第26話 クロス逃亡劇その1
会議が始まる、周りには知らない人達が二十人くらい居て僕の方を盗み見しているのが分かる。
目線が合うと大抵の人は青ざめて目を背けた、胸が痛い手を胸に置き軽く擦っていると梓さんが大丈夫よと手を握ってくれた。
伊吹は淡々と任務の詳細や成果、今後の予想を話す。みんな手もとの資料に手を通して頷いたりしている。
「奏歌ちゃん?大丈夫か顔色が悪いぞ」
「大丈夫です、なんだか視線を感じ過ぎて」
晃志朗さんは少し悲しそうな笑顔を浮かべると、すまんなと短く静かに言った。ブンにもあまり心配はかけたくないと、膝に座っていたブンを軽く握って感触を楽しんだ。
「以上です、質問は?……無いようですね」
伊吹が質問を許さないような視線で見渡し半ば強制的に会議は終わった。
「相変わらずだな京都の連中は」
「まぁそー言うなって、前よりはマシだろ」
襖を開けて音もなく閉める梓さん以外の三人は疲れた溜め息を付き足早にその場を離れた。
伊吹は用事があると直ぐに帰ってしまったけど丁度夕飯の時間だ晃志朗さん達にご馳走になることにした。
「おまち〜ダンナァ今日のエビチリは絶品だぜぇ!」
「おお!メイド長、うまいぞ!」
居酒屋の用な部屋に来るとハイテンションなお姉さんが居て、すごい勢いで料理を作っていく周りの人達もてきぱきと作業をこなしている。
『家の中にイザカヤなる物を作っておるのか……なんという無駄遣いなのだ』
「ごめんなさい、私の趣味なの」
『いや我輩こうゆうのも好きなのだ』
晃志朗は年甲斐もなくオレンジジュースを頼んでチビチビ飲んでいる。
素早く並べられる料理は思わず涎が出そうになる中華料理の数々だ。
「木原さんお疲れさま〜席空いてる?」
「イッチャンいらっしゃい松井さんも」
聞き覚えのある声が店内?に響く然り気無く覗き見るとさっきのSPの人達だ。
「あ!晃志朗さまも来ていたんですか!」
「おう、久しぶりに夜は暇なんだよ」
世間話をしはじめた大人たちは話しに夢中だ、それにしても美味しい。
熱々の麻婆茄子が冷えるのを待っていると、梓さんが不意に笑う。
「輝とおんなじ事してるわ、輝も熱いの苦手なの……輝は元気にしてる?」
「え?はい、元気ですよ」
「そう……たまには顔だせば良いのに」
ブンの口に着いた汚れを吹きながら梓さんは残念そうに軽くため息をする。
「その……なんかすいません」
「?なに謝ってるの?……ああ…奏歌ちゃん、私は楽しいわよ輝は何でも出来ちゃうから頼ってくれないのよ、全部自分で解決してしまおうとしてるから、今回はいい薬よ」
「いい薬?」
春巻をブンの皿において上げながら梓さんは話を続ける。
「そうよ〜、輝はね軽い対人恐怖症だったりするのよだから他人と話したりするのが苦手なのそこに貴方が来た、他人からずっと逃げてた輝に貴方は逃げられない絶対の壁になってくれてるのよ」
「……はは、そうか今度は僕が夕夏なのか」
昔の僕と同じか、隼人や夕夏、春くんなんかに会わなかったら今頃は。
「あまり悩まなくてもいいわよ、輝は割りと打たれ弱いから……それにこの前引き取った子の方が重症よ」
ウーロン茶を注ぎながら梓さんは呟く、最後の方は全然聞こえなかったけどポケットの震えに気が付く。
「もしもし?」
「奏歌、クロスが逃亡した追うぞ!嫌な予感がする!」
輝の慌てた声を耳に残し、狩崎の本家の玄関を走り抜ける靴をはく時間がもどかしい。
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