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帰ってきてもファンタジー!? 作者:月見ココア

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04-44 遊ばれる少女

4並びですがこれといってなにもありません!
そしてサブタイがなんか危ないですが、何度読んでもこうとしかタイトルをつけられなかった(汗





 海上都市クトリアにある建物の構造やデザインは大別すると三種ある。
地球型と言われているものの実質は日本の法基準に則った日本型と
それとは趣の異なる機能美と低コストを最重視した簡素なガレスト型。
そしてそれらの長所や意匠を織り交ぜた混合型の三種である。
ただしどれにも共通する点として、ある一定以上の高さがない。

それはガレストのどうしようもない問題から生まれた文化ともいえた。
あの世界ではどうしても対輝獣を考えて都市を建造する必要があり、
基本的にドーム状の防御壁で全体を覆ってしまう形となる。
しかしそうなるとあまりに高い建造物はその妨げとなってしまう。
資源不足の世界ではコスト問題もバカにならない話であり、
また万が一輝獣に破壊されると破片や倒壊で周囲への被害も大きい。

そういう事情があってガレストには一定以上の高さの建造物がなく、
地球上では最も輝獣が発生するこの都市でも同じような理由で規定がある。
またこの都市は元々最初にある程度完成させてから人を迎え入れている。
そのため殆どの建物の高さは地区ごとに同程度で並んでいる事が多い。
だから、というのもおかしな話ではあるがそのことを利用して
“こういうこと”にそれを使う生徒が昔から一定数存在していた。

「やっちゃったっ! 遅れる!」

栗色のポニーテールをなびかせながら走る人影がある。
慣れた道を、されど慌てた様子で制服姿の彼女は必死で駆けている。
尤もいま彼女が駆けている所を『道』と呼んでいいのかは悩む所ではある。
なにせ──────建物の屋上だ。

ほぼ同程度の高さの建物が並んでいるがゆえにクトリアでは、
地面の道路とは別に建物を繋いだ形で別の道が出来ていたのだ。
これにより目的地によっては建物の上を跳んで走った方が最短距離で
移動する事が可能となり、急ぐ生徒がよく利用する道にもなっていた。
無論建物同士の間はいくらか離れており、屋上にフェンスのある所も珍しくない。
しかしその程度の障害物は学園生徒にとっては走破の妨げにはならない。

「見えた! なんとか間に合うかも!」

彼女(トモエ)もいくつもの建物の隙間とフェンスを跳び越え進んでいた。
目的地が視界に入ってきた安堵からかついそんな言葉をもらす。
退院した友達の様子を見に行った彼女はついその友人と話し込んでしまった。
約束の時間が迫っていることに気付いて慌てた彼女は屋上を走っていた。
件の友達が知れば渋い顔で「目の前でやったら取り締まるわよ」というだろう。
半ば公然と黙認されていたが学園としては一応禁止している行為である。

「よしっ、ギリギリセー、っ!?」

心の中で友人風紀委員に謝りながら最後の屋上を蹴って跳ぼうとした瞬間。
目的地が直前まで迫っての油断か。時刻確認しようと意識をずらしたせいか。
とにもかくにもトモエはそこへ跳びこむためのその最後の一歩が滑った(・・・)

「え、あ、うそっ!?」

屋上の縁にかけた足が積もっていた落ち葉のゴミを踏んで滑ってしまう。
そんなギャグ漫画のような事を本当にやってしまった彼女は宙に浮いた。
一瞬の浮遊感のあと重力に従って落下する体にトモエは頭が真っ白になる。
フォスタを装着してれば高層ビルの屋上からでもない限り落ちても()ケガはしない。
とはいえこの高さからなら衝撃は通る上に痛い。着地に失敗すればケガもする。
しかし彼女の能力を考えれば対応できることの範疇でもある。

「わっ、わっ、わああぁっっ!?!?」

冷静ならば、だが。彼女は突発的に起こった出来事に滅法弱かった。
より正確にいうなら直前までやっていた事とまるで関係ない事を急にできない。
約束に遅れそうだからと急いで走っていた彼女は突然落下した自分を、
どうすべきなのかという思考が生まれず、頭が働かなかった。

「───っ!」

だから出来たのは体に染みつかせた防御行動。
縮こまるように体を丸めて、衝撃に怯えるように目を瞑る。
そしてその次の瞬間には拍子抜けするほど(・・・・・・・・)軽い(・・)衝撃(・・)が彼女を襲った。

「………あれ?」

バリア越しでも妙な感触に恐る恐る目を開いた彼女は再度頭が真っ白となる。
あまりに予想外なモノが、最近見慣れたといえる距離にあったのだ。

「え───?」

「お前はどうしてそう俺の腕に収まりに来るかね?」

日本人らしい黒髪と濃褐色の瞳のどこにでもいそうな相貌の少年が
呆れながらも「まあ役得だけど」と両腕に抱えた少女の感触を楽しむ。
肩と両足は抱えられて少女の顔は少年の胸元や顔に近い位置にある。
自らの全てを持ち上げられ、支えられ、何もかもが近い体勢。
正式名称・横抱き。俗称・お姫様抱っこ。

「うわぁ、わたしこれ生で初めて見たかも」

「あららトモエったら真っ赤になっちゃってる」

「へへっ、撮っちゃおうっと」

それをばっちりと目撃するトモエからすればよく知る少女が三名。
通算5回目で全て同一人物(シンイチ)によるものだがこれに彼女は慣れてなどいない。
そこにきてのこの状況は頬を染めていた赤が顔全体に広がるほどであった。
最初とは違う意味の赤に塗り潰された彼女は、端的にいえば壊れた。

「っ、ぁ、ぁあ、ああっ……」

「うむ、なんか嫌な予感」

「……い、いやあああぁぁっっ────!!!」

諸々の許容範囲の限界を超えた少女の見事なアッパーカットが炸裂した。







「ああ痛い、助けた相手に、殴られて」

五・七・五。
川柳染みた言葉と共に顔をさすりながら“小太刀”を振るうシンイチ。
尤も既に治療されたその顔に痣らしい痣はまるで残ってないが。

「だ、だからごめんって!」

思い出しか羞恥か反省か。
全部で頬を赤に染めながら“長剣”で受けるトモエ。
自分が一方的に悪い自覚があるため平謝りしながら小太刀をいなして踏み込む。
されど戻ってきた小太刀に容易く弾かれて歯噛みしながら少女は下がる。

「しかも、足元を疎かにして滑って落ちただと?
 注意一秒、怪我一生って言葉知ってるか元・重傷患者」

「うっ、あたっ!? このっ!」

痛い所を言葉でつかれ、生まれた隙に小太刀の先端が腕に当たる。
意識を切り替えてポニーテールを揺らしながら長剣の切り上げを放つ。
が、跳び退った彼には紙一重で避けられてしまう。

「だいたいさ、いくら急いでて近道だからって女の子が
 スカートはいてぴょんぴょん屋上飛び越えてくるなよ……見えるぞ?」

ちらりと視線を制服姿のままで打ち合う少女の下半身へ向ける。

「うっさい! 女子生徒は大抵スパッツはいてるのよ!」

だから見られても問題ないと言い返したが予想外に強い声が返る。

「馬鹿者っ、そっちがいいっていう男もいるんだぞ!」

「なんの心配をしてるのよあんた!?」

軽快な音を立てながら片手の小太刀と両手の長剣が剣舞を披露する。
ややトモエが劣勢で何度かヒットされているが剣捌きは速く、美しい。
だがそれを最小限の動きでいなすシンイチの優勢は変わらない。
見事としかいいようのない打ち合いに観客三名は息を呑んでいる。
同時に行われている会話の方は少し、アレ、ではあるが。

「というか、ああいうのってレギンスっていうじゃないのか?」

「いつの時代の話よそれ。
 今はファッション用とスポーツ用で完全に呼び分けてるのよ」

おしゃれ用はレギンス、運動用はスパッツと定義された2022年の6月。
これにはシンイチも少しむっとした表情を浮かべて吠えざるを得ない。

「呼び名をコロコロと変えやがって! 統一しろ、ついていけん!!」

「あたしに文句をいうな!」

筋違いだと叫びながらの突貫を体を開いた彼に軽々と避けられる。
大きく踏み込んだトモエは隙だらけで視界の隅で振り下ろされる小太刀。
彼女は勢いをそのままに前に転がるように避けると距離を取る。
見ればシンイチは余裕ぶった表情を浮かべて小太刀を肩に預けていた。

「くぅっ、隙ありと思ったのに!」

「そう見せただけだ単純娘。そしてお前は隙だらけだな。
 まあ確かにスパッツはいてたのは確認できたから安心したがな」

「へ…かく、にん? あっ!」

一瞬言葉の意味をとりあぐねた彼女だが即座に理解して頬を染める。
咄嗟に若干乱れていたスカートの裾を押さえてしまうのは女の子の本能。
どうやら回避しようと前転もどきをした時に目撃されてしまったようだ。
しかし見えても問題ない事と見せてしまった事は別の問題なのである。
主に女としての諸々の慎みやら沽券やらプライド的に。

「くくっ、問題ないんじゃなかったのか?」

それが分かっていておかしそうに笑いながら小太刀で襲うシンイチ。
出遅れたトモエは羞恥とからかいへの怒りが入り混じった顔で
睨み付けながらそれに対して防戦一方の状態になっていた。

「しかしやっぱりお前はそこが戦いにおいては短所だな。
 戦闘中だけでも抑えられるように矯正、もとい調教してやらないとな」

「ちょっ、ちょうきょっ!? なんでそっちに言い直したのよ!!」

「そんなのお前を動揺させるために決まってるだ、ろ!」

「あ、っ!?」

狙い通り動揺した彼女の長剣を巻き取るように小太刀でさらう。
まるで手品のように得物が手元から弾かれ、トモエが驚いた時にはもう
逆手に持ち替えたシンイチの小太刀の柄頭がその顔に突きつけられていた。

「試合とはいえ、敵の言葉をマジに受け取るんじゃない。たわけ。
 そもそも、調教、という言葉に変な意味はない……何を想像したのやら」

そして一転して感情の無い声でその失態を責めつつ、やはりからかう。
己が武器が手元から離れ、相手の武器が目の前。実戦ならば彼女の負け。
それが解っているのかトモエは赤くも苦々しい顔をして、されどにやりと笑う。

「………スポーツチャンバラ(・・・・・・・・・)で柄での攻撃は反則よ」

「え、マジ!?」

知らなかったと愕然となるシンイチであった。
お前が動揺してどうするとトモエはツッコミを入れたかったが、
そうでありながら隙のない彼にヤブヘビの予感がして、結局黙り込んだ。

彼らがやっていたのは実戦でも訓練でもなくスポーツチャンバラの試合、もどき。
二人が使っていた武器も名前通りの武装ではなく専用のエアーソフト剣。
それでの打ち合いはまさかのシンイチの反則負けで終わった。ただし。

「トモエさ、それを言い出したらあんた何本とられてると思ってるわけ?」

「そ、それは!」

観戦してた友人からの手痛い指摘に分かりやすく狼狽えるトモエ。
一本勝負であるスポーツチャンバラでは当てられた時点で彼女の負け。
がっくりと肩を落とす彼女を慰めるように彼はその頭をポンポンと叩く。
エアーソフト剣で。

「いい音するなぁ」

「あたしの頭は木魚か!」

訂正、全力で遊んでいるシンイチであった。
これには正真正銘怒りから顔を真っ赤にして怒鳴る彼女であるが、
その反応こそが面白いと彼は笑みをこぼしながら形ばかりの謝罪をするだけ。
それに余計にヒートアップしていくが完全に暖簾に腕押し状態であった。
二人のそんな様子に思わずといったように友人たちは笑みをこぼす。

「な、なによ?」

「別に。なんか楽しそうだなって」

「どこがよ!?」

即座に否定する声はされど盛大にスルーされて彼女らの興味はシンイチへ。

「けどすごいのね、えっとナカムラくん?」

「呼び捨てでいいですよ。
 みなさん2年生みたいですから俺の方が後輩ですし」

「……うん、わかったよナカムラ───けど、トモエはうちらの中じゃ
 一番強くて速いのに全然相手にならないなんて、強いのね」

一瞬の戸惑いの後に彼に向かう純粋な疑問の目。
しかしそこには強さへの貪欲さを秘めた三対の瞳が隠れている。
シンイチは内心でその態度に感心しながら当たり障りない言葉でかわす。

「学園の授業ならともかく、こちらでは少し覚えがありましたので」

「へえ、そうなんだ。なにか習ってたの?」

「いえ、単なる趣味みたいなものですよ。
 独学だったので今みたいにルール違反をしてしまうんです」

困ってます、と。
嘘でもなければ本当でもないことでの誤魔化しは慣れたものである。
ただトモエだけが、お前誰だ、といわんばかりの顔で彼を見ていた。
丁寧な言葉と態度で応対しているその姿は彼女には衝撃的であったのだ。
それに気付いたシンイチは少々眉根を寄せて視線に反論する。

「………巴、言いたいことはわかるがな。
 俺だってこれぐらいの受け答えはできる……ずっとは無理だが」

「あのね、信一。
 それはできるっていわない。取り繕ってる、っていうの」

「くっ、否定できる要素が何一つない!」

「頑張って何か一つぐらい作りなさいよ……」

誰に対しても傍若無人ではなかったのは安心したトモエであるが
それが続かないと自己申告されてしまっては苦言を呈したくなる。

「……下の名前で呼び合う仲」

「……かなり親しげな雰囲気」

「……私らと態度違う」

一方で“これはそういうことか?”と邪推しだす友人たちである。
そして三人は互いに顔を見合わせるとこれは面白そうだと笑みを浮かべた。

「はいはい、しつもーん!
 ナカムラとトモエってどんな関係なの?」

「どこまでいったんですか?」

「ぶっちゃけ馴れ初めは?」

三人がそれぞれエアーソフト剣の柄をマイク代わりに芸能記者ばりに詰め寄る。
それにギョッとしたのはされたシンイチではなく横のトモエの方であった。

「な、馴れ初めってなんでそんな話に!?」

「ええ、それは数日前のことです。
 彼女の方から猛烈なアタックをされてしまいまして」

「うえへっ!?」

その言葉に狼狽える彼女と違い、静かに笑みを携えて冷静に答える少年。
これにさらに目を見開いて驚いてしまったトモエは変な悲鳴をあげた。

「ちょっ、信一あんたなにいって!?」

されどそんな叫びは誰にも聞いてもらえず疑似囲み取材は続く。

「ほうほうそれで?」

「その後別の男に絡まれまして、それを協力して排除したのがきっかけです」

「おおっ、なんか王道っぽい!」

「なにが!? ねえ、なにが!?」

「それから色々ありまして、何度か抱き合うような仲に」

「わあ、大人の階段のぼっちゃったんだぁ!」

とのことですがあなたのご意見は?
とでもいいたげにやっとトモエにマイクを向ける三人だけがその顔は
ニヤニヤとした物で遊ぶ気満々のそれにさすがに額に青筋が浮かぶ。

「昇ってない! そんなことしてない!
 あんたたちさっきから何を聞いてるのよ!?
 信一もデタラメ言って遊ばないで!!」

「………デタラメか? 本当に?」

感情を爆発させた彼女にしかし彼は静かにやれやれといった風に肩を竦めて言う。
まるで間違っているのはそっちだろうといいたげな雰囲気にトモエも戸惑う。

「え、そんなの決ま、って………あれ?」

だから彼女は初めて出会ってからの一連の流れを思い返す。
操られた状態だったとはいえ最初はいきなり攻撃(アタック)し襲い掛かった。
別の男(リョウ)に襲われた所を一緒になって迎撃し、何度も抱き合った(お姫様抱っこ)

「う、うそっ………なんにも、間違って、ない? そんなバカな!?」

語れない部分が多分にあり彼が意図的にそういう言い方にしたとはいえ、
シンイチの表現は確かに間違ってはおらず、事実を語っているのである。
その衝撃と語れる部分でその誤解を解くのが難しい事に愕然となるトモエだ。
これからそう説明するしかないのかとその場に崩れ落ちてしまう。

「まあ、実際は色々誇張して誤解を招く言い方してるんで今のは忘れてください」

だが、そんな彼女の一連の様子を堪能した少年はあっさりと発言を撤回する。

「おっけー、おっけー、わかってるって。
 トモエはからかうと面白いし本当にそうなったら解りやすい子だからね」

そして何もいわずとも最初からわかっていた友人たちである。
これにはシンイチも一瞬瞠目するがすぐに彼女たちと無言で握手をした。
曰く、これからもこいつで遊びましょう、もちろんよ、と。

「あ、あんたたちねぇ!」

尤もそんなことを目の前でやられてはトモエも黙ってなどいられない。

「わっ、部長が怒った! 彼氏さんなだめてなだめて!」

「まだそれ続けるか!!」

いい加減にしろ、と。
エアーソフトの長剣を構えて飛び掛からんとしたトモエは、しかし。
不意にその動きを止めるとちらりとシンイチを見て続いて彼女らを見た。
にやり。

「……部長命令よ。
 こいつと一対多で戦いなさい。信一、ボコボコにしなさい」

「…………俺は罰ゲームか何かか?」

「あたしも加わるわ。訓練にもなるしふざける余裕をなくす程度でいい」

「だそうだが、あんたらは……」

最終確認だと問いかければ嬉しそうな顔でもう全員が構えていた。
エアーソフト剣の小太刀の二刀に槍と杖というそれぞれ異種な武器で。

「トモエとの試合見ててちょっとやってみたかったのよね!」

「一対一は厳しいけどこれなら!」

「四対一とか初めてだよ!」

この学園で1年揉まれた彼女らは少なからず武人っぽい思考をしていた。
強敵と戦えるということで一種の高揚感を覚えて目を輝かせている。
思わず面食らった彼は視線をトモエに戻すが彼女も長剣を構えていた。

「行くわよ!」

「おいこらせめてきちんと並んでからっ」

「問答無用! 女の子を辱めて喜ぶ男に天誅くだしてくれる!」

「そっちが本音かお前!?」

一斉に飛び掛かる彼女達相手に彼は小太刀一本の孤独な戦いを強いられた。





さて、ガレスト学園に『部活動』というものはない。
そこに時間を割くより勉強と鍛錬に使うべきという考えからだ。
教育方法の大元にあるガレスト側にその概念が無かったともいうべきだが。
実際、一般的なそれらのように放課後を使うとここでは成績に影響が出る。
また外部とあまり交流を持てない場所なため何の部活でも校外での活動は難しい。
しかし勉強と鍛錬ばかりというのが大多数の生徒の出身国である日本側から
問題視された結果、自己責任と個人の趣味の範囲で『同好会』は認められた。

そして開校から8年、その同好会は大まかにいえば二極化していた。
同校生との交流の場や息抜きの一つとしての遊びの側面が強い同好会と
鍛錬の延長線上で地球の様々な武術や格闘技などを学び、実践する同好会だ。
彼女らは前者寄りの後者である女子スポーツチャンバラ同好会のメンバー。
トモエを含めた四人が基本でそこに何名かの女子がいたりいなかったり。
厳密な部活動ではないため複数のかけもちや参加・不参加が自由なのだ。

彼女らがこの競技を選んだのはルールが複雑ではなく実戦形式に近いから。
放課後集まった彼女らは試合形式で打ち合ってその勘を鍛えていたのだ。
それゆえか四人とも得物を使った近接戦闘ではそれなりに評価は高い。
されど。

「ぜーはー、ぜーはー……しくじったわ」

「はぁ、はぁ、なにがよ部長」

「あいつ一対多の方が得意なんだった……」

「うへぇっ、それ先に言ってよぉ」

「もう背中に目があるレベルだったよあれ」

その四人はいま主な集合場所であった運動公園の広場で倒れ伏していた。
荒い息を吐きながら彼女らは汗ぐっしょりの様相で一歩も動けないでいる。
さもありなん。シンイチに返り討ちにあったのである。途中までは
当てられるごとに下がっていた彼女らだったのだが熱が入ったのか。
もはやルール無視でどっちが根を上げるかのような勝負になっていた。
そうなると最終的に彼女らの方の体力が先に尽きてしまったのだ。

「ううっ、悔しい! 一回も当てられなかったなんて!」

「最小限の動きで躱す。
 なんてこと本当にやられるとたまったもんじゃないわね」

まるで目測を誤ったかと思う動きで文字通り我が目を疑った。
その時のことを思い出したのかトモエが悔しげに唇をゆがめる。

「あの女の敵め、黙ってボコボコにされなさいよ!」

己の手足だけを暴れさせて不満を訴える彼女である。
しかし即座にあることに思い至って上体を起こすと皆の顔を見た。

「女の敵?
 あっ、ねえ、あたしが来る前にあいつになんかされたりしなかった?
 からかわれたり、抱き上げられたり、無理難題押し付けられたり!」

トモエ自身その例題をどうかと思っている。が。
彼女自身の受けた扱いを考えるにそれ以外に表現しようがない。
一方で彼女らは寝転んだまま視線を合わせて少し戸惑った表情を浮かべる。

「それってさっきあんたをからかったみたいな感じ? ぜーんぜん」

「むしろ何もしてなかったよ。
 トモエがいるかどうか聞かれたから、まだ来てないっていったら
 それじゃ待ってるって隅っこの方でこっちに背向けて座ってた」

「無愛想ではあったけど丁寧な感じだったからそこは驚いたけどね。
 まあ、トモエが来てからの態度の方が色々びっくりしたけど」

思わず焦ってしまった彼女だが拍子抜けするほど彼は何もしていなかった。
安堵すると共にならばなぜ自分はあんな扱いなのかと納得がいかなくなるが。

「ふーん、そう。一応あいつも気を使ったのかな?
 けどなら少しぐらいはあたしにも気を使えってのよ、横暴なんだから」

そんな感情もあってか恨みがましい口調で思わずそんな言葉をこぼす。
“本人がいない”のをいいことについ忠告のていで愚痴るトモエだ。

「まあ、あいつに弄ばれる被害者が増えなくて良かったけどね。
 気を付けてよ、あいつ人畜無害そうな顔して絶対女癖悪いんだから」

「あ」

「……誰が女癖悪いって?」

「もちろん信一よ。
 あいつあの歳で妙に女慣れしてるのよ、絶対影で何人も泣かせ……え?」

いないはずの男の声が背後から聞こえた。
それに思わず振り返りかけた彼女の首にナニカが押し当てられた。途端。

「ひゃんっ!?」

奇妙な声をあげてつい跳びあがってしまったトモエである。
首筋から周囲にひやりとした感触が一気に広がって全身が思わず反応したのだ。
見れば、してやったりな顔で冷えた缶飲料を持っているシンイチがいた。

「ひゃん、だって。くくっ、随分とかわいく鳴くじゃないか」

「こ、こっ、このっ! こいつ、また! くぅっ!」

陰口を聞かれ、背後を取られ、その上で妙な声も聞かれたトモエは
驚きと羞恥で言葉が出てこず口を無意味に何度も開閉させるだけだ。
その裏で彼女の友人たちは苦笑を浮かべている。

「後ろから冷えた缶ジュース押し付けるとか。
 また生で初めて見たよ、それ」

「なるほど。だから、女癖が悪い、ってわけ」

「そういいたくなるよね、この感じ」

友人が完全に遊ばれているのを観察しながら納得という感想を抱く。
どことなく女の子のからかい方を心得ているような雰囲気を彼は持っていた。

「女癖が悪いとはずいぶんだな……ろくでもない男なのは認めるけど」

「……そこはあっさりと認めるのね、あんた」

「事実だからな、ほれ」

「わっ、ちょっ、こらいきなり!」

投げられた缶飲料を慌てて受け取る。某有名企業のスポーツドリンクだ。
突然だったことに文句をいうも彼は流して未だ寝転ぶ三人に近寄る。

「皆さんもどうぞ。
 好みが解らなかったのでスポーツ飲料を中心に色々買ってきました」

「ああ、ありがとう。助かったよ」

体を起こして礼を言いつつ各々好きな飲料を受け取る。
彼女らも体を動かしに来た以上自前で持ってきていたがあの激闘ゆえか
全く足りなかったので汗ひとつかいてない彼が自主的に買いに走ったのだ。

「ぷはぁーっ! 生き返るーーー!」

早速ごくごくと喉を鳴らして水分補給していく彼女たち。
トモエも不満たらたらながらも喉が渇いていたので黙って飲んでいた。

「ホントありがとう。いくらだった? 忘れないうちに払うよ」

そういって自身のフォスタを取り出す。
これにある所謂電子マネーは任意の金額を他者に渡す事も可能だった。
あまりに高額だと制限がかかるが缶ジュース代ぐらいなら本人の裁量だ。
しかしシンイチはその申し出に首を振る。

「いいですよ、奢ります………まあ口止め料込みになりますけど」

「口止め?」

「え、なにあんた結局悪さしたわけ?」

その予想外の言葉に訝しむ彼女らとやっぱりかという顔をするトモエ。
前者はともかく後者にはすさまじく文句を言いたい気分となる。が。

「違う、と言い切れない辺りが悲しいな。
 俺と巴に付き合いがあること、周囲には黙っていてほしい。
 特に、よ……風紀委員には伝えないでくれるとありがたいのですが……」

この点に関して自分に落ち度(悪さ)がないのかというとそうは思えない。
ゆえに渋い表情を浮かべながらシンイチはそんな口止めを頼んでいた。
彼の評価や噂からどの風紀委員のことなのか彼女らは理解したのだろう。
どこか納得したような顔を浮かべている。

「ああ確かに。知られると厄介なことになりそう」

「ヨウコは荒れちゃうかも?」

「ありえる……って、ああ入院してたトモエは知らないんだっけ?」

けれどそういう状態だった彼女は知らないのだろうと説明しかけた友人に
トモエは首を振って、その青い瞳を真っ直ぐにシンイチに向けると頷いた。

「わかった。出来る限り隠す。知られないように努力する。
 いまは何も聞かないでそうするのが一番いいんでしょう?」

「…………おまえ、なにを」

本当なら一番事情を知らない彼女がまるで真実を知ってるかのように語る。
一際驚いた顔をした彼は鋭い視線を向けるが彼女は困ったように苦笑するだけ。
その視線の交錯を周囲はどう受け取ったのか。慌てたように空気を変えた。

「でっ、でもそれならちょっと口止め料安くない?」

「そ、そうよね! けっこう大変そうだし!」

「もうちょっと何かおまけしてくれても……」

険悪な雰囲気と受け取ったがゆえの強引な話題変換。
気遣ってくれたのは察したがその内容にトモエは渋面である。

「あんたたちねぇ」

それは少し欲張りな要求ではないかと睨む彼女を余所に。

「無論、それだけのつもりはありません」

「え?」

「これを進呈させてもらいます」

彼は当然のようにどこからともなくソレを出した。
その手にはそれ系の店でよく見かける紙製の組み立て式の箱。
一瞬何かと思った彼女らだが側面に書かれた店名を見て目の色を変えた。

「それもしかして最近噂のアヴィスのスイーツ!?」

「ええ、店長と少し付き合いがあるんです。
 目玉商品の限定シュークリームをいくつか都合してもらえたので、どうぞ」

「え、あの一日100個限定の!?」

その言葉にますます目の色を変えた三人は奪うように箱を受け取った。
そして中身を確認するとその目を今度はきらきらと輝かせて感嘆の声をあげる。

「うわぁっ、本物だぁ!」

「授業があるから絶対食べられないと思ってたの私!」

「うん! ってこれ本当にもらっていいの?」

「さっき言ったことを守ってもらえるなら」

その条件に彼女らは首が飛んでいくのではないかという勢いで縦に振った。
それでシンイチの了承を得た三名は一気にシュークリームにかぶりつく。
途端に幸せそうな恍惚の表情を浮かべる彼女らを尻目にトモエは
明らかにいいように動かされた友人たちの姿に頭を抱える。

「……そんなんだから女癖が悪いって言いたくなるのよ」

「失敬な、こんなものはありきたりな交渉術だろうに」

相手の望む物をあらかじめ用意しておき、最初はそこそこの物を渡す。
相手がそれ以上を望んだ時にすかさずそれを出して要求を呑ませる。
彼のやったことはいってしまえばそれだけの話。なのだが。

「あんたが女の子相手にやるとそう見えるって話よ」

「偏見だ……と言いたい所だが、否定できる要素が少ないのが悔しい。
 悔しいから、急がないとお前の分まで食べられそうなのは黙っていよう」

にやりと意味深な顔でそんなことを口にすればトモエはハッとする。

「え、あ、こら! あんたたちあたしの分!」

文句は言いつつも彼女もまたスイーツ好きの女の子。
ましてや話題の限定品となればトモエだって食べてみたい欲求はある。
彼女らの中に割って入ると自らの分を確保して即座に味わって頬を緩めた。
頬が落ちるといわんばかりの表情を見て、シンイチは人知れず笑みをこぼす。
それは彼女で遊ぶ時とは違った満ち足りてるような穏やかで優しい顔だった。

「………あ、そうだ。忘れてた」

そんな表情でしばしその光景を堪能していた彼だが、そもそもの用事を思い出す。
いきなり彼女が落ちてきた事とその理由を聞いて一度しっかりと窘めておこうと
一応の指導役としての義務感と個人的な趣味(遊び)から模擬戦を始めたのだが
興が乗った事と周囲の口止め方法を考えていて、つい失念してしまっていた。

「おい、食っててもいいから聞け、俺に何の用があったんだよお前?」

「はむはむ……え、用ってなんのこと?」

「は?
 いやシングウジがお前が話があるっていうから来たんだが……」

朝の男子寮でその話を彼から伝えられたシンイチはだから指定された場所(ここ)に来た。
だが、トモエの反応を信じるならどうやら当人の覚えはない様子だ。

「え、確かにリョウに伝言頼んだけどそんな内容じゃなかったわよ」

「……じゃあなにか?
 あいつわざわざ伝言を伝えずに俺にお前に会えと伝えたのか?
 それなんていう二度手間だよ……何考えてんだシングウジの奴」

「そういえば伝言頼んだ時も直接会って言えってしつこかったっけ。
 なんだったらオレが寮から連れ出してやるから、とか言ってたけど
 それならリョウが伝えた方が早いって返したら頭抱えてたわね」

リョウの行動の意図が読めずに首を傾げる二人の裏で話が聞こえてしまった
三名は黙って顔を寄せ合うと意味深に見つめ合って小さな声で呟き合う。

「今の話ってもしかしてさ」

「うん、ナカムラにトモエ押し付ける気かなシングウジ?」

「かもね、彼よりはうまくコントロールはできそうだし」

友人として彼女のリョウへの態度をいくらか知るためそう推測した。
彼女は頭に血が上ると“些か”冷静さがなくなってしまうという短所がある。
それは友人らでも止められず、幼少期からの力関係で学園第三位(リョウ)も頼りにならない。
ただ見る限りそうなっても遊んで操ってしまいそうな雰囲気が(シンイチ)にはある。

「その点は問題なくてもさ、よりにもよってあのナカムラだよ?」

「噂よりはまともっぽいけど噂が消えたわけじゃないし……」

しかしその押し付け先が学園では彼以上に評判の悪いシンイチなのは
今しがたの態度を見ている彼女らでも少し受け入れがたい所がある。
本人同士が良好な関係でも外からの目が否定的であれば苦しいものだ。
自身の悪評(ソレ)を理解しているからこその口止めでもあるのだろうが。

「まあ、そっちは後で本人に聞けばいいか。
 それで結局伝言ってなんだったんだ……ここで聞いていい類か?」

友人たちが彼女を想って考える裏でシンイチは疑問を後回しにして問う。
最後だけトモエだけに聞こえるように呟くが彼女は気にした風もなく頷く。

「みんな知ってることだから。それに単に今夜少し付き合ってほしいだけなのよ」

「…………は?」

なんでもないことのように語られたがその内容に少し理解に苦しむ。
思わずトモエ越しにその友人らに問いかけるような視線を送るシンイチである。
考え事をしていた彼女らもその言葉には思考を引き戻されて苦笑している。

「あはは、うん。なんかすっごく言いたいことわかる」

「他意はないんだけどたまに素で誤解を招く言い方するのよね」

「トモエって直球だから」

彼女の友人たちのどこか実感のこもった言葉に彼はなんとなく察する。
どうやら伝えるべき言葉がいくらか抜け落ちているようだ、と。

「はあ、もっと考えてから喋れ。暗がりに連れ込まれても文句いえんぞそれ」

だから脅しとからかいを込めた言葉を発するが彼女の返事は予想外なもの。

「うん、だから暗い所いくから一緒に来てって言ってるのよ?」

当然のことのようにそう告げられてさすがの彼も思わず頭を抱えた。
言葉の表側の意味だけで会話していることに頭痛を感じ始めたのだ。
だからもう一度彼女らの方へ難しい顔で視線を送ると同じ顔で頷きが返る。
彼女らもこの無自覚さには危機意識を持ったようだ。

「わかってる。そのへんちゃんと言い含めておくわ」

「さっきからなんの話をしているのよ?」

一方で彼女にとっては当たり前の行動の“何か”のためなので
自分でいってる言葉に色んな解釈があることには気付いていない。
その辺りの指摘は友人たちに任せてシンイチは話を進めることにした。

「あとで彼女らに聞け。
 で、何が目的なんだ。夜ってことは寮の門限を超えた時間の話だろ?」

「うん。だから色々と内緒でお願い。でも定期的にやってる事なの。
 その手伝い、というか評価というか……まあ、あなたの目から見てほしいのよ」

「具体的に何をするんだ?」

濁すニュアンスでの要請にその詳しい説明を彼は求めた。
とはいえシンイチはその頼みを別段重くは考えていなかった。
いつも先んじて面倒を察する彼の勘が全く反応しなかったからだ。
だが彼女の口から出た単語に面倒ではなくとも嫌な予感がするシンイチだった。



「────お祓いよ!」


「はい?」


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