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機械箒で掃く風に 〜現代魔女は見習い保安官〜 作者:十八日 柚子葉
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Chapter03: ワイ・ノット・ナッシング

「使い立てて悪いけど、私はサポートにまわるからあいらちゃんとくるみちゃんは前衛、(さと)さんはバックアップをお願い」
 オペレーションが居ない中、全員の耳元に委員長の声が届く。魔法高の保安学部では、その活動環境で分類される学科、クラスの他に、個人の素質による専攻がある。委員長の専攻は呪術文字(ルーン)学。彼女が先ほど皆に配ったトランプから簡易的な通信が可能なのだ。
 私は今、犯人グループと同じ階の非常階段にいる。柱を伝えばもう少し近づけなくもないけど、下手に動いて見つかりでもすれば無闇に挑発するだけになりかねない。
 犯人グループは駐車場の端、鉄筋コンクリートの壁と壁が垂直に交わる位置に陣取り、魔法が使えるらしい一人が壁の無い2方向へ結界を張っている。といっても、民間人が偶然修得した魔術なんて非合理的で隙の多いもの。通常防衛戦ではあんな只の透明な板みたいな結界は張らず、反射結界や迷彩結界を張るのが定石だ。
 とはいえ相手はその男性の他に成人男性が20名足らず。むやみに魔法を使って攻撃すれば、相手に怪我をさせるかもしれない。そうなると任務達成率に響く。これじゃ殆ど格闘戦で捕まえるしかないじゃないか。
(はぁ。まったく、勘弁してよ……)
「全員配置についたね?」
「あいよ」
「大丈夫です」
「私も」
 委員長の言葉に、全員がそれぞれの返答を返す。
「じゃあいくよ……(さと)さん!!」
 委員長のかけ声に合わせて、窃盗団とは反対側の端、エレベーターホールから、(さと)さんが飛び出してガンガン撃ちまくる。うわぁ……、あれ万が一誰かに当たったらどうするんだろ。いくら現行犯とはいえ怪我をさせると報酬はもらえないのだ。それどころか、成績が下がることも多い。
 (さと)さんは魔法を使ってるのか、左右の小柄な腕に2挺のM134ガトリングガンを腰だめに抱えている。大体毎分6000発か。弾の値段も馬鹿にならないなぁ。
 驚いた結界の男は(さと)さんに対抗する為、結界を一方向に集める。残りの男たちは捕まっている魔女から奪った銃で反撃しているが、そちらは委員長が1つ1つ撃ち落としていく。精度がすげぇ。
「次いくよ、あいらちゃん!!」
「了解!」
 私は窃盗団から見て、(さと)さんとは90度ずれた位置、今唯一壁も結界も無い方向から突撃を仕掛ける。相手は護送中に車をジャックしたため、服装はせいぜいシャツとデニムのパンツくらい。殆ど防御力がないと言っていい。必要以上の怪我をさせるわけにはいかない。近づいて戦う方がいい。何人かの男が私に気づいて襲いかかってくる。私は手に持った拳銃(リボルバー)でその男達を
ーー殴る。
魔法をメインに使う私の銃は、携帯性と多様な使用法を考えて選んでいる。ナックルダスターとして使用できるのも本来の仕様だ。人質を捕まえていた男が呆気に取られる。その一瞬の隙をついてーー
「くるみ!」
「あいよー」
 私の合図に合わせて、くるみが使い魔の悪魔、モコに人質の女性たちを確保させる。モコの体は黒い煙のような物質だ。その上、表面がバチバチと放電している。モコが人質を囲ってしまえば、男達も手出しは出来ない。これで人質は確保できた。
 (さと)さんと委員長が銃撃を止めて飛び込んでくる。唯一魔法が使えると思われる、結界を張っている男に私とくるみで力技のタックルをお見舞いする。これで残りは魔力の無い只の人間だろう。そう思ったときだった。
 今までそんな素振りを見せなかった一人が、私の方向に掌を向ける。
 その掌が、光り始める。
(……ッ!? しまっ……)
 魔法を使えるのが一人だけではない可能性を、見落としていた。
 咄嗟に顔の前で腕を交差するが、避けるには時間が足りない。
「あいら!!」
「あいらちゃん!!」
「あいらさん!!」
 皆が驚愕しているのが分かる。
(やられるっ……!!)
 そうは思うけど、どうにも出来ない。
 男の放つ光は、瞬く間に大きく膨れ上がって私に向かってくる。光が近づいてくるに連れて、周りの景色が徐々に白んで何も見えなくなっていく。そうしてその光は交差した私の腕に当たり……










 窃盗団全員を無事拘束した私たちは、護送車でそのまま学校に乗り付け、捕まっていた護送担当さんに後の事を丸投げ、大急ぎで報告書を書き上げた後、なんとか4時間目に間に合った。いきなり護送車が突っ込んで来て一般学科の生徒がパニックになったとか聞いたけど、知ったことか、そんなの。
 最後の男が魔法を放った時には全員肝を冷やしたのだけど、結局私を含め、味方、人質ともにけが人は無し。窃盗団もせいぜい打撲程度で全員を引き渡し、上限設定の0.5単位を全て受け取る事が出来た。(さと)さんだけは、いくつか蛍光灯を割ったとのことで報酬から天引きされていたけど。
「やー、でも、あいらにあんな特技があるとはねー」
 放課後の教室。私を膝に乗せて「すぎのこの村」を食べているくるみがそんな事を言ってくる。ちなみにこれはさっき分かったことなのだが、魔法高のクラス替えは、問題があったり、他のクラスの方が向いていそうな生徒を数人入れ替えるだけで、あまり大きな変化は無いらしい。まぁ、2年の夏からはチーム行動が多いだろうから、クラスはあまり関係ないのかもしれない。それで、今年も私とくるみと委員長はおんなじクラス。私たちが教室に付いたときはもう今年度の学級委員長は他の人に決まっていたので、これから委員長のことは梨花(りんか)ちゃんとよぶことにしよう。
 その梨花(りんか)ちゃんも、こっちに歩いてきて手近な机に腰をかける。
「ほんとにね。あいらちゃん、ぶっ飛ばされちゃうかと思ったよ」
 実はあの時、男の魔法は確かに私の腕に当たったのだが、その威力は全てブレスレットに吸い込まれ、無効化されてしまったのだ。
 さて、私が魔法に関して梨花(りんか)ちゃんに勝てることが1つだけある。それが魔力の量だ。どうも私は単位時間あたりの魔力放出量が世界ランカー並に多いらしい。
 トレーニングすればもっと伸びるなんて言われたりもするが、技術も少ない高校生がそんなに魔力を出しても暴走させるのがオチな訳で、その多すぎる魔力を吸い取る為に常に腕に巻いていたのが例のブレスレットなのである。要は「フフフ、この私にこれを外させるとはな! ズシャァ(重いものが落ちる音)」的なアイテムなのだ。そして今回分かった事なのだが、このブレスレット、触れた魔力は何でもかんでも吸収してしまうらしい。その吸収力にもまだまだ余裕があるみたいだ。前に一度、触っただけで掃除機を壊したことがあるのだが、あれは多分ブレスレットになにかまずい部分が当たったからだったんだろう。
 別に皆には話してもいいんだけど、今の所は内緒。だってブレスレットの力だって言われるより、私の特技で魔法が消せるって方がかっこいいし。年に一度の測定も矯正魔力でやっているのだ。急に魔力値700Mp以上ありますなんて言っても引かれるだけだろう。Mpは魔力の単位ね。さっき依頼受諾者リストで見ると、去年度の公式でくるみは223、梨花(りんか)ちゃんが262、(さと)さんは325だった。私は114Mpってことになってる。
 かれこれ10年弱腕にはめておいて気づかなかったというと間抜けに聞こえるかもしれないけど、私は魔法攻撃に対して素手で受け止めようとするようなバカじゃない。むしろ今までセオリー通りの対応がきっちりと出来ていたからこそ気づかなかったのだ。
 ……断じて言い訳ではない。
 というかこれ、なんかもっといろいろ使えそうだよね。幻想をぶち殺したりとか。
「まー、委員長の依頼達成度に響かなくてよかったね、あいら」
 くるみがわたしの髪をワシャワシャしながらイタズラっぽく言う。それはたしかにそうだ。仲間が負傷したりしたら魔女としての評価は当然下がる場合が多い。
「いやいや、それじゃ私が人でなしみたいじゃない。達成度が大事じゃないとは言わないけど、そのためにあいらちゃんを心配してる訳じゃないからね?」
 梨花(りんか)ちゃんは苦笑いでやんわり否定する。さすが元委員長。問題児への対応も完璧だ。
「……今あいらが失礼な事考えてる顔した」
 ぎくり。くるみがじとっと目を細めて私の顔を凝視している。相変わらず勘だけはいい子だ。
 こういう時はしっかりと己の潔白を主張しておかなければなるまい。
「別に何も考えてないし。デリカシーの欠片も無い問題児だなんて微塵も思ってない」
「やっぱそう思ってるんじゃんかー! 野郎やる気かー?」
 くるみはそう言って両手をワキワキさせる。エロ親父かあんたは。
「あ、またなんか失礼なこと考えたなー? そんな子には、こうだ!」
「ちょっ、ちょっと待っひゃ、あはははははははは、ごめん! ごめんなさい〜ぃいひひひひひひはははははは」
 モコを召還して4本腕で襲いかかってくるくるみ。脇腹と腋を同時にくすぐられ、私は一瞬で白旗を上げるが、調子に乗ったくるみは手を止めてくれない。電気を操るモコもノリノリで低周波を織り交ぜてきてるし。
 そしてこの後5分にわたってくすぐられ、汗だくで息も絶え絶えになる私を、梨花(りんか)ちゃんはただただ困ったような笑顔で見ているのだった。
ブログで挿絵付きバージョンを公開しています
http://yuzuha18.hatenablog.com/archive/category/機械箒で掃く風に
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