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◇夢色童話◇
作:遊奈



8.誘い、導く




 「様子はどうだ、彼女はうまくやってくれたかい?」

 小さな家の中での出来事の一部始終を盗み見ていた男に、背後から王子が声をかけました。

 「ちょうど今、王妃が家から飛び出しました。後を小人達が追っています」

 「うん、いいタイミングだ」

 王子はそう言うと、白雪姫しかいないはずの家に向かいました。お妃様を追うよう、促すためです。
 けれど、開け放された扉から白雪姫が立ち上がるのを見て、そしてその視線の先を見て、王子は足を止めました。
 ――小人が1人残っていた。これでは白雪姫に近付けない。計画が狂ってしまう……王子は慌てて家の壁に沿って隠れ、耳をそばだてました。

 『どういう事だ?』

 『あなたには関係無いでしょう。放って置いて下さい』

 『でもあいつら心配してる』

 短い会話でした。その直後、白雪姫は家から走り出てきました。

 「待って…!」

 王子はすぐに白雪姫に小さく声をかけました。白雪姫は険しい顔を和らげ、笑顔で駆け寄ってきました。

 「いらしてたのね、よかったわ。あなたに会わなければと思っていたの」

 王子はひっそりと白雪姫に囁きます。

 「お母様を追いなさい」

 白雪姫はきょとんとしました。もう事はすんだのに、と言いたげです。王子は極めて重大であるかのように、小さな声に力を込めて言いました。

 「小人達が危険です…!」

 日数にすれば、とても短い間でした。けれど彼女は救われたのです。その暖かさに、その優しさに、その明るさに。生きてゆく希望は、七人の小人達との穏やかな暮らしの中で見つけたものでした。

 「さっき老婆とすれ違いました。ローブが血で真っ赤に濡れていました…あれは恐らく小び――」

 「どちらへ行きました」

 落ち着いてよく考えれば分かったはずです。小人達は男六人に対し、お妃様は丸腰で一人だという事。皆たった今出ていったばかりだという事。そして、お妃様のローブは真っ黒だったという事を。

 「母はどちらへ走って行きました?」

 そう問う白雪姫は落ち着いて見えました。声を張り上げるでも焦るでもなく、冷静に王子にそう訊ねました。

 「あっちです」

 王子は岩場を指差しました。

 「あの崖の方です」



◇◇◇



 一人取り残されたグランピーは考えていました。
 何なんだ、一体。何故倒れたふりなんか、と。
 そしてそれ以上に。
 何故俺は素直に言えないのだろうか。
 ――一番心配しているのは俺だと。だから一人、倒れた君の側に残ったのだと。

 きっと彼女は思っているだろう。無愛想で近よりがたい奴に睨まれている、と。違うんだ、俺は。
 ただうまく伝える事が出来なくて、見つめる事しか出来なくて…――。

 はぁ、とため息をつき、グランピーは外へ出ました。顔をあげると、そこには走り去って行く白雪姫のか細い背中を見つめる王子がいました。

 「そこで何してる」

 グランピーは王子の背後から声をかけ、王子はゆっくりとグランピーの方を振り返り、二人は互いを視界に入れました。

 「やぁ。今日はなんだか騒々しいね」

 王子は微笑み、他人事のように答えました。

 「でも大丈夫だよ」

 グランピーは王子を睨んだまま、黙っています。王子は再び白雪姫の走って行った方を向き、目を細めました。

 「もうすぐ静かで穏やかな平和が来るから」

 王子は嬉しそうにそう言うと、愛馬のもとへと歩いて行きました。



◇◇◇



 「どのように致しますか」

 森の陰で待っていた召し使いの男が王子に尋ねます。どう始末するのかと聞いたのです。王子はひらりと馬に乗り込みました。

 「いやいいよ。放っとけ」

 「しかし」

 召し使いの言葉を無視し、馬は進んで行きます。

 「今更、世間知らずな小人に何が出来る」

 王子は鼻で笑いました。
 その小人に完璧だった計画が水の泡にされるなど夢にも思わず。

 「それより小人達の方は大丈夫なんだろうな」

 「はい。彼らが王妃に追いつく事はありません。そして白雪姫よりも先に帰って来る事もありません」

 それを聞いた王子は、意気揚々と白雪姫を追って行きました。





 お妃様を追いかけた小人達は、王子の召し使いに別の場所へと誘導され、その隙に白雪姫は崖でお妃様と対峙します

 白雪姫の瞳の中で、落ちゆく母は泣いているようにも微笑んでいるようにも見えました

 籠からこぼれ出た赤い林檎に、届かない手を伸ばし何かを祈っているようにも見えました

 その場に崩れ落ちた時、王子が息を切らせ駆けつけ、白雪姫を立たせました

そして下に用意してあった馬に白雪姫を乗せ家へと急ぎました

 小人達はお妃様を探しまわりますが、結局見つけることが出来ず、ようやく家に帰って来るのです


 ――そしてそこで再び目にするのは、

 老婆に毒りんごを食べさせられ、ずっと変わらず倒れたままの、白雪姫でした。












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