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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」

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04-50 東京タワー、だけれど

暑さでダウン、やる気が低下、してるうちに日数が!?

というわけでなんとか更新、しばらく平和な観光です。


シンイチはどうなるか知りませんけど





 日本という国の中枢が集中する都市・東京。
それゆえ首都と思われがちだが法的にそう定義されているわけではない。
あまり知られてないが日本の首都がどこなのかは理由を含めて影ながら議論がある。
それでも日本人にとっては東京がこの国を代表する都市の一つであることに
異論はないだろう。また政治や経済で中心的役割を担う都市であることも。

さてその東京という都市において象徴的な建物とはどれか。
これにも当然いろいろな意見があることだろう。物語でよく破壊される東京都庁舎。
日本政治の中心・国会議事堂。今やイベントでの用途が主流となった東京ドーム。
歴史ある赤レンガの駅舎。いくつか浮かぶがソレ(・・)もまた東京を代表する場所だ。

「うわぁっ、生で初めて見た!!」

到着した途端、彼は間近で見上げた赤い鉄塔に抑えきれない興奮の声をあげた。
姿そのものは着く前から見えていたがやはり下から見上げる迫力は圧巻である。
鮮やかな赤と白に彩られた鉄骨で形作られた巨大な塔がそこにそびえ立っていた。
ここが次の目的地であり、この地を代表する観光名所の一つ・東京タワーだ。
シンイチはその鉄塔をキラキラと瞳を輝かせながら童子のように見上げている。
頭上にいた彼女(ヨーコ)は邪魔にならぬようにと早々に肩に移動していた。

「ほ、ほらヒナ、早く行くぞ!」

彼はどこか興奮しながらまずはフットタウンを一階から見て回りながら
屋上まで上がると今度は真下からタワーを眺めてまたも目を輝かせている。
途中の商業施設や水族館にも無駄にはしゃいでいたがそこは一際であった。

「おおぉっ!!」

「え、ええぇ?」

ミューヒはシンイチが転入してきた日からずっと見続けている世話係だが、
未だに彼が強い興奮を表すモノとそうでないモノの差が把握できない。

「な、何を興奮してるのやら……ガレスト人ならわかるんだけど」

若干そんな反応に引きながらも首をひねる。
これは彼ら日本人には見慣れた代物ではないのかと。
壁に覆われたドーム型の都市が大半のガレストでは300mを超すような
建造物というものは無いに等しい。それが特殊な防御システムもないのに
60年以上も同じ場所にあり続けるというのは不思議且つ興味深い存在だ。
事実ガレスト人の生徒は見慣れぬ高さを持つタワーを興奮気味に見ていた。
かのガレスト至上主義者ですら呆けたように見上げているといえば
その興味・感心具合はわかるというもの。逆にそれらを知らなかった
一年生組はガレスト人たちのそういった反応に地味に驚いてもいた。

「………一応、自分が生まれ育った国、だからな。
 一度くらいこういう場所を巡ってみたいって、そう思うようになってな」

そんな周囲を見ているのかいないのか。
ミューヒの疑問を分かっているのかいないのか。
それ以前にそれは誰に向かって話している言葉なのか。
いずれにせよシンイチはタワーを見上げたまま感慨深そうに語る。
愛国心や郷土愛のようなものだろうかと狐耳を傾げながら考えるミューヒ。
厳密な意味の故郷を持っていない彼女だが過ごした場所への愛着なら分かる。
きっとそういうものなのだろうとぼんやりと彼女は考えていた。

「まさか、生きてるうちに本物を見れるとは思わなかった……」
「っ」

その横で心臓が跳ね上がってしまうような呟きを聞くまでは。
彼にとっての『2年』についてミューヒは表の話しか知らない。
ガレスト自然保護区に迷い込み、アマリリスの保護下にあったという話。
彼女はそれが限りなく偽りで塗り固められた話であると薄々感じ取っている。
そうでなければ色々と納得できない点を彼は多々持ち過ぎているのだから。
しかし彼が2年も地球に帰還できなかった点だけはそれでも覆らない。
どこにいたかは明確に解らずとも自力で帰れなかったのは事実である。
どこまでも普通の境遇の少年だった彼は果たしてその2年でどれだけ故郷を
想っていたのだろうか。なぜか想像すら許されないようにミューヒは感じた。
だからこそ巡ってみたいのだという言葉が恐ろしいほど胸に落ちる。
だからこそ『8年』という月日と異世界交流の無慈悲さが胸に痛い。

「……じゃ、下から順にじっくり見ていこうか。どうせ暇だし付き合うよ!」

などと笑顔で嘯いて、彼女は気付けばいつもの調子で彼の腕を取っていた。
シンイチは少しの驚きのあとで頼むと頷き、肩上のヨーコは微笑を浮かべた。
それからしばし大展望台の1階から順番に彼らはタワーや景色を見て回った。
だが存分に故国の名所を堪能させようという気遣いは妙な相手からの邪魔が入る。


「─────とりあえずイッチーは無駄に目敏いよね」


本人、という名の邪魔が。
一番上の特別展望台までを一応楽しんだあとの彼女の感想がこれだ。
正確にはここに来るまで起こったいくつかの騒動(・・)に対する感想だが。

「スリ、二件。置き引き、三件。万引き、一件。ケンカ、二件。
 あれかな、君は目の前の悪事は許さないぜ的な正義の人だったのかな?」

呆れながらとてもそうは見えないと嘯きながらミューヒは彼の腕にしがみつく。
彼も基本普通に観光していたのだ。おかしな行動はタワー大神宮にだけは
「きっと壊す」という謎な─本人には切実な─話で近寄ろうとはしなかった点のみ。
ただその道中でスリと故意にぶつかり戦利品をその場に散乱させて露呈させ、
置き引き犯の足を引っ掛けては転ばし、万引き犯を近距離で凝視し犯行を躊躇させ、
諍いには油を自ら投げ込んで矛先を変えたうえで豪快に燃やす事で鎮火させた。

「ああいう嫌がらせ(・・・・)も俺の趣味なんだ。楽しいだろ?」

だが、にんまりとした笑みを見せる彼にやっぱりと肩を落とすミューヒである。
正義感でもお節介でもなく、そういう手合いになら嫌がらせしてもいい、という考え。
行動は大筋では間違っていないのだが動機が微妙に不純で痛くもない頭が痛い。
自分がそんな彼に見逃してもらっているテロリストかと思うと何かが
おかしいと余計に痛みが増していく気がして溜め息も出た。

「はぁ、純朴そうな顔して根は単なる悪戯っ子兼いじめっ子だよね」

そう考えると彼女の状態は、彼の腕にしがみついている、というよりは
、彼の腕を掴んで捕まえている、といった方がどこか正確に思えるから不思議だ。
ただシンイチはそんな呆れの言葉をどこか懐かしむように笑って受け入れているが。

「ははっ、外見詐欺とは昔から幼馴染連中にはよく言われてたな。
 基本キャベツなくせにたまに下剤入りロールキャベツになってる、とかなんとか」

「それ、もう肉食・草食の問題じゃないよイッチー」

○○男子などとは別の単なる嫌がらせの手段そのものである。

「せめてマウルタッシェとか既存の食べ物にしろよ……まあおかげで助かったけど」

とは件のスリに財布を持っていかれかけたヴェルナー・ブラウンその人だ。
生徒達はクトリアではフォスタだけで支払いをすませるがまだ外では
対応していない店もあるため事前に送信されていた修学旅行のしおりには
現金も持ち歩くようにと注意を徹底していたため現実の財布も持っていたのだ。

ちなみにマウルタッシェとはドイツのある地方の郷土料理でパスタ生地の中に
ひき肉・ほうれん草・パン粉・たまねぎ等を練って詰め、ボイルしたものである。
要は見た目は柔らかそうだが中には色んなモノが詰まってると言いたいらしい。
大いに正解であるが日本でさほど有名ではない料理名に彼の頭上にハテナが浮かぶ。

「ま、まうるた? えっと、まあとにかく気を付けろよヴェルブラ。
 比較的治安のいい日本でも犯罪者は掃いて捨てるほどいるんだから」

「いやあ、面目ない。じつは俺も東京タワー初めてで浮かれてたんだよ。
 あれやこれで20回以上は壊された場所(聖地)かと思うと興奮しちゃって!」

「え、に、20回!? そ、そんな話どこにも!?」

聞いたことない。
と慌てる彼女に冷静に、そして申し訳なさそうにシンイチが補足する。

「えっと……たぶん色んなアニメや特撮での話の合計だ」

「……ああ、そっち」

相変わらずな言動にその目には凄まじいまでの呆れと疑惑が宿っている。
現実と空想が入り混じっているのではないかと強い疑いの眼差しだった。
それを横目に、これが一般人の視線だよな、とシンイチも苦笑いである。
ヴェルナーが自身の発言に自然に混ぜ込み過ぎともいえるが、オタクは
一度語りだすと容易には止まらない。

「特に印象的な破壊はグランファイザー序盤の決戦回!
 第13話「絶対零度の結界を打ち破れ!」で追いつめられた主人公が
 根本から折って放り投げたのが逆転の切っ掛けとなったシーンはじつに燃えた!」

「え、正義の味方が折っちゃうの? 投げちゃうの? そんなのありなの!?」

「心配するな、次話の14話は総集編にかこつけた東京タワー修復話だ」

「いやいやイッチー、直せばいいってものじゃないでしょ!?」

「あれはじつによかった。まさに神回!
 単純な総集編と思わせてロボットものにありがちな都市が破壊されるシーンの
 その後を子供目線ながら丁寧に描いた話として今でも評価が高い話だ!」

「あのあとからよっぽどのことがない限り主人公たちが都市戦を
 避けるようになっていくのが所々に描かれてるのが憎い演出だよな」

「そうそう!」

「…………」

知らない世界の話で盛り上がる両名を前についていけない彼女は黙るだけ。
彼の腕を掴んだまま、どうしたものかと眉を寄せながらもぽつりと呟く。

「…………………今度、ボクも見てみようかな?」

グランファイザー談義に熱が入っている両名はそれを聞き逃している。
が、その頭上にいるヨーコには完全に聞こえており、小さな笑みをこぼしている。
その笑い声はまるで『案外、いじらしい子ですねぇ』と言ってるかのよう。 

「───ああ、そういえばそもそもなんで東京タワーなんだ?」

「なんでって何が?」

それから二人の話はどこにどう進んだのか。
気付けばシンイチはここを目的地と知ってから抱いていた疑問をぶつけていた。
彼個人としては初の東京観光なので代名詞であるここに来る事に否はない。
だが時代の最先端を謳い、担うという題目を掲げるガレスト学園の修学旅行だ。
8年前の人間からすれば別の場所に行くべきなのではという考えもあった。

「どっちかというと俺たちスカイツリーに行くべきじゃないのか?」

今でも世界一高い塔であり電波塔としての役割を東京タワーから引き継いだ塔。
その東京スカイツリーこそガレスト学園らしい修学旅行の見学先ではないか、と。

「ああ、それは」

「───説明しよう!」

「と、取られた!?」

アニメ好き技術者としては譲れない決め台詞であったのか。
崩れ落ちたヴェルナーと話に入れてか台詞が気に入ってかご満悦のミューヒ。
シンイチはとりあえず彼をどこか哀れに思いつつ説明に耳を傾けることにした。

「まず端的にまとめればスカイツリーをボクたち学園生徒が観光するのは
 公式にはちょっと気を使うんだよね。今回は特に急だったから最初から候補外」

「気を、使う?」

「スカイツリー完成は異世界公開のたった……ううん、約2年前。
 結果その2年でおおよその役割が終わってしまったんだよ、あれ」

そういって彼女が指差したのはタワーの北側に見えるスカイツリーだ。
普通の視力では小さいそれもここのメンツならはっきりと視認できる。
それが『たった2年』と言いかけた事の誤魔化しなのは彼も察していたが
指摘するほど野暮ではなく、またその言葉が気になっていた。

「……終わったってどうい……まさか?
 電波塔としての役目がガレスト製通信システムに
 切り替わったせいで意味がなくなってしまった、のか?」

「ほぼ正解。2、3教えると7、8ぐらいは察するよねイッチーは。
 まあ正確にいうと地球の技術を下地にしてバージョンアップさせたのが
 いま主流になっているシステムでそれにはそれで予備システムがあるの。
 それでどっちもあんなでかい塔を建てる必要がないものだから……」

「なるほど、ツリーもタワーも予備の予備になってるのか」

話が見えてきたとどこかげんなりとした様子ながら色々察するシンイチだ。
帰還したばかりならいざ知らずもうそのあと何があったか知っているのだから。

「元々世界一の高さも目新しいのも2年でほどほどに飽きられてた。
 そこにものすごく興味を引く異世界なんてものが公表されたわけだから、ねえ」

「地球人からは商業でも観光でも人目をあまり引かなくなってしまったのか」

そのために、気を使う、のだろう。直接関係は無いが交流が原因で価値を
貶められたのだから交流を推進する側の学園としては気を使うわけである。
それが親密な関係にある日本で世界一を冠する建造物となれば余計に。

「まあ、地球一の高さ、っていうだけでガレスト人は興味を惹かれる。
 だからまだ観光名所ではあるんだけど、ボクらにはあれ高すぎるんだよね。
 こう、下から見上げて分かりやすいちょうどいい高さで見た目も赤くてキレイで
 そのうえ歴史もある東京タワーの方がガレストからの観光では人気なんだよ」

「道理でさっきから妙にガレスト(そっち)の観光客が目につくと思った」

何気なく周囲を見れば視界に映るのは自然なカラフルさを持つ多種の髪色。
学園生徒を除いたとしても割合としておよそ6対4でガレスト人の方が多い。
街中では5人に1人ガレスト人を見かけるのを考えるとかなりの集客率である。
これには彼女が語った理由以外にも交流を直接的に開始した最初の国である
強みを活かして政府が宣伝をしていた事とガレスト人の旅行への憧れや
高層建築物への興味、治安の良さ等が合わさって日本がガレスト人たちが
最初に訪れる『異世界の国』の定番となっていたためである。

「しかし、そうなるとあれってどういうことなんだろうな?」

「あれ?」

「異世界公開決定とその通知だ。よほど急だったと見るべきか?
 それとも猶予はあったが通信システム等の変更までは読み切れていなかったか。
 後者なら無能なだけの話だが前者だとなんかきな臭い話としか思えんな」

発達した別システムに切り替わることを想定できたかは確かに怪しいが
しかしほとんど突然で根回しが民間へは中途半端であった事を考えると
時期は不明だが通知は公開日から見てかなり近い時期であったと見るべきか。
少なくとも日本政府はそうだったのではないかと推測するシンイチである。

「……スカイツリーからそういう話に持っていく所はイッチーだよねぇ」

ツリーへの話題変換は単純な疑問だったはずだ。
決して狙ってそうしたわけでもないのに自然とそういう事“も”考える。
これには感心も半分あるが15歳にして嗅覚が鋭すぎると呆れも半分のミューヒ。
“普段”ですら思考の半分が『世界の脅迫者』目線になっていると感じていた。
だが、それはもう彼にとっては当たり前の話になっているのだが。

「ほ、補足しよう!」

彼女の感心と呆れによるわずかな沈黙をどう取ったのか。
起き上がったヴェルナーは今がチャンスだと“補足”を始めた。

「じつはその手の問題は異世界公開の14年度前後に完成や着工した施設、
 特に交流で影響を受ける可能性のある公共事業や大型施設全般で起こってる。
 それこそ、世界中……つまりは地球中でね」

地球の国際的な話ならこちらの独壇場と踏んで彼が提示した話題。
ガレストの技術を取り入れた場合、作る必要の薄い施設がいくつかあったという。
それに、ほう、と感心気味にシンイチが興味を示したのを見て小さく拳を握る。
だが。

「そしてそれは、何故そんな微妙な時期に作ったのだ、と世間の非難を呼んだ」

「え、サランド先生?」

強面の歴史教師が自分の得意分野(陰謀論)の匂いを嗅ぎ付けてやってきていた。
いかつい相貌が笑みを浮かべるがどことなく相手に畏怖を覚えさせる代物。
本人はただ楽しんでいるだけなのだが知らないと通報したくなるレベルの凶悪さ。
慣れていたシンイチ以外は若干その顔に引いてしまい、会話の機先は
彼に制されてしまうことに。

「それが当時の各国政権に少なくないダメージを与えたという。
 未だ厳密にどういった経緯で異世界公開が決定したのかが公表されて無いため、
 人々の大半がその過程をきな臭い方面に憶測したのが原因といわれる」

「ま、また説明役を取られた!?」

一方で再度崩れ落ちた彼の姿は哀愁を誘うがシンイチはあえて無視する。
サランド教諭の話の方が─少々信憑性に欠けるが─興味をひかれたからである。

「まず、政府が目先の利益優先で計画見直しや干渉をしなかった説が濃厚だ。
 もちろん否定はされているが一般的にはそうだろうと思われている」

「ヒトって陰謀とか横領とか癒着とか非難するくせにわりと好きですよね」

とくにあなたとか、という言葉を呑み込んでシンイチは相槌を打つ。
彼の話す陰謀論は荒唐無稽なモノかじつにありがちな内容が多いがそういった話が
生まれた背景を考察するのは決して無駄にはならないと彼は経験上知っていた。

「他にもガレスト側が強引に話を推し進めたから対応が間に合わなかった、とか。
 政府の交流への妙な熱心さにはちょっと不信感もあったからそういう噂も流れた」

「へぇ」

だからか感心しつつもただの噂として興味薄く脳内で記録する。
これらの場合は話そのものより皆にどうしてそう思われたか。あるいは
決定への経緯が不明なことが最も強い陰謀の匂いを感じさせている。
果たしてそこに“何かが”あったのか。それとも“あったと思わせたい”のか。
どちらにせよここでいくら推測しても分かる話でもないが。

「それ以外にも色々あるが個人的に一番面白いと思うのは今の国連事務総長が
 ぎりぎりまで公開の件を自分の所で止めて知らせなかった、という噂だ」

「こ、国連事務総長?
 なんでそこでそんな人物が出てくるんですか先生?」

だが予想だにしていなかった肩書きの登場に彼は訝しげな表情を浮かべた。
国際連合事務局の代表であるが権限が無いといわれるだけに何かが出来るという
イメージがどうにもシンイチの中でまったく形成されていなかったのだ。

「今の国連事務総長は君が漂流した後に任命された初の女性事務総長でね。
 これまでが嘘のような強い発言力と影響力があるといわれているんだが、
 この一件で世論の非難を誘発させて当時の各国政権へ攻撃をしたという噂がある。
 現在の権力もその後誕生した各国の現政権と繋がりがあるからでは、という噂だ」

「噂ばっかりですね」

どうしてか全く関知してない情報ではあったがありきたりな話でもある。
頭ごなしに否定できるほどではないがすんなりとは受け入れ難い胡散臭さもある。
されどそれに首を振ったのはしがみついたままのミューヒと落ちていた彼だった。

「でも彼女──エヴァ・クルス・リナルディはそう思わせる力がある。
 当時はまだ極秘だったガレストとの外交の責任者だったのだけど、
 公開後一気に総長まで上り詰めて今もその権力を維持する女傑よ」

「……俺も彼女の真偽不明の噂は色々と聞く。
 もうお婆ちゃんっていう年齢なのに凄まじい行動力を発揮し、
 誰にも有無を言わせない強権を遠慮なく使う人物だって有名さ。
 でも比較的親ガレスト派で交流を平和的に進ませた地球側の立役者でもある」

それゆえに内外に敵も多く、実績はあるが評価は二分されている、とも。
国家とテロリスト、双方のスパイの情報に目を細めて脳内のメモにその名を記す。
前回の事件中に世界中の情報を洗った時には引っかからなかった点も含めて。

「なるほど、勉強になるな……リナルディ国連事務総長か。
 お飾りの組織や立場だと思ってたんだがな、あれ」

「ボクはイッチー相手だと何でもお飾りになってしまう気がするんだけど?」

「あははは……なんのことやら」

いつもの笑みと共にそう指摘されると苦笑するしかなかった。
同時に展望台からの光景を眺めながら自身の不手際に内心で舌打ちする。
偶発的に手にした魔力ハッキング以外での情報収集が不足している、と。
存外に便利であったために頼り切っているが既にいくつか弱点も露呈していた。
感覚的な情報で検索や捜査が出来る点は非常に便利だが感覚的にすら
全く情報がない事柄について自動的にも引っかかるという事ができない。
しかも無意識の思い込みの影響も受けるらしく国連という組織への期待値が
低かったシンイチは今の事務総長の名前や性別すら把握していなかった。
またネット上あるいは電子機器内にそもそも無い情報には完全にお手上げとなる。
それらの穴埋めする別の情報源が望まれる。シンイチが腕にしがみつく彼女に
脅迫という名の休戦を申し出た背景にはそういう事情もあるにはあった。
一番の理由は以前彼女に最後に語ったのが本音ではあるが。

「……メッキなのがバレる前になんとかしたいよ、ホント」

ミューヒは何でもお飾りにすると評したが彼の中でその力は全て鍍金(メッキ)だ。
彼自身に根差すモノも彼自身が積み上げたモノも無いためそうとしか見えない。
そんな飾りの力で皆をお飾りにするとは滑稽で皮肉が聞いていると胸中で笑う。
あれだけのことが出来る力を持っていて何を、と思うかもしれない。
どんなもので力は力。使って得た成果があるならそれは使い手の物。
そんな考えも理解しているがそう考えるには手にした経緯が真っ当ではない。
村一つ滅ぼし友を殺し初恋相手を死なせた原因の力をそう割り切れるような
器用で要領のいい性格を彼はしていない。だからこそ使わない事もできないのだから。
あるいは邪神の力を人助けや世直しに使うという最大級の嫌がらせかもしれないが。
そもそもそれ以前にシンイチという少年ではその鍍金すらうまく──

「──イッチー、なに?」

「あ、いや、なんでも」

内容は解らずとも疲れたような呟きには気付いたのか。
小首を傾げる仕草は自然で思わず彼は微笑を浮かべていた。
桜色のショートヘアがさらりと揺れ、大きな瞳が彼を見上げている。
何気なくシンイチは空いている方の手でそこにある狐耳を優しく撫でた。
なんとなく、たいして理由もなく、そうしたくなってしまったのだ。
疲れているな、と自己診断するがその手を止めらなかった。

「ふにゃっ!? イッチーちょっ、まっ! んっ、あ、そこっ……んぅっ!?」

「……キュ、キュイ」

触れるか触れないかの繊細なタッチからの大胆なまでの激しく的確な愛撫。
じつに慣れた彼の手つきは触れられるのに慣れてない彼女には劇物に近い。
頭上のヨーコはそれを知る先輩であるためか微苦笑を浮かべている。

「んっ、やっ、ぁ……こらっ、そっ、ダメ、んんっ……あんっ」

捕まえる、から何かを堪えるように、しがみつく、に変更して唇を噛む。
くすぐったいのに抗えない中毒性と気を抜けば腰が抜けそうな甘美さ。
閉じた口から漏れ出る声は完全に余裕をなくして、どこか艶っぽい。
そしてそれを行うシンイチの表情はじつに楽しげで、凶悪だ。

「………サランド先生、これは不純異性交遊という奴では?」

「私にはネコの喉を撫でているだけのように感じるが?」

果たしてそれは異性に対するものか愛玩動物に向けるものか。
怪しむヴェルナーを余所に止めるべき教諭は呑気にそう考えていた。
結局止める者もおらず彼女自身も抵抗できないまま彼は彼女を堪能する。

「あっ、やっ、だめっ……イ、イッチー、もうっ許してぇ」

たまらずそう叫ぶが力無い声は弱々しい。
頬は何によるものか赤く染まり、瞳は潤んで泣き出しそうである。
小柄で愛らしい容姿と合わさって庇護欲を刺激される姿に彼は──

「…………そういわれるともっとしたくなるな」

「お、鬼っ!」

──凶悪な笑みをより深めるという通常運転を見せた。
それでも彼女が腕を放さないでいるのはそうして寄りかかっていないと
うまく力の入らない足元から崩れ落ちてしまいそうな予感があるからだ。
シンイチはそれを分かっていてしたり顔で笑っているのだ。悪党である。

「………なんだろう、今こそあのセリフを言わなければならない気がする」

そのある種イチャついてるようにも見える光景に妙な使命感がわくヴェルナー。
日本のサブカルチャー好きでも彼個人としては好きではなかったその言葉だが
今ならきっと言えると彼は妙にそれを爆発(・・)させたい気分だった。

「おのれリアっ」
「あ、もうバスの出発時間なんだった。君らを呼びに来たのを忘れてた」

そこに被せるように“いま思い出した”とサランド教諭はあっさりと語る。
また邪魔されたと崩れ落ちた男子を余所に腕を組んでいる男女は唖然とした。
同時にこの教師が陰謀論を語りだすと他を忘れて軽く暴走するのを思い出す。

「「ちょっ、それ早く言って!!」」

妙に息ぴったりな動きでサランド教諭に詰め寄ると彼等は異口同音に叫んでいた。
さすがに自らの落ち度ゆえか教諭は申し訳なさそうな顔で沈黙するしかなかったが。

「じゅ、う……爆発、しろ…………はぁ」

ただその後ろでヴェルナーが定型文的に嫉妬の声をあげるがどこか空しく響いていた。

爆発しても平気そうだな、こいつら。


あ、ちなみに筆者は生で東京タワー見たことありません!スカイもな!
(余談だがどっちにも特別な感情はない、あくまでこの世界観だとそう扱われるんじゃないかなっていう想像だかんな!)
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