ある日曜日の昼間、僕は幼稚園を卒業間じかの息子と公園を散歩していた。
その日は3月にしては暑く天気もよかった。
「いい天気だなぁ〜 裕一」
「うん。でもただ歩いてるだけじゃつまらないよ。なんかしてあそぼ!!」
「そういってもな〜。ここは公園とはいうけど遊具なんて何もないしな。どうしようか?」
そう言って息子を見ると、裕一は「ん〜」などといって腕を組んで考えている。なんとなく微笑ましくなって笑ってしまった。
「よし、じゃあ父さんが面白い話をしてあげよう」
「え〜。話なんかつまらないよ」
「いいからいいから。ほらそこのベンチに座って」
裕一はしぶしぶといったかんじてチョコンと座った。
「それでは父さんの昔話をしてあげよう」
そういって僕は話し始めた。
「実は父さんも裕一くらいの時にこの近くに住んでるんでたんだ。そしてこの話は父さんが裕一くらいの年のときに、まさにこの公園で経験したことについてなんだ」
そのとき僕は一人で公園にいた。
いまから考えると、僕はまだ5歳くらいのときだったからお母さんが近くにいなかったのが不思議だ。でもとにかく僕は一人だった。勝手に家をでて、そのままぶらぶらしてたのかもしれない。僕はやんちゃだったみたいだからね。
季節は・・・確か夏だったかな。当時人気だったアニメのTシャツを着てたよう気がするし、そもそもあの公園には虫取りに行ったんだ。
あのころは男の子の間で虫取りがとてもはやっていた。今みたいにテレビゲームもないし、とにかくあたりに自然が溢れていた。ちょっとした林にはカブトムシやクワガタがいたし、川に行けば魚がたくさんいたんだ。
そこで僕は夢中で虫取りを始めた。たいしたものはいなかったけど、バッタやこおろぎがたくさんいた。捕まえようとしてもピョンピョンはねてなかなか難しいのだ。
それからどれくらいそうしていたか分からないけど、しばらくバッタと格闘した後、ふと周りを見ると一人のおじいさんが公園の真ん中でしゃがみこんで何かをしていた。
僕は「あれ?」と思った。さっきまで僕一人だったのにな。いつの間にいたんだろう? 虫取りに夢中になってて気づかなかったんだろうか?
しばらくぼーとして眺めてたら、おじいさんもあれ? って感じでこっちを見てきた。
「君は見えるのかね?」
「え?」
見えるって何をだろう。
「あぁ、いや、こっちの話じゃ」
「ところで君の名前はなんと言うんじゃのう?」
「ええ〜と。祐太郎・・・」
「ほお。祐太郎君か。いい名前じゃのう。」
なぜだろう? このおじいさんと話してると不思議な感じがする。
「え〜と、おじいちゃんは何をしてるの?」
「ん?わしか?わしは願いの種を蒔いてるんじゃよ」
願いの種?なんだろそれは。おいしいんだろうか?
「ははは、これは食べ物じゃないんじゃよ。もしかしたらおいしいのかもしれんが」
じゃあ何なんだろう。
「ふ〜む。坊ちゃん。空は何色かしってるかね」
おじいさんは唐突にそんなことを聞いてきた。そんなの青に決まってるじゃないか。
「ん〜」
おじいさんはそうつぶやいてからこういった。
「空が青というのは間違いじゃ。赤や黄色や緑になることもある。空に限らずすべてのものは色々な色を持ち、色々な姿をしているのじゃよ。人にもそれは当てはまるのじゃ。みんな同じように見えて、姿や性格、考え、好み、どれをとっても全く同じ人はどこにもいない。人の願いも同じなのだよ。みんなたくさんの願いをもっとると思うが、それはすべて異なるものなのじゃ。100人いたら100個、いや1000個以上の願いがある。それらの膨大な量の願いをわしがここに蒔いとるんじゃわい」
「蒔いた種はどうなるの?」
「やがて数十年したらでっかい木ができ、たくさんの花が咲くのじゃ。そうするとその願い事がかなうんじゃよ」
「ふ〜ん」
僕は少し考えて、あることを思い出した。
「それならすべての願いは叶うはずでしょ?でも僕はいつもお願い事してるけど、一つも叶ったことないよ」
おじいさんはまた「ふ〜む」と言って、少し寂しそうな顔をしながら言った。
「実はこの実な、自分勝手な望みは叶えてくれないのじゃよ。人のことを真剣に思いやり、人の役にたつような願いや、人の幸せを本当に願う人の望みしか聞いてもらえんのじゃ。そして何よりも木がなるのに数十年かかるのでの〜、数十年後の願いじゃないと叶わないのじゃ」
「なあ〜んだ。つまんないの」
それじゃあほとんどの願いは叶わないじゃないか。
「坊ちゃんは何か数十年後に叶えたい願いはあるかね?」
う〜ん……。
考えたけど何も出てこなかった。
「ははははは。君はまだ若いからのう、ゆっくり考えればいいのじゃ。大きくなったら叶えたいことが出てくるじゃろ。いいか?そのためには人のことを考えられる人間にならないとだめじゃぞ」
「うん!」
「よし、じゃあそろそろお別れじゃ」
「え〜。もう?」
「もう仕事も終わったしの」
「またいつか会える?」
おじいさんは微笑んで、そして約束してくれた。
「君が大人になってまたこの公園に来てくれたら会えるかもしれないのう」
「本当? 約束だよ」
「おぉ。約束じゃ」
「では今度こそ本当にお別れじゃ。空を見てごらん」
そういわれて僕は空を見上げた。そして驚いた。空はもう真っ暗だった。半分の月が僕たちを照らしているだけだった。そんなに長い時間話をしていただろうか? そして驚きのままおじいさんを見た。そこで僕はもっと驚いた。おじいさんが跡形もなく消えていたのだ。どこに行ったのだろう? あれは夢だったのだろうか?
そう思ったところで僕は足元をに目をやった。
そこには本当に本当にちっちゃいけど、確かにしっかりとした芽が出ていた。
「……」
しばらくの沈黙が続いた後、僕は口を開いた。
「どうだ? 裕一。不思議な話だろう?」
そうして僕は裕一の方をみて、そしてあきれた。息子はベンチに寄りかかり、口を半開きにして寝ていたのだ。最初は少しムッときたが、あまりのかわいさに笑ってしまった。仕方がないおぶって帰るか。
起こさないようにそっとおぶってから、公園の出口に向かって歩き出した。
そして出口のところで公園を振り返った。その公園の真ん中、そう、あのおじいさんが立っていたところには大きなそして満開の桜の木が立っていた。
そして僕はおじいさんのことを思い浮かべながら一つのお願い事をした。
『裕一が元気に健やかに育ってくれますように……』
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