第18話 〜燦々〜
僕らが部屋の外に出ること二十数分。
小夜は下は水着、上はTシャツと言う姿、シフォンもそれと同じような姿で出てきた。
で、鈴は、と言うと、……まぁ、あの黒子みたいなウェットスーツを着てる訳で。
小夜は何故かげっそりしてるし。
一体あの中で何があったのか……。
小夜は痩せ細った(ように見えた)顔で部屋から出てきたのだ。
「……陵。部屋、空いたぞ。着替えて来るといい」
「あ、ああ。……どうしたんだ? ……その、えらく疲れてるじゃないか」
問掛けた瞬間、小夜の目は「カッ!」と開きこっちを見据える。
「ど、どうしたんだ……?」
「……陵。お前の妹たちは……悪魔なのか」
「へぇっ!?」
あ、あいつら、僕のいない間に何をしたんだ!?
小夜たちにはバレないようにしろって言った筈なのに!
「さ、小夜、それは……」
「あぁ。いくら離してくれと頼んでも、私の胸から手を離そうとしないのだ……。確に最初に手を出したのは私だ。だが二人がかりで揉みしだく事ないだろうに……。離してもらったのはそれから十分後だ……」
……何してんだあいつら。
つーか二十分数分間部屋に篭ってそんな事してやがったのか。
そんな事してないで早く着替えて出てきてほしかったよ……。
ホテル内とは言え、廊下は結構暑いんだぞ?
「私たちは先に行っているから陵たちも着替えたら来てくれ」
「あ、あぁ」
小夜は鈴とシフォンを連れて階段を降りていった。
「オイ悠。いつまで寝てる気だ? 着替えるぞ」
「う……うぅ……おぉう……ここはどこだ……?」
「もっぺん地獄へ行ってみる? 今なら痛み三割増しで送ってやるぞ?」
「すっ、すいませんっ! 調子に乗ってました! すぐさま着替えます! えぇすぐさま!」
「ってオイ! ドア閉めんな! オイ! てめっ、鍵閉めやがったな!? 開かねぇじゃねぇかコンチクショウ!」
○○○
あの後悠を脅してドアを開けさせることに成功、それから着替える事が出来た。
「悠……お前腹ヤバくね?」
「う……自分でも分かってるんだよ。……最近夜食とか結構取っててさ……腹のすじとか無いもん」
「軽くヤバいな。運動したらどうなんだ?」
「そうは思うんだけど……こうも暑いとな。しかし陵、お前結構スタイルいいな」
「……お前の腹よりはな」
僕は常日頃から歩いたりしてる(買い物とかで)からそれなりに体は引き締まっていると思う。
「……これからだよ、これから」
「お兄ちゃんっ! どうでしょうっ」
「……黒子」
「ホントはあの頭のやつも欲しかったんですけどねー」
「んなもん付けてどうやって泳ぐ気だよ……」
「黒子の頭が海からでてたら結構不気味だよな」
「泳ぐ時は取りますよ?」
「あ、取るんだ」
「取るんです。付けて泳いだら顔に張り付くでしょう?」
「……まともな事も言うんだな」
「……常識のない人だと思ってたんですか?」
「……実は」
「ウェットスーツ着てる時点でどうかと思うんだけどな……」
「悠さん、うるさいです」
「あ、すいません」
「だけど鈴、悠の言うことにも一理あると思うよ? せっかく普通の水着も買ってきたんだからそっちも着てみたらどう?」
「うーん……お兄ちゃんがそう言うなら着てみます」
鈴は言うや否や走ってシャワーのある海の家的な建物に向かって走っていった。
「普通のがあるのか?」
「んー……普通と言えば普通だな」
「なぁ陵……」
「どうした悠。……なんだその何かを哀れむような目は」
「シフォンちゃんの胸……」
「言うな」
「いや、でもさ」
「言ったら最後、お前は本物の地獄を味わう事となるだろう」
「……酷いなそれ」
「悲しいけどこれ、現実なのよね」
「……陵、お前意外と……ヲタ?」
「……そんな事ない。っていうか、そう信じたい」
「自分を信じきれてないのかよ……」
男二人、話しているとどうやらネガティブな方にしか話が行かないようだ。
「お兄ちゃんっ! どうでしょうっ!」
いつの間にか鈴が例のビキニに着替えて戻ってきていた。
「うん。とりあえず言える事は前の黒子よりはいいって事かな」
「もうっ……他に何か言うことないんですか? ほらほら、どうですこれ。ここ取れるようになってるんですよ」
鈴は自分の腰に手を伸ばし、ビキニを繋ぎ止めている紐の部分を引っ張ろうとする。
「取んなっ!」
とりあえず制止する。
……やっぱり鈴って非常識だ……。
「冗談ですよっ! ボク、小夜と遊んできますねっ」
「あぁ。気を付けてな」
気を付けると言うのはもちろん事故とかの事もだけど、それより半魔の事もだ。
鈴はその言葉の意図を理解したのかは分からないけど、こっちを見て手を振って、小夜のいる方に向かった。
「ふぅ……悠、僕はちょっと歩いてくる」
「あぁ。俺はここにいるから荷物の事は心配すんな。……でも、できるだけ早く戻ってきてな」
「なんでだ?」
「……寂しいじゃん」
「お前はハムスターか……?」
それっきり返事は帰ってこず、後ろを振り返ってみると悠はシートに寝っ転がり、すやすやと寝息をたてていた。
「よくもまぁ、パラソルがあるとは言え、この炎天下で寝られるな……ってか寝るの早いな」
歩く度にさく、さく、と砂浜が音を立てて足が砂にめり込む。
時折波が足下に打ち付けてきて、心地よい冷たさが足を覆う。
しかしやっぱり夏。さんさんと降り注ぐ太陽が、ちりちりと頭を焦がすようだ。
「あっつ……」
「…へい」
「うぉつべたっ!」
後ろからいきなり水をかけられた。
太陽の熱をおびた肌にいきなり冷たい水を浴びさせられ、心臓が止まりそうになる。
「おぉ……し、心臓が……」
「…あ、ごめん……」
後ろを振り向くと、そこにはシフォンがいた。
どうやら今のリアクションに対して悪いと思ったのだろう。
……なんか僕の方が悪いことしてるような気がする……。
「あ、いや、ちょっと驚いただけだから。気にしないでよ」
「…そうなの?」
「う、うん」
「…なら、よかった……」
シフォンは擬音を出すならまさしく「ほっ」といったのが出てきそうだ。
しかし、シフォン……スク水がよく似合うな……。
「…それは、誉めてるの? けなしてるの?」
「え!? あ、いや、誉めてるんだよ?」
「…そっか。…ありがとう」
「あ、うん……って、何で考えてる事判ったの?」
「…私の能力」
「え? でも、今は覚醒してないよね?」
そう。今、シフォンの髪の色は真っ黒。太陽の光を受けて輝いているだけだ。
「…〈思索〉はあんまり力が必要ないから。」
「しさく?」
「…この力の名前。自分の心を相手に読ませないようにする術を知らなければ防げないの」
「あ、でもさ、初めて家に来たときも邪眼とか使ってたけど、あの時は邪眼しか使えないって言ってなかった?」
「…あの時は……その、疲れてたし、……お腹も減ってたし……仕方なかったの!」
「う、うん。そっか……じゃあ、まだ能力とかは色々あるんだ」
「…うん。…それより鈴と小夜が呼んでるよ?」
「え?」
「…そろそろご飯にしようだって」
そう言われれば、僕朝から何も食べてなかったな……。
鈴とシフォンも同様なはずだ。
「そっか。どこにいるの?」
「…あの海の家みたいな所にいるからいこ?」
「あっ、ちょっと、引っ張らないでって! 転ぶ転ぶ!」
シフォンは僕の手をとって今来た方向に向かって引く。
掴まれた手はひんやりとしていて、柔らかかった。
頬を撫でる風。
波が砂を打つ音。
カモメが海上を舞い、音を奏でる様に鳴く。
ーーー夏休みは、始まったばかりだーーー
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