日のお客さんはほとんどそれが目当てなんですから!」

「なんてこと!」

そんな状況で爆発が起こればそれ一つでも人的被害は恐ろしい数になる。
爆弾の構造は単純だったが破壊力という点では甘く見ていい代物ではなかった。
使われていた爆薬は大量のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンで現状
地球にある爆薬の中では最大の威力を持つ物とされている。だが、仮に
威力が低い爆弾であっても皆が注目している中で爆発など起これば
客達はパニックとなり我先に逃げ出そうとして群衆事故が多発する。
爆弾による直接的な死傷者以上の被害が出るのは想像に難くない。

「……気になる点はまだあるがこの推測自体は合っているはず。
 ならどうやって不自然じゃない形でパレードに近付いて爆弾の位置を探り、
 どうやって見張っているであろう犯人たちの目を欺いて解除をするか」

想定できる被害の大きさに青ざめていたふたりを尻目に
シンイチの口から出たのはどう対応しおうかというものだった。
彼の視線は周囲を見ていない。誰かに問うてもいない。口に出して
自らの考えをまとめよう、何かアイディアがないかと知恵を絞っているのだ。
それに少女はハッとした顔になるとすぐに頭を振って意識を切り替える。
今はまだ起きてもいないことに恐怖している場合ではなかった、と。
しかしそれは比較的こういった事態に慣れた者の思考であった。

「む、無理ですよ!
 パレード中はお客さんどころか俺達スタッフだって近付けない!」

スタッフである木村はその難しさがわかっているため頭を抱え込んでしまう。
しかし、少女は冷静に首を振るとまだ希望はあると諭すように答えた。

「ですがそれが最後の一つです。位置さえ分かれば多少強引な方法も使えます。
 最悪、爆風を封じ込める手段もわたくしならいくつでも用意は可能です。
 どこに仕掛けられたのかさえ何とか分かれば……」

アリステルならスキルによって起爆装置を凍らせて止める事など朝飯前。
上級の防御スキルを用いて強固なバリアで爆弾を囲んでしまうという手もある。
そうすれば爆発してもその破壊の衝撃は内側だけに収めることが可能だ。
だが何をするにしても彼女が前面に出た時点でこの事態を隠すのは難しくなり、
それだけでも何らかのパニックや事故が起こる危険性があるのもまた事実。

「とにかく、まずどうやって誰にも気付かれずに爆弾を探すか、だな。
 客の視線が集中し多数のパフォーマーやキャラがいる場所で」

「なんて無理ゲーだ、ダンボール被っても侵入できねえよそんなの」

どうしたものかと悩む素振りをしながら彼が悩んでいるのは別の事だ。
何せこの問題の解決手段はもうある。彼がマスカレイドとなるだけでいい。
あれの認識阻害能力は条件に触れなければ絶対的といってもいい効力がある。
例え目と鼻の距離にいても存在に気付くことはなく何らかの撮影機器に
映りこんだとしてもせいぜい黒い影と認識され故障と思われる程度だろう。
その状態ならば気付かれずに近づき、爆弾を捜索するのは簡単なのである。
アリステルを表舞台に立たせることも爆弾の存在が客に露見することもない。
どちらも後々関係各所に報告する必要性はあるが“今”知られる事はない。
だがどうにもよくない気配がある。それはまずい、と訴える邪神の経験値。
正確にはそうすれば悲劇が起こるとソレが喜ぶ気配を彼は感じている。
そして経験上そういう時はたいてい“彼の知らない登場人物(キャスト)”がいるのだ。
思い当たる節が無いわけでもないシンイチはそれを最後の手段にして考える。
だが。

「さすがにステルス光学迷彩はもっていませんし上空から探るのでは距離がネック。
 それにきっとすぐにはわからない場所に仕掛けたでしょうから目視で探すのは……」

考えをまとめる独り言かあるいは他の案を求めての相談か。
彼女の言葉通りそれ以外で気付かれずに探るという手は中々に難しい。
そして気付かれずに探る手ではどこかに隠された爆弾を探すのも難しい。
木村もここのスタッフとして何か策は無いかと唸るが妙案が出る気配は無かった。

「シンイチさん、アマリリスさんを使えないでしょうか?」

「俺達の誰がするよりも見つかり難いだろうが、さすがに出演者には気付かれる。
 それにあの(サイズ)でフォスタ抱えてパレード全体を走り回るのは少し難しいし、
 いま警備室の異常を犯人や第三者に気付かれるのはまずい」

膂力の問題というよりは体格、小型の四足歩行動物の限界の話であり、
そして警備室確保の意味もあり現状ヨーコを動かすことは得策といえない。

「こ、困りましたわ………こういう時は………そう、そうです!
 行き詰ったら開き直り、ではなくて発想を逆転させましょう!」

「どこかの弁護士みたいですが、確かにお約束です……それで?」

「え……えっと…こ、この場合なにを逆転させればいいのでしょうか?」

「ええぇ?」

何かアイディアがあるのかと期待した木村が目に見えてがっくりと肩を落とす。
彼女自身もいい考えだと思ったのだが肝心要の中身がなくて気を落としている。

「逆転、ねえ?」

いつか自分の言ったことをしっかり─余計な所まで─覚えている事に苦笑する。
少しそれに気が緩んだ瞬間、視界に入った物体に彼は目を奪われてしまう。
そしてまるで天啓を得たとばかりに瞬間的に考え方が逆転した。

「それだ!」

「え?」

「なんです、か…え、わっ、なにっ、え、ええぇぇっ!?!?」

感極まったかのような声をあげると彼はいきなり彼女を抱え上げた。
その括れた腰を両手で掴んで軽々と持ち上げると自らと共にくるくると廻りだす。

「そうだよ!
 なんでこんな単純なことに気付かなかったんだ! ありがとなアリス!」

「────────ッッッ!!!」

文字通り腕の距離で。
自らの全てを抱え上げられた状況で。
向けられるのは虚飾も計算も狙いもない満面の素の笑み。
近さに気恥ずかしさを。力強さに安心を。笑顔にときめきを覚えて、全身が熱い。
そのあまりの熱量にそれは簡単に彼女の許容量を跳び超えていってしまう。

「は、うっ…ぁぁ……そのっ、は……はい!
 わかりました! わかりましたからもう下ろしてくださいなっ!」

「あ、悪い、悪い。ちょっと興奮した」

紅潮しきった頬を隠すこともできない彼女と違い、彼のテンションは妙に高い。
それでもふわりと丁寧に少女を下ろしたのだが彼女の方がかなり息が荒い。
振り回した方はけろりとした様子でその姿に首を傾げてさえいるのに。

「ううっ、ミューヒさんが真っ赤になっていた理由を実感しましたわ…」

これは攻撃力があり過ぎる。訳が分からなくなる。頭の中が真っ赤である。
普段のからかいじみた言動より何もかもが近くて他意がないため余計に動揺する。
乙女心なるものが簡単に、そして普段より大きく揺さぶられて正常でいられない。
常に平静であろうという心掛けや鍛えたマルチタスクが全滅で軽いパニックに陥る。
つい先日これを受けた友人の状態を思い出して羨んだことを謝りたい気分だ。
ただ『嫌』ではなかったので口許は若干緩んでいるが。

「格上の女子を口説くにはこれぐらいやらないとダメなのか……俺ムリ」

その影で変な方向で納得して、妙に気落ちしている独身彼女無し男性がいたりするが。

「そ、それでどんな手を考えたのですか?」

自らの動揺を極力抑えこみながらまだ紅潮している顔のままそれを問う。
いまは何よりこの事態の解決こそ優先すべきと強引に思考をそちらに向ける。
シンイチはそれに不敵な笑みを浮かべて意味ありげにこう答えた。

「くくっ、中の人などいないということさ」

それは名案を閃いたというよりは悪戯を思いついた子供のような顔だった。







────────────────────────────────







その日のニャズダーランドで行われるパレードは常とは少し違った。
次元の歌姫と評される歌手モニカ・シャンタールが女神アウーラから招待された。
ありがたくそれを受けた彼女はお礼にと用意した贈り物と共にキャッスルを目指す。
───という設定(ストーリー)で本題は近くニャズダーシリーズの新作映画が公開されるため
主題歌を担当するモニカを招いての宣伝だ。今日はそのシングルの発売日でもある。
裏を語るまでもない誰にでもわかる理由で行われる特別パレードだったが、元々
ニャズダーランドのパレードは人気が高く、内容を気にせず楽しみにする客は多い。
また自らを地球とガレストのハーフだと公言し人々の心を震わす歌姫はニャズダーとは
関係なく両世界で最も売れている歌手である。それが合わさったのだ。人の入りは多い。
だからこの日ニャズダーランドは過去最大の入場者数を記録することになる。
さる学園の修学旅行生を抜いても第二位の記録とは大差だったという。だが、
その事実にほくそ笑む者と戦々恐々とした者がいた事はあまり知られていない。



「うわぁぁ」

誰かの感嘆の声が漏れる。パレードに詰めかけた人の数は満員電車もかくやという
状態を生み出していたが不満や怒号をあげる者はごく少数にとどまっていた。
またパレードのコースを設定した光のロープから多少身を乗り出す者はいても
決して誰も無理に超えようとしない観客たちは興奮しつつも律儀であった。
それだけその線を越えてはいけないと神聖な不可侵さを感じさせるほどに
彼らの前で披露される音と光のファンタジーは人々の目と心を奪っていた。

先頭は某国の近衛兵のような格好をした集団の一糸乱れぬ行進と武器に見立てた
装飾がされたバトンを使ってのパフォーマンスに派手な光の演出が重なる。

続くは幾台ものフロート車。船を模した物。汽車を模した物。車を模した物。
巨人を模した物。竜を模した物。それらが新しい技術によって今までなら
あり得ない動きと仕掛けを駆使して観客達を驚かせている。
そこへ優れた映像投映技術がそこに無い物を作り出して魅了する。

水が波打ち、妖精が舞い、幻想の獣たちが闊歩する完璧な映像はもう完全に
客たちに何が現実で何が映像なのかを分からなくするほど精巧であった。

重なるは気持ちが踊り出したくなる軽やかな音楽。
それと共にフロート車の合間で様々なアクションや演技を見せるパフォーマー達。
彼等もパレードを彩って、観客達を楽しませ、そして皆をさらに虜としていく。

異世界交流公開による技術の底上げとそれを娯楽方面で躊躇なく使ったことに
よるその幻想曲は世界の差などたいしたことではないと示すかのようである。
だからだろうかそれに見入っている者達に世界の違いは見られなかった。

「あ、ほら姉ちゃんあそこ。モニカだよ、モニカ!」

「わかってるわよ! うわぁ、本物生で初めて見た!」

パレードのちょうど中間にある帆船を模したフロート車。その甲板に彼女はいた。
既に夕日が沈んだ時刻ではあるがライトに照らされている彼女の姿は目立つ。
否、それがなくともその自信にあふれた表情と美貌は人目を惹くだろう。
フロート車のモチーフが海賊船なためかそれは女海賊のような出で立ちだ。
被ったトリコーンから流れ落ちる桃でも桜でもないピンクそのものの長髪を靡かせ、
それが褐色の肌を彩っている。日焼け等とは種類の違うエキゾチックな肌色と派手な
髪色の組み合わせは不思議と違和感がない。模造のサーベルを掲げてのポーズも
堂々としたもので、実にさまになっていた。容姿と相俟ってパレードで魅せる幻想
とは別種の世界を彼女一人で魅せている。憧れの歌姫のそんな姿に
詰めかけたファンらの目はこれまで以上に輝いていた。

「あれか、ハーフだっていう歌姫とやらは。ふんっ美人じゃねえか」

そんな中唯一に近い形で悪態をついた彼に隣の少女は複雑な顔で窘めた。

「言ってることと顔が一致してないわよリョウ」

運良く最前列を確保できた四人組だが興奮しているのは千羽姉弟だけであり、
残りは歌姫に少し不機嫌そうな顔をしたリョウとそれをなだめるトモエだ。
尤も事情がわかってるため彼女にしては言葉は柔らかめで小声である。

「わーってるよ、ただの八つ当たりだってことぐらい」

「分かってるならいいわよ、陽子たちに水差さないでよ?」

それも分かってると彼が呟きかけた───────その瞬間。
発砲音、と呼ぶにはあまりにも気の抜けたクラッカーのような音が響く。
連鎖するそれに応じるように、あるいはそれこそが音の発生個所か。
パレード全体を覆いかねないほどに白い煙幕があちこちにあがった。

「え、なになに、なんなの!?」

「落ち着いて姉ちゃん、ただの演出だよきっと」

「冷めることいわない!」

素直に驚く姉に弟は若干呆れながら冷静に指摘していたが、煙に隠れる形で
パフォーマーたちは予定になかったそれにどう行動すべきか慌てていた。
フロート車も動きを停止してそれに乗る演者たちも戸惑いを隠せないが
こちらは演技だと見られて客たちは誰も不審に思わなかった。

『ニャーーーハッハッハッハッッ!!』

そこへとても渋い大人の色気溢れる男の声で、猫語っぽい高笑いが響いた。
なんだという顔が多く生まれる中、幾人かはその声に勘付いて顔を輝かせる。
だからその気付いた者達はまず高いところを探して、目的のソレを見つけた。

「あ、あそこ!」

海賊船を模したフロート車。そのマストの上に人影ならぬ着ぐるみ影があった。
あれはなんだと観客達のざわめきが響く中、そこを幾つものライトが照らす。
それによって衆目に曝された影は右手がまるっこい形状のフック。左手には
幅広の柔らかそうなサーベル、という海賊風衣装を着た猫の着ぐるみ。
それを目撃して観客達は驚きとそれ以上の歓喜の声をあげた。

「あれは……まさかワルニャー!?」

「や、やったぜワルニャー登場だ!」

「陽介! ワルニャーよ、ワルニャーが来た!」

「マジか! あの噂本当だったんだ!」

それはニャズダーワールドにおける憎めない悪役を担う存在だ。
いつも皆を困らせることばかり考えているがここ一番でドジを踏んだり、
詰めが甘かったりして最終的に宿敵に逆転されて大空の星となる役回り。
しかし手下の面倒見はよく、企む悪事が─基本幼児向けなので─さほどでもなく
また悪事を働いている時以外は意外に模範的な小市民として過ごしていたり、
悪行にも独自の美学に則って行動している点などから人気が高いキャラなのだ。

『ニャうっ!』

それがかなり高いマストの頂上から飛び降りる。僅かな悲鳴がもれる。
されどくるくると空中で回転したワルニャーは甲板に体操選手もかくやという程の
満点の着地をした────かに見えたが衝撃を殺しきれなかったのかよろついてこけた。
その姿に観客たちからは微笑がもれる。それでこそワルニャーだというドジっぷり。
恥ずかしがる演技をしながらも即座に何も無かったように起き上がると
唖然としているモニカの前に脅威度ゼロなサーベルを突き出して大声で告げる。

『女神への贈り物はこのワルニャーさまが頂きだ!』

「……な、なにっ、こんなの予定に」

無かった。そう続ける前にワルニャーは右手のフックに引っ掛けるように
彼女を引き寄せて腕の中に収めるとサーベルを押し付けて周囲に声を張った。

『お前ら動くにゃよ、人質がどうにゃってもいいのか!』

そんな悪役の定番台詞に隠れるような小さな声がモニカの耳だけに届く。

「すいません。緊急のマシントラブルがありました。
 予定通りにいけなくなりましたのでこの寸劇に付き合ってください」

抱え込んだ彼女に素の声で周囲には聞こえぬように早口で告げる。
同様のメッセージが勤務歴の長いスタッフ(木村)から出演者にも届いたことで
混乱していた彼らもこれがトラブルに対する対処なのだと理解(勘違い)していった。

ただモニカはそれが少年の声であったことを若干訝しんだが納得したのか。
まずこのイベントを無事成功させようと考えたのか小さく頷きを返した。
そして装着していたインカム型マイクを通して声をあげる。

「だれかー! 助けてーー!!」

声に力は入っているが本当の悲鳴には聞こえないという大根役者過ぎず且つ
本気過ぎない絶妙な加減のそれはこういうイベントごとでは最も適切な悲鳴だ。
そして美女の助けてという悲鳴はお約束の人物(キャラクター)を呼び込む。

『待て! 悪さは許さにゃいぞワルニャー!』

可愛らしくも勇敢さがにじみ出る声と共に海賊船の進路先を覆った煙幕が晴れる。

『もう来やがったかニャニニャー!』

そこにいたのは通常バージョンではなく羽飾りのついた三角帽子と
青いマントにレイピアを模した幅広の剣を構えているニャニニャーがいた。
ふたりは長年のライバルでいつもワルニャーの悪事の前には彼が立ちはだかる。

『お前の悪事は僕が止める!』

『ええい! いつも邪魔しにゃがって!
 おいお前、贈り物はどこに隠したにゃ!!』

「くっ、誰があなたに教えるもんですか!」

『ニャハハッ!
 気の強いお嬢ちゃんは嫌いじゃにゃいが、けどいわにゃいとこうだ!』

「え、あっ、ちょっと、こらっ、あははっ、やめっ、はははっ!?!?」

器用にも彼女を押さえたまま悪猫は両手でくすぐり攻撃を始めた。
脇腹のみを重点的に攻められた彼女はこらえきれずに強引に笑わされる。

『ハ、ハレンチです! にゃ! はやくモニカさんをはにゃせ!』

余談だが、これはワルニャーの設定上定番の攻撃である。
繰り返すが、これはワルニャーがよくやる手段として有名なのだ。
決して、そう決して中の人が面白がっているとかそういうことは無い。
()が楽しんでいるのは悪猫を演じていることそのものなのだから。

『教えたらやめるにゃ、ほらほら早くいわないともっとくすぐるぞ!』 

「ひっ、ひゃっ、わ、わかった! そ、そこの宝箱! それだから!」

『よく言ったにゃ』

約束は守ると彼女を解放すると甲板に設置されていた宝箱の山に駆け寄る悪猫。
その後ろでは自らをかき抱いて庇うようにしながら「信じられない!」という
非難の視線を向けてくる歌姫がいたのだが悪猫は無視した。なにせ。

『……いきにゃりビンゴ』

その小道具から目的のモノの反応があったのだから。

『これが手に入ればここに用はにゃい! じゃーにゃ!』

右脇に挟むようにして宝箱を抱えると躊躇いなく甲板から飛び降りる。
今度はきちんと着地して大地に降り立つとそのまま先頭に向かって走りだす。
しかしそうなれば自然と悪猫はニャニニャーと対峙することとなる。

『待て、それはアウーラさまへの贈り物。返すんだワルニャー!』

『へっ、やにゃこった!』

猫の騎士がレイピアを繰り出し、猫の海賊がサーベルでそれを捌く。
本来は互いに柔らかい素材だが適切な効果音が響くことでその状況を演出する。

「ん?」

「あれ?」

猫騎士の華麗な突きを湾曲した刃で絡め取るように弾き、踏み込んで縦に一閃。
飛び退くようにそれを避け、今度は振り下ろした隙を狙った逆胴狙いの一閃を放つが
それは引き戻して縦に構えられたサーベルに防がれ、虚を狙った悪猫の蹴りが飛ぶ。
猫騎士はそれを片手で受け止めるとそのまま鍔迫り合いに入るが一旦互いに飛び退き、
そしてぶつかりあうように切り結びを再開する。そんなことを動き出したフロート車に
合わせるように自分達も少しずつ前に進みながらネコたちはやっていた。

「……なんだあれ? いまあの猫が何かに見えたような?」

「あんたも? なんだっけ、どっかであんな動きを見たような?」

揃って首を傾げながらも猫騎士と海賊猫の互角の剣戟を観察する。
(レイピア)(サーベル)の応酬に合わせた金属音と火花の演出はそれを本物のように見せている。
正確にいうならば、ようにのように、だが。それに気付ける者はどれだけいるか。
着ぐるみが行う激しい斬り合いへの珍しさから観客達はその腕前よりもその状況に
酔いしれて無邪気に騒いでいる。気分はヒーローショーを楽しむ子供に近い。
だがリョウとトモエはそれに違和感を、否、既視感を覚えていた。

「遊んでる、のか?」

「稽古、っぽく感じるわね」

確かにそれは互角に見える(・・・)がどうしてか二人はそうは思えなかった。
一族に伝わる霊力の影響を受けた直感とは別の経験から来る勘が訴える。
あれは悪猫の方が相手に合わせて互角を演じているだけなのだと。
たらり、とそれに思い当たった瞬間どうしてか冷や汗が流れる。
自分達はあれを向けられた経験が無かったか。

「うわ、なにあれ。
 中の人プロ級だよ。学園でもそうはいないレベルだ!」

そんな中、陽介や観客達の中にいる学園生徒達だけはある程度見る眼もあった。
着ぐるみの剣戟という物珍しさよりも腕前に驚く姿がいくらか見られている。

「馬鹿いうんじゃないわよ陽介! 中の人なんていないのよ!
 ここでそんなこというなんてマナー違反じゃない!」

「…………ソウダネ。ゴメンヨ、ネエサン」

若干興奮しすぎてそれどころではない者もいたが。
弟はその様子に何をいっても無駄だと諦観と共に片言で返すが気にもされない。
目をキラキラと輝かせながらショーか何かだと思ってそれに夢中である。

「おい、センバ姉が珍しくトンチンカンなこと言ってるぞ?」

「普段抑えてたのが完全に外に出てるわね。あれはしばらく戻ってこないわよ」

呆れと苦笑の混ざった顔でそれに気を取られたふたりは一時既視感を忘れた。
まるでその隙をつくかのようにソレ(・・)は現れ、ネコたちは背中合わせで並び立つ。

『にゃんだお前らは!?』

ワルニャーの怒声の先には彼らを囲むようにして漆黒の人影が現れていた。





───本当に、来た!

ニャニニャーの中の人────アリステルは驚愕と歓喜の中にいた。
後者は不謹慎だとしてすぐに理性が押し込めたがそれでも強い感情が沸き立つ。
シンイチが説明したアイディアはまさに発想の逆転。見つからずに潜り込むのが
不可能ならば見つかっても問題ない姿になってしまえばいい。

キャラクターという名の着ぐるみを纏うことで他の出演者の中に堂々と紛れ込む。
そこに本物のスタッフからのもっともらしい報告があれば例えそこに犯人の仲間が
いてもいきなりスイッチを押したり気付いたのかと勘繰る可能性は低くなる。
なにせ話を聞けばそれほど多くはないがアクシデントを誤魔化すために他キャラを
乱入させるという手法はここではたまに行われることだったらしい。
細かく脚本を決めないイベントが多いからこそ許された手段だった。

シンイチはそれを知らないまま思いついた。それだけでも尊敬に値する。
だが彼はいざ着ぐるみを着込もうという時に様々な“念のため”の指示を出した。
そして乱入するタイミングを見計らっていた時もわざわざフォスタ越しに
思念通信を入れて、さらにこんなことを忠告していたのだ。

「デパートの時と似た気配がする、気を付けろ」

彼女の聡明な頭脳はその言葉から即座に今回とあの事件の類似点を見出した。
ちぐはぐなのだ。あの事件は犯人達の言動と実際の動きや装備に乖離があった。
その真相は異世界交流に対する不満を持つ者達を利用してのただの陽動作戦。
今回もそうだ。手際はいい。おかしいぐらいに良い。あれだけの爆発物を難なく
運び込んであちこちに仕掛け、警備室に仲間を潜り込ませ、ひとつは
このパレードに自分達以外の手で運び込まれるようにまで計画していた。

なのに捕えた実行犯のあの男女とシンイチが遭遇したらしい他の者。
含めて彼はこう評していた。「浅知恵すら回る連中に見えなかった」と。
前者についてはアリステルは同感である。頭が回る者にはお世辞にも見えない。
後者についても彼を信じるなら、残った犯人の中に余程優秀な参謀役がいたか。
あるいは彼らの計画がうまくいくように誘導した何者かがいたのか。

当然シンイチが警戒して注意を促したのはその後者の場合だ。

自分達を取り囲んだ6つの人影にだからは彼女は驚きよりも歓喜が勝った。
いくつもの指示の意味を理解して心が震えて全身に力がみなぎってくる。
試験の時は遠地から見ているだけだったあの戦場に彼と共に立っているのだと。
自らが認めた自分以上の戦士の─この場限りとはいえ─相棒(パートナー)になれたと。
ならばもうその期待と振られた役割をこなすだけだと彼女は(レイピア)を構えた。




──どうしてこうも厄介な事態になる?

その6名に与えられていた命令はこの地でテロ活動を行う者達を影から援護する事。
もっと正確に表現するならば影から操って自分達に都合のよい犯人となってもらう事。
この手の汚れた裏仕事ばかりしていた彼らにそれに対する忌避の感情などない。
下らない理由で破壊活動を行おうとする者達への嫌悪もそれで失われる命への
憐憫さえもなく、自分達の行動が何を目的にしたものかさえ興味が無い。
ただ上からそう命じられたからその通りに行動するだけのただの駒達。
だが今回のことにはイレギュラーが多すぎると彼らは内心辟易としていた。
犯人グループの一部が行方不明となり、爆弾が次々と解除され、パレードに
仕込んだ物も予定にない乱入者ならぬ乱入着ぐるみによって奪われようとしていた。
しかもこれならばいっそと爆破させようとスイッチを押しても反応がない。
所詮は遅れた世界の技術だと彼らは故障を疑わなかった。海賊猫が抱えた際に
何も通さないように魔力の膜で覆われたなどと誰も想像さえしていない。
だから最終手段として姿を見せた。現場の判断でそれは許可されていた。
正体不明の武装集団の登場での混乱を期待しつつ爆弾を奪い返しての再設置。
タイマー機能に問題は無い。時間まで待てばいいと。それが彼らの狙いだった。
即座に取り囲んだ着ぐるみたちは警戒しているが所詮は着ぐるみである。
見せられた剣戟は素晴らしいと感じたが所詮は魅せる剣技、所詮は偽りの武器。
それに比べこちらの数は三倍。武器は本物。全身を覆うは黒塗りの簡易外骨格(プロテクター)
これで着ぐるみに負けるようではお笑い種だと彼らでさえ失笑しそうになる。

『女神への献上品は我ら“闇の狩人”がもらいうける!』

だからパレード全体に響く形で放たれた誰かの大仰なセリフに困惑した。
そのセリフが誰の立場で放たれたものなのか分からないわけではない。
しかしそれは自分達すらショーの一部にしようとしているということ。
なんだ、と誰かの当惑した声が漏れた時にはもうその罠は発動していた。
誰も自分達の存在を違法な武装集団だと思っていない。見れば自らの
簡易外骨格の上に何かしらの模様が浮かび上がって鈍く暗い光を放ち、
構えた武装も黒い光を纏った演出が重なってじつにそれっぽい姿を見せていた。
はめられたのだと理解するのはさして難しい話ではない。誘い出されたと、
自分達はもうこのショーの悪役でしかなくなったと愕然とする。

『貴様らもこれが目的か! 俺様のものは渡さにゃいぞ!!』

そう叫ぶ海賊猫だが彼をよく知る者ならその悪い笑顔が見えたことだろう。
彼らはそれを一生知ることはない。それが幸福か不幸かはかなり微妙だが。

『キミのじゃにゃいけど彼らの方がにゃんか悪い人そうだ。半分任せるよ』

『はっ、こんにゃ奴ら俺様ひとりで充分にゃ!!』

そしてそんな台本があるかのように演技しながら互いに地を蹴って飛び出す。

『ニャッ!』

振りかぶったレイピアを前に反応が遅れた影は手甲から伸びるフォトンの短剣で
受け止めようと構えた。無理して避けるより着ぐるみの剣などそれで充分という判断。
着ぐるみが持っているのは所詮武器に似せた柔らかい小道具。避けるまでもない。
だがこれが罠だと気付いた時点でその前までの判断は破棄すべきだった。

「ぎゃっ!?」

パキンという本物の音と共に短剣は叩き折られ、その一撃を彼は脳天に受けた。
鈍い音が響いて、影は痛みを感じるより前に意識を失ってぐらりと倒れこむ。

「ぐあっ!?」

同時に海賊猫に襲われた一人もまた小道具のサーベルを叩きつけられ倒れた。
バカなと驚愕した彼らだがそれだけならすぐに冷静になれたかもしれない。
だが次の瞬間伏した仲間たちから黒い煙が一気に噴き出してその姿を隠すと
何だと叫ぶ暇もなくそれが晴れた時には倒れた者達の姿は消えていた。
観客からは驚きと興奮の声が轟き、影たちは一気に動揺した。
結局はそれで冷静さを失った彼らはその時点で負けていた。


それらのタネは非常に簡単であったが彼らには知る由は無い。
アリステルは手足と胸部のみに展開させた外骨格のパワーアシストと
着ぐるみの剣の映像を被せた本物の武装(棍棒)による一撃を叩き付けただけ。
悪猫のサーベルは本当の小道具だが表面を硬質化させた魔力で覆って鈍器化。
片や本物に偽物の映像を被せた(鈍器)と片や偽物を本物以上にした(鈍器)
それは巧妙に彼らの侮りという慢心を突いて叩きのめしたのだ。

煙となって消えたのはスキルと魔法の合わせ技だ。但し少女はそれを知らない。
彼女が煙幕を張って彼らの姿を隠し厳重に捕縛した後で少年が転移魔法で飛ばす。
観客には倒された敵が煙となって消えた演出に。彼らには仲間がなぜか着ぐるみに
倒されて文字通り煙にように消されたと見えていた。その裏を見抜く術の無い
影たちは動揺を避けられず、それを見逃すふたりではない。

踏み込んでくる海賊猫に咄嗟に銃器を構えたが発射するより前に銃口を破壊され、
その勢いのまま叩きつけられたサーベルの衝撃に目の前で火花が散って思考が途切れる。
簡易程度では消しきれないダメージに体がふらついた所へ迫るは巨大な肉球。
ワルニャーの飛び蹴りが顔面に当たってもんどりうった彼は一人の仲間を
巻き込んで二度、三度大地に叩きつけられながら転がって煙の中に消えた。

その裏で果敢にも何とか戦いの思考が戻った二つの影がニャニニャーに飛び掛かる。
だが条件反射的にふたり程度でただ飛び掛かっても外見レイピア中身棍棒の前では
それは恰好の獲物。否、甘い球としかいいようがない速度と角度であった。
果たして中の人はその知識があったのか無かったのか定かではないが、
今だ、と(鈍器)をフルスイングして彼等を夜空へと一気にかっ飛ばした。
弧を描いて飛んでいく影はある程度まで飛ぶとキラリと光って星となる。
無論演出であり観客達から笑みがこぼれている裏で拘束・転移された彼らは
ある場所にまとめて閉じ込められていた。

『ふんっ、俺様に勝とうにゃんて100年早いにゃ!』

それぞれ半数を請け負うことで流れるように敵を圧倒した両者。
しかしニャハハハッ、と勝ち鬨をあげたのはワルニャー一匹(ひとり)
何せその後ろでは分かりやすく忍び足で近づいてくるニャニニャーがいた。
気付いた観客はにやにやとした顔で口を閉ざし、純粋な子供は「後ろ!」と
叫ぶがワルニャーは『にゃんだって?』と聞き返して気付かない──フリ。

『えいニャ!』

『うわっ、にゃにをする!』

『これは返してもらうよワルニャー』

騎士猫の手が海賊猫が抱えていた宝箱にかかる。
奪い取ろうとしていることに気付いた彼は瞬時に激怒した。

『はにゃせ! 人からモノを盗むなんていけにゃいんだぞ!』

『そ、それを君がいうのかい?』

ワルニャー、ニャニニャーお決まりのやり取りをして観客の笑いを取ると
宝箱を掴みあって引っ張り合いを始める。観客達は面白がって双方を応援しだす。
その中身を知ればそんな呑気で無責任な態度はとれないだろうが彼らは元より
知らせるつもりは毛頭なくそれに伴う混乱が真の首謀者の目的だと当りをつけていた。
ならば最後までこれをただのイベント、ショーにしてしまうのが最大の意趣返しだ。

だからいくらかのネコたちの攻防のあと。
着ぐるみの内部モニター越しに彼と彼女の視線が交差して小さく頷き合う。
いかにも互いの手が滑ったという演技で彼らの手元から宝箱が零れ落ちる。
それを悪猫が一目散に抱えあげると大きく飛び退いて距離を取った。

『しまったにゃ!』

『いただき! ニャハハッ、さてといったい何が入って……ニャ?』

戦利品の確認だとパカリと開けたその中を覗き込んで固まるワルニャー。

『ど、どういうことにゃ!?
 にゃんで宝箱に砲弾しか入ってにゃいにゃ!?』

慌てて叫んでそれを証明するかのように丸い砲弾が詰まった箱を掲げる。
正確にはそういう映像を被せた宝箱で実際には本当に爆弾がそこにある。
そんなものの存在を全く匂わせないためと残った犯人たちが自棄になるのを
防ぐ意味もあった。まだ自分達の武器は残っているのだと誤認させることで。

「……残念だったわね、ワルニャー!
 わたしが言った宝箱はこっちの方。あなたが持っていったのは違う物よ!」

海賊船型のフロート車の上で小道具の宝石類が入った宝箱を掲げる歌姫(モニカ)
その美貌にいたずらな笑みを浮かべて呆然とするワルニャーを見下ろしていた。

『ニャニーーッ!?!?』

いいアドリブだと歌姫に感謝しながらガガーンという効果音と共に崩れ落ちる悪猫。
彼女からするとそれが台本通りだとしても無遠慮にくすぐられた意趣返しに彼の
そんな姿を見たかっただけだが、そのいつものドジに観客達は笑みを湛えている。

『こんにゃものーーー!!』

騙された憤慨か間違えた情け無さか。そんな雰囲気を感じさせる演技と共に
抱えた宝箱を軽く浮かすように放り出すとそのまま全力で蹴り飛ばした。
先程の人間ホームランもかくやという速度で垂直に夜空に上がるそれ。
自然と客たちの視線がそれを追う中でシンイチは着ぐるみの
ボイスチェンジャーとマイクのスイッチを切ってひとり呟く。

「空を彩り、花と爆ぜよ、(リント)(ゴーガ)!」

二重属性同時詠唱。そんなあちらでなら目を瞠る高等技術をあっさりと
使って宝箱(爆弾)を魔法の制御下に置くとはるか上空まで蹴り飛ばしたそれを
本来の役目(・・・・・)通りにシンイチは爆散させた。

「おおっ!」

「わあぁ───────キレイ」

「え……いま、のは?」

夜空を飾る大輪の花として。
破壊活動のために用意された爆薬は色鮮やかな空の絵の具と変わる。
軽快な破裂音と共に広がるいくつもの光り輝く花が開いて人々を魅了した。
それはここまで見た現実(ホンモノ)に見える光の技術とは別の現実(ホンモノ)だからこそ出せる輝き。

「あら砲弾じゃなくて花火玉だったのね。ワルニャーもたまにはいいことするわ」

そんなモニカの楽しげな言葉が結果としてそのショーの最後の台詞となった。
光の花が人々の目と心を魅了しているのだからこれ以上は野暮でしかない。
歌手というエンターテイナーでもある彼女はそれが充分に分かっていた。
だから静かに自分のマイクのスイッチを切る。

「……でも、ちょっと悔しいわね。これじゃわたしの歌でも入る隙がないじゃない」

されどそれと歌手(プロ)としての矜持は別の問題である。
歌で人々を魅了する自分が歌うこともできずに舞台を下りるのだから。
覚えてなさい、と空を見る客達に悟られぬように去っていく悪猫の背中を
彼女は面白そうに眺めながら指鉄砲で狙い撃つのだった。

余談にゃが

ワルニャー、イメージCV:ジョージ
ニャニニャー、イメージCV:ナナさま

のつもり。
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