第5夜 『光』
5
一番が好きだった。
走るのも一番が好き。
勉強ももちろん一番がいい。
なんだって一番がいいに決まってる。
そういうふうに思って、何でもガムシャラにやってきた。
きっかけは、子供のとき学校で移動教室があって、たまたま私以外の誰もいなかったこと。
誰もいない教室はまるで別世界に来たような、一番早く来た自分へのご褒美のような感覚をくれた。以来、くせになった。
そうして、体にガタがきて、すったもんだで先輩と塁ちゃんの世界を見た。
誰も居なかったはずの教室に、先に居たのは塁ちゃんで。
私はそれをただ羨んだ。でも、実際の事情は知れば知るほどやっぱり複雑で。
彼の教室には三浦さんが居て、もっと前には由岐さんが居て。
そこに今更、私が居座る余地なんてあるのだろうか?
今の私の行為に、意味なんてあるのだろうか?
カメラの向こうの彼らは、無責任に応援してくれるけど、さ。不安なものは不安なんだ。
いっそのこと、塁ちゃんと完全にくっついてくれればいいのに。
それを先輩はしないから、今日も私はこうして、この店のドアを開けてしまう。
「よう。懲りずにまた来たか」
そして、やはり今日も、彼の意地悪な言葉に甘えてしまうのだ。
殴った。
殴って、殴って、また殴って。
そうやって、敵をいっぱい作った。何故だろう。
気がついたときには自分は乱暴者で、周りは敵だらけだった。
最初に殴ったのはなんでだ? 次に殴ったのはなんでだ?覚えていない。
殴り過ぎて殴られ過ぎて、記憶が飛んだのか。
中学上がるくらいまでだったか、そんな毎日が続いたのは。
それは、相手が血を流したから。子供の体力ならいざ知らず。中学生の、自分の体は凶器になるということを知った。
それが終わった理由。
誰かを殴って、口の端を切る程度、それならまだいい。
もし相手の顔に当たったそれが、もっと殺傷力のあるものだったら。考えただけで、血の気が引いた。それ以来、殴るのを止めた。でも、殴られるのは止まなかった。
止めてくれたのは、そう。塁だった。
それまで、何も干渉してこなかった塁が、それを止めてくれた。
『雄兄は私が守る』
年下の女に守られる元暴力魔のヘタレ。ブラッディーレッドの弟だからと調子に乗った馬鹿。中学ぐらいのまでの自分、中山雄大の谷ヶ野での評価はそんなところだった。
高校に上がるまで、自分には何もなかった。言葉通り、何も。笑い合える友人も、支え合うはずの家族との語らいも。全てから遠ざかっていた。そこへ声をかけてきたのが先輩だった。
『陸上やらない? 君みたいな暗い子でも、個人競技ならどうにでもなるよ!』
実際は陸上なんてものはチーム競技以外の何者でもなかったのだが、今思えばそれは彼女お得意の方便だった。
俺が素性を明かしても、『もう十年以上近く前のこと』と、相手にしなかった。結局根負けして、入部した。自分以外は経験者のみ。けれど、自分をサポートしてくれる人間は先輩以外いなかった。
初めての大会の後、好意を伝えられた。いやに暑い夏の日だった。
その日、彼女の家に招かれ、あの部屋を見せられた。
どうにかなりそうだった。いや、どうかしていた。
気づくと、彼女を押し倒して、殴ろうとしていた。でも、殴れなかった。
彼女の家を飛び出して、それきりその周囲に近づけなかった。
そしてその後、すぐに彼女は姿を消した。
今思うと、どこかで彼女を信じていたのかもしれない。彼女が部活から姿を消しても、グラウンドから俺が離れることはなかった。誰から祝福もされることもなく、大した記録を残すこともなく、俺の現役生活は終わった。けれど、後悔はしていない。
塁がうちに預けられることになったのは、あいつが中学に入るくらいか。
両親の不運な事故死。そう聞かされていたけど、自殺だったのではないかと、近所では噂された。亡骸に対面すらさせてもらえない、悲惨な事故だった。だけど葬儀の日より先、その後一切、気にしている素振りを塁は見せたことがない。
『死んだ者はいくら願っても帰ってこないから。それは前、雄大が教えてくれたことだから』
そう言った、塁。俺にはその言葉の意味が分からなかった。
そうして塁は高校に行くこともなく、なかやまに常勤していた。
ユキが飼い猫になったのは一年前、クロがその少し前。俺が大学に行けなくて、ムキになって勉強を始めたのがこの間。で、なかやまがにゃん娘になってリニューアルオープンしてから、もう十日が経つ。
あの母子の事件以来、怪人は出現していない。平和なのはいいことだ。というか、刃傷沙汰がこの地方都市で日常茶飯事であってたまるか。
怪人に滅茶苦茶に壊されて以来、久しぶりの実家暮らしだったが、実に頭が痛い状況だった。
地方都市としては常識的な、わりとにぎやかといっても少々の時代を感じる商店街の一角、昭和の匂いを感じる洋品店と小学生御用達の古くさい駄菓子屋の隣。
そこにペットショップなかやまは存在した。そこに、だ。ギンギンギラギラでいてさらにキュンキュンとした商売っ気丸出しの、ある種の毒々しさすら感じる店構えの『にゃん娘!』が浮かないわけがなく。
その異様さをミミの思うが様、見せつけていた。それでいて、店には客が溢れている。
店の壁のど真ん中にあるモニターには店内の映像に乗せて世界中からのコメントが右から左へ流れていく。偶然だかどうか知らないが、ちょうどカメラ目線になった俺の顔。いちいちひとつひとつのリアクションにコメントがついていく。
溜め息。
全く、世界にはもの好きが溢れているようだ。オープンイベントで明かした通り、この店のマスターを務める兄、康一が今にも怪人化を果たすかもしれないというのに来るのだ。どうかしていると、本気で思う。
「雄大、コーヒー」
客は俺を呼び捨てるのが常だった。おそらくネット上でもそうなんだろう。はっきり言ってムカつく。が、お客様は神様を幼少から叩き込まれた身としては、笑顔を絶やすわけにはいかない。
この大量の男性客の目当ては塁、そしてミミ。マニアックな連中はナラだって目当てにするかもしれない。あと、大分その可能性を感じているのだが、俺いじり目当ても意外といるようだった。
お替わりのコーヒーをサーブして、客がざわつく店内を見渡す。皆、もの好きを通り越して悪趣味、としか言いようがない。溜め息。
「ユウちゃーん、溜め息吐いてないで仕事してー」
そんなミミの声が聞こえてくるが、そのミミ自身はオープンから一切、雑用を行わない。客とだべってばかりで、注文だってとりやしない。
一回注意したのだが、「私は可愛いのが仕事!」と、堂々と胸を張って言うのだから、もう気にしないことにした。
「雄兄、疲れたなら休憩すれば?」
「いや、いい。第一、お前こそ休めよ。働き詰めだろうに」
「それを言うなら雄兄もだ」
だから休まない、塁はそう言って、またピッチャーを持ってホールを回る。
「いい子になったね、塁ちゃん」
突然、気配もさせずに横から糞兄貴が話しかけてきた。
「なったんじゃない。昔から、ああさ」
普段のそっけなさと比べると意外なまでに献身的というか、なんというか。まぁ、それが重く感じた時期もあった。今は、どうだろう。いないと、変な感じになるだろう。そう、塁のことを思い返していたそのとき。
「明日は休みだね」
仮面をかぶったような笑顔のまま、兄貴はそう話を続けた。
「……それがどうかしたか?」
気持ち悪い。
噛むように、言葉をひとつひとつ、兄貴は選んで話している。
「覚えていないのかい? 明日は由岐の命日だ。墓参りに付合ってくれないか?」
気持ち悪さは、そのまま吐き気へと変わった。
由岐さんの命日は、まだ半年も先だった。
館跡、戦国時代だかその辺にこの一帯に居を構えた武士だか豪族が居るとか居ないとかでそう呼ばれている地域がある。
そこは今、広大な墓地である。
高台にあるそこは周りを緑に囲まれ、遠くに町を眺めることができる。
静謐な、街中とは全く違う空気がそこにはあった。
佐原家之墓。そう書かれた墓石が目の前にある。
雑草なんて一本も生えていない。
家族がみんな眠っているんだ。塁が、それを放置するわけがない。
「久しぶり」
ごめんね、そう言って、兄貴が墓石に水をかける。
「お線香、忘れちゃったな」
苦笑う兄。
「雄大のこと、見守ってくれてたんだよね」
微笑む兄。
「僕ももうすぐ、そっちへ行けそうだから」
勝手なことを言う兄。
「待っていてね」
透明な、そう言いたくなる意志のない瞳。
その全てが嫌で。その全てが嘘っぱちで。
だから俺は兄を殴った。
後ろから肩を引き寄せ、こっちを無理矢理に向かせ、力一杯に殴り飛ばした。
「目、覚めたか?」
地面に仰向けに倒れた兄にそう問う。
殴られた兄は、その俺の行為を気にする風でもなく、服に付いた泥を落としつつ、ゆっくりと立ち上がった。
「……覚まして、ほしいのかい?」
「ああ。そうだ」
「もし、覚めたとして、僕はどうすればいいのかな?」
「特別なことは何もするな。普通に生きろよ」
あんたにはその権利がある。
「普通、に?」
「ああ、普通だ」
「でも僕は」
「そうだな、あんたはヒーローだった。でも、あんたの番組はとうに終わってる。あんたは、普通に生きていいんだ」
そう言うと、兄は嗤い始めた。
「……そうか、終わってる、のか。なら……なら、さ。ひとつだけ聞かせてくれ」
兄の瞳に色が混じり始めた。
紅い、紅い――血の様な憎悪。
「この世界はどうして紅い。誰の血で染まってるんだ。――教えてくれないか、雄大」
パキッと、兄の顔の皮がひび割れた。
流れ出てきたのはやはり得体の知れない『何か』。疑問に思わないわけがない。それが『何』か。でも、ミミに訊いたことはない。知ってもろくなことにはならないだろうと、考えていたからだ。
泥のように、じわじわと、兄の体を覆っていく。
「僕、俺……俺は、誰に、誰、に、誰を――」
びちゃびちゃと、地面に垂れるほど、何かが兄の体を覆っていた。
やがて、それは波打ち、ひとつの形を成した。
紅いヒーロー。
「――誰を、殺せばいい?」
彼は優しい人だった。
「ミミと」
「塁の」
「なぜなにビッグニャーン! って、なんでユウちゃんも塁ちゃんも揃いも揃って言ってくれないのよー」
面倒くさいからです。ぶうたれるミミだけど、あまり気にしても仕方がないことは知っている。本人すらたいして気にはしていないだろう。
今回は『にゃん娘!』のカウンターからこのコーナーは世界中に配信されている。休業日なので別に二人ともメイド服は着ていない。
「さて。とうとう、うちの旦那様が暴走始めたみたいねー」
ミミがパソコンをチェックしながら、とんでもないことをどうでもいいことのように言った。
「待って。それ、ここに居ていいの」
「いいのよ。彼には彼の希望があった」
言うと、彼女は店のメニューとして出していないバカ高い洋酒をあおった。
たぶん経費で落としてる。人はそれを横領と言う。
「『ヒーローを殺していいのはヒーローだけ』」
「そう、言っていたの?」
「うん」
ぷふー、なんて言って満足そうな溜め息を吐くミミ。
「正義を否定できるのは別の正義だけってこと。
それがどれだけ歪んでいても、ね。
……ねぇ、彼のストレスの原因ってなんだったと思う?」
グラスを空けたミミは、次を注ぎつつ問う。
「ストレス、というかトラウマじゃないの?」
「ビンゴ、おーいえー。いえす、とらうーま」
「ははは、茶化すなー。……うちのお姉様の話だよ」
「塁ちゃん、声低いよー、目怖いよー、可愛くないよー。女の子は可愛く鋭く容赦なく、ね? 特に可愛く、ここ重要」
それもどうかと思う。
ミミの言葉は雄兄ばりの溜め息を誘った。
「そうね。康一さんは由岐さんのことが忘れられない。真っ黒に焼け焦げても自分の弟を守り切った、真っ白な彼女のことが忘れられない。
彼とは恋人同士だったけど、二人はあまりに違い過ぎたの」
忘れられるわけがない、そうミミは続けた。
「それはどういった意味で?」
「ありとあらゆる意味ね。女性的にも、事件的にも、心理的にも」
「……康一さんが壊れたのって」
「そう。彼女が死んでから。まがいものの自分がなれなかった『ヒーロー』ってやつを命懸けて見せつけられてから。……ま、当然ね」
「誰を殺せばいいか、か。なぁ、兄貴……。俺の口から言わせる気か?
なら、はっきり言おう。あんたはあんたを殺すべきだ」
言い終わると、俺は口の中で呟いた。
「……変身」
黒いスーツは一瞬で俺の身を包んだ。
「でも、あんたはさ……死にたくないんだろ? というか、自分では死ねない。だから、他人を傷つける」
言うと、ブラッディーレッドは跳躍した。
恐るべきスピード。一瞬で懐に入られた。
当て身から首を持たれ、宙を浮く感覚。
首投げ――!
「なめんなッ!」
遠心力に逆らわず、地面に落ちる前にさらに体勢を崩し、地面を抉りながら握り、片手で跳ぶ。
首は変わらずホールドされているが、かまわない。
一瞬、浮かんだ隙に絡められていた腕を思い切り振るう。
逆に地面へと叩きつられたブラッディーレッド。
距離を取るべく、跳躍。そのまま逃走する。
第一、こんな罰当たりなところで小競り合いなんてやってられるか!
「当時気づいていたのは私だけだった。いえ、ユウちゃんも気づいてた、かな。
彼は死ぬのを怖がっていたの、誰よりも。
世間的には、恋人の死を己への戒めとし、非情に徹したヒーロー。それが彼、中山康一。
そういう編集をされて、放送されたから、ね。
最愛の恋人の無惨な死。
人間が一人壊れるにはそれで充分だと思うでしょ?
でも、彼にとってはそうではなかった。
実際にはどうだったか?
なんで、谷ヶ野内でそんなヒーローの彼の縁者であるユウちゃんや貴女が冷遇されていたのかしら。どうして、市民は彼を蔑むのかしら。
答えは単純よ。
彼は、単なる情けない男。
怪人に襲われて、とっさにヒーローのようになったはいいけど、それには中身が伴わなかった。
怪人を殺すことを正当化する手段として、そのときに彼はヒーローを選んだ。
恋人の死を悲しむより先に、自らのそんな死に方を怖れた、正真正銘の腰抜けが彼の正体。そうして、過剰に自分を防衛するに至った。
結果、彼はどんどん血に染まっていった。
それでも彼は、基本的には心優しい、それでいて臆病な、ただの人。
彼は自分を罰しようとした。でも罰することができずにいた。だって既に当時、彼は『死にたくないから誰かを殺す』という怪人になりかけていたのだから」
走る黒と紅。
私はそれを、戦闘から離れた丘から見下ろしていた。
惑いながら後ろを気にしながら走るブラックより、迷う必要なくただ獲物を狩ることだけを考えるブラッディーレッドのほうが明らかに有利であった。
「ほんと、手のかかる子」
君には後ろなんて気にしてる暇はないのに。
君を追うのは単なる亡霊。
君と一緒に過去に生きた、弱い人。
君はさっさと否定して、さっさと断ち切って、次に進めばいい。
「その手伝いくらいは、許してくれるよね?」
引き絞るのは弓ではなく、己の心。射抜くのもまた心。
過去に囚われ、泣いている子供。
泣いている子供には、心を律して、矢を放つのが大人の仕事。
私はそう、信じている。
背後から矢継ぎ早の爆音。
方向転換のついでに一瞬だけ後ろの様子をうかがうと、蒼い光の矢が次々とブラッディーレッドへと降り注でいる。先輩の矢の威力は半端じゃない。間違いなく、自分なら一撃でその場で磔にされる。
が、どれも命中しない。直前で見切られ、すんでのところで躱される。
ブラッディーレッドの走る速度と軌道は異常の一言だった。
俺は墓地である以上は墓石を倒さない。そんなこと、アイツには関係ない。邪魔と感じれば容赦なく蹴り倒し、もしくは好機と見れば鷲掴みにして投げてくる。このままだと、墓地を横断する頃には半分以上の墓石が破壊されることだろう。
――――迎え撃つ、か?
「先輩!」
ちょこまかと動くなら、動きを鈍らせればいい!
一瞬でも組み合えば、先輩なら当ててくれる!
そう思い、一瞬だけ体を反転させたときだった。
全くに場違いな、下品な声が墓場に響いた。
「だらっしゃあああああああああああああああああああッ!」
咆哮とともに飛来したのは高質量かつ高圧力なピンクの塊だった。
例のごとく周りへの配慮など欠片も見せず、墓石を豪快に薙ぎ倒し、ブラッディーレッドへと突貫を仕掛ける。
途中ブルーの放った矢が何度もピンクに当たるが、ピンクはそれをものともせず一直線に跳び、そして簡単にかわされる。
「ぬおおおおおおおおおおおおおお! おのれ、まるで第二次性徴を終えたばかりにする鬼ごっこの女子の様にちょこまかと!」
水場を破壊して止まった後、すぐさまにピンクは置き上がり、腕を振るうと棍棒を出現させた。が、ピンクにそれを構える暇はなかった。ブラッディーレッドは棍棒の上からピンクを蹴り飛ばし、下が川になっている崖へと突き落とし、再びブラックの追跡に戻った。かなりの時間を稼げたはずだったが、一瞬でブラッディーレッドはブラックに肉薄した。
「なにしに出てきやがったんだ、あの肉!」
ブラックは毒づきつつ、軌道を変えつつ断続的に跳ぶ。
『先輩! まっすぐ走って!』
ブラックの耳に響いたのは十子、イエローの声。
「ナラ、来るな!」
着地後、ブラックは変わらず無軌道に走りながら叫ぶが、続いて響いた声は冷えていた。
『当たっても知らない。私の言うこと聞いてくれない、気にしてもくれない先輩なんて死んじゃえばいい!』
は? と、ブラックはそう聞き返そうとして、息を飲んだ。
それは正に弾丸だった。風圧を感じる間すらなく、それはブラックの横を過ぎ去り、ブラッディーレッドへと突き刺さった。
まるで先ほどの蹴り飛ばされたピンクの再現。ブラッディーレッドは崖の下へと落ちていく。ただし、それは蹴りを放ったイエローと共に、だ。
「ナラ!」
『先輩、逃げて』
返ってきた声は冷静だった。それでもその後すぐに聴こえてきたのは悲鳴。ただ、それはひどく不鮮明なものであった。これもスーツの機能なのか、それを理解するのは危険と判断したのか、内容はひどくぶつ切りであった。
『や……歩けなく……もう……いやあああああああああああああ……ッ!』
ブラックは怒りに眩暈を覚え、足を止めた。
「上等だ、こらああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
ブラックは叫びと共に身を翻し、崖下へとダイブ。
二十メートルほどの崖、眼下に広がるのは流れの荒い川へと水しぶきをあげ着地するブラック。
周りを見渡すとすぐに、先日の雨で増水した濁流の中に、黄色い背中が浮いているのがまず見えた。
イエローの足から尾を引く赤い水が長い尾を引き、下流へと流れていた。
足がねじ曲がっていた。千切れていないだけで、立つことすら叶わないだろう。それを余所にブラッディーレッドは、ピンクと対峙していた。
がっちりと力比べの体勢でせめぎあっている。とりあえずイエローの救出を先決し、ブラックは河原へとイエローを運ぶ。
終止だらりとし、身動きすらしないイエロー。
「少しだけ待ってろ……すぐ終わらせる」
再び戦闘へと復帰しようと、二人へと向き直るブラック。しかして、ブラックから見えるピンクの背中は、かつてない威圧感を発していた。
そう、それはまるで。
「……馬鹿野郎!」
完全にブラッディーレッドの発する気配と同様のものだった。
単純なる殺意。憎悪。憤怒。負の感情を煮詰めた、血の紅。ブラッディーレッドと同じ、血の紅へと。じわり、じわりと、ピンクのスーツの色が足元から変わっていく。
崖から落ちたせいか、ブルーからの援護は未だにない。
しかし、ブラックは迷わなかった。
ピンクによって両腕をホールドされたブラッディーレッドの懐に入り、渾身の一撃を腹部に放つ。
殴られたブラッディーレッドは浮き上がり、後方へと飛ばされようとしていたが、両手をがっちりと掴んでいたピンクがそれを阻み、力を殺さずにそのまま地面へと叩き付けられた。
そのままスタンピングへと移行しようとしたピンクだが、這い蹲るブラッディーレッドに足を取られ、そのまま捻じ折られた。
が、ピンクはそれを意に介さないように、そのまま肘からブラッディーレッドへと倒れこむ。肘はブラッディーレッドの背中へと打ち込まれ、さらに打撃が雨のようにブラッディーレッドへと降り注ぐ。
誰一人無言であった。拳だけが鈍い音を立て、ブラッディーレッドの体へと吸い込まれる。
抵抗が和らぎ、頃合と見たのかピンクが棍棒を出現させ振りかぶった瞬間だった。
「――――ッ!!」
ピンクの背中から、ブラッディーレッドの手が生えていた。
しかし。
「うあああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
かまわず、ピンクは棍棒を振り下ろした。
ピンクのヘルメットに浮かぶ擬似眼はどす黒くそれでも紅い光を放ち、眼前のブラッディーレッドをただ見据える。
外すはずもない、ほぼ零距離の一撃。
鈍い手応えは確かにピンクの腕に伝わり、確かに棍棒はその身を叩き付ける者を得ていた。が、ブラッディーレッドは健在。その代わりに、
「お前……雄大ッ! なんで、どうしてだ!」
ピンクの棍棒はブラックによって防がれていた。
先程までの殺意を忘れた様な声色で、困惑の声をあげるピンク。
棍棒はブラッディーレッドをかばうブラックの背中に打ち込まれていた。明らかに、スーツの下の骨は粉砕されていた。
だが、そんなものは気にしていないとばかりに、ブラックは声を荒げる。
「お前ら、馬鹿か!
いい加減……殺したり殺されたり、んなもん見てて鬱陶しいんだよ!
いいか、クソ兄貴! 俺はお前を許さない!
てめぇが許される道理はねぇんだ!
手前勝手に殺して生かして、何様のつもりだ!」
叫びながら、変身を解くブラック。その次にはブラッディーレッドの肩を掴み、揺さぶる。押し倒すと同時に貫手がピンクから抜け、雄大の背後でうめき声があがる。が、雄大はそれにかまわない。
「由紀さんの生き方をお前が否定してどうする! それとも昔からあんたは由紀さんの優しさに甘えていただけのクソ野郎だったのか?! 答えろよ! なぁ……おい!」
しかし、答えの代わりに返ってきたのは痛みだった。
先ほどのピンクに行ったのと同じ貫手。天に向かって、ブラッディーレッドは貫手を放った。生身の雄大の腹部を容易くそれは貫き、すぐに鮮血を滴らせ、ブラッディーレッドの腕を伝って流れ落ちる。
それでも、雄大は血を吐きながら叫ぶ。
「――あの人は優しかった!
最期の最期まで! あの人はただ俺の身を案じてくれた!
無惨に焼け焦げていく自分の体なんて気にしてなかった!
俺を炎から、不安から、恐怖から、守ってくれたんだ!
お前に信じられるか、あの人はただの人だったのに!
俺やあんたと違って、ヒーローでもなんでもない、ただの人だったのに!
それなのにだ!
あの人はあんたなんかより俺なんかより、よっぽどヒーローだった!」
雄大の吐いた血は、ブラッディーレッドのマスクを汚していく。
「好きだった! 憧れだった! 初恋だった!
あの人が、俺のヒーローだ!
あの人みたいになれたらってずっと思っていた! それがどうだ! いざヒーローになってみれば黒だ、ブラックだ! 思い描いていた白はとうに煤けて、真っ黒だったさ!
理想とは違う自分、折れてしまった自分、ひん曲がった自分! どうだ、どっかで聞いた話だろ! 眩しくて! 眩しすぎて、中途半端な俺は目を瞑っちまったんだよ! あんな生き方、無理だって、やってもねぇのにぶん投げちまったんだ!
でも、俺は……俺はもう諦めてやらねぇ!
俺は、俺のヒーローになる! あんたを全力でぶちのめして、全力で後悔させて、そっから全力で生きさせる!」
雄大の、雄大としての言葉は終わった。雄大は思い切りブラッディーレッドを突き飛ばし、自身に刺さった腕を強引に引き抜き、立ち上がった。ブラッディーレッドは動かない。ただ、膝立ちで血塗れで立つ雄大を見上げていた。
そして、誓約の言葉を血と共に、雄大は叫ぶ。
「変身!」
「怪人化怪人化って言うけど、本当はそんなことが私たちはしたいわけじゃなかった。
人間っていうものには、誰にだって無限の可能性がある。
でもそれは精神とか生き方に限った話で、本当の意味での可能性ではない。
私たちはそれを憂慮した。
彼等には、無限の創造性がある。
でも、人間はもう生物としては進化を止めてしまった種。
せっかくの創造性を活かせない。それは種としては幸福ではない。そう思ったからこそ、私たちが手を貸したの。それが私たちの仕事、というか存在。
その人がその人の思う様に生きる、そのリミッターを解除した。その結果が怪人化。人の生きる、生きようとする想いを、生物の生存本能を甘く見ていた結果。
後悔している、とても。
そう、想像力があるから、他の生物の進化を知っているから、どんな風にでも変われると思えてしまう。それを、私たちは見逃していた。
ま、逆手にとっちゃえば、いいだけの話なんだけどね。
人は本来そういう風にできているんだし、自分を思う様に育てればいいのに、どうしてそうしない人が多いのかな、未だに不思議なんだよね」
それは限りなく白い光で、限りない眩しさで。
ただ、目映いばかりの白に溢れていて。
直視すると、目を瞑っていてさえも、身の全てが白い光に灼かれてしまいそうで。
でも、それでも!
それでもそれを手に入れたくて、眼を閉じず、必死に右手を伸ばす。
そうだ。たとえこの身が黒に染まっていても、仮初の右手ならば、掴める。
最初からないものの先だ。
それぐらい繋がっててもいいはずじゃねぇか!
現れたのは漆黒のヒーロー。
ただし、彼の右腕はアタッチメントを取り込み、純白の手甲が癒着した様な姿になっていた。
以前はシンプルなネコミミ状だったスーツの姿も大きく変容し各部のボリュームが増し、耳の部分は長く伸び後方へ流れ、各部のパーツはより鋭角なものへと変化した。ただひとつ例外が右腕で、男性的なスーツとは対称的に女性的な丸みとボリュームを備えていた。
色合いはどんな光の下に居ても浮かび上がってこない様な漆黒部に比べ、純白部はいかなる暗闇さえ覆えない輝きを放っていた。
「殴る。こいつで、思いっきり、殴る」
ブラックは白の右腕をブラッディーレッドに見せつける様に、体の前で握り込む。
「ただそれだけだ。俺がお前にするのは」
それ以外にはやってやらねぇ、と続けてブラックはブラッディーレッドに告げる。
ブラックがそれを振りかぶり、膝立ちのままのブラッディーレッドへと叩き付けようとした、その瞬間。ブラックは横から凄まじい力で吹き飛ばされた。
それは蒼い光の矢だった。その矢によってブラックは地面を転がり、川に叩き込まれた。距離にして数十メートル、しかし、ブラックはさしたるダメージを受けた様子もなく川中で立ち上がる。
「君が、そんなことをする必要はないの。これは私がどうにかする」
言葉を発したのはブルー。
その声は低く、冷たくブラックを突き放す。
「……先輩。邪魔をしないで下さい。これは俺と兄貴の問題です」
応えるブラックの声はただ決意に溢れ。これもまた、ブルーを突き放すもの。
「君が背負う荷物じゃない。この人が殺した人も、その縁者も……由岐さんのことも。それは貴方の重荷にしかならない。それが今のまで、わかっていなかったとでも言うの?何年も、何年も、貴方はそれで苦しんだ。貴方の味方はどこにいたの?
守ってくれるはずの誰も彼も、貴方を苦しめた。それを、貴方は全部、忘れてしまいたいとは思わないの?」
ブルーの言葉は依然、冷たいままにブラックに問う。
「私は殺すわ、彼を」
そう言うとすぐに弓を構え、射った。躊躇いなど、欠片もなく。
そこへ、声が届く。
「勝手なこと、言うな」
ブルーの放った光の矢は空中で弾け、姿を消す。
「外野とナイチチは黙ってろ。全くこの町は馬鹿だらけだ。他人のことに首突っ込むなら、怪我するな……ナラはあたしが病院に届けたよ」
ホバーバイクに乗り、現れたのはレッド。手には光る剣。
「で……これは、アタシの獲物だ」
言葉の終わりとともに、風が弾けた。
ホバーバイクの加速は爆発的。
レッドは一瞬でブラッディーレッドとの距離を詰め、すれ違い様に剣を振り払おうとしたその瞬間、視界が反転したのを感じた。
レッドを襲ったのは光の矢。前頭部を完全に捉えたそれは、レッドを空中で錐揉みさせる。ホバーバイクは明後日の方向へ飛んでいき、土煙をあげて大破した。
そしてレッドの視界は乱暴に固定された。空中でがっしりと白い腕が、彼女の足を掴んでいた。
「勝手なこと言ってるのは、お前の方だ。アレは、俺の兄貴だ」
「勝手なこと言ってるのは、雄兄だ。アレは、私の義兄で仇だ」
逆さ吊りにされてなお、レッドの口は減らない。
「権利は私の方が多い。なら、アレを殺すのは私にこそふさわしい」
しれっと言うレッドに溜め息で応えるブラック。
「仇はわかる。ただ、義兄ってなんだ。お前は戸籍上は別の家の子だ。今更、何を……」
だが、さらに続けるレッド。
「だからだ。私は雄兄と家族になりたいと思っている。今更、断るのか?」
どしゃ、と、ブラックはレッドを取り落とす。
「痛い。何をする」
「そんな重要なこと、今、言うな……気抜いたら死ぬぞ」
その場に居た全員は、動きを止めていたブラッディーレッドからただならぬ雰囲気が漂ってくるのを感じていた。
膝立ちのまま、ブラッディーレッドは天を見上げていた。
「由岐……由岐! ああ……なんだ、そこにいたのか。近くに居過ぎたのかな。今まで全然気がつかなかったよ……!」
ブラッディーレッドの視線の向う。そこには何もない、ただの空が広がっているだけ。
「狂いやがった……」
棍棒を杖にどうにか立ち、呟くピンク。既に紅の浸食は止まっている。
「なんだ、エイジ。今度は生きてたか。で、照れ隠しの下ネタ忘れてるぞ。こないだの件で、脳直ったんだろ。長い付き合いでバレていないとでも思ったか?」
そう、ブラックが指摘すると、ピンクはがなる。
「だっ、誰が照れているものか! いいから、さっさと佐原と乳くり合いを続けろ!」
「そんなわけいくか、馬鹿。アレ、まずい」
やっぱ、殺そう? そう、レッドはブラックに心から提言した。
「駄目だ。殴る。で、正気に無理矢理、戻す。救いようのない馬鹿だけど、兄貴は兄貴だ」
お前の兄貴にもなるんだぞ? と、レッドの頭を小突くブラック。
その様子を見て、ピンクは頭を抱えた。
「結局、全力で乳くり合ってるじゃないか。まったく……俺も何を言ってるんだか。……まぁ、頑張れ。俺はもう、寝る」
どっと、地面に伏すピンク。うつ伏せで、ピクリともしない。
「ああ、由岐。わかったよ。そこに行くには、みんな殺さなきゃいけないんだね?
ちょっと待ってて。僕は、それが得意だから……」
ゆらり、と、ブラック達に背を向けたまま立つブラッディーレッド。
その背中が、爆ぜた。
同時に左右へ向かって、ブラッディーレッドの背から何かが生えた。悪魔的かつ機械的なフォルムのおそらくは翼であろうそれ。
血を滴らせ、翼は彼の身を宙へと浮かせる。
「あまり時間はかけないでも、みんな殺せるから」
そう、天へ向かい言うと、スーツの口部が裂け、そこに灯った紅の光が徐々に膨らんでいく。やがて、ブラッディーレッドの口から放たれた閃光が地上を襲った。
その閃光は接触したものを容赦なく砕いていった。否。砕く、というよりは圧力をもって押しつぶすと言ったような破壊痕。
矢継ぎ早に放たれる閃光は、着実にブラック達を追い立てた。
「みんな殺す、とか言った割にはエイジには当てないな」
「動くものしか見えていない、脅威の対象しか攻撃しない。完全に怪人の行動パターン」
今度こそ狂った。と、ブラックとレッド、二人の声が重なった。
「まだ、避けられる。けどな……」
「ジリ貧、ね」
ブラックの声にブルーの声も応える。
「先輩、射てない?」
「そちらへの攻撃よりこっちが数が多いの。弓を構える隙もない」
「ホバーは?」
「さっき塁ちゃんが自爆済み。ぺしゃんこだよ」
ブラックの舌打ちが、ビッグニャンメンバーのヘルメットのスピーカーに響いた。
「イライラしないで。伝染する」
ブルーは冷静にブラックをいさめる。
「ねぇ、雄兄。飛べないの?」
「飛べるか。俺は殴るだけだ」
まだ言ってるし、とレッドは溜め息。
「気づいてる? 足場、危ないかも」
「ああ……マジでヤバいかもな」
連弾は既に、地面に相当数のクレーターを作っていた。その底面からは水が滲み出してきている。
そして、閃光は逃げ惑う三人を一定範囲内に囲い込んでいた。
「そのうち水に足を取られて、スピードが遅くなる」
「そこを狙われて、ぶちっと? 想像したくないな……塁、『飛べ』!」
「え?」
問い返されるより早く、ブラックはレッドの足を掴むと、空へと放り投げる。
「ええええええええええええええええええええええええええッ!?」
エコーを残して、ブラッディーレッドへと一直線に飛んで行くレッドをブルーとブラックは見送った。
「逃げてるフリして、狙ってたでしょ?」
「勿論」
ブルーの問いかけに、ブラックは声だけは不適に応えた。
ブラックがレッドを頭上へと放り投げたそこは、ブラッディーレッドの直下。
ブラッディーレッドの放った閃光が地上に居た二人の姿を完全に隠し、高速で飛来する塁の姿はブラッディーレッドからは一切見えず。
自身の目の前で切り裂かれた閃光に目を剥くブラッディーレッド。対したレッドは既に事態に対応。返す刀をブラッディーレッドの翼へと叩き付ける。
一刀で片翼を断ち切り、ちょうどブラッディーレッドの頭ひとつ上で頂点に達したレッドはさらにもう一回斬りつけようとするが、それは避けられる。
既に空中でのバランスを失った二人は絡み合いながら落ちてくる。
「逃がさない」
乾坤一擲。
放たれた矢は、絡み合った二人の片方、ブラッディーレッドだけを更に空へと打ち上げた。打ち上げはするのだが、外傷を与えるには至らない。
ただ、二人を引き離しただけに留まった。
「ユウ兄! 落ちるとこ行って!」
「言われなくとも!」
レッドの着地とともにブラックは駆け出す。ブラックは一足一足、空から落ちてくるブラッディーレッドの軌道を確認しながら地面を蹴る。右手を体の後ろへ引き、殴打の姿勢をとり、落下と同時に見舞う準備は万端だった。
「なっ!?」
地面と平行の軌道をとる光の矢がブラッディーレッドに直撃。
今度は遥か彼方、上流へと飛んでいく。
「言ったでしょ? 貴方に彼を救わせない。貴方はヒーローになんてならなくていい」
ブルーの口調は変わらない。
ただ、聞き分けの悪い子供に聞かせる様な、そんな冷静さでブルーはブラックへと言葉を向ける。
弓を脇に、ただ立ったままで動かないブルーに、ブラックは頭を振ってから、告げた。
「先輩……俺、昔はただ甘やかされてて、それに甘えきってて、たまになにか感じることがあったけど言葉にはできなくて。結局、そんなのも全部丸ごと裏切られた。そう思ってた。
でも、実際は甘やかされてばっかりだったみたいです。昔も、今も……先輩、俺は馬鹿なんです。貴女みたいな頭のいい人は俺を放っておくべきです」
言葉の間、一度もブラックはブルーの方を見ていなかった。
言い終わると、先ほどと同じく、弾丸の様に駆け出した。残されたレッドとブルー。ブルーが動かないのは、レッドがブルーの喉元に自らの剣をピタリと当てていたからだった。
「アンタが何を考えてるのか知らないし、知りたくもない」
わかっていてもわかりたくない。
と、一瞬だけ視線をブルーから外し言い捨てたレッドはさらに言葉を続ける。
「私はアンタが嫌いだ。やることがいちいちまだるっこしい。面倒くさい。イライラする。次に私が何をしたいか、わかる?」
そこまで言うと、レッドは言葉を切る。
そして、ブルーの溜め息がレッドのヘルメットに響く。
「わかるわよ。……こう、したいんでしょ!」
殴打。
身長差もあり、フックの形になったそれは的確に顎の付け根を狙った強烈な一撃はレッドをよろけさせる。が、
「正解!」
レッドも負けじと応戦。身を沈め、バネの様に解放した渾身の一撃はブルーの腹の中央を叩く。
女達の闘いに意味は無い。
それを分かっていても、二人が拳を止めることはなかった。
「あの日、あんたが店に来たのは絶対に偶然じゃない!」
「ええ、私はあの日にブラッディーレッドがあの店に来るのは知っていた。ついでに言えば、怪人だった彼が来るのも」
「……ッ! やっぱり仕組んだのはお前か!」
レッドは体ごとブルーにぶつかり、倒れたブルーに対し馬乗り、拳の雨を降らせる。
「どうしてッ! どうしてだ!」
「……あなた達が不甲斐ないからに決まってるでしょう!」
ガシッといっぺんに両腕を掴まれ、レッドは動きを封じられた。
「私はずっと見てきたの……雄大を、貴女を。
だから言える。あなた達はいつまで過去を引きずるの?」
ブルーのその言葉に、暴れるレッド。
腕は動かないことを知り、体を思い切り後ろに振り、頭突きをかます。
「……ッ! 暴れるな。話を聞け。馬鹿猫娘!」
対して、ブルーはあくまでも冷静な声。しかし興奮するレッドはなおも頭突きをブルーへと喰らわす。
「由岐さんは死んだわ。康一はもうあなたの義兄じゃない。
彼は他の女を選んで……ユウもそう。一度でも私を選んだ」
「……それは、お前が由岐姉を使ったからだ!」
「そう? 私は私のままで、彼に愛される自信はあった。
けどそれじゃ、意味がない。
あなた達の問題よ。あなた達の問題を他の誰かに解決させるわけにはいかない。そう思ったの。そして彼がいつまでも気にしていたのは、由岐さんだったから」
「だから、由岐姉を汚した。そう言いたいんでしょ」
「そう。わかった?」
「……痛いほど。でもね、先輩。私はもう、由岐姉のことは吹っ切っているの。
ただ、あの馬鹿が引きずってるだけで」
「それはなんとなく、わかってた。
それで、あなたは彼にとって、どうありたいの?」
穏やかな声で問われると、レッドは、
「決まってる。私は私のヒーローになる」
そう言って、油断していたブルーの額に渾身の一撃を喰らわせた。
あがいても、あがいても……滑り落ちた、報われなかった、救われなかった。
最初は違った。最初はただ、守りたかった。わけの分からない力に翻弄される誰かも、自分も。
だから僕はヒーローのような姿で力を得た。
でも、そのうちに怖くなった。誰も彼もが怪人に見えた。罵る奴、叫ぶ奴、泣く奴……最後には笑う奴も。誰も彼も。
殺されたくない。殺したくもない。ただ、笑っていれたらよかった。
殴られても血の出ない体が欲しい。罵られても揺るがない心が欲しい。いや、心なんていらない。もう放っておいてくれればいいのに。なんで、誰もそれを許してくれない。
だから俺は殺さなきゃいけない。そんなことを言う奴、誰か知らないが暴れる奴。
みんな、みんな死んでしまえばいい。
「意味不明な独り言は終わりか、クソ兄貴。また随分と『殺しやすそうな』体になったな……怪人みたいだよ、全くな」
切り立った岩壁に突き刺さったまま、ブラッディーレッドは体を変化させていく。より禍々しく、より非人間的に。
人の腕の本数には縛られず、人の足にはない爪がまた伸びていく。牙が、角が、あらゆる武器が体から生えていく。
「なぁ、あんたが死にたがってるのはいい加減みんな気づいてるんだ。ただ、俺は誰であろうとそいつの自殺に付き合う趣味はない。
……昔さ。俺、あんたと同じことやったよ。思い出したんだ。わかったんだ、あのときの塁の言葉の意味。思いっきり暴れて、暴れて、暴れ尽くせば、ヒーローが来てくれる。そうやって期待して、駄々こねて、周りにひどい迷惑をかけた」
ブラックは白の拳を開き、また握る。
「いいから大人しく殴られとけ。
できるだけ苦しくしてやるから、覚悟しやがれ糞兄貴」
二人にはもはや互いの言葉さえ届かない。届くのは痛みだけ。
岩壁からブラッディーレッドがまるで弾かれたように不自然に飛び出す。
ブラックに向かい地面へと飛んだブラッディーレッドは飛びざまに、体から分裂させた棘の針を撃ち出した。
それに怯むことなく、ブラックは真っ直ぐに迫り来るブラッディーレッドへと跳躍する。放たれた針を右手のひと薙ぎで打ち払い、その体の捻りを打撃の捻りへと転化させる。ブラックの右腕が青く光る。
それを警戒したのか、ブラッディーレッドは飛行の軌道を鋭角に突如変える。
しかし、「無駄だ!」と、ブラックは叫び、更に加速。右腕を振るうと、それに伴い数本の青い光の帯が空を切り裂く。
ブラッディーレッドとかつて呼ばれた怪人はそれに目を見張る。
スッと音もなく怪人の体を透過していく。足が、翼が、角が、腕が、消える。ただの人の身へと一瞬で立ち戻る。
光を放った後も、なおも変わらぬ速度で迫るブラックに怪人は叫びをぶつける。その叫びは人の身ならば聴くだけで頭を抑えのたうち回っただろう。
だが、相手はヒーロー。
怯むことなく、足を止めることなく、ただ真っ直ぐに怪人に迫る。
そして彼がしたのはただひとつ。
力いっぱいに、脳天から拳骨を降らせた。ただ、それだけだった。
青い水球の中の眠りすら雄大は兄に許さなかった。康一は生まれたままの姿、川の中で、夕焼けの空を見つめ続けている。膝立ちで、ただ空を見続ける兄に、雄大は声をかけられずに居た。
康一の横顔はあの笑顔の仮面をまとっておらず、ただ無表情。どれだけ二人はそうしていたのか知れなかった。が、康一がふと口を開いた。
「誰に何を言われても、これだけは言っておきたい。僕がいけないということはなかった」
「……そうだな」
「じゃあ、誰がいけなかった?」
「……いけなくない奴なんて誰もいないだろ」
「僕はこれからどうすればいいかな」
「……知るか。自分で考えろ。ああ、もう怪人化はできないんだから、殺そうとしたら殺されるしかないぞ」
「それは……生きるの死ぬのは、もう勘弁してほしいな」
苦笑いを浮かべる康一の顔には邪気がなかった。ふぅ、と康一は大きな溜め息を吐くと、ばしゃん、と川に身を投げ出した。
さらさらと康一の体を沿って流れる水は穏やかだった。
「気持ちいいよ……雄大。お前も、やらないか?」
「それこそ勘弁だ。あんたと違って、俺にはまだやることが残ってるんだ」
ぱしゃり、と、軽い音が下流からした。
夕焼けの光に混じって現れたのはレッドだった。
「言ったでしょ。それ、私の獲物」
用があったのは正気になってから、とレッドは続けた。
「殺す、殺す……殺す! 足の指から関節ごとに全部ぶった切って、殺す!」
呪詛を吐くレッドの体に変化はない。
ただの、最初からのただの赤。燃える様な、怒りの赤だ。
「殺してどうなる」
「私の気が晴れる」
自らの問いに即答するレッドに溜め息を吐く雄大。
「それだけか」
「それだけ」
またも即答するレッドに、雄大は再度問う。
「それだけか」
「……それだけ。どかないと」
「どかないとどうなる。俺も殺すのか。ヘタな好奇心で由岐姉ちゃんについていって、結果的にあの人を殺した、俺を殺すのか」
そう言うと、押し黙るレッド。
「聞こえてたよな。もう殺す殺されるなんていうのは勘弁だ。
塁。これから俺は、まったく都合がいいことを言う。
お前、猫の名前でも、ゲームのキャラでも、全部、自分で名前を指定できるとき『ゆき』だよな。なぁ、それって楽しいのか?
俺はお前が俺のことをずっと恨んでいると思っていた。由岐さんを殺した俺の近くに居る、それがお前の復讐なんだと思ってた。俺は一生恨まれてもいいと思ってた。それでも、それでもだ。俺はただ全部棚に上げて、のうのうと暮らしたい。
俺とお前とミミと、ついでに兄貴。『にゃん娘!』で働くなり、なかやまを復活させるなりして、みんなで普通に暮らしたい。
由岐さんはこいつを殺しても帰ってこないし、殺しても無意味だ。だから、俺はただ日々を穏やかに過ごしたい。誰に指差されてもいい。誰に石を投げられてもいい。お前に、許されなくてもいい。それでも、俺は兄貴を生かしたい」
……駄目か? と、雄大は続けた。
その言葉にレッドは川面へと視線を落とし、俯いた。しばらくして、ブルブルと震え出し、爆発した様に叫び出した。
「勝手だ! 雄兄も、ナラも、三浦も、変態も、康一も、ミミも! みんな、みんな勝手過ぎる!
雄兄は鈍感過ぎるし、ナラは首突っ込まなくていいのに突っ込んでまたひどい怪我するし、三浦はまわりくどくて面倒くさいし、変態はナラとくっつきたいからってうざいのに店に来るし、康一はバカだし、ミミはフリーダムだし!
みんな、馬鹿だ! みんな、勝手だ!」
そこまで一気にまくしたてると、またひとつ息を置いて、
「だから私も勝手にやらせてもらう!」
そう叫んで、レッドは変身を解除した。
「……いいから一発殴らせろ! それで全部……全部チャラ!」
変身を解除した塁の第一声はそれだった。ふと、その物騒なはずの言葉が懐かしく響いた。
「なぁ……もしかして、それって誰かの口癖だったりしたか」
俺の言葉に、塁は無造作にドスドスバシャバシャと兄の方へと川中を進んでいた足を止め、首だけこちらへ向け、ジト目で応えた。
「ほんとにバカ。あれだけ殴る殴る騒いでたのに本気で思い出してなかったの? ……悔しいけど、三浦の作戦、的中してたかもね……馬鹿。誰あろう、お姉ちゃんの口癖」
「……そっか」
そう、彼女はそういう人だった。シンプルで、直情的で。ものすごく怒りっぽくて、いったん怒るとものすごく怖い。それでも諍い事はお互い一発殴ってはいおしまい。すげぇ怖かったなぁ……。
それをただ優しい人だったなんて、我ながら随分な覚えておき方だ。会わせる顔、ないや。
そう、彼女はいつもちょうど、さっきの塁みたいな感じで怒っていた。あぁ、そうか。塁のやつ、わざとか。俺、してやられたな。やっぱり、昔のこと過ぎたようだった。思い出はただの思い出。今更、あの人みたいになりたい、なんて簡単に言えたもんじゃない。
それでも、この右手がああいう風に変わったのは、偶然じゃないと信じたい。なにがどうあれ繋がっていたから、俺は兄貴を止められた。
しかし、どうりであっさりと、塁やミミに唆されてしまったわけだ。二人は二人なりのやり方で、俺を由岐さんのやり方へと導こうとしてくれていたのかもしれない。
言われなきゃ気づけなかった自分には、やはり溜め息しか出ない。
ヒーローへの道は、どうやらまだまだ遠そうだ。
「それではお義兄様、遺言は?」
塁のその問いに、苦笑いで応える兄。
「お手柔らかに頼むよ」
「それはできない相談だな、糞兄貴。言ったろ? できるだけ苦しくしてやるって。
人間が人間を殴るのが一番応えるんだよ、人間ってのは。
殴る側、殴られる側、痛いのはどっちもだからな」
俺の言葉に、更に苦笑いを深める兄。
「ヒーローのあんたにも、怪人のあんたにも、最初から俺は用がなかった。
俺が、由岐さんが、塁が本当にぶん殴りたかったのは、ただの人間のあんただ。
本当に殺したいほど、俺はあんたが嫌いだ。それでも、人間が人間を殺していいはずがない。誰も、あんただって俺だって塁だってミミだって。そんなの最初から望んじゃいない。そうだろ?」
そして、兄に対する報いを宣告する塁。
「だから、殴る。力一杯、ぶん殴る! ……それで、おしまい」
宣告が終わると、塁はしばらく天を仰いだ。口先でなにか呟いているが、それは誰にも聞こえない。それを何も言わず見守る兄と俺。
やがて、満面の笑みで塁は拳を握り込み、
「せー……のっ!」
大の男が宙を舞う、そんな一撃を放った。
「え? なんでネコミミだったか?
そりゃあんた。馬鹿らしいからに決まってるでしょ。
自分が暴れてたらさ、大の大人がネコミミ着けて、すっ飛んでくんのよ? 驚くとか驚かないとか、それ以前におかしくて毒気抜かれるじゃん? そういうこと! け、決して、自分だけネコミミなのが恥ずかしいとかじゃないからね?
そりゃあ、こっちの世界に魂ローカライズするときにリサーチするんだけどさ、後からちょーっとしくじったかもとも思ったよ? 人気の形をさ、ちょーっと取り違えた、というか。ね、『一部』に大人気だったみたいでね?
あは、あはあはは、ハハハハハーーーーハッハッハ!
うるせーよ! にゃんなんて語尾につけねーよ! 死ねよ、お前等!
よし、今日から私の夢は世界をネコミミだらけにすることだ!
いっちょ地球なんて名前変えて、ネコミミ星、作ってやんよ!
征服されやがれ、コンチキショーどもめ!」
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谷ヶ野アーケードにある見目まことに如何わしいネコミミメイド喫茶『にゃん娘!』は本日も大盛況である。客層は主に暇もしくは性欲を持て余した男性が中心。稀に深刻な悩みを持った人間が訪れる。
人気サービスは、愛想の悪い巨乳メイドと、口と目つきは悪いが面倒見だけはいい執事に散々に説教されたうえときにひっ叩かれる愛情セット。説教メインでホットミルクが付属品である。あくまで裏メニュー扱いだが、訪れる客はほぼこれを頼む。
説教はホットミルクが冷めるまで続く。冷めたそれは店内を自由に動き回る子猫たちの餌食だが、客も気にすることはない。嘘か真か本物のネコミミを生やした店主に、それを言っても無意味だと知っているからだ。
むしろ客はそんな状況を、店内のスクリーンに映される、そこに繰り広げられるカオスを楽しんでいる。そこに流れる文字が好意的なものだけでないが、店の人間はみな悪意すら笑顔で真正面から受け入れる。
その門は誰にでも開かれている。谷ヶ野に立ち寄った際には是非一度来店を。
そこにはかつてのようにヒーローはいないが、ヒーローであろうとするただの人が居る。
本作は2010年の12月に書き終わった、たぶんヒーローものです。
甘っちょろいヒューマニズムが横行する、わりとかなり独善的なお話です。
私個人は暴力が嫌いです。でも、暴力は否定しません。それも人の行動のひとつですので、否定はしません。が、間違った解答だとは思います。その間違いを犯してしまった場合どうなるか、という話です。
死ぬほど嫌いで、どうしようもなく憎かった人が居ました。その人を血が出るほど強く殴ったことがあります。父です。殴った後、気は一切晴れず、こちらの鬱屈はより強くなるだけでした。
育ててくれた感謝とは別に、彼は非常に偏屈で理不尽な人です。それは今でも変わっていないらしく、今も実家にいる姉が苦労しているようです。彼に対応するにはどうしましょう。肯定もしくは別個の答えを突き返すしかありません。
作品語りからの脱線も甚だしいですが、そういった父への鬱屈からおそらくは出てきた作品です。留学ができる大学を選んだ理由も、9割9分が父からできるだけ離れることができるという点で進んでいたと思います。今思うとすごいですね。本来は日芸に行きたかったのに、地球の裏側に行ってでもいいから離れたかった。精神方面で変な病気もこじらせていたので、結果的にはあの国の空気はよかったと思います。私の経験の9割はやはり1年の英国留学が基盤です。
人間の多様性はこの世で最高のエンターテイメントです。
無作為に選ばれた人間のジャンルの差といったらありません。愚鈍なのも犯罪者も全然それぞれの面白さが違います。素の人間こそが最高の娯楽です。
私にはまだそれがどうにも書けません。突飛な設定の力を借りてようやく、ある程度の形や量を確保することができます。未熟者にはそれくらいが精一杯です。無理をして書いたところで綻びは隠せませんし、書いていても読んでもつまらないでしょう。
まだまだ発展途上です。やっていないこと、行っていない場所は枚挙していくときりがありません。一生完成なんてすることはないでしょうが、他人から見て楽しい人になれればいいと思っています。現状、他人から見れば波乱万丈らしいですが、私はそう思っていません。何もない、何も成していないと思っています。
22歳の頃、就職活動でニトロプラスの面接に行ったことがあります。そこで言われたのは『夢とか目標とする実績とかそういうのはあるのか』と、問われました。考えたこともありませんでした。とっさに出た答えは『どこであろうと満足行く作品が作りたい』でした。自分には欲がありませんでした。ただ、作品が作りたいという欲求によって生きていました。今もそこは変わっていません。
楽しく作品を作りたい。何かを成すよりまずそっちを考えています。が、それでは社会に出せるわけがなく。一切の制限のない作品作りをしていてもダメです。今後は、ある程度の制限の上、もっとレギュレーションを持って作品作りをしていきます。
以下、キャラ語り。
井上雄大……主人公。他人に認められるということが少なかったせいで、わかりやすい形での商売っ気が育った少し捻くれた青年。モテること以外は作者に似てますね、不本意ながら。素直な性格の人間が長いこと悶々として過ごしたら、解放されたら、解放されるにはどんな行動をしたらいいのかと考えた結果のキャラ。でもあまり考えなくても動いてくれました。
佐原塁……ヒロインA。口は悪いが雄大にはとことん甘い。常に自分が正しいと思ったことを言う(必ずそれが正しいとは限らなくても)。うだうだしている人に道を示す役。いちばんヒーロー然としている。
三浦恭代……ヒロインB。自分が強すぎて他人を素直に肯定するのが苦手な人。素直ではない。強い人間なので弱い人間の気持ちは考えのうちに入らない。
中山康一……敵。間違った答えを自分で肯定もできず、それを自分で否定することもできずに壊れた人間。兄弟そろってうだうだ考えるのが好きらしい。
内田英司……下ネタ担当。嘘。間違う担当。彼が積極的に間違うことで、雄大のヒーロー観を前面に押し出すことができる。
奈良橋十子……普通の人。たぶん、理不尽には耐えられない。
ミミ……超越者。基本的に立場に関係ない意地悪な発言を好むが、たぶん誰より心配りができる人。
怪人達……基本的には間違った人たち。ただ、他のやり方が考えられなかっただけの人たち。
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