ゲーマー騎士
「ゲーム類ってのも金になりそうな雰囲気があるよな」
「まあな」
最近だとクラスメイトも充電をマメに頼みに来る。
だから家庭用発電機を大量にネットで注文していた。
たぶん、数日中には来るだろう。
それが来れば……テレビとか家庭用ゲーム機も持って来れる。
一応、リクエストに答える形での購入だ。
「プロジェクターも購入したから、みんなで楽しめると思う」
家庭用発電機まで使ってゲームをプレイするのはどうなのだろうか?
とは思うが、クラスメイト達もその辺りは楽しみたいだろう。
「王様の反応から考えて、プレイをしている所を見せるだけでも金になる気がするな」
「そうだな」
という訳で、発注した発電機とプロジェクターが届くと同時に家庭用ゲーム機も購入。
燃料に関しては……機材に悪いけど、萩沢が道具作成で作る事が辛うじて可能だったのでポイントの燃費は悪いが行う。
そんな感じでゲーム機によるプレイ閲覧、更にはコントローラーで直にプレイしてもらって行った結果、騎士の口コミから貴族、果ては国民にまで家庭用ゲーム機のプレイを見ると言うのは一種の娯楽と化した。
オペラ座みたいな会場でプロジェクターを使ったゲームの視聴……完全に娯楽化した気がする。
「あー! クソ!」
配管工のアクションゲームで操作をミスって穴に落としてしまった騎士が呻く。
「次は俺だ!」
「待ってくれ! もう一回だけ!」
「順番だろ!」
「く……」
と、少ないゲーム機でのプレイ権の取り合いが発生したとかを俺は会場を見に行った時に確認した。
貴族とか金やポイントが有り余っている連中が茂信の工房にやってきて発電機込みで売って欲しいと頼んで来たな。
図書館で漫画の閲覧をしていた者もかなり流入して来ているそうで、国も事態を大分重く見始めている。
まあ……王様でさえもゲームに嵌っているからなぁ。
ちなみに数回程、携帯ゲーム機を含めて盗難に合った。
クラスメイトが盗まれたと俺に愚痴ってきたんだ。
ま、電気が必要で、異世界の連中は魔法で電気を発生させたは良いけど、電圧制御等出来るはずもないのですぐに電池切れか壊してしまうのが関の山だけどさ。
国が抱えた異世界人に危害を加えるのは重罪ってのがこの国の法律で、常に騎士の護衛があるからブームを起こした件での問題自体は無い。
プレイの視聴はクラスメイトのゲームの腕が良い奴がゲームクリアまでノンストップで遊んだ時が凄いとか聞く。
人気はアクションゲームで最初から通しでプレイするのを動画撮影してプロジェクターで再生させているだけなんだが、動きのキレ等で人気があるとか何とか。
時折入るストーリー的な物も会話が無くても楽しめる物もあるしな。
大乱闘する対戦ゲームとかも持ちこんで好評だったけど、対戦ゲーム故にリアルファイトになりそうになるからある程度制限が掛った。
ゲームはゲーム、という認識がまだ確立していないみたいだ。
後は映画とかアニメとかのDVDを持ちこんで上映をしたっけ。
紙媒体や映像媒体となると言語が理解できないという事で黒本さんがルビを振ったそうだけど、こっちも人気があるそうだ。
結果……茂信を含めて俺の所に来る護衛の騎士は増えたな。
ゲーム関連のおこぼれが欲しいっぽい。
王様に貸したゲーム機を届けに行った際に、大臣と王様が嘆いていた。
オフの日にも来てるとか。
「よーし! 狩りに行きますよー」
もはや面倒だったのでラムレスさん達、騎士専用に携帯用ゲーム機を買ってあげた。
発電機も備えているので、困ったらある程度問題なく使える。
というか、発電機の方に騎士が護衛として集まっている様な……。
夢中でゲームプレイする国の騎士達が娯楽の有用性を証明してくれている。
ゲームプレイの使用権利、視聴、携帯ゲーム機の充電料を含めて週にかなりのポイントが流れ込んでくる結果となった。
異世界にサブカルチャーを持ちこむって、爆発力があるって思った所だ。
で、余裕が出来た俺達は装備を揃えられるようになってきた訳だ。
もう、クラスメイトの全員にフルメタルタートル装備くらいは支給出来る様になってきている。
うん。これだけ稼げれば……良い感じかな?
「大量にあったと思っていたメタルタートル類の素材がもう無くなってきたな」
茂信がポツリと呟く。
山の様にあったメタルタートル系の素材は度重なる作成と強化で枯渇してしまった。
萩沢が売買で生成する事が出来るが、作り出すのは更にポイントが掛るから……厳しいか。
その萩沢もまた何処かへ物資調達に出かけてしまっていないし……。
「メタルタートル狩りか?」
「単純なメタルタートルなら探せば居ない事も無いけど、フルメタルタートルクラスになると奥地に少数らしい……依藤が言ってた」
「またアダマントタートルの行軍が無いと難しいって事か」
探せばいない事は無いんだろうけど、今の俺の実力じゃ依藤達に頼んで探してもらうくらいしか手はない。
「依藤達ならそろそろアダマントタートル素材で行けるんじゃないか?」
「前にも言ったが必要素材が揃って無い。金で集めるにしても、今の俺達でさえも揃えるのは難しいな」
「そんなにもか?」
俺の言葉に茂信が頷く。
どんだけ必要なんだよ。
「改めて調べたら、どこで手に入るのか国に聞いても分からない素材が何点かあるんだ。まさしく、伝説に該当する武器だろうって話さ」
ゲーム感覚で考えると素材が揃わずに欲しい物が作れない……じゃなくて、落とす敵が分からない。
しかも出現頻度が低すぎるボスとかそんな扱いなのか。
「フルメタルタートルクラスは単純性能は優秀だが、他にも優秀な防具も結構ある。聞いた話だと、国の職業神殿で異世界人しか抜けない選定の――」
なんて、これから武具の調達話をしていると……。
黒本さんが茂信の工房の扉から俺達を見ているのに気づいた。
心なしか呼吸が荒い様な気がするけど……どうしたのだろうか?
「はぁ……はぁ……」
「ん? ああ、黒本さん? 大丈夫?」
何かあったのだろうか?
依藤は……視覚転移で確認すると、また漫画を読んでいる。
暇さえあれば読んでるなぁ。
定期的に観察して俺に調度良い魔物が出てくる時に呼ぶんだよな。
って今はそうじゃなくて。
「良いの! そのまま……羽橋君と坂枝君が仲睦まじく話し合ってて! もっと! もっと親しげに!」
「く、黒本さん? 本当に大丈夫?」
何を言ってるんだろうかと思うけど、黒本さんのテンションがますますヒートアップして行っているような……。
「ああでも! 羽橋君には隼人も居て……葛藤をもっとして欲しい! でも! そこは正妻の坂枝君との板挟みがあって! ああ……!」
俺は無言で、黒本さんの警護をしている騎士にも目を向ける。
この子をなんとかして欲しい。
確か女騎士だったと思うんだけど……。
「いえ! クロモト様! ここは騎士ラムレスとハネバシ様……更にはサカエダ様とがよろしいかと!」
「お前等は何を言ってるんだ!」
女騎士もおかしい!
さすがの事態にラムレスさん達ゲーマー騎士達が何事かと近寄って来る。
動く時は動いてくれる様だ。
こんな時にまでゲームをしていたら追い出そうかと上に頼み込む所だ。
「ああ――ハネバシ様が回される……!」
ドバっと女騎士が鼻血を吹き出した。
「お、おい! 大丈夫か!?」
「依藤! 依藤! お前の彼女何か変だぞ!」
「ああ、羽橋君が隼人の元へ逃げる!? そこは坂枝君に飛びついて守ってもらうのよ!」
とまあ、黒本さんが俺に対して何か指名している。
意味がわからない。
「ガウ!?」
クマ子も事態の異常さを理解して、俺を見せない様に黒本さんの前に立っている。
振り返って視線を送って来る。
逃げろって事?
「幸成、とりあえず依藤に相談して来てくれ」
「夫婦公認!? それじゃあ萌えないわ! やめて! もっと背徳的な関係でないとダメよ!」
何がダメなんだよ。
どっちかと言うと今の黒本さんの方がダメっぽいぞ。
「わ、わかった」
黒本さんが何を言っているのかよくわからないけど、俺は転移で依藤の所へと逃げる事にした。