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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-53 いつもこんなことやってました2

1はだいぶ昔にありますし繋がってるわけではないのであしからず。



彼も最初はまたかと思った。視界の隅で急ぎ足で進む青年を見咎める。
青年が抱えるのは彼の不良系ファッションと合わないファンシーなバッグ。
こういう場なら珍しくもなく、どんな外見だろうとそういった物を好む者は
いるためそこまでおかしいとはいえないかもしれないが周囲を、特に後方を執拗に
気にしながら焦った様子で先へ先へと急ぐ姿はじつに“らしい”。
窃盗あるいは置き引き。そう結論付けるのは決して難しいことではなく、
確認だと周辺カメラをチェックすれば彼がそれを拝借した様子が映っていた。

「アウト」

本来ならこの手の犯罪者をいちいち相手にするのは彼の流儀ではない。
だが皆が楽しんでいる場所でそれを阻害する行為はどうにも我慢ならない。
だから台無しにしてやろうとするのは彼の中では当然の帰結である。だが、
罪を犯した人間の「ああ、もう終わりだ」という顔が見たいと考えている辺り
どちらが悪人なのかという点で甚だ疑問が生じるが彼はその点は棚上げしている。
否、棚上げするまでもなく自分の方が悪党だという結論が出ているというべきか。

ともかく派手に音でも立てて転ばせば周囲や持ち主も気付くだろうと動きかけ、
妙な違和感にその挙動を止めた。なぜか置き引き犯を尾行する集団がいる。
カメラ映像の記録を信じるならそれはバッグの持ち主たちであろう。
しかし良く見れば男だけの集団で誰が持っても結局そのバッグの
持ち主としては何かおかしい。また追いかけてはいても泥棒だと
叫ぶこともなく必死で追いかけているわけでもない様子にこれはと
ピンと来たシンイチはだからこそ深い溜息を吐いた。

「夢はそういうことか?
 いつも通りだと思って油断するな、とか………なんか違う。
 だってどっちかというとこのパターンもいつものことだしな」

「キュイ?」

とにもかくにもどうやら青年は手を出すとまずい物に手を出したようだ。
そしてそれを放っておくコトの方が面倒な事態になると直感的に理解する。
伊達に三千年に及ぶ知識や経験があるわけではない。それはそれだけ
ヒトの手による悪行も知っているということでもあるのだから。
詳細を知らないのに状況だけでかなり正確に事態が読めてしまう。

「あれかね、別の犯罪の証拠を盗まれたとかいうオチ?
 ああ、この感じはなんとなくここで何かする気だったな。
 ははっ、だったらしっかりと潰さないと」

そうだろう、と口許だけを歪めた三日月を浮かべて同意を求める主人。
従者たる彼女は半分以上呆れながらも御心に従うと鳴き声で答える。

「キュイ」

その瞬間男達は不幸にも世界最悪の戦力に目をつけられる。
魔法と警備システムを操って巧妙に置き引き犯を袋小路に誘導しながら
誰にも気付かれぬように置き引き犯を追うその集団を尾行し始めた。
もうその時点で彼らの命運はとっくに尽きているのであった。




「───────ひっ、ば、爆弾!?」

腰が抜けたまま悲鳴をあげて這うように後ずさる青年。
少年が集団を締め上げた結果出てきた情報にまず最初に怯えたのは彼だった。
確認だとヨーコが器用にも前足を使ってバッグを開ければいかにもな爆発物。
まさか自分が盗んだ物にそんな物があるとは彼は夢にも思っていなかった。

「またか、バリエーションがない……あっても面倒なだけだが」

一方で種類は違うとはいえ今朝見たばかりだと呆れる呟きは誰にも届いていない。
なにせそれ以上の“音”がそこにあるのだから本人以外に聞こえるわけがない。

「あ、がっ……あぎゃあぁぁっっ!?!?」

その自白をもってしても彼はその無情な暴力を止める気がないのだから。
片腕で掴み上げていた大男を壁に投げつけ、その腕を刃で縫い付けていた。

「や、やめっ、やめてくれっ、ちゃんと話したじゃないか!」

話が違うと会話できる程度に回復“させられた”誰かが叫ぶが返ったのは平坦な声。

「それだけか?」

「え?」

「園内のあちこちに爆弾仕掛けただけか?
 他にやったことは? 狙いはなんだ? このあとの計画は?」

「あがっ、ひぎぃぃやぁぁっっ!!!」

ぐいっ、と刺さったままのブレードを捻る。
貫いた腕の肉を抉って大男にゆっくりと激痛を与える。
聞くに堪えない絶叫があがるがやはり誰もそれに気付いた様子はない。
この一帯はいまヨーコが張っている結界により人が入ってこれず、また内部で
起こった事が外部に一切もれないという陸の孤島じみた状態になっていた。

「なあ、本当にそれだけなのか?」

尤も少年の異常さと凶悪さに怯えきった彼らにはそれを考える余裕などない。

「あぎゃぁっ!?!?
 そっそれだけだ! それだけですからやめっ、ごほっ!!!」

喚きながらもう無いと言い募る大男の腹を蹴って黙らすとその顔を仲間に向ける。

「嘘だったら後でこれ以上のことを全員にしにくるけど……ねえ本当?」

倒れ伏した彼らの顔はもうとっくに青や白を通り越して色を失っている。
だってそれだけのことをした少年の顔にも声にも何の感情も感じられない。
最初こそ凶悪な笑みを浮かべていたが痛めつけていく内に次第に消えた。
笑う狂気も無く燃える義憤も無い。見下す嘲笑や暴力への悦も無い。
かといって圧倒的弱者を嬲ることへのつまらなさで興味の薄さもまた無い。
ただこうするのが一番手っ取り早いといいたげな合理性だけがそこにあった。
人が人に暴力を振るう時の顔ではない。同じ作業を繰り返す機械を幻視する。
目的の答えを正直に口にしなければこれは終わらないのだと。
いま拷問じみた暴力を受けているのは未来の自分達だと。
彼らは本能的に理解し、即座に屈した。

「ほ、本当です! これしか考えてません! ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

「他にはありません! 派手なことを起こしたかっただけです!
 ちゃんと捕まります! 罪償いますからもうやめてくださいっ……」

「ちょ、調子に乗ってました!
 なんかそれっぽいこと言って騒ぎを起こしたかっただけなんです!
 すいませんっごめんなさい! もう二度としません、思いません!」

全てを正直に告白しなければ死よりも恐ろしい目が待っている。
ガタガタと体を震わせ、恐怖から涙と鼻水をこぼしながら平身低頭に訴える。

「爆弾の数と位置は?」

「こ、これ。おれ、おお俺達の端末に全部入ってます!
 でも他にも、な、な、仲間がいて、そいつらがどうするかはわからなくて」

「そいつらの数と、ここに来た以外の仲間は?」

「いっ、いま園内にいるだけで全部でっ、全員端末に連絡先が入ってます!
 このために用意した奴だから仲間以外のは入ってません。呼び出しますか?
 なんでも協力しますよ!」

だから殺さないでと頼みもしないのに仲間を売る態度に眉を顰める。
追い込んだ張本人ではあるがそれはそれであり、どの道これでは信用できない。
立派な思想があれば許したということもないが動機が下らなければ下らない程に
余計に腹が立ってしまう。全員の手足を切り落としたくなる衝動にかられる。

「いい、眠れ」

だがそんな感情の発散や自己満足の私刑など時間と労力の無駄だ。
ぱちんと指を鳴らせばそれが合図だったかのように彼等は意識を失った。
無詠唱による魔法行使は起こす現象の内容や範囲にもよるのだが可能である。
それが抵抗力の無い数名の意識を刈り取る程度なら呼吸同然の行為だ。
これまたあくまで、彼ならば、という注釈が必要だが。

「ヨーコ、傷跡が残る程度には治療しておけ。夢だと思わないようにな」

「はい、ついでに汚れも消しておきましょう。
 こんな場所に血痕など不釣り合いにもほどがありますからね」

「頼む」

指示を出しながら差し出された端末とそれ以外に何かめぼしい物が無いか
男らの持ち物を調べて押収した彼は最後に置き引き犯の前に脚を進めた。

「ひぃっ!」

腰が抜けて地面に座り込んでいるその顔を覗きこむように腰を下ろす。
犯罪者とはいえ日本でただ暮らす者の一人でもある彼にとって目の前で
行われた拷問とそれを平然とやった少年の存在は日常・非日常など
という枠組みでは測ることのできない『異常』そのものであった。
それを考えれば爆弾という物体はまだ彼の常識の範囲内だったともいえた。
だからそれを超える存在が目の前に迫り、青年は情けない悲鳴をあげたのだ。
周囲の惨状と彼の心情を思えば気絶しなかっただけ根性があるともいえた。
気を失った方が彼にとっては幸いだっただろうが。

「こういうことがあるから悪いことってしちゃいけないよねぇ?」

「え、え、は、ははっ、はいぃっ!」

上ずった声ながらほぼほぼ反射的に肯定の返事をかえす青年。
見るからに強面で一昔前の不良のようですらあったが怯えきって涙と鼻水で
ぐちゃぐちゃな顔に迫力は皆無でシンイチにはもうただの小僧にしか見えない。
元より、そうとしかシンイチは見ていなかったが。

「怖がるなよ、悪いことしないで真っ当に生きてれば俺と会うことはないぜ。
 それはそれで大変だが、なに。もし俺に見つかるかもと怯えて暮らすより楽だろう?
 世間のどんな目も、どんな仕打ちも、どんな煩わしい事も、それに比べればさ。
 それともああいう風になりたいのかな?」

そういって治療がまだなされてない大男を指差しながら
にっこりと口許だけを歪めて笑えば青年はただただ首を横に振った。
それこそその勢いだけで彼の頭が飛んでいってしまいそうなほどだ。
シンイチとしてはこれで彼が足を洗おうが洗えなかろうが知った事ではない。
だが少なくともしばらくはこの恐怖で犯罪に手を染めることはないだろう。
そのしばらくだけでも意味があると彼は思っているに過ぎない。
少なくともその間この青年の手による被害者は出ないのだから。

「じゃ、お休み」

それだけでいいと再度彼の目の前で指を鳴らして彼の意識を刈り取る。

「終わりましたか? こちらも片づけました」

「ああ、ありがとう。
 しかし地球の人間は恐ろしいぐらい簡単に睡眠誘導にかかるな」

「こっちに無いモノですからね」

これならばファランディアの赤子相手の方がかけるのが難しいと嘆く。
抵抗力の無い地球人に、ではなくそれをいいことにより好き勝手やってる己に、だ。
必要があると見るべきか歯止めがなくて軽く暴走していると見るべきか。
民衆の英雄であるマスカレイドにはあちらでは彼らの目による歯止めがかかる。
それを全く気にもしない者はそもそも仮面の継承者として選ばれはしない。
だがその目が無いここで自分はどこまで行き過ぎないことができるのか。

「……それがあっても反逆という暴走をしたあの老人は何を考えているのやら」

そんなことをふと考えてしまったせいかガレストの英雄が頭をよぎる。
軍部と民衆どころか政治家からも支持や尊敬を集めていたという男は
何を思ってミューヒ達と共に政府に反旗を翻したのか。彼女の話だけでは
どうにも腑に落ちない。他の者ならともかく彼にその決起は必要があったのか(・・・・・・・・)

「しかし、よろしいので?」

「……なにがだ?」

現状では余分な思考に意識が行こうとしたのを彼女の声が止める。
意図してか偶然か。シンイチは前者だと思いながらも普通に話を合わせた。

「このままだとこれをやったのが主様だと警察などにバレてしまうのでは?」

「大丈夫だよ。
 こんな体験しては俺の顔なんてまともに覚えられやしない。
 恐怖で勝手にコラージュしてくれるから似顔絵は自動的に似ない。
 記録媒体は証拠品だからいくつか残すけど、全部中身チェック済みだ」

元々平凡過ぎて覚えにくい顔だからなと笑って問題無しとする。何しろ
仮に正確に思い出せたとしても特徴がないので言葉で説明できないのだ。

「それより、結界を維持したまま次に行くぞ。
 どうやら思ったより面倒くさいことになってるからな」

差し出された(奪った)携帯端末の画面を覗きながら苛立たしげに舌打ちをする。
園内を簡略化した地図に浮かぶ赤い光点の位置と数に不快だとその顔は語る。

「ひとつずつ解除していくしかないか……っ、まずい!
 一つに気付いたスタッフが襲われてる、急ぐぞ!」

とっくに警備システムの目と耳を共有していた彼は飛び出す。
だが彼の悪癖というべきか性質というべきか。他者の身を案じたその瞬間は
少しばかり隙が生まれる。だから、結界を出た途端に見知った少女と激突するなど
というヘマをやらかした。

「きゃっ!?」
「うおっ!?」

正面衝突に等しい出会い頭のそれに弾き飛ばされかけたのは少女。
慌ててその肩を抱くように支えたシンイチはそこで漸く彼女だと気付いた。

「悪い! ってアリス?」

「ふえ!? あ、シ、シンイチさん!?」

大きなレンズ越しにこちらを見た彼女もまたそこで彼と認識して頬を染めた。
殆ど咄嗟のことだったゆえ彼女を抱きかかえるような状態になっているが、
アリステルは嫌がらない。果たしてそれはそのままでという意思表示か。
あるいはそこまでまだ考えが及んでいないのか。

「うむ、こんな状況でなければからかいまくりたいものだ」

腕の中のある彼女の凹凸のはっきりとした柔らかな感触を堪能して、
その点でいじくって遊んでしまいたくなる欲求を断腸の想いで切り捨てる。
幸か不幸かそこに周囲の目線があったことが抑止力となっていた。

「す、すいません! 前をよく見て、え……血の、匂い?」

しかしそこで彼女はその残り香に気付いてしまう。
見るからに貴族のお嬢様なアリステルなれどガレスト貴族は戦場に立つ者。
ましてや過去の悲劇を間近で体験した彼女はその存在に敏感だった。
彼は役得などと考えていたが反射的に抱きかかえたのは失策である。

「ちっ、悪いアリス。あとで俺の時間やるからお前のこれからの時間はもらう」

これは誤魔化すより巻き込んでしまった方が手っ取り早いと瞬時に判断する。
スタッフの事を考えれば説明の時間も彼女と追い駆けっこするのも余計だ。

「へ、え、わ! シンイチさんなにを!?」

「移動しながら説明する。黙ってないと舌噛むぞ!」

くるりと器用に─慣れた動きで─彼女を問答無用で脇に抱えて走り出す。
周囲のなんだという奇異な視線とは裏腹に少女は言われた通りに
沈黙を守りながらも彼が語る話に表情を強張らせていった。




─────────────────────





「ねえっ、今の時間は安全なんじゃないの!?」

「うるせえっ知るかよ。来ちまったもんはしょうがねえだろ!」

そこはランド内にある店舗のバックヤードだった。園内では一際人通りの
多い場所という言葉が頭につくため彼らがそこを狙った理由は語るまでもない。
事前調査で人が来るはずのない時間帯を選んで忍び込んだ犯人らだったが、
いくつかの商品の売れ行きが予想外に良く、補充にやってきたスタッフと遭遇。
二対一なうえ最初から荒事を想定していた彼らとでは勝負にはならなかった。

「う、ぐ……お前らなんだ、泥棒か?」

殴られたのか顔に痣のある男性スタッフは床に横たわりながらその男女を見上げた。
一般客を装った格好ではあったがその表情にあるのは人を小馬鹿にしたような笑み。

「ふん、コソ泥なんかと一緒にすんなよ、おいっ!」

「ぐっ!」

横たわるスタッフの腹を男が蹴る。それを女は笑って見下ろしている。

「ふふっ、私たちは革命の徒よ。
 今日ここで異世界の脅威を呑気に受け入れた愚民の目を覚まさせてあげる」

感謝しろとでもいいたげな声にスタッフは「こいつら頭大丈夫か」と本気で
口にしかけたのを止める。それが相手を挑発する言葉で自分の命を危険にさらす
行為であると理解していたので彼はただ黙り込んだ。

「ご覧なさい。これでみーんな吹き飛ばしてあげる」

それを恐れおののいたと勘違いした彼らは自慢げにバッグからソレを取り出す。
スタッフはそこまでその分野に詳しいわけではなかった。だがその物体の外観は
いかにもという姿をしておりその正体を隠す意図がまるで感じられない。

「お、おい、まさかそれ……爆、弾?」

リレーバトンのような幾本もの円柱とそれを束ねるタイマー付きの帯。
それらを数十本もの色つきコードが繋いで一つにしている物体。何の冗談か。
あるいは玩具にさえ見えるバレバレな姿だが犯人らの顔にあるのは確信。

「ちゃちな威力じゃねえぞ。こんな店舗ぐらい簡単に吹き飛ぶ。
 まあ心配するな。この距離ならお前さん即死だよ、痛がる時間もない」

「尊い犠牲にしてあげるわ、うふふ……」

「てめっ、うぐっ!?」

そんなことを聞かされて黙ってはいられない。
だが起き上がろうとした体を踏みつけるように押さえられる。
それなりに体力は自信があった彼だが暴力沙汰とは縁遠い人生だった。
対応方法が解らず、助けを求めたいが奥まった位置なため叫んでも届かない。
頼みがあるとすれば、と思わずバックヤードを監視しているカメラを見る。
だが。

「残念、いま警備室に詰めてるのは私たちの仲間よ。助けはこない」

勝ち誇った笑みを浮かべて女は悔しがるスタッフを見下ろす。
その顔には悦が宿り、呻く彼の様子にどこか興奮しているようですらあった。
しかしそれは次の瞬間には驚きに彩られることになる。

「──────残念ですがその警備室はもうこちらがおさえました」

突如凛とした少女の声が響く。薄暗いバックヤードだが声の方向は間違えない。
咄嗟に三者三様にそこへと顔を向ければ場違いともいえる雰囲気を持つ少女がいた。
青い豪奢な縦ロールが似合ってしまう美貌と佇まいを持つガレスト人。どう考えても
彼女がやってきたのに周囲の物置然とした空間が間違っていると感じさせる。
そんな空気を纏う本物の高貴なる者がそこにいた。

「ア、アリステル・F・パデュエール!?」

日本でまともに何らかのメディアに触れているなら知らぬ者はいない少女。
その登場に驚愕した犯人らは持っていた優位性を奪われている事にも気付かない。

「はっ、ははっ、とんだ大物じゃないか! ここでてめえをやれば箔をつけられる!」

「おとなしくしなさいよ! こっちには人質と爆弾が………あれ?」

女が手にしていたはずの爆弾。男が踏みつけていたはずのスタッフ。
その姿はどこにもなく代わりに彼らから離れた位置で両方を抱えた少年が一人。
何が起こったのか理解できずにただただ困惑した表情を浮かべてしまう。

「ぷっ、なにその間抜け面」

そこへ人の神経を逆撫でするような声と表情で少年はそう短く言い捨てた。
一気に血の気が上がった両者は取られたモノを奪え返そうとする。が。

「わたくしを忘れるとは度胸がありますこと」

ともすれば同性すら虜にしそうな艶のある声が女の背後で紡がれる。
それもひどく近い距離で囁かれ、振り返りざまに裏拳を振るうが読まれていた。
軽く屈んだ彼女に簡単に回避されてそれを認識した瞬間には女の意識は飛んだ。
起き上がる勢いを利用したアッパーカットが見事に女の顎を捉えたのだ。
殴り飛ばされ宙に浮いた体は男へ向かっていき巻き込むように共に倒れた。

「なっ、がっ、てめえこらどけっ、ひっぎゃっ!?!?」

男は何が起こったのか把握できないまま女をどかそうとするがそれよりも先に
眼前にアリステルの靴底が迫ってそのまま顔面を踏みつけられて意識を失った。
彼女はそれに何の感慨も見せずにスキルのロープで彼らを即座に縛り上げる。
これらすべてがほぼほぼ一息の出来事である。

「お嬢様による踏みつけと縄縛り………さる業界ではご褒美かもしれんな」

「ああっ、なるほ……って、いやなにいってんの君!?」

訳も分からぬまま助け出されたスタッフは恩人たる少年の呟きに突っ込む。
相手はガレストで文字通り十指に入る貴族のお姫様である。無礼は許されない。
自分が呟きの意味に納得しかけたことは彼なりに全力でスルーである。
だが少年はそれにくすくすと笑うだけだ。スタッフへの治療と爆弾の解析を
並行させながらというかなり器用なことをしていたが。

「あ、どうでしたかシンイチさん。わたくし、うまくやれたでしょうか?」

そこへ犯人らに向けていた厳しい顔から一転して花が咲いたような笑みと共に
異世界のお姫様は少年へと駆け寄る。そこには初対面の彼にも分かるほど
僅かばかりの不安とは裏腹にうまくやれた自信を覗かせる表情があった。
そして同時に溢れんばかりの少年への好意も。

「ああ、充分だ。陽動も鎮圧も文句なしだ……あれから鍛えたのか?」

「はい! 今度は素手でも怯まぬよう徹底的にやりましたとも!」

認められて心底から嬉しそうに微笑む姿は見てるだけの(スタッフ)も見惚れる代物。
だからそんな短いやり取りでも親しい間柄というのは感じ取れた。
しかしどこか少年の方が上に感じる関係性にスタッフはただ首を捻る。
どう見てもどこにでもいそうな日本人の一般人とガレストの姫君なのに。
ただただ彼の頭上でクエスチョンマークが飛び交う中、されど
彼が明確にわかったこともあった。


───お姫様ぞっこんじゃん、なんて羨ましい!


逆玉かよ、と若干の嫉妬を覚える余裕がある辺り彼は大物といえた。





「さすがはガレスト学園の生徒ですね、助かりました。ありがとうございます」

さして説明するまでもなくアリステルの存在から察したスタッフの感謝に
彼女は少し照れ臭そうにしたがシンイチは我関さずと爆弾の構造を調べていた。

「ふんっ! 俺達を捕まえたところで無駄だぞ!」

そこへ響く自信ありげな叫びに少年を除いたふたりは意識を向けた。
別々の柱に後ろ手で括りつけるように縛り直された犯人たちは地べたに
座らされていたがそれでも態度は尊大であり、不敵であった。
あくまで、その瞬間までは、という意味で。

「警備室には俺達の仲間がいる、すぐに気付いて他のみんなに!」

その言葉に答えることもなく爆弾を見るシンイチは黙ってフォスタに触れた。
軽くタッチした動作だけで意図を理解したかのようにモニターを投映する。
映し出されたのは複数の空間モニターが浮かびあがっている件の警備室。
そこには警備員の制服を着込んだ男達が───全員床に倒れていた。

「へ?」

「よくやった」

『キュイッキュイッ!』

彼らの上で勝ち誇るように鳴き声をあげた三尾の生物に犯人らは頬が引きつった。
ここに駆けつける途中警備室の目と繋がっていたシンイチはこの事態に
警備員が動かないことを疑問視して彼女を送り込んでいたのである。

「「アマリリスッ!?!?」」

地球では一般知名度はまだまだ低いが裏側ではそれなりに知れた存在。
何をしていてもこちらから干渉してはいけないとされる法的に認められた最強の生物。
それに襲われては人間の中での屈強さなどまるで意味がないという生ける伝説。

「最初にこちらで制圧したといったではありませんか。
 だからわたくしたちもここで好きに行動できたのです」

聞いていなかったのですかと蔑むような鋭い視線がその男女を貫く。
歳が一回りは下の少女の威圧に気圧され、だがそれに屈辱を覚えて男は吠えた。

「だ、黙れ! 
 爆弾はそれ一つじゃないし無理に解体しようとすれば爆発──」

「よし、分解終了」

「──するっ、え?」

スキルで生み出されたエネルギー状の工具を片手に彼はいつのまにか。
調べていた爆弾をバラバラに分解して無力な欠片(パーツ)にしてしまっていた。
もはやガラクタとしかいえない存在に成り果てたそれに開いた口が塞がらない犯人達。

「本当に学園のフォスタって無駄に高性能だよな。
 内部をスキャンして解体方法を分かりやすく提示してくれるんだから」

フォトンを用いない地球式の爆弾だったが、おかげで楽だったとはシンイチ。
自ら構造を調べていたのはそれで本当に正しいのか自分の目で確認していたのだ。

「はい、学園は生徒全員が一定以上使えるのが前提の授業体制ですからね。
 能力や知識があってもそういった機器が不得意な方や慣れてない方のために
 ある程度の臨機応変さを可能とする補助(サポート)システムが搭載されてるんです」

「へえ、それは知らなかった」

どこか嬉々としてそんな知識を披露するアリステルに感心したように彼は頷く。
少年の役に立てたと少女はそれだけのことで蕩けるような微笑みを見せた。

「……まじでぞっこんじゃん」

スタッフが思わず素でもらした言葉は苦笑する少年にしか聞こえなかったようだが。

「ふ、ふざけやがって! それが解体できても爆弾は他にもある!
 それに俺達を捕まえても他に十人近くも仲間がいるんだぞ!」

「そうよ! 私たちから連絡が途絶えればすぐに気付くわ。
 ああ、そういえばそろそろ定期連絡の時間だったかしら?」

「出ないとあれば何かあったと考える。そうなりゃ
 時間がくるのを待つまでもない。遠隔操作で全部ドカンさ!」

「まあ人混みが最高潮に達するパレードのラストを彩れないのは残念だけどね」

どうだといわんばかりに得意げにまくしたてる男女。
スタッフがひとり動揺を顔に出して慌てるが少年少女はそれでも平静だ。

「……よく喋る……というか馬鹿なのか?」

「なにか、つい深読みしそうになります」

正確には「こいつら本気(マジ)か?」と呆れているのだが。
それに彼らが気付く前に取り上げた携帯端末から見計らったかのように着信音。
ほら、とでもいいたげに勝ち誇った笑みを浮かべる犯人達だが少年の顔は静か。

「アリス、そいつらになんでもいいから猿轡」

「はい、『バインド』!」

「「ふぐぅっ!?!?」」

拘束用スキルを再度使ってフォトンのロープがそれぞれの口を塞ぐ。
先程リゼット達に使った発言禁止のそれは対象者があらかじめそういった
言動の制限がかかるようなスキルの使用を認めている完全な上下関係か。
保護者と被保護者の関係でもなければ使えないため物理的な手段を選んだ。
いきなり言葉を封じられてくぐもった喚きを無視してシンイチは端末を持った。
彼は少し自らの喉に触れ、調子を確かめるとごく自然に通話アイコンを押す。

「え、ちょっと君!?」

「ん、んっ……もしもし、ああ、マキタだ。定時連絡お疲れ」

「んぐっ!?」

それにまず女が驚愕に目を見開いて、信じられないといいたげな声をもらす。
少年の口から出たのは間違いなく自分と行動を共にしている男のそれだった。

「おう、こっちは問題ねえ。計画通りに仕掛けた。
 時間がくれば無邪気なアホどもがバラバラに吹っ飛ぶ。今から楽しみだよ」

男がそれに気付いたのは女の反応と何の問題もなく会話を続けている様子から。
自分で聞いている自分の声というのは身体の中で響いた声と混ざった音なのである。
他者に聞こえているのはそれを引いた声であるため彼は『自分の声』を知らなかった。
まさかそんな雑学をこんな場で実感するとは思わなかったろうが。

「え、ああ、ほれ。お前にも代われとよ。疑り深いねぇ」

完全に同じだと、よくわからないが同じらしい、と愕然としていた二人だが、
片方だけとはいえその会話内容の意味を理解してその表情に喜色を満たす。
さすがに女の声や口調を真似ることなどできないだろうと甘い希望を抱いて。

「はーい、私よゴンドウさん。
 ねえねえ、もう時間まで待てないわ、早いとここを火の海にしちゃいましょうよ」

「んんっ!?」

「なんかヘラヘラ笑ってる馬鹿ども見てるとイライラするのよ、いいでしょう?」

男のバカなとくぐもったままの喚きを横目に少年は声だけで見事にそれを演じた。
女は男の反応にこれも疑いようのない声と口調なのだと理解して青ざめる。

「もうっ、わかってるわよ。我慢する。
 でも先に帰らせてもらうからね、ばいばい!」

一通り会話を終えて通信を切ったシンイチは唖然としている男女に視線を戻す。
明らかに、そして露骨なまでに小馬鹿にした表情を浮かべて彼等を鼻で笑う。
一度聞いた声を真似るぐらいは彼の技量ランクの範囲内。潜入や欺瞞行為にも
使えるこういった技能に関する知識や経験は邪神の中にごまんとあったのだ。
おそらくは後者目的でふんだんに活用され、人心を惑わす一助となったろう。
今は“嫌がらせ”に使われているのでどちらがマシかは微妙だが。

「ど、どうやったの君?
 学園って、え、そういうのも教えるの?」

ある意味シンイチに多少慣れているアリステルはともかく。
初対面の男性スタッフにはどこぞの変装名人な某三世大泥棒並の技術を
現実で見せられて少々ではすまない程度には動揺していた。

「いえ、これは彼らの声に聞こえるようにフォスタが声をいじったのです」

それを「そうですよね」と強い口調で彼女はシンイチに迫って同意を促す。
勢いに押されて頷いて「そういうことにしましょう」という彼女の意図には
そのあとに気付いたシンイチである。

「なんだろうこのフォローされた感………さて、と」

どこか納得いかないものの助かったのも事実なので流しつつ彼らの前で腰を下ろす。
その目を覗き込むようにしながらもう必要が亡くなったフォトンの猿轡を外した。

「っ、このっ! それでいくら誤魔化したって時間がくれば爆発するぞ!」

「下手に騒げばそれで気付いた誰かがスイッチを押すわ!
 頑張って全部でいくつかもわからない爆弾をこの広大な園内から探すのね!」

まだ、だ。まだ自分達は負けてないのだと必死に声を張り上げる。
その姿はどう見ても虚勢を張っただけの負け惜しみに近いものであり、
実際にその言葉は負けた。

「それってこれ?」

ポンと空間に投映したモニターに浮かぶはランド内の立体簡略マップ。
そこにはいくつかの赤い光点があちこちで点滅して何かを表していた。

「あっ、それは!?」

「嘘でしょ、なんで全部!?」

「お前らの端末から情報を引き抜いた。悪いがロックは解除したよ。
 他の連中から快く(・・)譲り渡してもらった奴のと情報が一致してるし、
 その反応は間違いないか…………正直ここまで単純に口割ると思ってなかったが」

本当に馬鹿なんだな、と心底哀れむような視線を注ぐ。何せ喋り過ぎである。
聞いてもいないのに自ら情報を開示してくるのだから当然の眼差しといえた。
そうとすら未だ気付いていない彼らは侮蔑と受け取り怒りで顔を赤くしている。
されどそれを一気に冷ますかのような冷たい声が少年の後ろからかけられた。

「場所と数は判明、解体も可能、共犯者への誤魔化しも終わりました。
 さて、お二人はまだ他に何か言いたいこと(リクエスト)はございますか?」

彼女のその冷静でいて皮肉を孕んだ言葉は彼らに現状を理解させるには充分。
完全なる詰みであり負け惜しみすら出てこない。出てきたところでどうなるかは
ここまでくれば幼子ですら理解できるほどに明白だった。

「くくっ、心配するな。なんでも言ってくれ───全部、叩き潰してやるからさ」

それに笑って乗ったシンイチの口から放たれたのは明らかな嘲笑を含んだ言葉。
だが決して自惚れではない事実を持ってのそれは屈辱を感じさせるが反論を封じる。
だから出てきたのは自分達の計画を台無しにされた事による悔しさを
ただ晴らそうとしただけの喚きだけ。

「ちっ、ちくしょうっ、ちくしょう!
 なんだってこんなところに学園の生徒がいるんだよ!
 十大貴族のお姫様なんていう大物まで! なんで今日に限って!」

「ふざけるんじゃないわよ、このクソガキども!
 私たちがこの日のためにどれだけ手間暇かけたと、ひっ、がぁっ!?!?」

だがそれも少年のちょっとした動作で水を打ったように静まる。
犯人も、少女も、スタッフも、その行動に程度の差はあれ固まった。
シンイチが何のためらいもなく女の喉を─本人の感覚では─軽く指で突いた。
嘔吐くような一瞬の苦しさと痛みのあとに何かが詰まったように呼吸が止まる。

「──────ッッ!?!?」

「お、おいてめえなに、ひぃっ!!」

文字通り声にならない悲鳴をあげる女と座ったまま腰を抜かす男。
女の喉を襲う痛みは軽く、所詮数瞬しか続かない呼吸停止ではあるが、
そうとはまだ知らない彼女には一生続くかと思えるほどに長い苦しみだった。
助けを求めてか責めるためか少年に視線を向けた彼らはそれこそ呼吸を忘れた。
背筋が凍る。シンイチの表情から色は消え、その目にはもはや熱も冷も何もない。
これならゴミでも見るように蔑む視線の方がまだ暖かみがあると彼らは思った。
存在を認識はしていても『人』どころか『物』としても認識してない目が恐ろしい。

「ふざけてるのはそっちだろうが。何が手間暇かけた、だ。
 大量虐殺のために使った労力なんざ誇ってどうする。頭に蛆虫でもわいてんのか?
 そんなふざけたモノは叩き潰すために存在してるんだよ、知らなかったのか?」

そのままで少年は淡々と語る。その平静さと混ざる毒が恐ろしさを演出する。
それが感情を抑えた末の『無』なのか感情を動かすまでもないという『無』なのか。
彼等には判断がつかず、またどちらにせよ言葉通り彼らの計画は丸裸で崩壊寸前。
外見は普通の少年に見えることが余計にその所業と気配を恐ろしく見せる。
その異常な気配と威圧感の前に彼等は悲鳴をあげることもできずに震えた。

「良かったですね、おふたりさん。あなた方がどれだけの期間、
 そしてどう働いたかは知りませんが無駄なことのためによく頑張りました」

そこへアリステルが見る者を虜とするかのような笑みを浮かべながら残酷に告げる。

「これから何十年と檻の中で無駄な余生をお過ごしください。
 それがあなたたちの今回の頑張りに対する報酬(バツ)です」

確実に来るその未来に男も呼吸が戻った女も青い顔で肩を落とす。
ただ、どうしたことか彼女は少年の肩を押さえるようにやんわりと掴んでいた。
それが何を心配しての行為であるのかは向けられた不安げな顔で彼は察した。

「………心配するな、どんな状況でもどんな相手でも人殺しはしないよ」

───もう二度と決して…………直接的には。
そんな続く言葉を呑み込んで彼女が心配して置いた手を優しく外す。
彼女は鋭くシンイチが何らかの二言を隠した事に勘付き、物言いたげな顔をする。
しかし状況ゆえかこの場でそれ以上の追求はしなかった。

「俺、いま完全に空気だよな……って、違う違う!
 爆弾の場所がわかったのなら早く警察に連絡!
 あ、いやそれよりも先にまずはお客さんの避難を!」

何か二人だけの空間になった気配に疎外感を覚えたスタッフだったが、
職務に真面目であった彼は欲する情報と二人組の沈黙から慌て気味に我に返る。
だが即座にそれらを実行しようとした動きは少年少女に止められてしまう。

「ダメですよ。
 さっきの電話でこいつらの仲間がまだ別にいるのが分かりました。
 なら、ここでそんなことをすれば気付いた事に気付かれて遠隔操作で
 爆破される恐れがある。爆弾には確かにその受信機らしき装置がありました」

「何か別の理由で避難させても犯人たちはスイッチをいれるでしょう。
 ですが、まだわたくしたちのことに彼等は気付いていません。
 ならその間にこれらを回収ないし解除するのが先決です」

「で、でも時間通りになっても何も起きなかったらそれこそ犯人たち何するか。
 せめて警察には連絡して犯人の捜索と逮捕を秘密裏にやってもらうとか」

相手は少なくとも周到に準備して危険物を園内に持ち込んでいる。
彼は少年少女の懸念に納得しつつも爆弾だけが武器だとは思えず妥協案を出す。
しかしそれに彼は首を振る。

「いま公的権力を動かすには少し状況が悪い」

「……どういうこと?」

「はっきりいえばランド側のスタッフでいま信用できるのはあなただけだ。
 警備室に仲間を入り込ませた連中がここのスタッフに紛れてないとは言い切れない」

「あ」

「なるほど、そういうことですか。
 警察を秘密裏に呼ぶためにはある程度警察とランド側に話を通すなり、
 こんな事態が起こっていることの証拠を見せなくては難しいでしょう。
 ですがその疑いがあり爆発までの時間が限られている現状でそれは……」

「どこで犯人側に気付かれるかわからないし時間がかかり過ぎる、ってことですか?」

そんな、と悲観的な顔を浮かべたスタッフにされどアリステルは冷静に頷き肯定する。
だが、ではどうすればと彼が感情的に言い返しそうになるより先に少年が答えた。

残りの犯人(そっち)への対処は頼れる奴にいまメールしました。
 学園の者ですから実力も信用も保証します。ですが動けるのは爆弾解除後です。
 準備はさせてますが、まずは俺達で先に爆弾を片付けましょう」

「で、でもっ……いいえ。
 ここまでの対応(コト)ですらあなたたちがいなければ何もできなかった。
 大人としては情けなく頼りっ放しになってしまいますが、どうかお願いします」

それで大丈夫なのかと聞きかけたがこうとなってはこの少年少女以外に頼れない。
男性スタッフには他に妙案もなければあったとしても実行できる能力がない。
ならせめて言葉を正して素直に頭を下げて頼み込んだ。それ以外にここを、
何も知らずに満喫しているゲストたちを守る手段はないと信じて。

「……こういうことをさらっと出来る奴がいるとホント見捨てにくい」

「ふふ、ご冗談を。シンイチさんにそんな気は最初からないでしょうに」

困ったものだと嘯くシンイチだが積極的に動いた人が何をとアリステルは微笑む。
お互いのそんな呟きを聞いたのはお互いだけであったが。

「では、あなたの力も貸してください。
 まずは最短で全ての爆弾の場所を回れるルートを作ってほしい」

「わたくしたちはここに来たのは初めてなのです。
 この人混みの中で目立たぬように進む道を考えてくださいますか?」

「はい、任せてください。
 私はこれでもけっこう長いんです、ここ!」

意気揚々と胸を叩いて力強くそう告げる彼にふたりも頷いた。
そしてスタッフである彼の言葉を中心に目立たぬように仕掛けられた場所を
廻りきる最短ルートを構築すると正規のスタッフでありそして信用のおける彼を先頭に
ランド内を進んでいきあちこちに仕掛けられた爆弾を無力化していった。

「…………」

「…………」

「……次はこうきたか」

そしてそのルートを一周して、途中の場所に戻ってきた(・・・・・)彼等は難しい顔で唸っていた。
そこに無事爆弾を無力化できたことへの喜びは無いに等しく気持ち沈んですらいる。

「ま、参りましたわ……」

「まずい、まずいよ! 爆発まで1時間切っちゃったよ!」

「はぁ、俺が関わるとどうしてこう事態が二転三転するかね?」

各々表に出ている態度や感情の程度は違えど皆、困惑と焦燥を感じていた。
ルートに問題は無かった。手にした爆弾の情報に間違いもなかった。
無力化にも問題は無かった。いくつか客が入り難い、入れない場所への
侵入に少し手間取った程度だ。しかし一つだけ大きな問題が途中で発生した。
彼等はそれを一旦棚上げして解除作業を続けると再びそこに戻ってきて
問題の有無を再確認して今に至る。つまり問題はそこにあったのだ。
いや、無い(・・)、ことが問題となっているのである。



「どこいったんだ、最後の一個は?」



一つだけ、爆弾が見つからない。
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