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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-51 幻想の国、とか関係ない

東京タワーは、出した。
スカイツリーも、話には出た。


けどここばっかりは本物を出す勇気はない。




────東京ニャズダーランド


それは世界的なエンターテイメント会社プロダクション・ニャズダーが
海外展開の目玉として各国で作った一大アミューズメントパークの一つ。
特にその名が示す通り、日本の東京に作られたこれは最も成功したと
いわれるほどの盛況ぶりを開業以来続けている超人気テーマパークである。
動物、とくに猫をモチーフとした数々のニャズダーキャラで構成された園内は
男も女も老いも若きも一時現実を忘れ、夢と冒険と幻想を楽しむ国と定義され、
事実としてその理念を実現させたまさに幻想的(ファンタジー)な空間。


その団体客用のバス駐車場前の一角において、私服の集団が並んでいる。
全員が園内総フリーパスを首から下げて今か今かと教師の話が終わるのを待っていた。

「───といった長ったらしいいつもの注意などもう聞き飽きただろう。
 それでもまた言うが一般の方々の迷惑にならないように気を付けろ。
 ここが本日のスケジュール最後の場所だ。閉演時間まで存分に楽しめ、突入!」

「よっしゃぁぁっ!!」

「夢にまで見た夢の国!」

「出遅れるな! こんな人波試験に比べれば!!」

「やっば、チョー楽しみなんですけど!」

「待っててニャニニャー!!」

途端に沸き上がる歓声とも雄叫びともいえる声にシンイチの頬が引きつる。
既に1-Dという括りから離れた彼がいるのは世話係(お目付け役)という彼女の横。
そして彼女(ミューヒ)彼女(ミューヒ)でこの騒ぎを見越していたのいないのか。
いつものニコニコとした顔で集団の隅っこでシンイチと並び立っていた。

「なんか、全員の興奮具合が半端ないんだが?」

「普段からこういう遊びを極力抑圧してる子達だからねぇ。
 許しを得たうえで好きに遊べるとなるとこうなっちゃうんだよ」

「………そういえば、そんな話も聞いたな」

ならば納得だと引きつった顔が途端に微笑と共に緩むシンイチである。
彼らはシンイチのような帰還者ゆえに入らざるを得ない者などを除けば、
入学するために、成績を維持し上へ目指すために、遊びの部分をかなり削っている。
同好会制度が認められたのもそれが無さすぎた事も要因の一つだったのだろう。
それが学園から大手を振って「遊べ」といわれているのだ。日本国民ならずとも
よく知る有名テーマパークの前まできて。興奮するなというのが無理な話だった。

「ちっ、毎度毎度騒がしく品が無い!
 隙さえあれば遊び呆けて、これだから地球人は!」

「くだらないことばかりに時間を使うのだから!
 学園生徒である事に誇りがあるなら全て己が鍛錬にあてるべきでしょう!」

尤も全生徒がそのノリと興奮に乗っていた訳でも肯定的に見ていた訳でもなかった。
苛立たしいとばかりに声を張り上げたのは十人程の特別科生徒(ガレスト人)の集団だ。
その先頭に立つはアリステルの従者筆頭を務める“あの”ふたりである。
普段よりガレスト学園にある“緩い”部分をよく思っていなかった彼等は
同校生たちのはしゃっぎっぷりにたまりにたまった鬱憤をぶつけていた。

「若いなぁ……」

「イッチー、君はあの子らより年下だからね」

それを不倶戴天の敵ともいえるシンイチに暖かく見守られているとも知らずに。
一方でこの苦言とも空気の読めない雑音ともとれる発言は真に残念ながら
興奮しきっていた大半の生徒の耳には届いておらず既にゲートに列を作っていた。
聞こえた生徒達も殆ど無視か不快感を示す視線を送るという拒絶のそれである。
追従どころか否定の声さえ上がらず“相手にされない”ことに彼らは当惑した。

「ああ、可哀想」

可愛らしく微笑みながら可愛らしく呟くも一欠片もそうは思っていない。
自分達の人望の無ささえも知らぬ愚か者たちとその目には蔑む色さえある。
だが、それに否という声が隣から届く。

「違うぞ、一番可哀想なのはあいつだ」

どういうことかと問いただすより前に彼女はその視線の先を追って納得した。
何せそこには能面のような顔を張り付けた豪奢な縦ロールの少女がいたのだから。
服装はまさに清楚という言葉が似合うシンプルな色合いのワンピースとカーディガン。
単純なれど少女の造形とスタイルの良さ、漂う気品の良さが合わさってどこかの
ブランド品かと疑いたくなる高貴さを周囲に見せつけている。
だが普段はたおやかさを感じさせる柔和な表情も雰囲気もそこには無い。
叱責のための厳しい表情さえない『無』の顔で彼女は自らの従者を見据えている。

「ア、アリステルさっ」

「これが今のあなたたちの現状です。何をいっても聞いてさえもらえない」

「っ」

ショックを受けていた彼らにその登場と表情はより強い動揺を与え、
これまで一度として聞いた事のない冷めた声に背筋を凍りつかせた。

「それがどうしてなのかさえ、あなたたちは分かっていないのでしょうね」

大きく、そしてわざとらしい溜め息に見るからに狼狽えるリゼットたち。
その声と顔にはいっそわかりやすい程に彼女の失望が描かれていた。

「そのいかにも不真面目を諌め鍛錬にのみ心血を注ぐべき、という主張ですが
 学園の修学旅行はそもそも地球側でその文化を学びつつ旅行で心身の休息をとり、
 ガレストでは実地訓練というのが例年の流れ。それをもう忘れたのですか?」

「い、いえ、そ、そんなことは……」

初参加の1年生ならいざ知らず。彼等は2年生以上でリゼットらは3年生。
この流れは知らないわけがなく心身のリフレッシュの重要性を知らぬわけでもない。
彼らの本音は別の所にありアリステルはそれがとうに分かっていた。

「あなたたちは最近その場その場での感情的なだけの発言が目立ちます。
 いずれ人の上に立とうという者が自らを律する事もできずに
 周囲の気持ちをただ下げるような事しか口にできないとは……」

再度大きなため息を吐いて、やれやれといわんばかりに首を振る。
失望にプラスして呆れという感情がそこには解りやすいほど見て取れた。

「しかし我らはただ当然のことを!」

「誰の賛同も得られない当然などありませんよ。
 あなたたちだけが信じてるただの幻にすぎません、愚かしい」

「そ、そんな!?」

「これ以上ガレスト貴族、いえガレスト人の恥となる振る舞いを
 するならばわたくしも最終的な手段をとらざるをえません」

「っ」

一切の暖かみのない冷めた視線が彼らを射抜く。これ以上続けるなら処断すると
暗に告げる言葉にただでさえ萎縮していた彼等から反論というものを奪った。
その顔には納得や反省とは程遠い屈辱のような感情が蠢いているのが見て取れる。
それを少し悲しげに見詰める瞳があるなど知らずに。

「と、まあ、小難しいお説教はここまで! では行きますわよ!」

「は?」

「へ?」

さあ、と一転した明るい表情と声でニャズダーランドを指差す少女。
呆気にとられた彼らとは別にシンイチらはニヤニヤとした顔を浮かべている。

「まずはここからでも見えるあの大きな山!
 ニャズダートルネードマウンテンを制覇いたしますわ!!」

「え、えっ、アリステルさま!?」

自らの従者筆頭の手を掴んでその戸惑いを置いてけぼりにして進む。
彼女の目にはもうそのアトラクションしか見えてないといわんばかりに。

「………あれは事前に色々調べてきてるな」

「すごくうきうきしてるね、アリちゃん」

変わらぬ笑みを浮かべたままその足取りをゆっくりを追うように続くふたり。
背面しか見えないが率いる形となった彼女が心躍らしている空気は伝わる。

「ああすることで色々立場を無くすわけだ、あいつらは」

「ほほう、なーるー」

揚々と異議を訴え、されど哀れ誰にも聞いてもらえなかった集団は
アリステルの従者筆頭の二名を中心としたガレスト人のグループだ。
なのにその主張、態度を真っ向から主人に否定されてしまえば立つ瀬がない。
事実、気分を弾ませている主人の後ろで居心地悪そうについていっている。

「同時にアリスは地球文化を受け入れて楽しんでいることを態度で示す。
 みんなに気さくに話しかけて謝罪もしてるから外の支持層は増える」

「うわぁ、アリちゃん意外に策士、そして鬼畜ぅ!」

「……それを天然でやってる辺りが俺は一番怖い」

意図して、と取るには本気で心を弾ませ過ぎている。末恐ろしいと彼は苦笑い。
視線の先では地球人もガレスト人も共に引き付けながら進む一人の姫がいる。
女王には程遠くとも人の従え方を本能的に知る振る舞いは畏敬の念を抱かせる。
統治者の血統を感じずにはいられない。

「ははっ、だよねぇ……けどもうアレいっそ切り捨てちゃった方がよくない?」

ニコニコとしながらもアレはもう彼女には邪魔なモノだろうと冷酷に告げる。
実際、彼等はまだどこか不満げな様子でアリステルの後に続いている。
自覚のない自己中心的で傲慢な思考で自分達を絶対視して他を何も見ていない。
ミューヒはいつものようにそれを見て笑っているが視線は厳しく、そして冷たい。
それが誰を第一に思っての目なのかを察して彼は微笑むが首を振る。

「簡単にはいかないさ。あいつらが三流以下の従者でもその背後の家は別だ」

「ああ、そっちかぁ……明確な失敗でもないと問題だよねぇ。
 アリちゃんまだ当主予定(・・)だもんね。家が絡むと面倒だよ」

彼等も大半がガレスト貴族だ。それもそれぞれの家の跡継ぎかそれに近い者。
権限はなくとも誰もが納得する理由なく切り捨てれば次期当主などという
不確定に近い立場で実績のないアリステルでは反発を呼ぶ可能性は高い。
足場が固まってない現状で関係を悪化させるわけにはいかないのだ。

「かといってその『明確な失敗』をされても困るわけだ」

「アリちゃんの責任になるもんねぇ……時間の問題な気がするけど」

「笑えないなぁ」

何せ残念ながら彼らは自分達の言動が主人と自家の関係や未来を
左右してしまう可能性を微塵も感じ取れていないのだから。
自分達の手がいったい誰の首を絞めているのかさえも。

「でも、だから警告止まりなんだね。
 そして一緒に遊んで良さを認識してもらえれば、って所?」

「それもあるんだろうが……それとは別に難しいんだろう」

「え……え?」

どういうことだと彼を見上げた彼女は久しぶりにその『迷子のような目』を見る。
何故か彼自身もどうしていいのかわからないと雄弁にその瞳は語っていた。

「長年一緒にいた者を、聞けば幼馴染っていうじゃないか。
 簡単には切り捨てられんさ…………甘えが、あるんだよ」

「甘え? 甘い、じゃなくて?」

それはそれで多少は必要だと微苦笑を浮かべた彼はその目のまま、
あれだけ近くにいて想いと考えが違えてしまった三人の幼馴染を眺めた。

「よく知っていると思い込んでいるからこそ自分に都合よく考えて
 もしかしたら、なんていう希望を互いに抱き合って根本的にすれ違う」

アリステルは言葉が届かず苦心し、彼らは偶像(イメージ)を見て実像が見えてない。
あの三人はどこで、どうして、あそこまで致命的にズレてしまったのか。
住む世界も過ごした時間も同じで互いを見続けていたというのに。
どれも違ったという言い訳がある自分とそれはどちらがマシなのか。
シンイチは埒もなく考えたが、無意味だとして途中で思考を放棄した。

「………そこまで分かってて手も口も貸してあげないんだ?」

責めるような言葉なれどニコニコとしたいつもの顔でいう狐娘。
さすがのシンイチもこれはどちらが本音かは掴みあぐねたが正直に答えた。

「俺が出ると余計にこじれるぞ。だいたいあいつは自分でやるといった。
 そこに介入するのはあいつに失礼だし、この程度どうにかできないなら
 大貴族の当主なんてそもそもできるかってんだ」

彼女の責任になるといっても今ならまだ取り返しがつく範囲の事だろう。
成功しようが失敗しようが自らの周囲の問題を捌く経験は必要だった。
それでも直接助けを求められればそれもまた彼女の判断と責任と考え、
手も口も貸すことは吝かではないと彼は考えているがアリステルは
ぎりぎりまでシンイチに助けを求めないのも分かっていた。彼と同じく
それぐらいできなくては当主など名乗れないと考えているのだ。

「イッチーって過保護っぽいんだけどなんとなく放任主義だよね。
 この前の事件も最初から最後まで一人でやった方が簡単だったでしょうに」

どこが嬉しいのかそれとも表情だけのことか。
ニコニコとした顔を崩さずそう評すミューヒは楽しげではある。
感情はともかく本気でそう思っているらしいことは彼も察した。
シンイチは渋い顔をしたが頭上の彼女は無言で首を縦に振っている。

「……その場の問題はそこにいる当事者たちが解決すべきだろう。
 通りすがりの余所者は本来関わるべきじゃない……まあ状況次第だけど」

火の粉が降りかかってきたなら払う。影響が大きすぎるなら潰す。
シンイチ以外では対処できないほどの状況なら自ら立ち向かう。
あとは彼なりのその場のフィーリング。大雑把ながらそれが彼の基準だ。
クトリアの事件は─最終的には─この全部に引っかかったわけである。

「キュウ~」

「そっか」

ただなぜか彼の頭上からは不満げな、隣からは気持ち沈んだ声が出てきた。
ヨーコの場合は『そういって関わらなかった案件の方が少ないでしょう』という
文句だがミューヒのそれは何に対する気落ちか彼も簡単には見抜けず沈黙が落ちる。

「────なら今の状況とやらもきちんと見てほしいなお前たち?」

するとその終わりを待っていたのか単なる偶然か。
額に青筋をたてたフリーレが般若が如く表情で彼らを見下ろしていた。
おそらく無理矢理スーツを着させられたことへの意趣返しもあるのだろう。
尤も当人もそれで彼がダメージを受けるとは露と思っていないが、
教師としていうべきことはいうべきだと怒鳴り声をあげた。

「お前たちが最後だ! とっとと並んで入れ!!」

言われて両者はキョトンとした顔で周囲を見渡せば視界内に学園生徒はいなかった。
もちろんアリステルも彼女が引きつれていた集団も、だ。どうやらいつのまにか
話し込んでしまって気付かなかったようだ。

「わかったら行け!
 時間は有限なんだ、遊べるうちに遊んで来い!」

それは叱っているのか遊びを促しているのか。
本人は精一杯“怒っている”という顔をしているが声には優しさがある。
気付いた両名だがそれには触れずに「はーい」と笑いながら返事をした。



ゲートをくぐった最後の生徒となった彼らはそれから幻想の国の住人となる。
片方は幻想(ファンタジー)世界からの帰還者だが本物と作り物はその趣と価値が違う。
だからだろう。その目は歳相応、というには少し幼さを感じさせる輝きを見せた。

仮装しているスタッフたちのパフォーマンスによる華やかな出迎え。
見て楽しませることも考えられた現実にはない造りの建物や造形物の数々。
人が思い描く幻想をカラフルに作り上げたその風景は存分に人々を魅せる。
まだゲート付近だというのに人々の歓喜と熱狂が伝わってくる空気に彼の頬が緩む。
視線を巡らせば他の客より一際にはしゃいでいる面々が所々で見える。学園生徒だろう。
その様子に思わずクスッと微笑んだ彼の表情はとても優しいものであった。
ミューヒはそれを実年齢に似つかわしくないものだとは思いながらも
彼女自身の頬も緩めてしまうような暖かな表情だとつい見入ってしまう。

「ふふ、ホント何歳なんだろうね君は。
 お父さんどころか孫でも見てるような顔をするよね、時々」

共に足を進めながら彼女はそれがおかしいと笑い声を含みながら告げる。
これにはさすがのシンイチも渋面を浮かべて唸ってしまうのも仕方ないことだろう。

「うぬっ………せ、せめてお兄ちゃんぐらいにしてほしい」

「君が一番年下だけどね!」

あはは、と笑って再度釘を刺しながら並んで歩く彼の渋い顔を楽しげに覗く。
それが確かな事実であるだけにいくら彼でも反論できないのだろう。

「……あれ?」

けれどそこで自らの視界から彼が全く外れないことに違和感を覚える。
彼女は小柄な女性だ。ゆえにどうしても歩幅というものが他者より短い。
大股歩きも早歩きもしてない彼女と彼のそれがほぼ一致しているのはなぜか。
視線を下げればこちらに合わせていると見て取れる足の動きに目を瞬かせる。
思い返せば東京タワーに向かう時もそうだったと彼女は何気なく頬をかいた。
同時に尻尾は激しく左右に振られ、耳は無邪気にピコピコ飛び跳ねている。
シンイチの頭上のヨーコは黙ったままニヤリと笑う。

「………黙ってそういうことするのホント卑怯」

「なにがだよ?」

当人のわかっていなさそうな表情に天然な方かと思わず溜め息が出る。

「いったい誰に仕込まれたのかな、イッチーは」

ジロリと足元を睨めば察し良く何の事かわかった彼は苦笑を浮かべるが
されど、どこか懐かしむような表情も見せながらその理由を口にする。

「ああこれは………少し、歳の離れた妹弟(きょうだい)がいてな。
 よく俺の後ろをトコトコと追いかけてきて、それに合わせていたら自然とな」

最初は両親に小さい子たちを置いていくなと叱られたものだと笑う。
それから相手に合わせる癖がついたのだろうとシンイチは自己分析していた。

「ふーん………ま、それなら許してあげましょう!」

「なぜお前の許しがいるんだよ?」

納得したのかわざと偉そうにふんぞりかえっていう彼女においおいと突っ込む。
だが不意にそんな彼らの“上”から聞き慣れた声で聞き慣れない叫びが響いた。

「きゃああぁっ!! わたくし風になってますわあぁぁっっ!!」

「あ?」

「へ?」

視線を上げた先にはアトラクション──ニャズダートルネードマウンテン。
それは山脈をモチーフにした巨大な造形物の内外をジェットコースターで
駆け抜けるというここを代表する絶叫マシン。その全長と速度は日本最大級。
定番ながら未だにニャズダーランドで上位に食い込む人気アトラクションだ。

「ひゃああああぁぁっ!!!」

そのトルネード部分を指す捻じれたレールの上を回転しながら進む列車。
お嬢様(アリステル)はその豪奢な縦ロールを器用に押さえつけながら嬉しい悲鳴をあげていた。
速度や機動性という点では彼女らが慣れ親しむ外骨格とは比べ物にならないが、
それでは感じられない風圧や遠心力というものが逆に新鮮で夢中になっている。
少し前まで不満げであったあの集団の者達も喜びに寄った悲鳴を叫んでいた。

「……あいつ、めっちゃ楽しんでるな」

「地味にストレス多い立場だからねぇ、さっきのもそうだったし」

レールを見上げるようにふたりは苦笑する。
だがそれは彼女の様子にというよりは叫びたくなってしまう心境を思ってだ。

「羽目の外し方を知っているならいいさ。
 問題は主人の心労の原因になってるあいつらだろう」

テーマパークの人混みに紛れるように疲れた顔でその原因を見る。
件の従者筆頭ズはアトラクション前の行列が見える位置で並び立っていた。
だがその口を塞ぐようにバツ印が表示されたモニターが空間に浮いている。
時折、彼らが不満げに何やら口を動かすのだがそこから声という音は出ない。
対象の発言を禁止する日常系のスキルである。特定の用途はなく出来るから
作った代物ではあるが主に騒がしい子供を静かにさせるお仕置きのスキルだ。

「今度はなにしたんだろうね、アレ」

「見てみるか?」

そういって差し出されたフォスタの画面にはこの周辺を少し上から撮った映像。
位置関係から咄嗟に場所を把握すればオブジェに偽装された監視カメラがある。
即座にそれを見つけて物理的に繋がってない端末で記録した映像を覗くという
非常識に一瞬頭を抱えそうになるが“イッチーなら仕方ない”と諦める。
それよりも、と少し前の出来事らしいその映像を共に眺めた。

「………ここまで非常識だったとは、ボクも舐めてたよ」

「まったくだ」

見終えたその中身に溜め息まじりに肩を落とす両名である。
アリステルの苦労のほどをあれでも軽く見ていたと同情的になってしまう。
何せ彼女がトルネードマウンテンの行列に並ぼうとした時ふたりは平然と
割り込ませようとした。彼女は羞恥から真っ赤になって皆に謝罪し彼らを叱った。
どうやら彼らにはここが地球の日本だという認識を持つ気がさらさらないらしい。
どこであろうとアリステルは他より優先・優遇されるのが当然という主張に
眩暈すら起こした彼女はスキルを使ってまでふたりを黙らせたのである。
つまり彼等は主を待っているのではなく罰を受けて立たされていたのだ。
そう考えると大声をあげる彼女が心なしかヤケクソに見えるのは気のせいか。

「………ヒナ、悪いんだけどさ」

「みなまでいわなくていいよ。アリちゃんと従者を引き離すんだね?」

どうやら同じことを考えたらしい。せめてこの場くらい解放してやろう、と。

「いつもの格好で遊んでおけ、といっておいてくれ。
 俺がやってもいいんだが、それはそれで問題だろうし」

シンイチ憎しになるなら別に構わないのだが転じて地球人憎しになると彼も困る。
そして残念ながらそれが杞憂ではすまないのがその従者たちなのであった。

「オッケー、イッチーはどうするの?」

「とりあえず東エリアの城にでも行く……遭遇するとまずい奴がいるからな」

「それってヨッピーたちのこと?」

「まあな、えっと確か今いるのは───」

ちらりともう切り替えた端末画面を覗き込んだ彼はその名前を読んだ。




───マミーマリーのリビングデッドハウス


ニャズダーランド西エリアにあるそう名付けられたアトラクション施設。
一見するとデフォルト化された洋館で入口には全身包帯のミイラのような
三頭身の擬人化した猫(マミーマリー)が描かれていて訪れた客達をおどろおどろしく出迎えている。
絵師の力か『ミイラ』キャラでありながらまだ可愛らしい容姿を見せているのだが
そこは超本格的と名高い最新鋭の技術を用いた日本最強といわれるオバケ屋敷。
何せ本物と見間違う立体映像技術を手に入れたことで人やギミックを使うより
脅かす方、驚かされる方が双方安全でより自由な演出が可能になっていたのだ。
それはどの年代をも受け入れることを掲げるランドがどうしても年齢制限を
用意せざるをえないほどである。だから。

「ぎゃあああぁぁっっ!?!?」

突如現れた恨めしそうな顔をする女の幽霊にその少女は堪らず悲鳴をあげた。
彼女は慌てて飛び退いたがその床から無数の青白い手が湧きだして揺れ動く。

「いっ、いやああぁっ!!」

こちらを掴もうとするかのような動きにポニーテールを揺らしながら逃げる。
無数の腕畑を駆け抜けるその少女の前に今度は天井から吊るされた人形が現れる。
10や20ではすまない数の首つり人形たちはどれも不気味な顔をしていて
その瞳が一斉に彼女を見た。

「ひっぃ!!」

短い悲鳴をあげて近くの通路に逃げこむがそこからも悲鳴が続いた。
オバケ屋敷側の演出と誘導にまんまと引っかかっているようである。

「ちょっ、トモエ待って!」

「……オレたちが驚く暇がない」

「あはは、ホントだ」

その姿は同行者たちがいっそ笑ってしまう始末であった。
彼等はそんなオバケ屋敷の妙な楽しみ方を最後まで続けることになる。

「はぁ、はぁはぁ………なんか一生分叫んだ感じがする……」

無事─かどうかは判断に迷うが─リビングデッドハウスを突破した男女四人は
出口先に用意周到に設置されている複数のベンチに他の客達と同じく腰かけている。
一番多くの悲鳴をあげた少女は肩で荒々しく息をしながらぐったりとしていた。
皆、カジュアルな服装で動きやすさを重視した格好で周囲に埋没しているが
内三人が比較的平静な状態なので周囲からは若干浮いている。他の客は
みなそれこそ死んだように背もたれに寄りかかっていたり顔を俯かせている。
誰ひとり騒ぐ者はおらず野生のハトが誰かのこぼしたおやつ目当てに
周囲を無警戒にうろつくほど彼らの生気は希薄であった。

「ほら、大丈夫?
 で、でも、ふふっ、トモエったら本物見えるくせにあんなに怯えて、ぷくくっ」

気遣いつつ飲み物を渡すもオバケ屋敷に恐怖する退魔師という
何かがおかしい状態にさすがに笑いがこらえきれなかった陽子である。

「うっ、だ、だって気配がないのに急に出てくるんだもん!!」

トモエからするとまったく感知できないくせにはっきりと見える。しかも
突然現れるうえ見た目が必要以上におどろおどろしく不気味なため恐怖しかない。

「……本物を知っているからこそ、か。意外な悩みだね」

「こいつだけだからな、オレそんなにびびってなかっただろうが」

陽介はその点を雑学でも聞くように感心していたが幼馴染は呆れている。
ただ内心では一人だったならどうなっていたか、とは思っている。良くも悪くも
トモエが怯え過ぎて残り三人が冷静になってしまったのが原因だとは分かっていた。
男のプライドとしてリョウは決して分かっていても口にしないだろうが。

「……ううっ、このこと誰にもいわないでよ?」

「別に恥ずかしがらなくたって、みんなもあんな風になってるのに」

三人は各々で怖がらずにすんだ原因を察している。だから出口周辺にいる
青い顔をした客達の状態を見ればトモエの反応こそ正しいものなのだと察していた。
が。

「違うのよ! いるのよ! 知ったらあたしを連れ込もうとする悪魔が!
 とくにリョウ! 絶対に言わないでよ、言ったら呪ってやるから!」

彼女はある特定の個人にだけは伝えるなという意味でいっていたのだ。
普段は冗談ですら使わない『呪う』という単語を使う辺りその混乱ぶりは凄まじい。

「しゃ、シャレにならんことをいうな!!
 わかってるって、確かに知ったら喜んでお前を連れ込みそうだよな」

トモエは軽い恐慌状態ゆえに、つい。
リョウは一応名前を伏せながらも同じ人物を頭に思い浮かべていた。
この姉弟の前で話題を出すのは少々躊躇われる人物を。

「え、なにそのひどい奴、誰よ?
 私にいいなさい、近寄ってきたらぶちのめしてやるわ」

「ちょっとそれは女の子に優しくないよねぇ、誰かな?
 姉ちゃんは過激すぎだけど、近付けないようにはしてみるけど……」

だからある種当然といえば当然の会話の流れにトモエとリョウは違う理由で固まった。
おかげで冷静になった、ともいうが。

「………………まあ、そこまででもないんだけどね、ねえ!」

「え、あ、ああ、ちょっとSっ気あるだけで……一応、善人だぞ、うん!」

実の兄弟なのではないかと疑うトモエと確執があるらしい事を知るリョウ。
事情は近いようで違うが名を出すのはまずいと口裏を合わせた辺り付き合いが長い。

「それより、次はどれにいく?
 並ぶ時間だってばかにならないんだ、急ごうぜ!」

「ちょっと、トモエを休ませる方が先よ。少しは気を使いなさい!」

その誤魔化しと遊びたい欲求から出た言葉に、だが友人を気遣う陽子は噛み付く。
正論といえば正論なのだが同級生から叱るように言われたことが彼の癪に障った。

「これぐらいでへばる女じゃねえよ、何年の付き合いだと思ってんだ!」

「あんた自分の体力値わかってて言ってる?
 一番高いんだからそれを基準にしていわないでよ!」

陽子からすれば彼女の体力(スタミナ)切れは注意すべき事であり嫌な思い出だ。
繰り返すわけにはいかないと必要以上に気を張ってしまっているのである。
そして互いに一度熱くなると滅多に意見を変えない頑固なところがあった。
どちらも一歩も引かない姿勢で口論を白熱させていく。

「え、えっと、これもしかして、あ、あたしのせい?」

バチバチと視線と言葉の火花を散らすふたりを交互に見ながらトモエは慌てる。
一方、涼しげな顔をして微塵も慌てていない陽介は軽い調子でそれに答えた。

「あたしのために争わないでっ、とか言ってみれば?」

「いえるか!! なんでそんな恥ずかしいことを!?」

「あはは、確かにサーフィナさんのキャラじゃないよね。
 でもこれは気にしなくていいよ。どっちもケンカっ早いだけだよ」

「っ」

やれやれと慣れた様子で首を振りながら苦笑を浮かべてみせる。
そのふざけた調子とその後のフォローと気遣いの笑みが一瞬誰かと重なった。

「……似てるわね、ホント」

だから思わずそう呟いた。似ているのだ、ふたりとも。
以前からこの双子をトモエは見た目以外は似ていないと感じていた。
生真面目で少し融通がきかないが正義感の強い友達・家族思いな姉と
そんな姉を影で制御しつつ周囲をよく見て妙な気遣いの出来る弟。
男女の違い、二卵性ゆえといえばそれまでだが不思議なことに
その間に“彼”を入れるとこの二人の違いは逆に繋がってしまう。
まるで“彼”をふたりに分けてそれぞれの部分を強調したかのよう。
幸いその呟きは姉は口論で、弟はそれに注視していて聞いた者はいないが
少女は何かが背後で反応したような気配を感じた。

「─────あ、なんか結論出るっぽいよ」

それを確かめる前に彼のその言葉に意識を向けさせられたが。

「いいわ、あれで決着つけてあげる!」

「はっ、空中戦で俺に勝てると思うなよ!」

啖呵を切ってある場所を指差す陽子に対して自信満々に鼻で笑うリョウ。
どうやら何かで勝負をする流れとなったらしいと察したふたりはそれぞれ
姉と幼馴染に『短絡的』という共通認識を改めて持った。

「でも、まあいいかも。あたし、あれ一度やってみたかったのよね」

「そうだね、外骨格とはまた違った感じになりそうだし」

尤もそこに行くことじたいはさほど反対意見は無かったが。

───マジョニャーの飛行場

鍔の広い三角帽子を被り箒に跨った三頭身の擬人化猫が描かれた施設。
目につく意匠から解り難いが内情は観客席とフィールドがある競技場(スタジアム)だ。
その広大なフィールド内の空間内(・・・)で箒に乗った若者達が今も飛び交っていた。
ここもガレストからもたらされた技術によって発展したアトラクションの一つ。
箒で空を飛ぶという夢を実現させ、それによるレースやシューティングゲームを
楽しめるのがこの『マジョニャーの飛行場』なのである。

「行くわよトモエ! この馬鹿に目にもの見せてやるわ!」

「行くぞセンバ弟! この女どもには負けねえっ!!」

「あら、そのチーム分けには異論はないんだ?」

「こっちはこっちで違う意味で似てるわね、はいはいわかったわよ」

気炎を吐いて火花を散らしながら進む二人に彼等は苦笑するしかない。
だが、仕方ないと肩を竦めると追いかけるようにしてその場を後にする。
そんな四人の背後で屯していたハトの一羽が突如飛び上がって青空に消えた。

「…………ふぅ、過保護なお兄ちゃんね」

一度も振り返らないままトモエは呆れつつもクスリとそう微笑んだ。



でも見てるだけなので微妙なところ。
そしてトモエ、最悪なやつに弱点を知られたのを失念してるぞ!



しかし、前にもまして遅筆になっていて困る………悔しい!
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