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西行妖編
花の無い花見
「私は誰よりも“私らしく”生きていきます」

「ふーん」

「ちょ、軽過ぎやしませんか!?」



 闘いの後の宴会も終え、あの盛り上がった祭の翌日。例の俺の家で久々に寛いでいるとなんか小傘が自己宣言を俺にかましてきやがった。
 昨日の俺と鬼神の闘いを観ていて感じるモノがあったんだろう。俺は反応こそ鈍いが内心ではきちんと拍手を送ってやっている。イイハナシダナー。
 当然そんな俺の内心になんか気付くわけも無い小傘は「無視、無視何ですか!?」と喚き立て、「下剋上だぁ!」と言って俺に飛び掛かろうとする所を無理矢理化け傘に止められている。小傘よ、お前の実力は化け傘以下か。
 憐れみの視線を送っていると「そ、そんなあんまり見つめられると照れちゃいますよ〜」なんとニヤニヤしながら的外れな事を宣う始末。ああ、お前はやっぱり俺の弟子だわ。



「前にも似たような事を言ったが別にお前の生き方に文句なんて言う気無ぇよ。師匠としてお前を弄びながら見守るだけだ」

「ふーん」

「おーしお前、表出ろ」

「冗談ですよ。で、話は変わりますがこれからどうするつもりですか? そもそも師匠自身の目的も私は聞いていませんし。あ、この果実いい具合に熟れてる」


 そういや俺の目的を話していなかった……な。俺の目的は昔の友人の一人とここで再会すること。そう、外にある不凍の氷像の作者兼モデルにもなっている“あいつ”。
 茫然自失としていた時期も合わせりゃもう万単位で待っているんだ。後千年位時間潰せば軽く待てる。だからそうだな。



「暇潰し、だな。待ち人を待つための」

「待ち人ですか。……うん、私もそれです。あの山で一緒だった皆と再会しても恥ずかしくない姿を見せられる様に」

「ああ、待っていれば必ず会える。これは俺が保証する。が、俺もお前もどうも時間があり余っているようだ。だからちょいと全国を周ってみようと思う」

「全国?」

「ああ、全国だ。全国には面白い輩が人妖問わずうじゃうじゃいるしな。きっと楽しい旅になる。お前もい「行きます、行きます!」



 手を挙げながら興奮した様子で俺に詰め寄る小傘は非常に生き生きした表情だった。



「そういえば師匠は何を言い掛けたんですか?」

「絶対言わねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春の妖気……ゲフンゲフン。陽気に連れられてやって来ました。とりあえず濃い妖気辿って足を運んだら、なんか大きな桜の木があったって話。悔やまれるのはその桜の木が未だに蕾しか付いていないことと誰かの所有物だということ。
 つーか何なのこの桜の木?なんだかものっそい妖気を孕んでいるんだけど。そもそもこんな山奥に何故立派なお屋敷があるんよ?
 ……いや、悪霊ネットワークでも聞いた事はあるんだけどね。現物見るまではまさかこれほどの物だとは思いもしなかった。
 西行妖。用は物凄い妖気を宿したせいでそれを嗅ぎ付けて妖怪を大量に呼び寄せてしまうといういわくつきの一品。特に満開時は鬼すら手易く呼び寄せてしまうとか。



「当家に何かご用が?」

「いや、あの桜の木が花を咲かせたら大層美しい光景が広がるのかなぁ〜、と妄想を」

「……そうか、“見る”分ならこちらも咎めはせん。時間を取らせて悪かった。見た所主は妖気と霊気を纏った特殊な者じゃったから些か気を張った。半端な者がこれに魅入られると人妖問わず狂ってしまうからな」

「気にしてないさ。それに俺もこいつも柔な鍛え方して『うがぁあああ!』」

 

 

―しばらくお待ち下さい―

 

 


 

「……してないからな」

「ほうでふ、やふぁなひあえはははんはひふぇないへふ(そうです、柔な鍛え方なんかしてないです)」

「そ、そのようだの」



 往復ビンタ?いやいや、蚊が小傘の頬っぺたに止まってただけです。そんな俺達のやり取りを苦笑しながら屋敷の門番は眺めていた。
 さて、門の外から西行妖を見物しているとね。……いるんですよ。西行妖の妖気に充てられて狂気に駆られたみたいな妖怪が。
 門番は黙って一瞬だが殺気を放つ。おお、中々これは。少なくともただの人間に放てるような代物ではない。が、あの熊見たいなのにはまだ足りない。ああいった獣見たいなタイプの妖怪は些か鈍いからな。もっと強い殺気を放たないと実力差を感じてくれない。まあ殺気を抑えたのはこっちに配慮してくれての事だろう。
 それは余りに速過ぎる踏み込みと一閃。熊見たいな妖怪はあっさりとその生を放棄した。



「花すら咲かさぬあれに訝される未熟者が」



 迷いの無い一撃と言うか。対象を斬るのに全くブレが見られない。それこそ自分の剣に絶対の自信があるのだろう。剣を持つ物として手合わせ願いたい



「わきゃない」

「ん、如何がなされた?」

「いや、いやいや。余りに見事な腕前だったからさぞ高名な剣士の方かと。名を伺っても?……いや、失礼。名乗りが遅れて申し訳ないが俺は乱治。家名はない。こっちの青いのはもうお分かりかと思うが妖怪(九十九神かもしれんが)の多々良小傘だ」

「ふむ。儂の名は魂魄妖忌。ここの庭師兼剣術指南兼門番の真似事をしておる」



 やっぱりというか何と言うか、そんな感じはしたよ。妖忌の周りに纏わり付いている半透明の半霊が決め手だったし。
 予想と違った点は割と若いという点。爺さんというよりこの時点ではまだ若々しいおっさんだ。尤も半人半霊故に成長も遅い訳だから、見た目以上に歳を重ねているんだろうけど。



「にしても乱治殿の刀はまた変わっておるな。透明な刃など儂は見た事ない」



 この一言には俺も驚いた。実はこの氷刀・チルノ。チルノの冷気で作られた絶体不凍の“氷”で出来ている。故にこの刀はまるで景色に馴染んだかのようにクリアーなのだ。
 先ず常人には見えない。俺なんかは刀に遺るチルノという馴染みの深かった奴の気配から刀の全容が分かるが、初見でこれを見切る奴なんてのはそうはいない。現に幽香達でさえ、俺が話すまで刀を使える事自体知らなかったのだから。



「見えるのか?」

「いや、完全には見えん。半々位だな」

「……半人半霊だからか?」

「なんだ、見えておったのか」

「まあな。長く生きてると色んな物が見えてくる様になる」

「全くだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後再び西行妖の観賞を始めた俺達だったが、妖忌のご厚意で屋敷内から西行妖を見せてくれる事になった。何でも妖忌の勘が俺達なら大丈夫と言っているんだとか。まあ俺もあの程度で狂わせられるつもりはないしね。
 で、間近で見た西行妖は荘厳の一言。花を咲かせていないこの時点でこの存在感。花が咲いたら事態の収拾が絶対に着かなくなるな。未来の巫女さんマジパネェ。
 見ているだけじゃつまらないから西行妖の概要を聞いたり、妖忌の身の上話しを聞いたり、持っていた酒を空けて飲み出したり、屋敷の主とそのご友人も同席して飲み会が始まったり……あれ?



「おい、紫。何でここにいるんだよ?」

「別に。ここの主とは交友関係があるのよ。ねぇ、幽々子?」

「…………(コクッ)」

「いやいや。いつ見てもお嬢様と紫殿は仲がいいですな」



 まあ途中でこいつらが乱入していたのは流石に分かった。妖忌の『儂が斬れなかったもの列伝〜腐れ縁の章〜』辺りから確かに二人は縁側にいたから。
 しかし驚いたな。これがあの西行寺幽々子とは。原作と違ってえらく根暗っぽいけど。あれか、やっぱり能力が関係するのか?まあ俺には関係ないけど。



「…………平気?」

「ああ、柔な鍛え方してないからな」



 ってあれ、デジャヴ?



「さてと、サクッと死にますか!」

「目ぇ覚ませごらぁ」



―しばらくry―



「(師匠、生きてるって素晴らしい事ですね。ただ女の子に対し頬をおもくそグゥは無しだと思います)」

「何て言ってるか分からね」

「鬼ね」



 いや、人間だから。



「でもまあ、こんなのでも鬼神を下したんだから、実力は本物よね?」

「何と! ただ者では無いと思っていましたがやはりそうでしたか。よもやこの時代に鬼と張れる人間がいるとは思いもしませんでしたぞ」

「……すごいすごい」

「は! 年季が違ぇ年季が。こちとら千年程度の大妖にやられてちゃ昔の連れにどやされちまうよ」

「昔の連れねぇ。良かったら話してくださらない?」

「駄目。紫には借りは無いが貸しがあるし。月での一件は忘れたとは言わせんよ?」



 こんな感じで俺は桜の無い花見を楽しんだ。
 どこで間違えた。西行寺編が始まってしまった! 完璧に想定外。急遽脳内プロットを修正。西行寺編の大体の流れをなんとか作ったけど……またハードルが上がっちまったorz
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