表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

やくびょう神

 近くの家で、宗教の儀式のようなものが行われているのを見た。何なのかと思っていたのだけど、どうやらお祓いをやっているらしい。近所のおばさんなんかが、そんな噂をしていた。なんでも、ここ最近そこの家では災難続きだったみたいで、それであまりにも酷いので、お祓いを、とそういう流れになったのだとか。

 そのお祓いをやっている近くに、僕は子供がいるのを見かけた。女の子なのか、男の子なのか分からない不思議な雰囲気のある子供で、僕はその子が普通の子供ではないと、一目見てそう思った。その子は、少し寂しそうな目で、お祓いをやっているその家を見つめていた。

 多分、あのお祓いで、追い出された“何か”だ。

 そう考えた僕は、なんとなくその子にこう話しかけたんだ。

 「君は、あそこの家を追い出されたのかい?」

 するとその子は少し驚いたような顔をして無言のまま僕を見つめ、そしてそれから、やはり黙ったままこくりと頷いた。

 僕はちょっと迷ったのだけど、その子にこう言ってみた。

 「もし、君さえ良かったら、僕の家に来るかい? ご飯もあげるし、寝る場所くらいならなんとかなるよ」

 その子は、また驚いたような顔を僕に見せ、答える代わりに僕のコートの端をしっかりと掴んだ。


 そうしてその子は、僕の家で暮らし始めた。暮らしぶりは至って普通で、僕が起きるタイミングで一緒に起きてご飯を食べ、僕が仕事に行くのを見送り、僕が帰って来てから一緒にご飯を食べて、一緒に就寝した。昼は勝手に食べて良いと言っておいたら、その通りに適当にご飯を食べているらしかった。

 本や漫画の位置が移動しているから、僕のいない間は、多分読書をしているのだろうと予想できた。テレビも見るらしい。休日にレンタルで映画を借りてきたら、喜んで見ていた。音楽も好きだった。ただし、決して家の外には出ようとしなかった。多分、また追い出されてるのを恐れているのだろう。


 しばらくそうして一緒に過ごしていたのだけど、いつの日からか、僕に災難が舞い込み始めた。急にメンバーが一人職場に来なくなって、その分の仕事をやらなくちゃならなかったり、その過労の所為でか体調を壊してしまい、にも拘らず仕事を休めなかったり。さらに、せめて休日をゆっくり過ごして、体調を良くしようとしても、少しも体調は回復しなかった。

 不思議の子は、僕が苦しんでいるのを見て、とても心配そうにしていた。簡単な料理だけど、ご飯を作って運んでくれた。そして、とても辛そうにしてもいた。

 そんなある日、拝み屋が僕の家を訪ねてきた。そして、ここ最近、あなたは災難続きではありませんか?とそんな事を言う。

 「――もし、よろしければ、お祓いをしましょう」

 僕はそう言われた時、少しだけ心が動いた。でも、直ぐにそれを断った。前の家を追い出された時の、寂しそうなあの子の様子が、脳裏を過ぎったからだ。

 家の中に戻ると、あの子はとても心配そうな顔をしていた。僕はその表情に向けてこう言ってやる。

 「大丈夫だよ。僕はちっとも辛くないから」

 でも、次の日、不思議の子はいなくなっていたんだ。僕はあの子が家にいないのを確認すると、外を必死に探した。そして、近くの道を、あの例の拝み家に手を握られて、歩いていくあの子の姿を見つけたのだった。

 あの子は、僕の姿に気が付いたようだった。僕を見ると、「ごめんなさい」と、そう口を動かしたように思えた。

 その時に僕は全てを悟った。つまりは、あの子は、あの拝み屋の商売道具だったのだろう。

 僕はとても悲しくなった。けれど、あの子の目が、やはり最初に見た時と同じ様に寂しそうなのを見て、「ありがとう」と、そう返したのだった。


 家に帰れば、また一人。僕は一人でご飯を食べる。一人で眠って、一人で起きる。大丈夫、それで上手くやれるはずだ。そう自分に言い聞かせた。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とっても心にじんとくる作品でした! いやぁ……後味良すぎます。 商売道具だなんて、拝み屋殺したいですね。 おじゃる丸を少しだけ思い出したのは私だけでしょうか。 とにかく、すべてがツボでし…
2011/02/12 14:31 退会済み
管理
[一言] アップされて気づいて読んでお気に入りするまでに要した時間、7分でした。最速かもしれないですね(^_^;) 相当にツボなお話でした。主人公みたいな人大好きです。ヒャッホゥ♪な作品を、ありがと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ