蛇の置物
柳川は、蛇が笑ったような気がした。
自宅書斎の安い仕事机の端に忘れ去られている、去年あたりに取引先の社長から貰った置物だ。たまに目の端には入るけれど、柳川はその存在を意識したことはほとんどないのだった。
正月の縁起物らしく丸っこくデフォルメされ、蛇とは似ても似つかぬ色で彩色された陶器のそれは、晴れ着のように華やかに彩られている。表情だって穏やかそのもの。
改めてちゃんと見れば、愛嬌のある表情で柳川のことをきょとんと見つめている。
にーっと細く引かれた口は真っ赤で。
柳川の目の前が一瞬赤くなった。が、すぐに何も見えなくなりそんなことはどうでもいい事態になったが、その時にはもう、彼には何も認識することはできなくなっていた。
柳川の仕事机の隅で、蛇は満足そうに笑っている。
(完)