第16話 〜出発〜
「ん……ん?」
はて。今は何時だろうか。カーテンの隙間から差し込む太陽光が鬱陶しい。
えぇと……たしか今日は旅行に出掛ける日だったよな?
出発する時間は……たしか九時だったな。
で、只今の時刻は……ん? 八時半?
……。
…………。
「お約束かぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!」
急げ僕。
……ん? よく考えたらリンとシフォンがまだ起きてきていないじゃないか。
いつもは僕を起こしに(?)来るくせに!
「リン! シフォン! 起きろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「…あと十五分」
「微妙に長い! 時間無いからすぐ着替えてきて! 二度寝しちゃ駄目だぞ!」
先に起きてきたのはシフォンだった。リンはまだ起きてきていない。
「リン! 起きろ! 起きないと黒子になれないぞ!」
「だめですっ! ボクは黒子になるんですっ」
おお。すげぇな黒子。 黒子の力は偉大なり。
「ほら早くリンも着替えてきて! 着替えたら玄関に行って荷物持ってて!」
僕は……と。携帯に財布、後はバッグの中に入っているはずだ。
「うおっ!? 時間がない!」
すでに時計は八時四十分を指している。
「お兄ちゃんっ!
準備できましたっ」
「わかった!」
手に持っていた財布と携帯をポケットにつっこんで、玄関に向かう。
そこにはすでに荷物を持ったリンとシフォンがいた……って、
「なんでリンが僕の分の荷物まで持ってるんだ……」
重くないのだろうか。
って言うか、僕より力あるんじゃないか?
「リン……重くないの?」
「まぁ、ほどほどです。半魔ですし?」
「……人に見られるとまずい。自分の荷物は自分で持つよ……」
何て言うか、男としてのプライド的なものにも関わる。
「ほら行くよ」
リンから荷物をもらい、玄関の扉を開ける。
目の前にはいつもの閑散とした道路があるーーーはずだった。
目の前にあったのは黒いセダン(五十鈴家所有)。
ウィンドウが開き、
「やっと来たようだな。」
「毎年のように遅刻してるからな。いい加減慣れてくるぜ」
前後のウィンドウから顔を出したのはサヨとユウだった。
「……あれか。今まで僕が急いでたのは無意味だったのか?」
「遅刻しているのだから急ぐのは至極当然ではないのか?」
「まぁ、そうなんだけど……」
「いいから乗れよ。リンちゃんとシフォンちゃん、荷物持ってんの辛いだろ?」
「いえ、別に辛くないですよ? はーーーむぐぐ!?」
「そうさせてもらうよ! さぁリン、シフォン、荷物のせて!」
「何ですかお兄ちゃん?」
「半魔ってことをバラしたらまずいだろ? 特にユウには!」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ……」
「リョウ様、荷物をお預かり致します」
「あ、梶原さん。どうもありがとうございます」
サヨのうちの執事長、梶原〈カジワラ〉さんが荷物をトランクに載せてくれた。
相変わらず仕事が早いな……。確かもう五十歳近いはずだけど、なんか若々しい。見た目だけなら三十台で通用するんじゃないだろうか。
「さて、まぁとりあえずは予定通りといったところか」
「ああ、僕が遅れるのは予定内って訳か」
「当然だろ?」
「……まぁ、間に合ったからいいか」
「「少しは学習してくれ」」
「……はい。以後気を付けます」
二人で揃えて言わないでくれ……。
○○○
「……サヨ」
「どうしたリョウ。下痢か」
「いや、違うから。つーか女の子がそんなこと言うな。もっとソフトに「お腹痛いのか?」ぐらいで言えないのか?」
「冗談だよ冗談。で、なんだ?」
「たしか僕らは飛行機に乗って港まで行く予定だったな?」
「そうだが」
「僕らの乗る飛行機は……これか?」
「そうだが」
「これはサヨの家の所有する飛行機だな」
「そうだが」
「…………。」
「…………。」
「リッチだな」
「そうだが」
「…………。」
「…………。」
「……行くか」
「そうしよう」
てっきり僕は普通の飛行機に乗るものとばかり思っていたんだが……。
「まぁ、あれだ。夏は込むだろう? Uターンラッシュなどにあいたくないからな。快適、尚且つスピーディーな自家用にさせてもらった」
「……サヨには足を向けて寝られないよ」
「だが、一人これを当然だと思っている馬鹿者がいるがな」
「……そういうやつなんだ。仕方ない」
「なんだよ? なんの話だ?」
「何でもないよヲタメガネ」
「何でもないぞ存在意義のないヲタク」
「……俺、なんか悪いことしたっけ……?」
「「存在が悪」」
「……よし、行こうか! 日が暮れるぜ!?」
「あまりな物言いにユウの頭が初期化を始めたか」
「ふむ。まぁ飛行機の起動も済んだようだし、そろそろ出発しよう。乗り込んでくれ」
「ん。リン、シフォン、乗り込んで」
「…ん。」
「おけですっ」
さてと。快適な空の旅、と行きますか。
○○○
三十分ほどして港近くの空港に着いた。
ここから船に乗り換えて今回の旅行地である『宇津美島』〈ウツミトウ〉に向かう。
「しかしよくこんな穴場見付けたな」
「へっ! 俺にかかればこんなもんよ?」
「何故最後に疑問符が付くのかは不明だが、たしかに今回はユウの手柄だろう」
「おぉ!? 珍しくサヨに誉められた!?」
「……何を言う。私だって人を誉める事くらいあるさ」
「たしかにユウの言う通りかもな。サヨが人を誉めるのは珍しい。明日は地球滅亡か?」
「リョウ……君は私を怒らせたいのか?」
「うっ!? う……あ、いや、そんなつもりじゃないんだ。いや、すまない。」
「ユウ……人が誉めてやったと言うのに……」
「い、いや、悪かった! 悪かったから執事たちをけしかけようとするのはやめてくれ!」
「ふん。まぁいい。もうすぐ着くぞ。あそこの島が『宇津美島』だ。あそこには小さな村がひとつ、あるだけらしい。稀に外、つまり本島から来る人間もいるそうだが、少ないらしい。……の割に、宿泊施設はしっかりしているそうだ」
「よくそんなこと知ってるな? 調べてきたのか?」
「そういうことさ。下調べくらいしておいた方が行動しやすいだろう?」
「それもそうだ。……とりあえず荷物を下ろしてしまおう。ホテルに荷物を置いたら泳ぎに行くか?」
「そうだな。俺はすぐ泳いでみたい」
「だ、そうだ。それでいいか? サヨ」
「私も構わないよ」
「じゃあまずはホテルに行こう」
僕らは船から降りると、さんさんと降り注ぐ太陽光の下を歩き、ホテルに向かった。
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