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Birthday present〜キョリ〜
作:朧月



Case1.毛利蘭の場合


 絶対に、誓って言える事がある。

 オレは、蘭の為なら何だって出来る。
それこそ、あいつを守る為なら命だって惜しくない。
あいつを絶対に悲しませたくないから、あいつが落ち込んでいたら、元気付けて。
 それは、俺が生まれてきた時からの定めだったように思う。
そして、それは俺がずっと抱きつづけている誓いだ。
今までも、そしてこれからも…………



 Case1.毛利蘭の場合。



「なのに、実際はこれか……」

 俺は、自室で相変らず小さな手のひらを見て、思わずため息を零した。
敢えて、それについて悩むのも、今更だ。
けれど、それでも今日ほどこの体である事が嫌な日など無い。

 今日は、蘭の誕生日だ。
そう。工藤新一が蘭の隣に居て、祝っている筈の日。
去年も、一昨年も、あいつの誕生日は必ず側で祝ってやってたのに。
今年はそれすらも叶わないなんて。
 コナンになってから、何かある度いつも泣かせてばかりいる。
そして今回もきっと、また泣かせる事になるであろうと、俺は頭を抱えた。
もうあいつの泣き顔なんか、見たくねえのに……。

 だからと言って、これはどうしようも出来ない事実だ。
俺は重い溜息を一つ零して部屋を出て、蘭が朝食を用意しているキッチンへ向かった。
トントントン…という軽快な音が聞こえてくる。
エプロン姿の寂しい背中……孤独な背中。
こちらを振り向いて無理して明るい顔で俺に接してくる蘭の姿を思い浮かべて、
俺の口からは再び、ため息が零れた。俺は蘭の元へ行き、声を掛けた。


「蘭姉ちゃん、おはよう」
「あら、おはようコナン君。今日は早いわね」

 俺のほうを振り向いて、予想通り明るい笑顔を顔に浮かべてそう言った蘭に、俺は内心苦笑した。
無理しなくていいのによ……。心の中で呟きながら、俺は子供らしい笑顔を作って、蘭に言った。

「あの、蘭姉ちゃん? お誕生日おめでとう。これ、プレゼント」

 俺は後ろ手に隠し持っていたプレゼントを蘭に渡した。
『江戸川コナン』からのプレゼントである。
蘭は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにそれは笑顔に変わり、
その大きな目をくりくりさせながら俺に言った。

「うわぁっ! ありがとうコナン君。私の誕生日、知ってたのね。これ、開けてもいい?」
「うん、もちろんだよ」

 蘭は楽しそうに鼻歌を歌いながら、その包装紙のリボンをとって中身を確認した。
柄にも無い事をして、柄にも無いものをプレゼントしている。
恥ずかしくて、頬が熱くなった。
中身を見るなり、蘭は朝っぱらだという事も忘れ、絶叫した。

「可愛いーー!! コナン君センスいいね。凄い上手! ありがとう、とっても気に入ったよ」

蘭は上機嫌に手のひらサイズのそれを抱きしめた。

 ……さらに、恥ずかしい。

 まさかここまで喜ばれるとは思わなかった俺は、
顔を赤らめて手に抱きしめられているそれを見つめた。
そのプレゼントは、俺なりに精一杯の子供らしさを表現して、尚且つ蘭を元気付けるもの……
必死で考えた末、そこを通りかかった自分と同じ境遇の少女の一言によって、決めたものだった。
自分で言うのもなんだが、多分『工藤新一』だったら絶対に渡せないプレゼントである。

”そうしたら、喜ぶんじゃないかしら?”

 そう言って、くすっと微笑んだ彼女。
今思うと、オレが必死になっている姿に面白がっていただけの気もするが。
それを作るのに、俺がどれだけ苦労した事か……元々手先はあまり器用ではない。
何度も流血(?)しながら作ったそれは、まあオレにしては上出来ではないだろうか……?
恥ずかしい事に変わりはないが。

 蘭は、極上の笑顔で俺に微笑んだ。

「一生、大切にするからね!!」
「う……うん」

 一生大切にされるというのは、はっきり言って恥ずかしくてたまらないのだが、
これで少しは蘭を元気付けられただろうか……
そうだとしたら、『江戸川コナン』にとってこれ以上の幸せはない。

 ご機嫌麗しい様子で部屋へと向かう蘭を見ながら、
俺は今度は『工藤新一』のプレゼントをどう渡すべきか考えた。
工藤新一から、蘭にしてやれる事。

 電話は、もちろんするつもりだ。
もしかしたらあいつが余計に会いたくなるだけかも知れないけど、
それでも、声位は聞かせてやりたいと思う。
プレゼントは……

 オレはずっとそんな事を考えながら、蘭が作った朝食を食べていた。
顔を上げると、にっこりと微笑んで「美味しい?」と尋ねてくる。
その笑顔が、心から本当のものであればいい……。

 支度を終えて、俺は学校へ向かった。
通学路の途中で、蘭と別れを告げて、蘭は蘭で、園子と合流して。
学校に着くと、いつも通り少年探偵団の三人が声を掛けてきた。

「コナン君、おはよう」
「おはよう御座います、コナン君」
「よう、コナン!!」

 ニコニコと笑顔で俺の前に立つ三人。
もし、自分が本当の江戸川コナンだったら、と思う。
工藤新一は、本当に難事件の調査中で、ちゃんと元の体のままで、
オレは、最初から小学生”江戸川コナン”だったら。
そうしたら、こいつらのように。

「おう!」

 彼らに合わせるように、にっこりと笑みを作って、答えた。
わらわらと、嬉しそうに周りに群がってくる。

「ねぇっ、コナン君! あさって、空いてる?」
「あん?」

歩美の唐突な質問に首を傾げた。
光彦、元太も続いて話す。

「今三人で話してたんですよ。遊びに行きましょうって!」
「灰原も誘ってよー、5人で博士にどっか連れてってもらおうぜ!」

嬉しそうに話す二人に、小さく息をつく。
子供達のこの溢れるパワーは、羨ましい。
この常に心から幸せな笑顔が、彼女にも訪れれば、と思う。

「お前等、相変らず元気だな。」

思わず呟いた言葉に、歩美は敏感に反応した。
少し困った顔で、心配そうに俺の顔を覗き込む。

「コナン君は、元気じゃないの?」
「あ……。いや、そういうわけじゃねえんだけどよ」

俺は苦笑しながら答えた。
元気だ。元気すぎるほど……。
蘭に心配かけて、本当は一番傍に居る子供が、"工藤新一"だなんて。

「じゃあ名探偵さんは、何を考えてそんな台詞言ったのかしら?」

 後ろから突然クールな声が聞こえてきて、振り向くと、灰原が「おはよう。」と呟いた。
こいつの場合は、他の探偵団の奴と違って、俺の考えている事が大方分かっている癖に、
からかってくるのだから性質が悪い。

 灰原は「よ、よお」と返す俺を見てクスっと笑ってから、皆と朝の挨拶を交わす。
そんな灰原の方を一瞥すると、灰原もその視線に気づいたようで、こちらを怪訝な顔で見つめた。
視線で、「何?」と尋ねてきている様子が分かる。

 ……無駄だってのは分かっている。
それが出来ない事で、責められるような事でもない。
こんな事こいつに頼んだって、「無理」と言うに決まっているんだ。
そして、それはオレのためだって事も、分かっている。

 けれど、今日は。
あいつの誕生日、一年に一度きりの日。
こんな日くらいは、この願望をどうしても叶えたい。

 もし大人の身体になって、蘭に直接プレゼントを渡せたら、
俺の声であいつに祝いの言葉を言えたら、あいつを悲しませずに済むんだ。
あいつにとって、孤独なバースデーにならずに済むんだ。

 俺は、探偵団の奴等に聞こえないように、灰原の耳元でささやいた。

「なあ、解毒剤なんだけどさ……完成とか、まだだよな?」

 思い切って聞いたその答えが、俺の淡い希望を叶えるものである筈が無く……
俺の予想通り、灰原は呆れたような顔で俺を一瞥して、きっぱりと言った。

「突然何言ってるの? そんな簡単に出来たら、最初から苦労してないわよ」

 最初から分かっていた事だけど、やはり予想と違わぬ答えに、俺は落胆せずにはいられなかった。
いつも、冗談交じりに解毒剤の事を口にするけれど、今回ばかりは。
あっさり一言で、諦められるほど、単純な願いではなかった。
今日という日にまで、工藤新一が帰ってこなかったら、絶対にあいつを泣かせることになるのだから。
バレンタインの時のような、あんな悲しい張り詰めた顔は、させたくない。

「なあ、灰原……今日一日だけでいいんだ。何とかならねえか?」

 両手を顔の前で合わせて、必死でそう頼むと、灰原は先ほどよりも真面目な顔で、俺を見つめた。
さっきよりも真剣な口調で頼んだ、俺の思いが通じたのだろうか……?

「どうして……?今日って、何かあったかしら」
「誕生日なんだ、あいつの。こないだ、近いって話しただろ。
 だから。今日一日、せめてほんの少しの時間でいいから工藤新一として現れて、
 本当のオレとして、あいつの誕生日を祝ってやりたいんだ」

灰原は納得したような、それでいて何処か馬鹿にしたような笑みを口元に浮かべた。

「なるほど……彼女のため?あなたらしいわね」

皮肉っぽく言うその口調に、俺は内心むっとして、視線をそらしながらすねた声で呟いた。

「何だよ、悪いかよ…?」
「別に。いいんじゃない? 自分勝手な都合で戻りたいって我侭言うよりは」

 済ました顔でそう言った灰原が、急に真剣な顔になって俺に何か言おうと口を開きかけた時、俺と灰原の間を引き裂くように会話に入ってきたのは、光彦だった。
微かに紅く染まっている頬は、こいつが灰原を好きだっていう事と、
そんな灰原と二人で何かを話す俺が気に食わないっていう事と。
前までは、歩美歩美って追っかけてたってのに。

 ……ホント、ませてるねぇ。

光彦はそんな俺をジト目で見て、僅かに不機嫌そうな声で言った。

「何二人で仲睦まじく話してるんですか?」
「いやっ、何でもねえよ。……なあ灰原?」

 慌ててそう答えると、灰原は「ええ」と短く答えた。
光彦はまだ疑いの視線を緩めずに、「本当ですか〜?」とか言って、
俺達の顔をまじまじと眺めた。
追い詰められる犯人のような気分になりながら、「本当だって」と苦笑した。
 そこでタイミングよくチャイムが鳴り、俺たちはバラけて、俺は内心ほっとしながら、席についた。
といっても、俺と灰原の席は隣同士なのだが。
二人だけで何か話したい時には、この位置取りはとても助かると、つくづく思う。
灰原は、奴等が完全に席に着いた事を確認するなり、俺に意味深に呟いた。

「工藤君、今日博士の家に寄りなさい」
「…………?」

 一瞬断わろうと思った。なんて言っても、今日は蘭の誕生日。
蘭のためにささげる一日になる筈だったのだから。
が、断ろうとして顔を上げたときに目に映った灰原の真面目な顔に、首を傾げた。

 まあ、こいつが寄れというのだから、それは何か訳があるのだろう。
そう考えて、俺は取り敢えず了承した。
もしかしたら……とか、また淡い期待を寄せながら。
けれど、そんなわけはないと、その期待を打ち消しながら。
その日は、学校が終わるとすぐに、灰原と一緒に博士の家へと向かった。





こんにちは、朧月です。
第一話、切なく始まった蘭ちゃん編。
というか、コナンが切ないかな、今回は。
お話が進むごとに、幸せになってくると思いますので、
どうぞ最後まで、ご覧いただけますように(^^

それでは、今回もご拝読、ありがとう御座いました!!
次回は……問題なければ明日投稿することでしょう^^











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