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A's編
3章-7 君の名
   

   12月10日 朝 海鳴市 八神家 はやて寝室


「ふ…くぁぁぁぁふ…」

 もぞもぞと布団が動き、はやてが目覚める。かわいらしい欠伸と共に、伸びをするはやて。

「なんやろう…何か変な夢見たような…」

 隣ではヴィータが眠っている…一向に起きる気配はない。

「せや、今日はお昼から御剣さん達が来てくれるんやった」

 最近では離れがちだった家族の皆も、今日は家に居ると言っていた。
今日の昼食は何にしようかと心躍らせつつ、はやては一階に向かう。
今日も良い一日であると良いと思いながら。

「お邪魔します」
「は~い。上がって下さい」

 昼になって、御剣達がやって来た。
にこやかに挨拶する裏で、思念通信では剣呑な内容が交わされていた。

「こんにちは。(黒峰、尾行の類は?)」
「こんにちは。(無い。原口、結界展開頼む)」
「こんにちは。(了解。人除けと認識阻害でいいね)」

 そして食後。居間に全員が集まり、顔を突き合わせている。

「で、改まってどうしたん? 皆神妙な顔して」

 はやての言葉に守護騎士達は顔を見合わせると、一斉に頭を下げた。

「主はやて、まずはお詫び申し上げねばなりません」
「我らが騎士の誓いを破りし事、いかなる処罰もお受けします」
「ど、どしたん、皆して?何か悪い事でもしたん?」
「これを」

 シグナムが闇の書を差し出す。
その(ページ)の表面に施されていた偽装スキンは解除され、完成間近まで蒐集された闇の書が晒される。

「これって………理由聞いてもええ?」
「それについては私から言おう」
「御剣さん?ってせや!御剣さんあのな、これはな」

 慌てた様に取り繕おうとするはやての言葉を遮り、御剣は口を開いた。

「心配せずとも私達は関係者だ。否、共犯者と言っても良い。
 なにせ、蒐集には私達も参加していたからな」
「へ? な、何でなん? 御剣さんも魔法使いやったん?」
「厳密には違う。本題に入るがはやて、最近急に胸が苦しくなる事は無かったか?」
「え!? な、無いですよ」
「誤魔化しても無駄だ。石田先生からシグナムとシャマルが聞いている。
 原因は闇の書の浸食。理由は蒐集を覚醒から暫くの期間行わなかった事だ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。何でそんな事急に」
「そのままそれが、シグナム達が蒐集を行った理由だからだ。
 蒐集を行わなければはやて、君は長くは持たなかっただろう」

 シグナムが勢いよく立ちあがる。

「御剣殿! もう少し言い方というものがあるのでは?」
「事実だ。だが、ただ蒐集をしても闇の書は暴走し、はやては闇の書に取り込まれてしまう。
 そこで私達が協力を申し出た。1つは単純に蒐集の協力。2つ目、こちらが本題になる」
「…何ですか?」
「はやて、君に闇の書の改修をしてもらう。闇の書の闇、防衛プログラムの改修を」
「分かりました」

 やけにあっさり承諾するはやてに若干肩すかしを食らった様な表情をする御剣。
それを誤魔化す様に咳払いを1つすると、御剣は話を続けた。

「…早いな。他に聞く事は?」
「え~と、改修ってどうすればええんですか? 私そんな事やった事無いんですけど」
「まずは管制人格を呼び出すことになる。シグナム、闇の書をはやてに」
「はい。主はやて、どうぞ」

 はやてはシグナムから闇の書を受け取る。
受け取るもはやては、闇の書を眺め透かししている。

「闇の書に管制人格の起動をお命じ下さい。それで最後の守護騎士が現れます」
「わかった。闇の書、管制人格に会わせて?」

 濃紫色の光を発しながら浮かび上がる闇の書。
はやての眼前にはベルカ式の魔法陣が展開されている。

「主はやての承認、及び蒐集400ページ、確認。管制人格、起動します」

 魔法陣から顕れたのは、10代後半の女性。
長い銀髪に赤い瞳、黒い服を着ている。愁いを帯びたかのようなその顔は眉目秀麗。

「…貴方が管制人格さん?」
「そうです。主はやて。こちらでお会いできるとは思っておりませんでした」
「あぁ、今日の夢に出てきた人やね。会えて嬉しいわ」
「さて、管制人格、私の事は分かるかな?」
「御剣殿ですね。蒐集中の事は見ておりましたので」
「そうか。でははやてに防衛プログラムの改修案の指導を」
「しかし、現在の主はやてでは防衛プログラムの改修はできません。
 真の主としての覚醒を得ても、本来の壊れていない防衛プログラムは最早存在しません。
 再構築しようにも、わずかな時間での改修はとてもではありませんが不可能です」
「そのための私達だ」
「…どういうことですか?」

 首を傾げ問う管制人格。その仕草には何処となく可愛いらしさが有った。

「闇の書の完成と同時にはやては闇の書に取り込まれ、管制人格が表に現れ、その後防衛プログラムが暴走する。そうだな?」
「はい。防衛プログラムの起動までですが、凡そ30分程です」
「それを私達で抑え込む」
「…不可能です。今回の闇の書は魔法生物が主な魔力原です。
 魔導師のリンカーコアであれば私に回される魔力量が多くなりますが、今回の蒐集で集められた魔力は大半が防衛プログラムに回されている。
 今の防衛プログラムを抑え込むのは至難の業です」
「問題無い。私達は兎も角、私達の能力を嘗めるなよ? 蒐集中にも見ていただろう」
「…分かりました。主はやて、よろしいですか?」
「うん。私に出来る事やったらやらせて欲しい。
 よろしゅうお願いします…管制人格さんって呼びにくいなぁ。名前って無いん?」
「…いえ、私は闇の書の管制人格。それ以上でもそれ以下でもありません」
「ん~…あかん! せやったら私が名前付けてあげる! 私は闇の書の主やから」
「い、いえ、主はやて、いいのです。私にはそのような「決めた!」え?」

 はやては少し考え込んだかと思うと、すぐさま顔を上げた。

「リインフォース!」
「リイン…フォース…」
「そうや」
「し、しかし…」
「つべこべ言わんの。主としての命令です。
 闇の書の主の名において汝に新たな名を贈る。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リインフォース」
「…ありがとう…ございます…」
「よろしくな! リイン!」
「…はい!」

 華が綻ぶ様に、と言う例えの模範であるかの様に嬉しそうに、リインフォースは笑った。
祝福の風(リインフォース)』の名の如く、周囲を励ます笑みで。 

あとがき(という名の言い訳):3章7話です。
命名の儀も滞りなく終わりました。
はやてはまだ夜天の書の事は知りませんが、リインフォースには救いになったと思ってください。
ではまた次話で。
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