エリオとキャロがガジェット参型を破壊したのと、時を同じくして作戦空域上空。
「うぉりゃあああああああああああああ!!!!!!!!」
「…」
そこでは黒峰と黒騎士の空中戦が繰り広げられていた。
しかし、其の攻防は一方的なものであった。
黒峰は殴りかかってはかわされ、いつもは粒子が防ぐような攻撃を受け、傷が増える一方。
疲労よりも失血によるダメージで黒峰の息は乱れていた
「はぁ~~~…はぁ~~~…はぁ~~~」
「無駄ダ。幾ラヤッテモ貴様デハ我ニハ勝テン」
「はぁ~~~…それは…どうかな?やっと勝ち目が見えて来たってのに…」
「負ケ惜シミヲ。足掻ケバ晩節ヲ汚ス事ニナロウゾ」
黒峰はその台詞に対して薄く笑みを浮かべると、懐から一本の剃刀を取り出した。
「…何ノ真似ダ?ヨモヤソノ様ナチャチナ物デ我ガ一撃ヲ防ゴウト言ウノカ?」
黒峰は答えず、剃刀を手に黒騎士に向かう。
横薙ぎに振るわれた大剣を跳躍してかわし、鎧に一筋の傷を付けた。
「負け惜しみかどうか、その身で味わいな!『天綴空羅』!!!」
遂に黒峰が声高に叫ぶ…しかし何も起こらなかった。
「…終イニハはったりカ。モウ良イ。ココデ貴様ハ死ネ」
黒騎士は特に感慨もない様子で大剣を構え…振り下ろした。
「…何?」
「くっくっく…ふふふふふ…はぁ~~~っはっはっは!!!
引っ掛かったなダボが!ハッタリ?負け惜しみ?そんなわきゃあねぇだろうが!!!」
黒騎士は大剣を振り下ろした体勢のまま、固まっていた。
時折何かが軋む音がするのは、動こうとしてそれが叶わず鎧が軋む音だろう。
「ド…ドウ言ウ事ダ?何故我ニ貴様ノ技ガ通ジル!?」
「いやはや騙された。
てっきり、俺はあんたの能力で俺の粒子が効かないんだと思ってたんだが…そんなわきゃぁ無いよな?
答えはシンプル。
其の鎧と剣に魔導生成物質を消滅させる…いや、分解して魔力に戻してから吸収する効果があるらしいな。
俺は最悪、時間操作まで想定してたんだが。それなら話は早い。その鎧の効果を無効化してやれば良いからな」
「馬…鹿ナ。コノ鎧ハ如何ナル魔法効果モ受ケ付ケヌ!
効果を無効化ナド出来ル筈ガ無イ!!」
急にうろたえ取り乱す黒騎士。
「いや、俺も良く知らないんだけどな?この剃刀は『オッカムの剃刀』っつってな。
ありとあらゆる概念武装を無効化しちまうんだとさ」
「馬鹿ナ!馬鹿ナ馬鹿ナ馬鹿ナ!!!
宝具ヲ使ウノハ御剣 仁ノ筈!何故貴様ガ宝具ヲ使エル!!?」
「俺も、何でもかんでも宝具が使える訳じゃねぇよ。
ただ、これの元は哲学主題らしくてな。誰でも使えるんだと。残念だったな。
さて、そろそろ時間だ」
「時間?」
「天綴空羅は時間が掛かるんでな。そら、来たぞ」
黒峰の台詞と同時に、俄かに空がかき曇る。
雲間からは稲光が走り、大気が震え戦慄いていた
「何ダコレハ…何ガ起コッテイルノダ…」
「原子単位の糸で以て大気を練り、天候を自在に操る。故に『天綴空羅』ってところか。
さて、準備も整ったな」
黒峰が掌を上に向けると、その掌中に小さな旋風が起こった。
旋風は徐々に勢いを増し、黒峰と黒騎士を取り巻き、竜巻となって行く。
宇宙から見れば、この地方一帯を中心に巨大な竜巻が発生しているのが見えただろう。
竜巻は積乱雲を呑み込み、黒峰の粒子を核に積乱雲はさらに巨大になって行く。
雲の中の雷光は凄まじく、雲全体が発光しているかのようだった。
「ではさよならだ。お前が何処の誰かは興味無い。
誰に喧嘩を売ったのか、よく考えて悔いて死ね」
「マ、待テ!」
「待たない。『天綴空羅・神鳴』」
ッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
周囲に轟音…否。それを音として認識できる者など居なかった。
瞬時に空気は電離してプラズマ化し、大地はマグマを通り越して昇華され大量の土砂が消滅した。
黒峰が集めに集めた雨雲は雨を降らせ、ここは後に巨大なカルデラ湖になり、観光名所として栄えるのだが、今はどうでもいい話だ。
「…無茶ヲスルナ、貴様ノ仲間ハ」
「それについては全く以て同感だ。…リニアの方にまで影響が出ているな」
空間内部に投影されている映像…と言っても今は噴煙で何も見えないが。
御剣が視線を別にやれば、そこには止まったリニアにしがみ付くフォワード陣の姿が映し出されていた。
正確にはしがみ付いているのはスバルとティアナで、残るチビッ子2人は抱きかかえられている。
恐らくは魔力切れと疲労で気絶しているのだろう。
スバルの背にはアタッシュケースが括りつけられている。恐らくはレリックだろう。
「さて、これにて機動六課の初陣は終了。出来れば、大人しく私に殺されて欲しいんだが?」
「ソウ言ウ訳ニハイカナイナ」
ガシャン
不意に何か重いモノが倒れ込む音がした。
御剣がそちらに視線をやれば、そこには所々から黒煙を上げる黒騎士が倒れ込んでいた。
恐らくはこの目の前の男が、ギリギリの所でこの空間に引き込んだのだろう。
先程の映像もこの為だったのかもしれない。
若しくは、頃合いを見て黒峰もこちらに引きずり込む気だったのか。
「フゥ…情ケナイ。鎧ヲ無効化サレタ程度デ冷静サヲ欠クトハ」
「私の勘も捨てた物では無いな。丁度有効な物を渡していたとは。
ま、黒峰が苦戦するなど何かしらの魔術礼装でも無ければ有りえんが」
一応補足するならば、あの鎧は一切の攻撃を無効化するという一級の鎧。
黒峰の言った事は的外れとまでは言わないが、微妙に違う。
「さて…」
パチン ザン!
御剣が指を鳴らすと同時に、黒騎士の体に無数の剣が突き刺さる。
その様は、まるで針鼠…否。剣鼠だった。
「…妨害されると思ったが…まぁいい。
次は貴様だ。さっさと片付けてここを出させて貰う」
「…」
「急にだんまりか?ならばそこで座して死ね」
そう言うと御剣は、背後の空間から乖離剣を取り出す。
「エヌマ・エリシュ。ラナ・ブウ。シャマ・ム。(上にある、天には未だ、名前無く)
シャプ・リシュ。アムマ・トゥム。シュマラ・ザク・ラト。(下にある、地にもまだ、名がなかった時のこと)
ギパ・ラ。ラキ・イス・スル。ス・サァ。ラ、シェ・ウー。(世界には形なく、水も大地も見あたらず)
エヌマ・ラ・エア。シュプウ・マナマ。(ただ風が吹くのみで、まだ何も存在しなかった)」
御剣が読み上げるのは、天地開闢の物語の冒頭。
かつて混沌としていた太古の地球。その世界を天地に分けた天地開闢・天地乖離の神器。
天地創造の法典にして太古の原典たる乖離剣は、御剣の詠唱によって未だ嘗て無い程の暴風を発する。
その余波だけで、御剣達の居る世界は軋み、空間が悲鳴をあげている。
「『天地乖離す開闢の星』!!」
そして真名と共に解放される暴風。
御剣が前方に突き出した乖離剣からは、世界を切り裂く烈風が放たれた。
目に見える程の空気の対流によって、次々に空間に裂け目が入って行く。
遂には世界を構築する骨子が切り裂かれ、硝子が砕ける様な音と共に御剣は元の作戦空域に戻ってきた。
「…逃がしたか」
一通り辺りを見回すと御剣はそう呟いた。
とは言え、周囲は黒峰の呼び寄せた積乱雲からの豪雨と、エヌマ・エリシュの余波の暴風で大嵐の体だったが。
御剣が放ったのは普段の対城宝具の様な使用法では無く、乖離剣の『世界を切り開いた』と言う対界宝具の面を強化して放った一撃だった。
故に範囲が広がり過ぎ、物理的な破壊力は薄まってしまい、恐らく致命傷にはなっていない。
「しかし、幾らかのダメージは有る筈。しばらくの猶予も有るだろう」
次の襲撃に備える必要も有るだろう。しかし気がかりなのは…
「この場に居たのが2人、と言う事…後1人は何処に?」
キュン!
「…!?『熾天覆う七つの円環』!!!」
突如空を裂いて飛来する何か。
咄嗟にアイアスを展開してソレを防ぐ御剣。
そして弾いた物を見て驚愕する。
「…『赤原猟犬』!?」
それは、太古の英雄ベオウルフが振るったとされる対象追尾の能力を持つ剣。
その能力に従い、再度飛来するフルンティング。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
「く…このままでは…」
アイアスは飛び道具に対しては鉄壁と言っても良い防御力を誇る。
だが、いくら防ごうとフルンティングは幾度となく戻って来る。
そしてアイアス無しでは御剣と言えど、音速を超える攻撃を避け続ける事は不可能だ。
「…一か八か…」
御剣は開いている左手に新たに籠手を呼び出す。
吸い込まれそうな程の漆黒をしたその籠手は、どこにでも有りそうな平凡な造形とは裏腹に、どこか禍々しい雰囲気を発していた。
ガィン!!
一際大きな音を立ててフルンティングが弾かれる。
戻って来るまで凡そ1秒。御剣はアイアスを仕舞うと同時に左手を前に突き出す。
ガシィン!!
甲高い音が辺りに響く。
が、それを最後に辺りには風と雨の音以外はしなくなった。
「…っはぁ…はぁ…」
御剣の左手にはフルンティングが握られている。
しかし、その表面にはまるで血管の様な黒い文様が浮かび上がっていた。
『騎士は徒手にて死せず』。かの湖の騎士ランスロットの持つ宝具能力。
御剣はそれを籠手を依り代に発動する事で、フルンティングの制御を奪ったのだ。
「見事」
不意に御剣の頭上から声がする。
辺りには未だ嵐が吹き荒れ、まともな声など聞こえないだろうに、その声は妙に御剣には鮮明に聞こえた。
「成程。我等ガ出ルニハ些カ牛刀ニ過ギルト思ッテイタガ…成程」
「…残りの1人のお出まし、か」
「否。今日ノ所ハ我ハコレ以上手ヲ出サヌ。コレ以上ノ交戦ハ無意味故ナ」
「無意味?どう言う事だ?貴様等は私達を排除しに来た『抑止』だろう?
ここで引く理由でもあるのか?」
「本音ヲ言エバ、コノママデハ此方ガ不利故ニナ。暫ク時間ヲ取ラセテ貰オウ。
他ノ2人ノ治癒モセネバナラヌシナ」
「治癒?私を閉じ込めた奴はともかく、鎧の方は剣弾を叩きこんだ以上、生きているとは思えんが?」
「ソウ思ウナラバソウ思エ。イズレ又会ウ事ニナロウ」
そして声は聞こえなくなった。
辺りの嵐も徐々に治まり、遠くには晴れ間も見えている。
「…『赤原猟犬』」
御剣が背後に手を伸ばして、真名を呼ぶもフルンティングは顕れない。
それはつまり、今手の中にあるフルンティングは座から呼び出された本物だと言う事。
「…予想以上に厄介かもな。これは…」
御剣の独白は宙に溶け、ここに機動六課の初出動は終わりを告げた。
あとがき(と言う名の言い訳):8章6話です。
3人目登場。
欲望渦巻くオークション会場。
ある品が出品されるとのタレコミで警護に向かう機動六課。
しかし、そこにもスカリエッティの魔の手が忍び寄る。
次回『ホテル・アグスタ』
お楽しみに。
『オッカムの剃刀』:対概念宝具ランクA レンジ1 最大補足1個
14世紀の神学者オッカムが考えた哲学主題であり、「むやみに実体の数を増やしてはならない」 とするもの。
幾つかの事柄で十分説明できるにも拘らず、説明に最低限必要でない余計な存在がある場合、それらは不必要なものなのであるから削ぎ落とすべきである、とする考え方であり、この場合の剃刀とは、不要な仮説、概念を削ぎ落とすという行為のための比喩である。
それを刃として具現化したこの剃刀は、その物体本来が持つ概念以外を削ぎ落としてしまう。
幻想殺しと、この剃刀の相違点としては、前者は対象を消滅させるのに対し、後者は概念のみを消去するため、破壊はしないと言う点。
究極の反概念付与。
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