これは300万アクセスを記念したifものです。
7章-4『花見』で御剣がはやての思いを受け止めていた場合のお話です。
では、どうぞ。
番外話・短編集
番外・300万アクセス記念・その1 御剣×はやて恋人編
2014年 5月 海鳴市 御剣古美術店
「…遊園地?」
「はい。チケットが2枚手に入ったので、一緒にどうかな、と思いまして」
はやての告白を受け、所謂世間一般で言う処の恋人になった私達だが、あまりそういった事はしていない。
休日にははやてが店に来て他愛も無い話をし、その他にも私がはやての家に食事に招かれる事はある。
が、それは今に始まった事ではないし、いつも黒峰達や守護騎士達が居る。
2人きり、といった状況は早々無いと言っても良い。
「御剣さんにも御店がありますし、都合がつけばで良いんですが」
「いや、構わないよ。店はあの2人に任せても良いし、1日位なら休んでも問題は無いだろう」
「ほんまですか? じゃぁ、今週の日曜日でも構いませんか?」
「あぁ。大丈夫だ」
「じゃぁ、朝の10時に迎えに行きます」
「いや、私が家まで迎えに行こう。」
「電車に乗りますから、ここの方が近いです。と、言う訳で私が迎えに来ます。いいですね?」
「…分かった。では、日曜の10時だな」
「はい!」
日曜日 朝9時
陰鬱な雲が広がる空。外からは絶え間なく雨音が続いている。
風も強く、到底出歩ける状況ではない。
今日は約束の日曜日。
天気予報では快晴だった筈が、夜更け過ぎからこの有様だ。
これでは遊園地もまた今度にせざるをえまい。
そう思い、はやてに電話を掛けようとした時、裏口のチャイムが鳴った。
こんな雨の中、誰かと思いつつも裏口へ向かう。
「えへへ。来ちゃいました」
「はやて!? どうして、いや、びしょ濡れじゃないか。早く上がれ。風邪を引く」
ドアを開けるとそこには、めかし込んだはやての姿が有った。
だが、傘をさしているにも関わらず、傘はその役を成していない。
はやての体は頭から濡れてしまっている。
もうすぐ初夏とはいえ、そのままでは風邪を引いてしまうだろう。
「湯加減はどうだ?」
「ええですよ~…すみません。御剣さん」
風呂を沸かし、はやてを脱衣所に押し込み、入浴させる。
そしてはやてが浴室に入ったのを確認し、服を洗濯する。
洗濯機は脱衣所にあるので、そのまま扉越しにはやてと話をする事にした。
「謝るぐらいなら、自分が悪い事をした自覚があるんだな? 何故こんな雨の中来た?無謀にも程がある」
「すみません…雨で御剣さんと一緒に遊びに行けなくなると思ったら、居てもたってもいられなくなって…」
「守護騎士達達はどうした? 流石に止めるだろう」
「多分、まだ私が外に出てる事に気付いてないと思います」
「…全く…(シャマル、シャマル。聞こえるか?)」
「(み、御剣さん? どうしたんですか?)」
「(はやてが家に来ている。それだけ言っておこうと思ってな)」
「(えぇっ!? この雨の中を?)」
「(あぁ。雨が治まったら連れていくよ)」
「(すみません。お願いします)」
「(あぁ。)シャマルに連絡しておいた。雨が止んだら送って行こう」
「はい…」
「…この雨の中無謀にも1人で来た事には怒っている」
「うぅ…」
「だが、そこまでして来てくれた事は嬉しいよ。新しいタオルを出しておいたから使うと良い。
着替えは…すまないがとりあえず私の服を着てくれ」
「はい。分かりました」
そろそろ、はやてが風呂からあがるころかと思い、ホットミルクを作っていると、丁度はやてが居間に入って来る。
「ほら、これを飲むと良い。温まるぞ」
「もう十分お風呂で温まりましたよ。まぁ、頂きます」
そう言ってホットミルクを受け取り、口を付けるはやて。
「遊園地ならまた今度行こう。別段、今日で無ければならない訳でもあるまい?」
「そうですね。この雨じゃ出歩くのも無理でしょうし。身にしみて分かりましたよ」
「まったくだ」
「えへへ…そう言えば、黒峰さんと原口さんは?」
「まだ寝ている。今日は店を休むと言ったら今朝方までゲームで遊んでいたらしくてな。暫くは起きないだろう」
「へぇ~…御剣さん、1つお願いしても良いですか?」
「何だ?」
「…御剣さんの部屋、入ってみたいです」
「…面白い物は何もないぞ?」
はやての要望に折れ、はやてを自室に招く。
見られてまずい物も、触れると危ない物も無いが、どこか気恥ずかしい物は感じる。
「ここが御剣さんのお部屋ですか。…何にもありませんね」
「だから見ても詰まらんと言ったろう?」
部屋の中には敷かれたカーペットに箪笥とベッド、それに部屋の中央に置かれた丸いテーブルがあるだけ。
ここは基本的に寝る場所でしかないので、特に物は置いていない。
と、はやてを見ると、ベッドの下を覗き込んでいる。
「…一応聞くが、何をしているんだ?」
「いや、お約束かな~と。」
「そんな所には何もないぞ?」
「他の所には有るんですか?」
「何がだ?」
「エ…」
「え?」
「…言わせたいんですか?」
「何の事やら?」
そう言いつつ、私はベッドの縁に腰架ける。
さっきも言ったが、この部屋は基本寝るだけだ。椅子や座布団など無い。
はやてもその隣に腰掛けてくる。と、同時にはやてが可愛い欠伸をする。
「ふぅ………ぅ、ふぁぁっ、ん…」
「眠いのか?」
「昨日あんまり寝付けなかったので…お風呂にも入りましたし…」
「そうか」
そうして暫くすると、はやてが船を漕ぎ出す。
前へ後ろへとグラグラ揺れる様は見ていて危なっかしい。
少し躊躇ったが、はやての肩を寄せ、軽くはやての体を引く。
そうすると、はやては体を私の胸に預ける形になった。
両の腕を回すと、はやての小柄な身体はすっぽりと収まってしまい、自然と二人の密着も深くなる。
「ふぁ…ん…」
少し身じろぎこそしたものの、すぐにまどろみ始めるはやて。
この様子では、寝付けなかったどころか、一睡もしていないのではないだろうか?
それだけ今日の事を楽しみにしていてくれたと思うと、自然と頬が緩む。
はやてを委ねたまま身体を後ろに。
丁度、壁が背もたれ代わりになってくれて、二人分の体重を受け止めてくれる。
鼻腔をくすぐる、微かなはやての匂い。
ほの甘く、どこか懐かしい匂いだ。
自分も使っているシャンプーの匂いも混ざっているが、そちらは慣れている所為かさほど感じず、むしろ、はやての匂いをくっきりと浮かばせる様になっている。
「ふ…ぁ…」
まだ少し湿った髪を撫でれば、はやては私の手の方へ頭を押し付けるように動き、それに合わせて体の向きも変わる。
2人して同じ方を向き、私がはやてを後ろから抱きかかえる形になる。
腕の中に感じるはやての体温。
先程まで風呂に入っていた事も有るのだろうが、少し熱いくらいだ。
だが、その温度も心地良い。
はやての眠気に引きずられる様に私の意識も靄が掛かり…
◆
「ん…ふぇ?」
暫くして昼過ぎ。
身動きが取れない事に違和感を覚えつつ、目を覚ますはやて。
良く見れば、目覚めの景色も常の物と違う。
辺りを見回し、視線が上を向いた瞬間、はやては声をあげそうになる。
が、驚きの対象が眠っている事に気付き、声を堪えた。
「…そっか、御剣さんの部屋に入ってそれで…」
自身が寝入るまでの経緯を思い出す。
窓の外を見れば、雨脚は少し弱まったものの、依然として雨は降り続いている。
体を起そうにも、前に回った御剣の腕が邪魔で動けない。
左腕も固定されてしまっている。
きつくは無いが、割としっかりとホールドされてしまっていた。
脱出を諦め、頭を御剣の胸板に乗せる。
ふと、それに気付く。
御剣からはもちろんの事、はやて自身が纏う服からも漂う、この部屋一杯に満ちる御剣の匂い。
汗臭い訳でもなく、香水の様なわざとらしい匂いでも無い。
形容し難いが、どこか安心する匂いだ。
「すぅ…すぅ…」
上を見上げれば、寝入った御剣の顔。
そう言えば、寝顔を見るのはこれが初めてである事にはやては気付いた。
マジマジと見つめた後、はやては御剣の鼻先をこしょこしょとくすぐってみたり、頬をぷにぷにと摘んでみたり、普段出来ない事をここぞとばかりにやっておく。
「ん…」
ふと、御剣の腕がベッドに落ちる。
弄っていた所為で流石に反応が有ったらしく、はやてを抱きしめてた腕が緩んだらしい。
これではやては自由になった…わけだが。
折角の御剣弄りの機会を、はやてが逃す筈も無い。
寧ろ体の向きを変え、御剣と身体を正面から向き合せた。胸と背中の密着が、胸と胸の密着に。
ここでクイズ。びしょ濡れだったはやて、ではその下着は?
1.そこまで濡れていなかった
2.濡れているのをそのまま着けている
3.はいてない
答え3、答え3、答え3、答え3、答え3…
「…ふぅ…」
つい溜息が洩れる。
恋人になって1ヵ月が過ぎた。にも拘らず、御剣はキスの1つもしてこない。
まぁ、こうして寄り添う事はよくある。だが、絶対にそれ以上手を出してこない。
大事にされている、と言われれば聞こえはいいが、自分に魅力が無いのではないかと不安にもなると言うもの。
身の回りにそう言った経験のある女性と言うのはいないので、この間ばったりスーパーでエイミィに会った時に聞いてみた所「YOU 押し倒しちゃいなYO」と言われた。
「…それはちょっと無いなぁ…」
実際、今の体勢的には、はやてが押し倒す格好になっているが、これを御剣が起きている時にやる、というのは顔から火が出んばかりに恥ずかしい。
「すぅ……すぅ…」
目線を上にやれば、変わらず眠り続ける御剣の顔。
「…」
息に合わせて薄く開いたり閉じたりする御剣の唇に、はやての視線は釘付けになる。
頬が熱い。鏡を見ずとも、自分の顔が真っ赤である事は想像に難くない。
徐々に近づくお互いの顔。
ゆっくりと、しかし確実に距離は縮まって行き…
◆
「…ん…」
ふと、ベッドの上で目を覚ます。
窓の外を見やれば日が差している。どうやら雨は止んだらしい。
時計を見ればもう14時だ。
起き上ってみれば、腕の中にはやてがいない。
もう起きたのだろうか、とリビングへ向かえば、果たしてはやてはそこに居た。
「はやて」
「…ひゃ、はい! なんでしょう!!?」
「…どうした? そんなに慌てて?」
「あ、ああ慌てててなんてませんよ? いいつも通りですよ?」
それがいつも通りだったら、どれだけ忙しない事か。
不審に思いつつも、今はその事は置いておく。
「ん? 黒峰と原口は?」
「あ、さっき出かけられましたよ? 伝言があります」
「伝言?」
「はい。え~と、『ごゆっくりぃ』だそうで」
「…まぁいい。夕飯、食べていくか?」
「はい。あ、うちの子らも呼んでええですか?」
「あぁ。構わんよ。その代わりに、夕飯の準備を手伝って貰おうか」
「はい!」
いつも通りに過ぎる日常。それもまた、一つの『世界』。
あとがき(と言う名の言い訳):はい、番外と言う名のifルート、御剣とはやてが恋人編でした!
やったかやって無いかはご想像にお任せします。
次の番外は、原口の話です。では。
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