プロローグ−始まりと最期−
初めまして、水水水と申します。小説やイラストを書いたりするのが大好きなので、思い切って投稿してみました。少しでもご興味を持って頂けたら幸いです。ブクマ、レビュー、評価等、宜しければご意見お聞かせ願います。
彼は哭いた。声をあげて哭いた。
とめどなく溢れる涙を拭おうともせず、ただただ、激情に身を任せて吠えた。両膝をついた彼の周りには、真っ赤な鮮血が一面に飛び散っている。月光に照らされ、宵闇の中で鈍く、しかし煌煌とひかりながら波打つ血溜まりの中に、一人の少女が横たわっていた。長い髪が無造作に乱れ敷かれ、血の海を揺らす。雪のように白い肌に毒々しい鮮やかな赤を身にまとった少女は、固く目を閉じ、決して動くことは無かった。だらりと無気力に投げ出された腕や、温度を失って冷たくなった身体が、彼女の生を維持するための灯火が既に失われていることを告げていた。しかしその美しく整った顔には、微かな笑みが浮かんでいた。少年はその少女の上にかがみこむようにして顔を近づけ、かすれた声で嗚咽混じりに呟いた。
「ごめん……ホントに、ごめん………。」
悲しかった。辛かった。これまで経験したことの無い程に。しかし同時に、安堵にも似た歓喜が、脳から心臓、そして全身へとゆっくり広がってゆくのを、少なからず感じていた。彼は自身の心に宿った、全く矛盾した二つの感情に吐き気を覚えながら、それでも尚泣くのを止めることができなかった。何で、どうしてこうなった、何故自分たちばかりがこんな目にーーーーーー。答えの無い疑問、というより世の中の不条理に対する憤りだけが、ひたすら頭に浮かんでは消え、また浮かんでは消えてゆくを繰り返した。一体何が起こったのか、二人の周りには無数の瓦礫やなぎ倒されたような樹々の残骸が、二人を取り囲むようにして散乱している。所々では、小規模ではあるが火の手が上がり、チラチラと辺りを照らしていた。その光景に似合わず、異様なほど静まり返った空間の中に、少年のすすり泣く声だけが微かに響いていた。
その様子を、彼らの遥か頭上から、月だけが静かに見守っていた。漆黒の海にひっそりと、しかし神々しく佇む月は、淡い光を纏いながら、じっと彼らを見ていたのだ。ちょうど十五夜で完全に陰が消えた満月は、輝くルビーよりも、優雅に香るワインよりも、そして気高い大薔薇よりも、比べられない程の真っ赤な紅に染まり、本来ならば青く光るはずの星々を、美しく赤赤と燃えさせていた。
これは、その紅色の月が照らす物語。
一人の少年と一人の少女が、
出会い、
互いに大切なものを得、
そして多くを失い、
哀しく儚い恋の末に、
彼が彼女を殺すまでの物語。
少し短いですが、温かい目で見守って下さい…(笑)。