漫画翻訳
そうして俺のLvは45という所で期日となり、一旦帰還する事になった。
このまま狩り続けるのも良いが、いい加減、城下町で仕事を持っているみんなが休みを取ると、色々と支障が出るという事で、揃って帰った感じだな。
俺も貴族相手に色々と卸す作業もあるし、依藤の話じゃ別の手頃な魔物を倒しに行くって話を取りつけたから問題ない。
「いやー、楽しかったな。海水浴が出来て、遊べて、Lvも上がって能力も増える。良い事三昧だった」
萩沢が何か宝石みたいな物を持ってホクホク顔だ。
それが目当ての道具なのか?
「ガウ?」
キックボクシングに派生するか否かを考えた方が良いけど、今は一旦帰るか。
詳しく分布を探さないといけない。
やみくもに探しても良い事って無いと思うし。
「じゃあ皆さん。帰還の水晶玉で帰りましょう」
「「「はーい」」」
そんなこんなで強化合宿は特に問題なく終わった。
その後、俺達が滞在していた宿は冒険者達も快適に過ごせる有数な宿になったのは数日後に聞く話しとなった。
翌日からも特に大きな変化の類は……。
「羽橋、次は何処へ狩りに行く?」
依藤が俺を狩りに誘う様になった。
ある程度、装備も揃ってLvが上がったからだろう。
とはいえ、依藤のLv上げを損なうのも悪い気がするし……また遠征って事になる。
まあ、俺はいつでも茂信の工房に戻る事が出来るんだけどさ。
「幸成、こっちの武器の付与を転移してくれ」
「あいよ」
何だかんだで茂信の仕事の手伝いも俺はしている。
色々と忙しいなぁ。
「この前狩りに出かけたばかりだから……少し期間を置いてもらって良いか? 依藤もその間にLvを上げていてくれれば、より効率的に上げられるようになるだろ? 視覚転移で時々声を掛けに行くからさ」
「わかった。じゃあ狩り場近くの村に滞在している時に転移で来てくれ。余裕があったら手伝う」
依藤はそう言って気さくな感じで店を出て行った。
うん。今は俺自身が強くなるのも重要だけど、依藤達により強くなってもらう事も重要だ。
俺達はチームなんだから、全体が強くなっていかないといけない。
段々とその感覚が掴めて来た気がする。
「幸成は転移があるから便利だな」
「そうだな。自分でも良いポジションだと思う」
依藤達が狩り場に向かっている間は茂信やみんなの商売の手伝いが出来て、狩りに出かける時に同行すれば経験値のおこぼれがもらえる。
……装備もある程度出来ているし、後は更に強力な装備を付けられるようにLvを上げて行くと良い。
そう思っているとラムレスさんが見張りをするのが暇だろうからと、茂信が渡したゲーム機を借りて遊んでいる姿が見える。
あ、視線に気づいた。
「いやー、異世界人の皆さまが所有している、このゲームというのはとても面白いですね」
文字とかよくわからないだろうから、茂信はわかりやすい配管工のおっさんを動かすアクションゲームをラムレスさんにやらせている。
ちょっと前に出た、DSP版だ。
「ところでラムレスさん。同僚の方々が随分と一緒にいるんですね」
茂信の工房には騎士が四人も集まってラムレスさんのやっているゲームを後ろから凝視している。
というか、代わる代わるプレイしているようだ。
新作のゲームが発売したばかりの、持っている奴の家みたいな状況だな。
「え? ああ……あはは……申し訳ありません」
異世界人の娯楽に興味深々なのは海へ行くまでの道のりで知ってたけどさ。
あれは俺の勘違いじゃなかったみたいだ。
「国の騎士達の中では、サカエダ様の工房の警備は人気があるんですよ。私は専属で、他の騎士達が羨んでおります」
「で、茂信や萩沢のお付きの騎士が日替わりで来てると」
ラムレスさんが申し訳なさそうに頷く。
「後はヨリフジ様とクロモト様のご自宅の警備も需要がありますね」
依藤と黒本さんの家?
あの二人って家にあんまりいないはずじゃないか?
依藤は言うまでも無く狩りに出ていて基本的に家を留守にしてるし、黒本さんの家って感じだろう。
その黒本さんも国の書庫とかで資料探しをしているし、時々魔法書を持って依藤達と狩りに出ると聞く。
「あのお二方の家には異世界のマンガが所蔵されておりまして、騎士達にも楽しんでもらえるようにと、クロモト様が翻訳してくださっているんですよ」
なるほどなぁ。
つまり依藤と黒本さんの家って、漫画図書館になっていて騎士達の憩いの場になっていると?
というか漫画の概念はこの世界にもあるのか。
……よく考えたら異世界人が時々来訪する世界だもんな。
日本から漫画を伝える人がいても不思議じゃないか。
「大規模なマンガの流入はハネバシ様のお陰と聞きます。その為、警備の騎士も多めに増やす事になりまして」
「名目を立ててゲームやりに来てる様に見えるぞ」
萩沢の言葉に騎士達は揃って苦笑いを浮かべる。
いや、そこは笑うんじゃなくて否定してくれよ。
「ちなみにこのゲーム機なる物を貴族が欲しているともお聞きしますよ。口コミで話題になりつつあります」
「あー……幸成、商売の匂いがしてきたぞ」
「とはいえ、俺の家じゃ充電がそろそろ追いつかないぞ」
発電機を大量にネット注文してるけど、燃料の調達がな。
その辺りはこの世界で代用可能な物があるかを試す事になるだろう。
今では日本の俺の部屋……クラスメイトの持つゲーム機の充電で蛸足配線になってて足の踏み場が無い。
家に帰った時、また停電したのよ、と母さんに怒られた。
またも何も初めて怒られたんだが……辻褄合わせは時に理不尽だ。
「他にクロモト様の所有する漫画を蔵書するかと国の図書館が検討なさっております。閲覧にポイント、または金銭を要求すれば良いとか」
「そこは黒本さんと応相談になるかな。まだ俺は異世界の文字とかわからないからいたずらに取り寄せても良い訳じゃないよな」
とはいえ、サブカルチャー系も口コミで有名になってきたか。
定期的にポイントが入るなら悪い話ではないんだよな。
「何分、海へと異世界人の皆さまが出かけた際に、無数の国民と冒険者が楽しげのゲームとマンガを楽しむ皆さまを見ていたので、関心が集まっている状況です」
「良い感じに稼げそうだから良いんじゃないか?」
「黒本さんと相談だな」
結果、黒本さんが了承し、俺が買ってきた漫画の翻訳をして、図書館に蔵書する事になった。
海へ強化合宿した際に、黒本さんに文字翻訳って拡張能力が目覚めたそうで、本の類は結構簡単にこの世界の人達でも読めるようにする事は出来た。
まあ……日本の本屋で大量買いするのは勇気が必要だったんだけどね。
それで蔵書の一般有料解放をした際、冒険者は元より、国民も大規模な娯楽を求めて殺到したそうだ。
元々漫画の類はこの世界にある訳だけど、規模が違う。
紙質は悪いけど出版社とかもあるそうで、副書とかをしないかとか沢山のオファーが来たとか何とか。
合計するとどれくらいのポイントや金銭が稼げるか分からないけれど、少なくとも図書館の使用料金の一部、一月の使用料金の半分で四百万ポイント相当になった。
まあ、使用料自体が少なめに設定した訳だけどさ。
ただ、ズラーッと図書館目掛けて行列が出来ているのを見て、何事かと思った。
自分が描いた訳でも無いのに日本の物を異世界で版権を得るって犯罪なんだろうなーくらいは思っているけど、かと言って日本に権利申請とか……どうすればいいんだろう?
異世界で売る権利、印税を数%作者にって……まず異世界の証明をするのが難しいよなぁ。
俺が異世界にいると認識されないし。
で、ゲームの方はゲームの方で口コミが増していて、茂信の工房や国にどうにか頼めないかと頼まれる事が増えたそうだ。
「香辛料なんて目じゃない単位で稼げてきた様な気がするんだけど……」
入手したポイントを見ながら俺達はクラスのみんなで夜の会議を始める。
ま、狩りに出ていて留守にしている奴も多いけどさ。
「良いのではないかい? 羽橋君」
学級委員が我が事の様に笑みを浮かべて答える。
「みんなそれぞれ商売で成功を収めつつある。中には羽橋君の助力を得ずに成功している者もいる」
裁縫とかその辺りの能力を持つクラスメイトの話だ。
彼女は俺が日本の物を取り寄せる必要も無く、茂信の工房に負けず劣らず、冒険者や貴族を相手に成功を収めている。
裁縫で服……防具の作成は、魔物と戦うという意味で必須の項目なのだ。
その為に、金を惜しまない。
使える拡張能力も茂信と似たり寄ったりの物が増えてきたそうだし。
軽装を好む冒険者は茂信よりも彼女の所へ行くそうだ。
他に寝巻やテント等の注文も出来る分、優位に立っている。