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ライバルお嬢様カフェへようこそですわ

「ようこそですわ! ライバルお嬢様カフェへ!」


+++++


「ライバルお嬢様カフェやろうよ! ライバルお嬢様には麗美様を指名します!」


演劇部の女の子田上莉子さんが高らかに宣言した。

私の方を一斉に皆が見る。

クラスでちょっといいな、と思っていた鈴木明文くんもこっちを見ている。


文化祭の出し物は何にしようか、っていうホームルームの時間だったよね?


「えっ、うわ? うぇっ?」


私は女子らしからぬ声をあげる。

ずれた瓶底眼鏡を慌ててずり上げた。


私?

何で、私?


+++++


文化祭の出し物についての田上さんの提案。


事の発端は何だったんだろう。

クラスの演劇部の田上さんがライバルお嬢様について騒いでる事からだったかな。


「乙女ゲームのね。ヒロインとはライバルのお嬢様が好きなの! 気が強くて自分の心に正直で、気高く美しく。ヒロインに負けても気高さは失わないのよ」

「ふ、ふーん。そうなんだ」


お昼の時間、パンを片手に演説を続ける田上さん。


私は田上さんとは、その他何人かとお昼を食べる程度の仲だ。

無難な相槌しか打てない。

高校生ともなれば、社交辞令も身に付いてくるというものだ。


2回も繰り返したという事は、気高い女の子が好きなのだろう。


「あんたのその話聞き飽きたから。そんでいないからそんな人」


田上さんの隣に座っている田上さんの友達が笑う。

半笑いだ。


うん、まあいないよね。

気高い女の子。


でも、


「居たらいいよね、ライバルお嬢様」


田上さんがそれだけ求めているんだから居たらいいね。

そう思う。

私は無難にニコッと笑ってみせる。

笑った拍子に瓶底眼鏡がずり落ちる。

おっと、危ない危ない。


「ありがとう! 麗美様! 私ね、ほんっとうに麗美様の名前がライバルお嬢様っぽくて好きなの」

「うっ、ありがとう」


またこの話だ。


田上さんは私の名前がお気に入りらしい。

私の名前は橋本麗美はしもとれみと言う名前だ。

中学の時は瓶底眼鏡に麗美という名前のチグハグさから麗美とは呼ばれなかった。

むしろ苗字の「と」から始まった「ドレミっち」と呼ばれていた。


「ま、確かに麗美様なんてかっこいいよね」

「ほんとほんとー」


周りの高校入ってからの友達も頷く。


「はは、そろそろ様づけはちょっとアレなんだけどね」


田上さんが呼び始めたおかげで私のアダ名?は、


「麗美様」


だ。

一人だけ様づけは厳しい。


けれど、田上さんのその盛り上がりのおかげで助かってる事もあるのだ。

引っ込み思案な私が皆に入っていけてる。

ありがたい。


ちょっと気になっていた男子にも、


「麗美様」


と呼ばれた時にはちょっとガクッってなったけど。


同じクラスの鈴木明文くん。

特に目立つ感じじゃないけれど、隣のお兄さん系で好き………かもしれない。

鈴木くんが友達と話してる時のちょっとはにかんだ笑顔好き………かもしれない。


まあ、告白とかは自信ないからしない。

うん、いいの。


+++++


で、話を戻すと、決まりました!

ライバルお嬢様カフェ。


クラスの看板にはデカデカとライバルお嬢様カフェと書かれている。


クラスの廊下側窓には、ライバルお嬢様の説明と乙女ゲームの説明が書かれていた。

そもそもリア充の人達に乙女ゲームは分からないかもしれないのだ。

だから、田上さんが一生懸命書いたイラストと共に書かれている。


ふむふむ。

女の子がイケメンにモテまくるゲームが乙女ゲーム。

そこに出てくるハイスペックなライバルの女の子とな。


「ライバルお嬢様カフェへ是非いらっしゃって。私、殿下や姫様に召し上がって頂きたく頑張りましたの」


一生懸命呼び込む私。

クラスの引き戸の所でビラを配る。


えっ、私がハイスペック?

またまたご冗談を。


ま、それはともかく。


あっ、という間に文化祭当日になった。


私は、田上さんの友達が作ったドレスを着ている。

深紅のドレスで派手派手だ。

ライバルお嬢様っぽいらしい。


後、瓶底眼鏡は自主的にさすがにコンタクトに変えた。

後、田上さんの別の友達がヘアメイクをしてくれた。

吊り目のきつい感じで派手な盛り盛りメイクだ。


「麗美様。ライバルお嬢様は頑張りは隠そうとしますわ」


田上さんが横から指導を入れてくる。

ちなみに田上さんはライバルお嬢様の侍女という設定だ。


「分かりましたわ。どうぞ私の家のコックに教わったクッキーお召し上がりになって?」

「グーッド! いい感じですわ、お嬢様」


田上さんが私の言葉に満面の笑みになる。


「お嬢様、お客様です」


そんな私に後ろから声がかかった。

振り返ると執事に扮した接客当番の鈴木くんだった。


かっこいい。

鈴木くんの落ち着いた感じに、執事の黒服が似合ってる。

優しそうな目が素敵。


「………? あの、麗美様、俺どこか変かな?」

「ううん、………かっこいい」

「えっ………あの、うん。ありがとう。麗美様も綺麗だね」

「………そ、そんな鈴木くんの方がかっこいい」


頭の中がポーッとしてしまって、何か自分でもトンデモナイ事を言った気もする。

でも、鈴木くんがかっこいいからどうでも良かった。


「はいっ、殿下に姫様方。これが、ちょっと王道から外れたゲームルートの執事との恋です!」

「いや、あんた。田上っち。クラスメイトのプライベート売るなよ」


田上さんと田上さんの友達が何か言ってる。

でも、鈴木くんがかっこ(以下略)。


「えー、私ぃー。お客様ならこのやりとり見ながらお茶したーい」

「はっ、はいお茶ですね!」


私が鈴木くんと見つめあってる間に周りが何か言っている。

今、話しているのは高校からの友達とお客様だろうか。

でも、鈴木くん(以下略)。


「こちらメニューです。おすすめは「ライバルお嬢様の完璧で面白みのないクッキー」です。裏メニューとして、「ヒロインのあざとい粉っぽいクッキー」もありますよ。乙女ゲームでいるいるなブリブリヒロインが作るちょっと失敗してみましたクッキーです」

「麗美様ー、そろそろこれ持ってって」

「あっ、はーい!」


田上さんが長々とメニューの説明をしている。

でも、田上さんの友達がぶった切った。


声をかけられた私はハッとする。

何だか夢から覚めたみたいだ。


急いでカウンターからジュースを受け取った。


ドレスの裾に気をつけながらお客様に運ぶ。


「お待たせしましたわ。「乙女ゲームでヒロインに負けて、王子様な婚約者から婚約破棄されちゃうぞスパイシーパッションフルーツジュース」ですわ」


ただのパッションフルーツジュースにシナモンとか黒糖とか入れたジュースです。

一つ800円もします。

でも、美味しいよ。不思議と。


私はジュースをお客様の前に置くとお高く笑う。


「見たいのですね? 私の婚約破棄」


お客様の高校生カップル(リア充羨ましくなんかないんだからね)が、私にやんやと手を叩く。

可愛い感じのカップルだ。


「婚約破棄入りましたー!」


田上さんがクラス中に告げる。


クラス1のイケメン上田くんが、私の前に立った。

王子様の俺様扮装がサマになっている。


「レミ・ハシモト! ヒロインをいじめたお前とは婚約破棄だ!」


意外と小心者な上田くんは、私をお前と呼ぶ時にちょっとすまなそうな顔をした。

何回もやってるのに。


「まあ、いじめてなんかおりません」


私も負けじと何回も練習したセリフを言う。


「ヒロインがそう言ってるんだ!」

「そんな! だからと言って婚約破棄なんてーからの注入!」


と、私は叫びながら両手でハートを作り、ジュースにかざした。


なんか恥ずかしいけれど慣れだ慣れ。


高校生カップルはさっそくニコニコしながらジュースを飲み始めた。


「何だかよく分からないけど、美味しいねタッくん!」

「そうだな」


そんな会話をする高校生カップルだ。


「分からないのかい!」


と田上さんがよろしくない突っ込みを入れた。

まあ、田上さんの趣味はもしかしたらマイノリティなのかもしれない。


私はそろそろ交代の時間だから、裏に下がる。


裏に行くと、交代の風紀委員長の寺本桜子さんが来ていた。


「麗美様、交代ですわ」

「ありがとうですわ」


そう言って桜子さんと調子よく交代する私だ。

こんな軽いやりとり今までなかった。


もしかしたら、ライバルお嬢様カフェをやってる中で心が強くなったかもしれない。

引っ込み思案な私だけれど、高圧的に振る舞い続ける事によって積極的になれてる気がする。


そんな私の横に鈴木くんが立った。

鈴木くんも休憩なのかな。

一緒に文化祭………ううん、積極的になれた私でもそこまでは。


「麗美様! あのさ」

「どうしたのかしら、鈴木くん?」


執事姿のままの鈴木くんにライバルお嬢様気味に話しかけるアテクシ。


「一緒に文化祭回らない?」


鈴木くんがそう言って真っ赤になる。

釣られて私も真っ赤になった。


周りのクラスメイトが囃し立てる。


でも、私は頑張ってお高く笑って答えた。


「喜んでご一緒しますわ、鈴木くん」


ほらね、やっぱり私ってば積極的になれてる。

鈴木くんが嬉しそうにはにかみ笑いをした。

読んでくださってありがとうですわ。

私、とても嬉しいです。

ポイントやブックマークもありがとうございます。

こんなに私を嬉しがらせて、、、あなたの事好きになってしまうかもしれませんね。

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