2012年 1月9日 海鳴市 近郊 森林
静かな早朝。
小鳥たちが囀り、辺りには冬らしい張りつめた空気が流れている。
そんな中向き合う人影が2人。
ティアナと御剣だ。
ティアナはバリアジャケットを、御剣もいつぞやの鎧を身につけている。
ティアナのバリアジャケットは、原作の訓練校時代の物と形こそ同じだが色は異なり、黒地に所々オレンジが入っている。
また、ベルト部分にはマガジンがいくつも付いており、上着の内側にもクイックローダーが付いている。
「さて、準備は良いか?ティアナ・ランスター?」
あえて愛称ではなく本名で呼ぶ。
ティアナもその意図を察したのか無言で頷いた。
森には2人だけでなく立会人として黒峰、結界担当の原口、その他観客も居る。
「御剣はティアのバリアジャケットを抜かない様にな。」
黒峰がこちらを見つつ言って来る。
しかし、こちらもそんな粗忽者ではない。
「分かっている。そこまで間抜けじゃない。」
頷く黒峰。
「では、陸士訓練校入学権取得試験2回目、御剣VSティア!
前回通り、ティアは御剣に有効打を入れるか、御剣に負けを認めさせたら勝ち。
御剣はティアに負けを認めさせたら勝ち。ただし、ランクB以上の攻撃用宝具禁止。
位置について!」
黒峰の言葉で2人が身構える。
現在の彼我距離は5m。御剣には一足で詰められる距離であり、ティアナには遠距離攻撃の手段が有る。
互いに互いの間合いの範疇。
「用意!………初め!」
刹那弾け飛ぶ両者。
御剣は飾り気のないロングソードを手に、ティアナの方へ。
踏み込みだけで大気が震え、剣は空気を薙ぎ払う。
方やティアナは、クトゥグアで弾幕を張りながら後退。
兆弾、散弾、イタクァの牽制砲撃。手を変え品を変え、御剣から逃げる。
森に逃げたティアナを追って、御剣も森へ入り、2人は森の中へと消えた。
Sideティアナ
一度目の交差。
剣を手に躍り懸かって来る仁を牽制しながら引くので精一杯だった。
怖い。怖い恐い。
あまりの恐さに歯の根が合わなくなりそうだ。
前回、仁に負けた記憶が蘇る。
畏怖と恐怖が手と手を取ってラインダンスでこちらにやって来る。
「ヤバ…怖すぎて自分でも何考えてんのか分かんなくなりそう。」
相変わらず仁は強い。
1年前には骨身に染みて理解した。
はやて姉さん、シグナムさん、エイミィさん、誰に聞いても仁は強いと言っていた。
でも、話で聞くより実際見た方がずっと良く分かった。
仁は、強い。
今回の1合を取っても分かる。
まずはその身体速度。
見えたのは踏み込みまで。
剣が振りかぶられたと思うと、手から先が消えた。
とっさに避けられたのは僥倖だった。
更にはその膂力。
地面に叩き付けられた剣が、まるでお豆腐にナイフを刺したみたいに地面を切り裂いていた。
当たっていたら、ううん。防いでいたら死んでいたんじゃ無いんだろうか?
極めつけはその動体視力。
カートリッジの魔力を全部集束させた後拡散させる散弾。
銃口の向きから弾道を読ませない為の兆弾。
私の体を使った死角からのイタクァの砲撃。
その全てを仁は見てから避けている。
これは中々に厳しい。接近してからの銃撃は避けられると考えていい。
それなら…
「…さぁ。1年の修練の結果、見せてあげるわ。仁。」
ティアナの口角が吊り上がる。
それは、極稀に御剣が見せる笑みに似ていた。
Side御剣
「ふぅ。」
足を止め一息つく。
ティアナを追って森に入ったは良いが、すっかり見失ってしまった。
この森は常緑樹が多く、シイやカシが大部分を占める為、冬でも緑が濃い。
この場所を指定したのはティアナだったが、これが狙いか?
しかし、教えたのは私だが、あの二丁拳銃、中々に厄介だ。
クトゥグアのカートリッジ弾数は20+1。
1発1発の魔力量は大したことは無い。
だが、それを集束、加速して撃たれると痛い。
鎧の上からでも痣ぐらいにはなるだろう。
更には兆弾、散弾。
弾種を切り替えて撃たれると対応に追われて追撃がし辛い。
散弾を連射された日には、ロングソード1本では無傷では済むまい。
実際何発かは鎧を掠った。
加えてときどき来るイタクァの砲撃魔法。
大口径カートリッジ1発の魔力全てを使うが、当たれば私でもそれなりにまずい。
クトゥグアの連射に慣れたあたりで撃たれると、かなり厳しい。
「…強くなった事を祝福すべきなのだろうが…」
それも私を倒すため、となると心中は複雑だ。
まぁ、私に有効打を与える事がこの試験の合格条件。
さて、何をしてくるか…
そう思った瞬間、背筋が凍る。
とっさに屈むと、先程まで頭の有った場所を濃いオレンジの魔力弾が通って行った。
「狙撃か!」
すぐさま魔力弾の飛んできた方へ走り出す。
雨の様に降り注ぐ魔力弾。
しかし攻撃は単調な上、牽制目的なのか、1発1発の魔力量も少なめだ。右へ左へ避けながら接近する。
魔力弾は木の梢から撃ち出されている。
木の幹を踏みつけ一足飛びに梢まで飛び上がる。
が、そこにティアナはいなかった。
代わりにあったのはオレンジ色のスフィア。
それも魔力が尽きたのかすぐに消えた。
「…オートスフィア?」
あっけに取られたのもつかの間。
梢に着地すると同時に右足に巻き付くオレンジの魔力糸。
途端に右足から力が抜ける。
「くっ!『アトラック=ナチャ』か!?」
ティアナの習得している数少ない補助魔法、アンカーとしても使える魔力糸を生みだす魔法。
元々はただの魔力糸を出すだけだったのだが、私が捕縛用に、と弄った結果、巻き付いた相手の魔力を拡散させ、脱力感を与える効果を付随させた。
…この場合も自業自得と言うのだろうか?
「うおぉぉぉぉぉぉ!?」
一気に梢から引きずり降ろされる。
なんとか体勢を立て直して着地すると同時に襲い来る魔力弾の嵐。
右足が封じられ碌に立つ事もままならない。
転がって避け続けるも、木にぶつかってしまう。
「『燭天覆う七つの円環』!」
魔力弾の降り注いでくる方向に翳した右手に顕れる、巨大な7枚の花弁。
花弁を散らす事無く、魔力弾は全て弾かれた。
「甘いわよ。仁!」
花弁の向こう側からティアナの声がした、と思った瞬間、私の横にティアナが現れる。
『燭天覆う七つの円環』は確かに投擲武器、要するに飛び道具に対しては絶対的な防御を誇る。
しかしだ。その大きさ、花弁自体が発光している事から、視界が奪われがちだ。
さらには顕現中はその場から動けない。
とっさにアイアスをしまい、左手に持っていたロングソードを突き付けるも、懐に入り込まれる。
そして左腕を掴まれたかと思うと地面に叩き付けられた。
「ぐふっ」
私の口から息が漏れる。
逆一本背負いとは…黒峰だな。
「取った!」
間合いを取り、こちらにイタクァの銃口を向け、フルリロードするティアナ。
猛獣が吼えるような音を5度立てて、シリンダーが一周する。
イタクァの銃口に集まる魔力。
密度を高められた魔力は互いに反発し、赤い雷が銃身に走っている。
「『集中集束!ファントム・ブレイザー!』」
迫るオレンジの光線。
だがティアナ。間合いを取ったのは失敗だったな。
残念ながら私の勝ちだ。
「『魔術筒』。」
着弾までの一瞬のうちに、右手の指に挟んだ口紅サイズの筒を2つ、ティアナに投げる。
筒は一瞬で巨大化し、ファントム・ブレイザーを呑み込む。
「そら、返すぞ。」
呑み込まれた筈のファントム・ブレイザーが、もう一方の筒からそのままティアナに放たれ
ガシャァァァン
ティアナが砕け散った。
「…は?」
瞬時には理解できず思考に空白が生まれた刹那、「チェック。」頭の後ろで撃鉄が起きる音がした。
後頭部に伝わる冷たい鉄の感触。
「…まいったね。いつの間に幻術なんて覚えたんだ?」
両手を上げて降参する。
…手加減していたとは言え、この世界に来て初敗北だ。
しかも慢心、油断が原因。元ネタの癖が移ったか?
オートスフィアなんて、私が知らない魔法を習得している時点で、幻術の可能性も気付くべきだった。
「極最近よ。1分も持たないし、魔力を一気に持っていかれるけど。
囮にはなったでしょう?この『ミラー・オブ・ニトクリス』。」
「いつ入れ替わったか聞いても良いか?」
「仁を投げ飛ばしてすぐよ。
仁にも気付かれなかったなら、大体の相手に効きそうね。」
まったくだ。
思わず笑みが零れる。
「何がおかしいの?
私なんかに負けたのが悔しくておかしくなった?」
「酷い事を言うな…違う。嬉しいのさ。
あぁ。弟子に抜かれた師匠の気分てのはこんな感じか。」
そう言いつつ、ティアナの頭に手を乗せ、髪を梳くように撫でる。
「でも、手加減されてた。」
大人しく撫でられつつも、頬を染め不貞腐れた様に呟くティアナ。
「ふん。本気の私に勝てたら、それはもう次元世界最強だろうよ。」
「暗に自分が最強って主張してない?」
ジト目で見てくるティアナ。
「あぁ。そうさ。私はこの次元世界で最も強い。だからな、ティア。」
撫でていた手を止め、ティアナの瞳を見つめる。
「自信を持て。お前は強い。
手加減していたとはいえ、私に勝ったのだから。」
こちらを見つめて力強く頷くティアナ。
「さて、ではティア。約束通り、陸士訓練校の入学試験を受験する事を認めよう。
当然ながら、試験に落ちたらまたこちらで生活するように。
まぁ、私達がみっちり訓練したんだ。寧ろ訓練校の方が楽かもな。」
少し茶化すように言う。
…無言で腕を払いのけられた。
「分かってるわよそんな事…バカ。」
「信頼している、と暗に含ませたんだが?」
「…それも分かってる。
…仁?」
「なん…っと。」
答えようとすると、ティアナがこちらに寄りかかって来る。
ティアナの顔は私の胸に押し当てられて、表情を窺い知ることは出来ない。
「私ね。決めた事があったの。もう泣かないって。
次泣くのは、執務官試験に受かった時だって。
でもね…今、ちょっとその決め事、守れそうにないの。
嬉しくて…仁に褒めてもらえて…認めてもらえて…」
ティアナの肩は震えている。
背中に手を回し、優しく抱きしめる。
ティアナが落ち着くまでそのままの体勢で数分。
背中を子どもをあやす様に撫でてやると落ち着いたのか、顔を上げて離れるティアナ。
「うん。ありがと。仁。」
「どういたしまして。
胸くらいなら、いつでも貸してやる。
今日明日に出発ってわけでも無ければ、二度と会えん訳でも無かろうに。」
「うん。」
結界外
「…こっちからも見えとるっちゅう事に、気ぃ付いて無いんかな?」
不貞腐れた様に口を尖らせて言うはやて。
「御剣は変なとこ抜けてるからな…あり得ないとも言い切れない。」
あとがき(と言う名の言い訳):模擬戦ティアナ勝利Ver.です。
途中で何度も御剣が勝ちそうになりました。危ない危ない。
どうしても戦闘回は文字数が増えますね…読み辛かったらすみません。
ティアナの魔法、『アトラック=ナチャ』、『ミラー・オブ・ニトクリス』は両方ともデモベの魔法のアレンジです。
後者はNARUTOの影分身も入っていますが。
次回からは新章、ティアナ訓練校編です。
暫く御剣の出番が無くなります。
ではまた次話で。
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