第4話 〜迎〜
「リョウ!おいっ!リョウ!」
教室に入った途端、いきなり声をかけられた。
「いや、近いから。いきなり真正面に現れないでくれ」
目の前にいる男。
あまりにも近すぎるせいで一瞬ぼやけて誰だか分かんなくなったよ。
今でも十分分からないけど。
なんだ?お前は僕が来るのをドアの前でずっと待ち構えていたのか?
他の人だったら大惨事だぞ?
いきなり誰かが入ってきてぶつかったらどうする気だよ。
「いや、そんな事はどうでもいいんだよ!」
「いいわけないだろうが!」
そう言って目の前の男を突き飛ばす僕。
お前、ぶつかった人にどれだけ精神的ダメージ与える気だ!?
「それよりもさ!今日転校生が来るらしいんだ!」
あ、僕の話は完全無視なのか。そうなのか。
まぁ、心の中でしか喋ってないけどね。
って、なんで知ってんだ!?
今日連れてきたばかりなのに!
「しかも女の子らしいぞ!」
「お前一体どこから情報仕入れてんの!?」
「教師?」
いや、そうだろうけどさ。どんだけ早く情報が伝わってるんだよ。
僕がここに来る間の数秒で伝わったのか?
って言うか、そこ疑問形にするとこじゃないと思うよ。
あ、そうそう、こいつは芳賀 悠〈ハガユウ〉。
ぱっちりとした目にメガネ、少しワックスで立てた髪っていう、それなりにカッコいい奴・・・なんだけどなぁ・・・この性格がなければ。
こいつはいろんなとこにネットワークがある・・・らしい。
そのお陰で誰よりも早くいろんな情報を仕入れることが出来てるとか。
「まっ、そういう訳だから!じゃなっ」
どういう訳だよ?
って言うか、お前はそれだけのためにドアの前で待ち伏せしてたのか・・・
なんか理由もなくムカついてくるなぁ・・・「どんな娘かな?可愛かったら・・・」とかなんとか言いながら席に戻ってくし。
シフォンちゃんは可愛いが、貴様にはやらん。
・・・あれ?僕って・・・シスコン入ってる?
・・・ええいっ!知ったことか!可愛いからいいんだよっ!
「はーいっ!皆さん!ホームルーム始めますよー!」
あ、さっちー来た。
うっ、僕をにらんでる・・・?
ま・・・まだ怒っていらっしゃるのかな?
あぁ・・・額の血管がぴくぴく動いてるっ!
怖いっ!怖いよさっちー!
まだ根に持ってるの!?
「あ、リョウ君は後で生徒相談室に来てね♪」
うっ・・・
生徒相談室・・・
あっ・・・あの教室に・・・?
足を踏みいれたが最後、精神を崩壊させずに帰って来たものは数人で、その数人でさえあまりのショックで学校を自主退学したと言う・・・?
・・・はい。ごめんなさい嘘です。適当に言ってみただけなんです。
「返事はー?」
ひぃっ!
さっちーの後ろに般若が見える!
ぼ・・・僕には耐えられません!
僕の精神の柱の決壊、阻止できません!
「・・・わ、分かりました・・・」
「うん。素直でいいねー!」
いえ。そうするしか僕には道が無かったんで・・・
「じゃあ、ここでみんなにお知らせだよっ!なんと!このクラスに・・・」
「「「このクラスに?」」」
うぉっ!
クラスの心(主に男子)が一つになった!?
「転校生がきまーすっ!じゃっ!はいったはいった!」
さっちーの声と同時に、ゆっくりと教壇の隣のドアが開いていく。
そこに現れたのは、堅苦しくなく、かと言って、だらけすぎてもいない、そう、あくまで「普通」に制服を着たシフォンちゃんだった。
しかし、さっきまでとは、全くと言っていい程違った印象をうける。
腰まで伸びた、しっかり手入れされ、妖艶な輝きを放つ黒髪。
まだ幼さを残すが、全体的にかわいらしい印象をうける輪郭。
そしてその双眸に光る透き通った紅い瞳。
語彙力があまりない僕にはうまく表現出来ないけど、その瞳はルビーの様な輝きを放っていた。
シフォンちゃんは律儀にしっかりとドアを閉め、教壇に上る。
・・・あれ?この辺りで男子が叫ぶと予想してたのに・・・
「はいっ!この娘がこれから一緒に勉強する転校生よ!・・・じゃ、自己紹介、して?」
「あ、・・・はい」
シフォンちゃんが黒板に自分の名前を書いていく。
使い慣れてないせいか、書きにくそうだ。
その仕草もまた、可愛いなぁ・・・
周りを見渡すと、男子はおろか、女の子たちまでみとれている。
・・・すごいな・・・
「・・・えっと、あの、くっ、日下部・シフォン・ニーベルングですっ!よ、よろしゅくっ」
・・・よろしゅくって、・・・何?
噛んだ所もまた可愛いじゃないか。
しかし、クラスの人間はそんな事を気にする風でもなく、歓喜の叫びを(主に男子が)あげた。
「ようこそぉぉぉぉぉぉぉっ!!我がクラスへっ!!!」
その歓喜の叫びは、確実に大気を震わせた・・・と思う。
「じゃっ!自己紹介も終わったし!授業始めるよ!?あ、シフォンちゃんの席はリョウ君の隣でいいよね?」
「あ、・・・はい」
ちなみに僕の席は六席ある内の、後ろから三番目。
で、窓側という快適な席。前にユウがいる。
「おいっ!リョウ!どういう事なんだ?」
「ん?あ、あぁ、シフォンちゃんは僕の妹なんだ。・・・昨日から」
「昨日から!?つー事は、義妹!?きっさまっ!ギャルゲーの主人公気取りか!」
「そんな主人公、気取った覚えは僕にはないんですけど!?」
いきなりなんて事を言い出すんだ。
「こらそこ!私語をしない!」
「「すみません!さっちー!」」
できる限り腰は低くしないと。
ただでさえ、僕はさっちーの怒りを買ってるんだから・・・
「・・・リョウ、よろしく」
いつの間にか、シフォンちゃんが隣の席に来ていた。
ここは、からかいの意も込めて、「よろしゅく」って言ってみたいけど、そんな事をしたら、家に帰って何をされるかわかったものじゃない。
ここは普通に挨拶しておくべきか。
「あ、うん。よろしゅく」
「・・・リョウ?」
・・・しまった
明らかに怒気のこもった声だ。
普通に挨拶するつもりが、無意識の内に「よろしゅく」と言ってしまった・・・
ユウに助けを求めようと、アイコンタクトを試みるが、全く意味なし。
俺の知ったことか、と言わんばかりに、僕に背を向け寝ている(フリをしている。)
「・・・リョウの、ばか・・・」
「い、いやっ、今のは僕の意思じゃなくてさ、なんて言うか、そう!無意識!無意識の内にやってしまった事なんだ!」
必死の弁明。
だが、シフォンちゃんはそっぽを向いたまま。
はぁ・・・。どうしようかなぁ・・・
「じゃっ!シフォンちゃんも席に着いたし、授業始めるよー!」
さっちーは僕の状態にお構い無し。
そのまま授業を始める。
って言うか、むしろ「いい様だ」とか思ってそうだなぁ・・・
そんな僕を置いたまま、時は過ぎ去っていく。
・・・がんばれ、僕!
まだ希望はある!・・・はず。
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