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A's編
2章-3 闇の書の真実


  10月27日 海鳴大学病院 はやての病室前廊下


 廊下に響いたのは鈍い打音。壁を殴った痛みが右の拳を苛む。

「何故! 何故気づかなかった…」
「ごめん…ごめんなさい! …私…」

 静まり返った廊下にシャマルの慟哭が響く。

「お前にじゃない。自分に言っている…」

 何故気づかなかったのだ…御傍に居ながら!
我らの維持にも当然魔力が使われる。
基本的には我ら自身のリンカーコアで賄われるものの、足りぬ分は主から供給されていた。
それを知りながら!


 深夜 海鳴市内 とあるビルの屋上

 我らの足元には4人分の転送魔方陣が展開されている。
かつて、主はやてより賜わりし騎士甲冑に身を包み、愛剣(レヴァンティン)を構える。
心に去来するは主はやてとの誓い。
しかし、闇の書の守護騎士たる我らが活動する事で、主はやての浸食は進んだ。
なれば、その救済も我らが使命。
主はやて。申し訳ありません。ただ一度だけ、あなたとの誓いを破ります!

「我らの不義理を、お許しください!」
「そこまでだ」

 突然の闖入者に皆反応する。
果たしてそこにいたのは…御剣殿だった。

「何故ここにおられる。御剣殿」
「それだけ魔力撒き散らせておいて、何故もなにも有るか」

 …転送の為の魔方陣の撒き散らす魔力は確かに大きい。しかし…

「私が聞いているのは、どのような意図を持ってここに立たれたか、という事。
 邪魔立てすると言うならば…」

 レヴァンティンの切っ先を御剣殿に向ける。

「切り捨てる、か」
「そうです。仮にも私は『守護騎士(ヴォルケンリッター)』烈火の将。
 邪魔立てするならば相応の御覚悟を」
「覚悟、覚悟ね。成程」
「…何が言いたいのですか」
「いやいや、覚悟はいい言葉だ。いい言葉は決して無くならない。
 しかし、君たちにはあるのか?自らの主に罪を負わせる覚悟が」
「はやての道は血で汚さない! はやての為にも人殺しはしない!」

 ヴィータが吠える。

「そんなものは覚悟では無い。『覚悟(かくご)』とは! 暗闇の様な道を指し示す道標だ。
 決して諦めない決意こそが覚悟を生む」
「我らは諦めてなどいない! 否! 諦めてなどいないからこそ抗うのだ!
 闇の書の主の運命から主はやてを救うために!」

 途端に御剣殿の顔が歪む。今まで見たことも無いような顔だ。

「運命、運命か。運命は嫌な言葉だ。嫌な言葉は決して無くならない。
 運命なんてものは、運命について考えた時にだけ顔を覗かせる化け物だ。塵芥にも劣る」
「何が言いたい…言いたい事をはっきりと言え!」

 ザフィーラが焦れたように叫ぶ。

「では、はっきりと言おう。お前達のやろうとしている蒐集行為、それは全て無駄だ」
「何…だと…?」
「思い出せ。お前達が今まで仕えてきた主の事を。彼らはお前達が蒐集を完了した後、どうなった?」
「それは当然、強大な力を…」

 …何だ? 思い…出せない? 我らは主に仕え、そして蒐集を行い…どうなった?
周りを見渡す。他の皆も困惑顔だ。

「第一級指定ロストロギア、『闇の書(Buch der Dunkelheit)』。転生機能、無限再生機能を併せ持つ。
 本来の名は『夜天の魔導書』。
 主と共に旅をし、各地の偉大な魔導師の技術を収集し、そして研究するために作られた、収集蓄積型の巨大ストレージデバイス。
 しかし、歴代の持ち主の何人かがプログラムを改悪。破壊の力を使う「闇の書」へと変化した。
 その改変により、旅をする機能が転生機能に、復元機能が無限再生機能へと変化してしまった。
 これらの機能があるため、闇の書の完全破壊は不可能とされる。
 また、真の持ち主以外によるシステムへのアクセスを認めない。
 無理に外部から操作をしようとすると、持ち主を呑み込んで転生してしまう。
 ゆえにプログラムの停止や改変ができないので完成前の封印も不可能。
 完成後は、持ち主が闇の書の意志(管制人格(マスタープログラム))と融合することで、巨大ストレージデバイス「闇の書」に蓄えられた膨大な魔力データの魔力を行使できる。
 当然蒐集した対象の魔法も使え、莫大な魔力がある分オリジナルを上回る威力を生み出す可能性もある。更にはサポートも闇の書の意志が行ってくれる。
 ただし、所有者に選ばれても、蒐集によって魔導書を完成させた後に管制プログラム・防御プログラム双方の認証を受けなければ管理者権限を得られず、機能の全てを使用することはできない。
 そして、自律思考を持たない防御プログラムの破損によりこの認証が正常になされず幾度も暴走を起こしている」
「…何を言っている? いや、何が言いたいのだ! 御剣殿!!!」

 混乱する思考を置き去りに叫ぶ。
そんな私を憐れむかの様な視線を向けたまま、御剣殿は口を開いた。
薄々と私自身が気付いていた、気付きたくなかった事を告げる為に。

「つまり、君たちが蒐集を行ったところで、はやては闇の書に呑まれて暴走する」


                           ◆


「そん…な」
「それじゃぁ…はやては…はやてはぁ…」
「はやてちゃん…」
「主…はやて…」

 守護騎士達の顔は絶望に染まり、まるで明日、世界が終わると言われたかのようだ。
当然の事だ。信じていた事が間違いであったなどと、そう容易く受け入れられはしない。
私だって同じ立場であったなら、同じ顔をするだろう。

「…御剣殿。貴殿はどのようにしてそれを?」
「闇の書に直接。私には鑑定能力のような物が有ってね。
 それで今までの顛末や闇の書の真実、そしてはやての辿る先も、ね」

 私の話を聞いたシグナムの瞳に、炎が宿る。
それは怒り。シグナムの体から噴き出したかの様な鋭い怒気が私の体を打つ。

「なっ…それを知っていながら、何故放置した! 何故我らに告げなかった! 何故…主に明かさなかったのです!」
「告げて、明かして、お前らを消す、か? それは、私は随分な重荷を背負う事になるな。
 はやてから家族を奪い、加えてお前たちを殺した咎、と」
「っ! そ、それは…ならば! 我らが現れる前に闇の書を」
「言っただろう。外部操作は受け付けないと」
「では…それでは…主はやては…」
「このままでは助からない」
「…それでいいのか! 主はやては貴方を好いている! その好意を受けて何も感じないのか!」
「何も」
「っ!」

 鋭い風切り音と共に、レヴァンティンが私の喉元に当てられた。

「ふん。いつぞやの問答の様だな。…どうした。遠慮はいらんぞ?」
「…貴方は先ほど『このままでは』と言われた…有るのだな、主はやてが救われる方法が!」
「…存外、冷静だな。そう、その通りだ。では教えよう。はやてを助ける方法、それは…」
「…それは?」
「蒐集だ」
「………」
「………」
「………」
「…いや、御剣殿。先程御自身で蒐集は無駄、と言われなかったか?」

 守護騎士達の冷たい視線が突き刺さる。止めろ。そっちの趣味は無い。

「ただ闇雲に蒐集をしても無駄、という事だ」
「では?」
「蒐集を行い、はやてを真の主として覚醒させ、闇の書の闇、防衛システムの改修をしてもらう。
 それが、はやてを救う方法だ」

 これ以外、私に思いつける方法は無い。
これが駄目でも筋書き(うんめい)通りに管制人格は消滅し、はやては夜天の書の主になるだけ。
だが、出来る事ならば、私は管制人格を救いたい。
もし、はやてが知ればそれを望むだろうから。
彼女を泣かせる全てを私は排除しよう。
他の誰でも無い、彼女の為に。私は運命に反旗を翻す。例えそれが自己満足であれ、だ。


あとがき(という名の言い訳):第二章、閉幕でございます。
次話からはA`s本編に突入します。

黒「そんな事より今回俺達の出番が無かったんだが。」

作「だって君達ギャグ要員だし。今回はシリアスチックに攻めたかったんで。」

黒「それほどシリアスでも無いだろうが。ほら、原口、お前からも何か言ってやれ!」

原「…もう何か元から出番少ないからね。若干諦め入ったよ。」

黒「…。」

作「ではまた次話で!」
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