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一日一時間

「そろそろ手持ちの素材で作れそうな天井知らずの武具に追いついて来たが……」

「精練は止めておけよ?」


 幾ら上に手が届きそうだと言っても限度を知って欲しい。

 しかも人数分という訳でも無い。

 継続して稼げる状況を維持した方が良いしな。


「この前、国から良い意味で通達があった。俺達の功績で災厄の年で活発化している魔物への対処として冒険者や国民が一丸になって討伐に取り組んでくれているそうだ」

「俺達が提供する娯楽を楽しむにはポイントがいるから?」


 国民は自らの生活を守る事は最低限するが、それ以上の魔物の討伐に割と消極的だったそうだ。

 その為、定期的に危険な魔物が出没する辺境の警備は国の騎士が向かう事になるが、俺達が提供する娯楽を楽しむためには金やポイントが必要になる。

 それを得るために、魔物退治が活気づいて市場の流通が良い様に回っているとか何とか。

 生活の品質自体が向上して更に……と良い感じに進んでいるっぽい。

 良い事なんだろうけど……物騒な事が起こらないかヒヤヒヤして来る。


「まだ二、三カ月の段階だし、長期的な目線で挑んでもらいたいな」


 短期のブームではよくない。

 みんなの装備品を集めるという意味でも、それこそ湯水の如くポイントが必要になって来るだろう。

 というかポイントがインフレし過ぎなんだよ!

 オンラインゲームみたいだと愚痴りたくなってくるな。


 そりゃあ金銭の方が価値が出てくる訳だ。

 俺が金銭に出来るのも異世界人特権って感じっぽいし。

 多分、両替屋を始めたらラムレスさんは元より国にストップを掛けられるのはわかる。

 そんな危険な商売をさせる訳にはいかないはずだ。


「そこなんだ。市場の流通を牛耳る気は無いけど、確かに金銭とポイントの動きは膨大だ。その点で言えば僕達がいた現代社会に匹敵するかもしれないね」

「やっぱりそう?」

「うむ……少なくとも億単位で動いているのは確実だろう。他国との交易を入れるとその比じゃない」


 俺達も凄く稼いでいる様に見えるけど、それも極一部って事か。

 まだまだ新参者だ。

 もっと膨大に稼がないと始まらない。


「ってなんで俺達、商人みたいな話をしてんだ?」


 萩沢が我に返ってみんなに水を掛けるかのように呟く。

 うん……そうだったね。


「元の世界に帰る為にがんばってるのに……まさにどうでも良い事に力を入れている気がするね」

「かと言って面白いくらいに稼げると……感覚がマヒしそうだ」

「谷泉くん達が錯覚してしまう気持ちがここで理解した様な気がするよ」


 学級委員も理解するくらいか。

 こりゃあかなり危ないかも。


 という訳でその日は解散となった。

 依藤達への装備の支給は大分潤沢に回って来てると……後少しでアダマントタートルシリーズに手が届くかな?

 なんて思いながら俺達は就寝した。



 そんな夜の事。


「ハネバシ様、ハネバシ様!」


 コンコンと夜遅くに俺達の工房の扉を叩く音に目が覚める。

 目をこすりながら、部屋を出ると同様に眠そうな茂信と萩沢が部屋から出てきた。


「この声って……ラムレスさん?」

「こんな深夜に幸成を指名? また何か急務の仕事か?」

「ガウー……」


 クマ子もさすがに眠そうに眼をショボショボさせてる。


「クマ子は眠いならグローブ姿で寝てても良いからなー」

「ガウ」


 クマ子が首を振って、俺についてくる。

 依藤の方に視覚転移をしてみる。

 特に何かある訳じゃ無さそうだ。

 というか、漫画を読んでいる。


 依藤達は問題ない。

 となると他の誰かか?

 何だろうと思いながら若干警戒気味に扉を開ける。


「ああ、ハネバシ様、夜分遅く申し訳ありません」

「……何かあったんですか? もしかしてクラスの誰かの身に何か!?」


 するとラムレスさんはあっさりと首を横に振った。


「ご安心を、そのような話ではありません。どうかハネバシ様、同行して頂けないでしょうか?」

「幸成を連行? 何をする気だ?」


 陰謀か何かかと茂信が警戒する。

 事と次第によっては……。


「いえ、そうではなく――」

「よい」


 するとラムレスさんの後方にある馬車の方から声がして、扉が開く。

 そこには……王様がいて、俺達に手を振りながら歩いてくる。

 ザッザと深夜の城下町なのに騎士が何人も揃って辺りを警戒しながら敬礼している。


 王様直々に夜に俺を御指名?

 な、何をする気だ?

 頼み事なら昼間に呼べば良いだろうし。

 というか、王様に会ったの久しぶりなんだが……。

 そもそも俺は言う程、面識無いし。

 黒本さんなら国の書庫で仕事をしていたし、何度も会っているかもしれない。


「異世界人の皆が国に溶け込み、多大な利益を出している事を国は大きく評価している。過去の歴史の通り、良い異世界人の方々で我が国も感謝の言葉を送りたい」

「あ、ありがとうございます」


 王様が代表をしている茂信ではなく、俺を見て言う。

 なんで俺?

 確かに最近、日本の物を持ってくるのは俺の仕事になっているけどさ。


「そこで、少々異世界人の、ハネバシ殿に更に頼みがあってのう」


 王様が何か言い辛そうな顔をしている。

 で、ラムレスさん達が何か疲れたと言うか、呆れていると言うか、微妙な顔と表現するのが一番の顔で王様と俺達を見ている。

 一部は羨ましそうな顔とでも言うのか?


「な、なんでしょうか?」


 緊張して頭が真っ白になりそうなのをどうにか抑えつけて王様に俺は答える。

 すると王様はマントの下から――。


「ゲーム機とやらの電池とやらが切れてしまっての。雷の魔法で充電すると危険だと聞き、充電してくれるというハネバシ殿に頼みに来たのだ。どうか充電してくれまいか?」


 あ、茂信と萩沢が盛大に転んで、倒れる。

 つーか、笑いを堪えて蹲ってると言うのが正しい。

 深夜に王様が来て充電してくれ、だもんな。

 だとしてもお前等の反応は少々オーバーじゃないか?


「王様、こんな夜遅くまでゲームを楽しむのは公務に差し支えます。明日には充電をしておきますので、御身の健康の為にも、国の為にも寝てください」


 俺の返答に騎士達も一部、笑いを堪えている。

 というか表情が明るくなってるのも複数いる。

 誰だ。王様にゲーム機を貸した奴は。

 まったく……。


「充電済みのゲーム機は無いか? 続きを楽しみたいのだが」

「王様、異世界人の世界にはこのように嗜める言葉があります。ゲームは一日一時間」

「ブッハ! ――羽橋、やめ――」


 萩沢が堪え切れずに吹く。


「一時間!? 異世界人はそんな短い時間で楽しみ切れるのか? 無理だ!」


 まあ、日本でも守られる事の方が少ないよなぁ……。

 それこそ一日中プレイしている人だっているだろう。

 俺も一時間なんて守った事、ほとんど無い。


「頼む! この通りじゃ! お願いする!」

「王様、困らせないでください。こちらも王様を困らせたい訳じゃないんです。国民として王様の為に申し上げていると思ってください」


 俺が深々と頭を下げると、馬車から眠そうな大臣がやってきて王様を宥める。


「そうですよ。異世界人の皆さまは我が国を侵略しようとしている訳ではないのが、これで証明出来たではありませんか。ハネバシ様の仰る通り、明日続きを致しましょう」

「非常に名残惜しいが、しょうがあるまい……では明日の朝には城に届けるのだぞ。約束であるぞ?」

「はい。わかりました」


 で、王様は渋々馬車に戻って行った。

 よく見たら王様、滅茶苦茶眠そう。

 日々の激務とかの後にやっていたんだろうなぁ。


「ハネバシ様、此度の対応、誠に感謝いたします」


 ラムレスさんを初め、大臣も揃って礼を述べる。

 なんでも普段は王様の近くにいるクラスメイトから借りてやってて、今夜は我慢できず電池切れになったのを充電してもらおうとやってきたっぽい。


「それでは」


 って感じで馬車は走っていき、騎士達が付いて行く。

 王様がアレって、一抹の不安を覚えるけど、新しい事を受け入れる方針という意味で良い人なのかもしれない。


 ちなみに王様が何をプレイしているのかと思って中身を確認したら、土地を買い占めるボードゲームだった。

 他にアクションゲーム、ハンティングゲーム、パズルゲームもプレイしている。

 文字がわからなくてもなんとなくで対応しきってるって凄いな。

 話によると日本の文字を多少読む事が出来るらしい。

 アレが人の上に立つ資質なのか? いやいや。


 この時の俺の反応が大臣を含め、国の連中が大きく評価したと聞くのは随分と後の事だったりする。


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