第9話 〜宴〜
「さ、帰ろうか?」
今日もやっと学校が終わりました。
やっぱり退屈でいけないよね。授業って。
リンは少し、って言うか、すごく勉強が苦手らしい。
授業中ずっと頭がかっくんかっくんしてたからね。
「お兄ちゃんっ! 学校って楽しいですねっ」
「・・・寝てなかった?」
「いっ、いえっ! そんな事は微塵もありませんよっ! あれも学習ですっ! 睡眠学習ですっ」
「・・・まぁ、頑張ってね」
ちなみにもうすぐ夏休み。と、言うことはあの悪魔が待っていると言うことなのだ。
そう。通称「二学期末実力テスト」。
実を言うと僕も頭が悪い。・・・と言うより、得意教科が少ないといった所だろうか。
僕が一番得意なのが国語なのだ。・・・いや、むしろ国語しか出来ませんよ?
理数系はもはや壊滅的な点数。英語とかも選択問題で点を取ってる感じだ。
・・・いや、だって英語とか絶対に使わないと思うし。僕はこれから日本から出る事はない。たとえ両親が外国に連れていこうとしても断固拒否だ。
さらに言うと理科、数学なんて間違い無く使わない。僕はその手の職業に就く気はない。
あんな古代文字の羅列なんて僕に理解できる筈が無いだろうに。
しかしテストでは一定の点を取らなきゃ夏休みが消え去ってしまうからね。だから僕はテストの時だけ必死になるのだ。
「・・・リョウ?帰らないの?」
「あ、あぁ、よし。帰ろうか」
「はいっ」
・・・脳内で討論会を繰り広げていたせいで周りが見えて無かったよ・・・
危ない人に見えてしまうから、これは控えないといけないな・・・
しかし、今日のご飯は何にしようか・・・
昨日は魚だったから、今日は肉か? 肉は家には無かったような気がする。材料も昨日二人分しか買って無いし。
よし。スーパーに寄って行こうか。でも今日は特売日じゃ無いからな・・・。
うぅむ。仕方がない。多少の出費は覚悟しなければ。
・・・元々そんなにお金を使うたちじゃ無いから余裕はあるし。
「リン、シフォン、スーパーに寄っていっていいかい? 家にある食料じゃ足りないかも知れないからね」
「・・・私はいいけど?」
「ボクもいいですよっ!」
・・・二人とも、素直でいい子だなぁ・・・。
お兄さん、涙が出てきてしまうよ。こんないい子を授けてくれた神に感謝の辞を捧げます。
・・・けど、親父はコロス。
○○○
「・・・生物〈なまもの〉が安いな・・・。やはり夕方のこの時間帯は安くなるのか・・・」
偶然見つけた寿司やら刺身やら。
なんと値札を見ると半額になってるじゃないか。・・・これは、買わない手は無いんじゃないか?
・・・そう言えば、リンとシフォンが来て、ろくに歓迎会もしてなかったな・・・。
この際に普段買えない寿司やら刺身やらを買って行こう。
・・・え? せこい?
・・・今の僕にはこれが精一杯なんだよ・・・。
「・・・リョウ? 他には何を買えばいいの?」
そう言って声をかけてきたのはシフォン。
・・・カートの大きさとシフォンの身長がミスマッチ。・・・でもそこがなんか可愛らしいなー。
・・・誰だ僕をロリコンと言ったやつは?
年齢が同じだから問題ないだろ?
・・・え? そういう問題じゃない?
・・・えぇ。分かってますよ。
「・・・リョウ?」
「ん、あぁ、じゃあリンと話してなにか飲みたい飲み物を買って来てよ。後の食材は僕が揃えておくからさ」
「・・・うん。じゃあお願いね」
カートを置いて、とてとてっと走っていくシフォン。
僕はこの間に寿司やら刺身やらを買っておこう。
バレたら歓迎会の意味ないからね。
そう。僕はサプライズが大好きなのだ。
カートに大体三人前の寿司を入れて、刺身を二人前入れる。
これくらいあれば十分だろうな。僕もそこまでたくさん食べないし。
後は・・・いいか。昨日買った食材にこれを合わせればちょうどいいくらいな筈。
カートをレジの近くに置いてリンとシフォンが来るのを待つ。
・・・ふむ。僕もなにか飲み物を買えばよかったかな?
・・・などと考えていたら、リンとシフォンがニリットルボトルを二本抱えて戻ってきた。
一方、100%グレープフルーツジュース。
一方、トマトジュース。
・・・明らかにミスマッチじゃないか?
それ以前に、なぜに100%グレープフルーツジュース? 苦くないのか? 間違い無くすっぱさやら苦味やらで味覚が麻痺する事うけあいだ。
それにトマトジュースもどうかと思うが・・・。
実は僕、トマトジュースとか、野菜ジュース系は苦手なんだよなぁ・・・。
なんか、独特の味って言うのかな? そんな味がするんだよ。
あ、でも青汁は好きだな。・・・おじんみたいとか言うなよ。
こんな主婦みたいな生活してる時点で精神年齢は三十代なんだけどね。
「・・・持ってきたよ?」
「好きなのでいいんですよねっ」
あー、うん。たしかに好きなのでいい、みたいな事は言ったけど・・・。
どちらにしても、僕の飲める物じゃない。
・・・まぁ、家には麦茶の作り置きがあった筈だし、なんら問題は無いんだけど。
それを飲みたいって言うなら僕は止めないけどね。
「じゃあ、僕は会計を済ませてくるから。先に行っててくれ」
色々(主に寿司とか刺身とか)入ってるから、サプライズをしたい僕としては見せたくない。
「・・・手伝うよ?」
「そうですよっ!お兄ちゃんだけに任せれませんよっ」
・・・なんと言うか、僕が頼りない奴と言われている気がしないでもない。
「じゃ、じゃあ、あっち側でまっててよ。精算したら行くから」
僕はレジの向こう側にある、袋詰めの為のテーブルを指差す。
まぁ、とりあえずだ。
「・・・分かった」
「精算、お願いしますねっ」
そう言ってリンとシフォンは歩き出す。
まだお客さんの並んでるレジに向かって。
「い、いや、待てっ! そっち違う!」
「「?」」
「いや、そんな同時に首をかしげられても!?」
そんな所を通って行ったら皆さんの迷惑になるでしょうが!
・・・なんて、厳しく言えればいいんだけど・・・。
それは、不可能だ・・・。
可愛らし過ぎて怒るに怒れない・・・
・・・くそぅ。
ま、いっか♪
・・・いや、だからロリコンじゃないから。断固として認めないから。
・・・いや、シスコンでもないからね。
え? あちらこちらでシスコンと思わせる発言が?
うーん、それは・・・、そう、『記憶にございません。』だな。
これを使えばどんな事でも無かった事になるんだ。まさしく魔法の言葉ってやつだね。
「はい、どうぞ次の方」
「あ、はい。」
レジにカウンターに買い物かごを置く。
店員さんがレジのなんかバーコード読み取ってる間に財布を出す
・・・ん?今の声、どこかで聞いた事があったようなーーー
誰だろうか、と顔をあげると、ちょうど顔が見えない。しかし、容姿から推測するに、大体同年代。
後ろでしばった長い髪。僕と同じ位の、女の子にしては高い身長 ・・・この人ーーー
「87435円になります・・・」
レジの店員さんがこっちを向く。
「あ」
「・・・なぜリョウがここにいるのだ」
「いや、そんな事言われても・・・。買い物にきたとしか言えないんだけど・・・」
どこかで聞いた事があるはずだ。いや、むしろいつもの様に聞いている声だ。
僕の目の前で釣り銭の勘定をしているのは僕の唯一の女の子の友達と言える、五十鈴 小夜。
今は違うクラスだけど、一年の時は同じだったのだ。
さっきも言ったけど僕と同じ位の身長。後ろでしばった長い髪。少し赤みがかかっているが、染めてはないらしい。
言葉使いは丁寧なんだけどなぜか男みたい。
そして顔。美貌、と言っていいのだけど、鋭い眼光がそれをぶち壊しているんだよね。
「・・・リョウ、君は今物凄く失礼な事を考えてないか?」
「そんな! めっそうもございません!」
「わざとらしい所がかえって怪しいが・・・まぁいい。そら。お釣りだ」
そう言って小銭を渡す。
「っていうか、なんでバイト? サヨの家ならバイトしなくてもいいはずでしょ?」
「うむ。しかしながら私もいつまでも親に甘えている訳にもいかないのだ。そろそろ自分でお金を稼いでみようと思ってな。もちろん私の個人的な好奇心もあったのだが」
「へー・・・。まぁ、頑張ってよ。釣り銭は間違えない様にね」
「む、言われ無くともそのくらい」
「20円足りないけど。まぁ、今日は後が支えてるからいいや。じゃ、また明日ね」
「何っ!? あっ、待て! 釣り銭をーーー」
サヨの声がフェードアウトしていく。
別に20円くらい問題ない。
リンとシフォンがいる台の所に行って、買ったものを詰める。
リンとシフォンにバレないように寿司は素早く自分の持つ袋に詰める。
「さ、行こうか!」
「・・・うん」
「はいっ!」
僕の手には二つの袋。合計で三つの袋があったのだけど、リンとシフォンがどうしても手伝うと譲らなかったため、一つの袋を二人に持ってもらった。
さ、後は家に真っ直ぐだ。
○○○
「リン、シフォン、先にお風呂に入ってきてよ。その間にご飯の用意をしちゃうからさ」
「・・・一緒に入らないの?」
「へ?イマナンテオッシャリマシタカ?」
「お兄ちゃんっ!? なんでカタコトですかっ!?」
「イヤ、ナンデモナイヨ。ボクハゴハンヲツクルヨ」
「え? 一緒に入らないんですか?」
「いやだから無理だから! 僕の精神は耐えられないから!」
「・・・そうなの・・・」
「そうなんですか・・・」
うぐっ・・・そんな顔をされると僕ね決心が・・・。
最終的にリンとシフォンは諦めてくれた。
さ、この間に用意を・・・
○○○
「お兄ちゃんっ、上がりましたよ!」
「うん。じゃあご飯にーーーぶっ!」
僕が声のした方に顔を向けると、今度は下着姿の二人が。
「服を着てきなさいっ!」
「・・・嬉しくないの?」
「いやまぁ、嬉しくないと言ったら嘘になるけど・・・って違うって!いいから着替えて!」
すごすごとパジャマに着替えにいく二人。
こうでもしないと僕は理性を失うかもしれないからね・・・。
「おまたせしましたっ」
「・・・お待たせ」
「うん。じゃ、座って座って」
ちなみにテーブルの上には、料理が見えないように布がかけられている。
ようし。
「・・・リン、シフォン。改めて、我が家に、と言ってもまだ僕だけだけど、歓迎するよ! ようこそ! 日下部家へ!」
ばっ、と布を取る。
買ってきた寿司や刺身に加え、僕の作ったシチューやらハンバーグやら。
出来る限りの料理をつくってみた。
「・・・リョウ」
「・・・お兄ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「「ありがとう!」」
声と共に体に衝撃がくる。
リンとシフォンが抱きついて来たのだ。
う・・・これはまずい・・・
薄いパジャマだから、その、柔らかいものが当たってくる訳で。
しかし、ここは兄として余裕をもった対応をせねば。
「・・・どういたしまして。リン。シフォン。さ、料理が冷めない内に食べよう?」
寿司と刺身は冷めないけど。
「はいっ!」
「・・・うん。」
「それじゃ、」
「「「いただきます!」」」
これから日下部家は、楽しくなる。
・・・いや、僕の毎日、僕の世界が、楽しくなるんだ。
ははっ。明日が、楽しみだな。
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