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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

波紋編 第一章「転入初日」

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03-06 トップ5<最下位

普通ならここでバトルフラグなんですが、


こいつ折りやがった。

「おい、お前さっきなんていった?」

苛立った声に反応する者はおらず、シンイチは
彼の登場に気付いていない様子で出入り口に向かっている。

「………………はっ!? おいこら待てそこの場違いの学生服!!」

「え、なに?」

確実に聞こえていただろう距離での無視に思わず呆けるが再度呼びかける。
すると今度はあっさりと振り返ったシンイチは無表情で感情の無い瞳を向けた。
それが彼のここの人たちと必要以上に接しないための普段顔(予定)である。
ちなみに振り返った先には先程戦っていた白いアーマーを着込んだ生徒がいた。
真実彼はその生徒が“自分に”声をかけたことには気づいていなかった。

「な、なにって……お前さっきオレに向かって幼稚とかなんとかいってたろ!?
 溜め息吐いて首振って、バカにするみたいな感じでよ!!」

地味に正確な指摘に内心あの距離で二階スタンドの声聞いてたのかと呆れる。
“無駄なことに技術使うぐらいならもっと鍛練しろ”という気分のシンイチだ。

「別にあんた“を”馬鹿にしてはいない」

ただ馬鹿にしたのはこの違いに学園に来るまで気付けなかった自分にである。
後はこの指摘を受けて慣れるために意図的に日本語を喋ってた自分に再度、だ。
だが抑揚もない淡々とした言葉とそのニュアンスは逆の誤解を受けた。

「じゃあ何が幼稚だってんだ!」

苛立ちのまま展開したブレードをシンイチに突きつける。
先程の大剣とは違う実体のある両刃の剣。分類としてはブロードソード。
彼は微動だにせず、それを反応もできなかったと白の生徒は嘲笑うが、
単に互いの距離と刃の長さから踏み込まない限り届かないのが解ってただけ。
そして鍛冶技術によって作られたものと違って刃の輝きも鋼の重さもない代物。
恐らく“切れる”のであろうが“斬る”には至らない武器は
TV画面の中の特撮ヒーローが使う武器のようであり脅威を感じない。
むしろスタンドにいた他の生徒たちのほうが武器展開に悲鳴をあげていた。

「…………何にしろお前のことじゃねえから安心しろ。
 第一今日会ったばかりの名前も知らない奴をバカにするほど俺は暇じゃない」

だというのに周囲のそれを無視する落ち着き払った言動は奇異だ。
武器を突きつけられた当人だけが落ち着いている状況のおかしさに
驚きあるいは怯えた生徒達も何か変だと困惑を表情に出してきた。
それらに自分で気付けない辺り彼の目立たない計画はもう破綻していた。

「……お前、オレのこと知らないってのか!?」

「悪いが今日転入したばかりだからな。お前が何年かも知らん」

彼がこの場で気にしていたのは“年上だったら敬語か、面倒くさい”程度。
目の前の生徒が有名人かどうかなどシンイチにとってはどうでもよかった。
一つの情報としては“手に入れてやってもいい”ぐらいは思っているが。

「いやいや嘘でしょ、オレ結構ニュースとかなってただろ?
 帰還者最高峰のステータスで大活躍したガレストの英雄と名高いこのオレの──!」

「知らん」

「っ!?」

思わず、言葉途中で両断してしまったシンイチだった。
本当に知らないのだがこの手の相手にはそう対する癖がついていた。
どうしてこういう手合いにバッカリからまれるのか、と内心溜め息。
そして思わずあちらでのやり方で応じてしまって後悔していた。
こう返された自意識過剰(めだちたがり)がどうなるかなど見るまでない。

「お前……このオレをっ、学園最強の男シングウジ・リョウさまを!
 そ──」
「──そこまでバカにしてただで済むと思うなよ、か……はぁ」
「なっ!?」

癖というのは抜けないものだと彼は溜息を吐く。
台詞を淡々とした態度で取ってしまったシンイチは困っていた。
コミュニケーション(物理)に頼らないで怒りに震える男をどう黙らすか。
頭上のキツネは面白そうにしているが少年は面倒臭いだけである。

「ねえなにお前、挑発してんの、煽ってんの?
 いいよ、オレも男だ。売られたケンカはいくらでも買うぜ?」

一方の彼の表情はなんとか平静を装っているが眉根は寄って視線は鋭い。

「…………ああ、その、なんだ……とりあえず落ち着けシングウジ。
 互いに感情の行き違いがあった気がする。こっちに悪意は無い」

「それなおさら悪いだろ!? さっきまでの悪態が自然体なわけおたく!?
 ってかどう見ても年下だろうが“さん”付けしろよ“さん”付け!!」

顔を歪めながらの指摘にもっともだと頷いて素直にシンイチは従った。

「ああ、そうか。お前“さん”の方が背高いもんな」

「そこじゃねえよ!! お前いまのはぜってぇっわざとだろ!?」

がなるがシンイチは背が高いから年上だという理屈に感心していた。
見た目と年齢が一致しない者が多かったファランディアでの生活が
見た目で歳を判断するという考え方を彼の中から消していただけに。
シンイチとリョウは身長に10センチほどの明らかな差がある。
またあの白い鎧を装着した状態なせいかそれ以上の差を錯覚させた。
それを認識した途端、彼の意識はそちらに向いてしまう。
遠くから見れば白一色にも見えたそれの細かな機構がよく見えた。

「へえ、なんか面白い感触」

すっと流れる歩みで突きつけられた刃の間合いに入り込むと、
彼の体を覆っている装甲をノックでもするかのように叩く。
金属特有の感触より前に結界にでも触ったようなそれを覚える。

「っ!? ってオレのアーマーに勝手に触るなよ!」

彼からすれば突然間合いの内に入り込まれた不快感もあったのだろう。
思わずシンイチを力任せに突き飛ばし、一瞬だけ表情を青くした。

「っと、すまん。もっと触っていいか?」

「っ、い、いいわけないだろ! なんなんだよお前は!?」

数歩よろけただけのシンイチは何事もなかったように願ったが、
我に返ったリョウはそれを誤魔化すかのように怒鳴り返す。

「静かになさい! なんの騒ぎですか!?」

それが呼び水となってしまったのか。
先程の模擬戦で敗北した二人を先頭にした集団を引き連れた女子生徒が現れた。
彼女の登場に本人達以外は緊張してた場が安堵したように柔らかくなった。

「ふっ、なんでもないさアリステル。生意気な後輩をちょっとしめてただけさ。
 それよりもどうだったい、君の腰巾着を見事同時に撃破したオレの大活躍は!」

ははっと取り繕うように軽快に笑ったリョウ。
見事な青一色の特徴的な髪型と金の瞳を持つ彼女に自慢げに語った。
それに青の少女の背後に立っていた男女が悔しげに唇を噛む。
負けたのは事実なので言い返すことすらできないのだろう。

「こしぎ……?
 いえ、ミスタ・シングウジ。わたくしはあなたの実力は認めています。
 ですがミスタ、あなたは敗者と後輩への礼儀がなっていない。
 そんなあなたをわたくしは認めないと何度……え?」

代わりとばかりに一番前にいた女子生徒は冷めた視線を向けていたが、
その視界が別の誰かを捕えると驚きに身を固めて、驚愕に眼を開いた。

「ん?」

その金色の視線にさらされたのは誰であろうシンイチ。
なんだろうかと段上にいる彼女の視線を受け止めて、彼も目を見開く。

「あ、いえっわたくしは!」

「縦ロールだ……」

「…………は?」

それに何を思ったか慌てた彼女に妙な独り言が返された。
彼女は青色の長く豊かな髪を縦ロールにして整え、大きく主張させていた。
だがそれは現実に女性がする一般的な髪形としての縦ロールではない。
まるで二次元から飛び出してきたお嬢様がするような過多で派手な縦ロール。
ドリル一歩手前。ロールの数も一つや二つではない華やかさと豪華さ。
これで金髪なら文句なしの高飛車お嬢様の完成なので、実に惜しい。
されどそれはファランディアでも見たことのない本物のお嬢様縦ロール。
妙に感心したシンイチは縦ロールだけを興味深げに見詰めている。
しかし。

「………武装とかアーマーとかに引っ掛かりそうな髪形だな。そのへん大丈夫?」

「あなたっ! わたくしをバカにしているのですか!?」

その程度のこともできないと思われたことか。髪の毛だけを見られたことか。
ともかく彼女はシンイチの発言を侮辱と受け取って詰め寄った。
段上から下りてほぼ同じ高さにある目線をぶつけ合うのだが、
彼女のそれに怒りがあってももう一方に感情は何も浮かんでいない。

「いや純粋な疑問と心配なのだが?」

「大きなお世話です! あなたの方こそその格好はなんですか!?
 特別科でもない生徒がそんな制服を着てよいと思ってるのですか!?」

だからこそあっさりと平然と返すのだが火に油である。
お返しとばかりに彼もまたその格好についてのおかしさを指摘される。
特権持ちの特別科といえども完全に違う形の制服を着てる者はおらず、
ましてや特別科最上級生である彼女が知らない特別科生徒はいないのだ。
普通科か技術科の生徒がそんな格好をすることは本来認められない。

「いや制服を新たに用意できないといわれたから仕方なくだ、許可はもらったぞ」

ただそうである事情は彼の責任ではないのでこれまたあっさり返答される。
特殊な学校であるせいかその証たる制服は生徒の分しか作られていない。
あったとしても各々の予備分のみであり今から新たに作るのには
別に申請して許可をとらなくてはならず手間がかかるのだ。
突然の転入になってしまったシンイチに用意されているわけがない。

「まあ、いくら最初大きめに作ったとはいえ、
 中学生時代のがぴったりとか…………ないわぁ……」

尤もタンスの奥にしまわれていたそれを引っ張り出して、
ものは試しで着用した時のことを思い出して遠くを眺めた。
過酷な2年の旅路の中、5センチ伸びたのはむしろ誇ることだが、
体格に変化が無さ過ぎたことが本人は少しショックだったようだ。
自身がまだ高校一年という年齢を考えればおかしくはないのだが、
体格に恵まれていない彼の中では少し物悲しい。

「え、あ、えっと…………申し訳ありません?」

どこか憂いを帯びた顔であらぬ方向を眺めて黄昏ている姿に
思わず疑問系ながらも謝罪してしまう特別科女子生徒Aである。

「パデュエールさま、謝らずともかまいません!」

「そうです! 制服が用意されなかったなど戯言です!
 我らに知らされない転入生などいるわけが!」

背後にいた集団のなかでは一番前にいたふたり。
先程敗北した彼と彼女はパデュエールと呼ばれた縦ロールの前に立つ。
髪色は違えど髪型と顔立ちが似ており血縁と見られる二人の眼光は鋭い。
“下賤な者が誰を見ているのだ、分を弁えろ”とでも言いたげである。

「…………また面倒そうなのが出てきた。あ」

「またって、それはオレのことか!?」

「それ、もしかしてわたくしも入ってますの!?」

つい素直に口走ってしまうシンイチ。
さすがにまずいと思って手で口を覆うが、あまりに遅すぎる。

「一度ならず二度もの我らへの侮辱。宣戦布告と受け取るぞ!」

「さぞ、さぞや立派なステータスなんでしょうね……『アナライズ』!」

縦ロールの前に出ていたふたりは感情を逆撫でられて怒る。
そして女生徒が単語を叫びながら指先で眼前の空間をなぞる。
途端、空間に浮く形でゴーグルのような物体が現れ両目を覆う。
それをモニターにしていくつかの文字や数字が表示されていく。

「こらリゼット! 本人の許可なくアナライズなど!」

「ぷ、ふふふ、すいませんパデュエールさま。
 しかしなんともこれは………見てくださいよ、これ」

彼女がゴーグルに触れると目の前の空間に彼のステータスが投映された。
当然ながらそこに映し出されているのはオールDとそれが限界という証明。
周囲からは彼らを含めて、嘲笑の声がもれだしてきていた。

「おいおい、こんなゴミみたいなステータスでオレに突っかかってきたわけ?」

「ここにおられるパデュエールさまはガレスト貴族に名を連ね、
 尚且つ高いステータスを誇る高貴なお方です。
 お前のような虫けらが見る事も出来ぬ天上の人ぞ。
 分をわきまえて即刻謝罪するがいい!」

「カンルー甘いぞ。この程度の者が生徒になれるはずがない。
 どうやって忍び込んだか知らぬがすぐに追い出して……パデュエールさま?」

「…………そんな、うそ……」

ただひとり縦ロールだけがその表示にありえないと呟いていた。
その“ありえない”に彼を嘲笑う意味はなくただ想定と違うという驚きだけ。
困惑している彼女に訝しむ視線が集まる中、ひとり空気を“読まない”男が。

「ねえねえ、これなに? 今ので相手のステータス見れるんだ。どう使うの?」

何時の間に接近したのか。
紺色の髪の女子生徒のゴーグルに触れるシンイチ。
エネルギーを実体化させているのか感触はあるが見た目には光の膜。
それが面白いのかペタペタと無防備なゴーグルを勝手に触っていた。

「なっ、無礼だぞお前!」

突然の距離の変動と視界を覆う指に驚いて飛び退く女子生徒。

「人の話を聞いてないのか出来損ない(オールD)
 ここにいる全員お前より高いステータスを持つのだぞ!
 そんなこともわからんのか、さっさと──」

「ところでお前ら、俺になんか用なわけ?
 そろそろ次の授業だからどいてほしいんだけど」

傍若無人。傲慢無礼。傲岸無知。天上天下唯我独尊。
そんな言葉の体現者は堂々と、そして淡々と彼らにケンカを売る。
残念ながら本人にその気がまったくない辺りじつに残念である。
彼は知らないことではあるがパデュエール、シングウジ、ハウゼン、カンルー。
学園のヒエラルキーにおいてトップ5に入る特別科においても最優秀な生徒達。
そのうち4人に囲まれ、平然と我を通す様子は異常としかいえない光景。
周囲の生徒の方が“何やってるのあいつ!?”と怯えてしまっている。

「……ふふっ、イッチーったらちょっと目を離したら大人気だね!」

そしてそれを待っていたかのように、最後のひとりがここに入る。
狐耳と尻尾を揺らした桜色の少女はいつのまにかシンイチの背後から現れる。

「げっ、ルオーナ!?」
「え、ルオーナさんいったいいつから!?」
「ミューヒ・ルオーナ、なにをしに!?」
「お前どこから出てきた!?」

あまり歓迎されているように見えないのはシンイチの気のせいだろうか。
ちなみに彼女がフィールド側から昇ってきていた事は早期に気付いていた。

「みんなひどいよぉ?
 ボクはただお世話係としてイッチー探してただけ。
 この子はホントに転入生で、ボクがお世話するんだから! ね?」

にっこりと微笑みながら全員の顔を流れるように一瞥していく。
口調は見た目以上に幼いそれだが目がまったく笑っていない。
それだけで全員が少し戸惑うような怯えるような顔で一歩退く。
その顔が引っ張られるように急激に位置を動かした。

「おい、いつのまに案内役から世話係にジョブチェンジしやがった」
「うにゃあぁっ!?」
「──────ッッ!?」

シンイチが首根っこ掴む形で彼女を持ち上げたのである。
本人が可愛らしい悲鳴をあげるなか、誰もが声にならない悲鳴をあげた。

「あはは、説明不足だったね。ボクは案内役でもあって世話係でもあるんだよ!
 イッチーも必要でしょ、今日転入したばっかりで“何も知らないんだから”さ!」

「…………なるほど、助かったよヒナ」

「どういたしまして!」

持ち上げられ同じ高さとなって向かい合った笑顔にやましさはない。
どうやら互いに(・・・)相手の行動の行き過ぎた所を止めただけのようだ。
彼女の説明的な発言のおかげでシンイチに対する様々な視線は弱まった。
“初日ならまだ解らないか”“知らなかったのならしょうがない”
そしてそれが彼自身にも知らないがゆえの言動が人を集めたと理解させた。
原因を正確に理解できていないので“どちらも”ただの問題の先送りだが。

「……でもな」

代わって彼がにっこりとした笑みを浮かべる。
これっぽちも暖かさの感じない冷たい笑みに背筋が一瞬で凍るミューヒ。

「そうならもっと早くこいっ!! お前が隠れてたのは知ってんだよ!!」

「ふへ? え、えええええええええぇぇっ!!??」

掴んだまま彼女を背後のフィールドの内へと放り投げる。
伸びていく悲鳴の中、狐耳の少女は下に落ちて、見えなくなった。

「ったく、おかげで無駄に時間くっちまった。
 急いで着替えないと次の体育遅刻じゃねえか」

彼は自らがした暴挙を最後まで見ることもなく慌てたように駆けていく。
それを見送ることさえできずに縦ロールを含めた面々は口を開いて固まる。
誰も投げ捨てられた彼女の心配はこれといってしていない。
特別科の生徒なら誰でも素でこの高さの昇り下りは簡単だ。
そうだと解っているからこそ彼も投げたはずである。

「…………ねえ、何なのあいつ?」

だから皆が驚いたのはその神経。
学園トップの5人の中で一番の曲者として敬遠されがちな彼女を、
知らないとはいえ、いとも簡単に放り投げたその神経が理解できず、
またしたくないと誰もかれもが自然と顔を青ざめた。


「…………ナカムラ、シンイチ………さん……」


ただひとりお嬢様(縦ロール)を除いて。
何かを噛み締めるように走り去る背を目で追いながら名を呟いた。

本人は、無茶苦茶なことしてる自覚はありません!
+注意+
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