海底遺跡
「大きすぎるから取り寄せ出来ない。小分けにしてもらう様に説明してくる」
「じゃあみんなの空気残量が心配だから追加で海神の守りを持って行った方が無駄が無いんじゃないか?」
茂信がそう言って予備にしていた海神の守りと泡の衣を俺に持たせる。
「じゃあ、行ってくる」
お守りと服を大量に抱えている俺の姿ってかなり滑稽に見えないか?
依藤の視界から飛んでも良さそうな箇所を指定して、俺は転移する。
『まだか?』
良いから待てよ。
五分、されど五分。
冒険者が待てないとばかりにイライラし始めてる。
やがて五分経過したので、俺は依藤達の近くに転移する。
バシャッと着地した。
「な、何!?」
「転送系能力者!?」
冒険者が揃って声を出す。
「羽橋!」
依藤が俺を見て駆け寄る。
「どうしたんだ?」
「事情を説明しないといけないだろ」
という所で国の騎士が冒険者達に俺の事を、この部屋に先制で空気を送り届けた能力者とか説明してる。
「アイツが獲物をボロボロにしちまった奴か!」
安全に倒したは良いけど、海竜をボロボロにした事を怒ってるご様子。
お願いだから睨むのやめてくれ。
「引き寄せるにしても大きすぎて丸のままじゃ飛ばせない。もう少し小分けにしてくれれば行ける」
「わかった。どう分ける?」
「頭、胴、尻尾で行けると思うから、俺が帰ったら待っていてくれ……ただ、空気は足りるか? 茂信が脱出用の水中装備を寄こしてくれたぞ」
「「「おお!」」」
「助かる」
部屋には十分な酸素がある様に見えるが……それも人数が居れば心もとない。
何か息苦しいし、俺も着ている泡の衣が効果を発揮し出してる気はする。
「じゃあ分割はするから、みんなは村へ戻ってくれ、浜辺で素材を分ける。道中で転移承認アイコンが出ると思うから、了承してくれ。しなかったら話が進まない。信じられないとか言う奴がいると、失敗するから止めてくれよ?」
十分な準備のお陰で、冒険者たちも文句こそあれど、素直に海岸へと戻る選択をした。
渋々、転移に承認をした連中もいる。
俺も一旦、村の方へ戻り、実さんに魔力回復をさせてもらいつつ、海竜の分割された死骸を海岸に送り届ける事に成功した。
やがて冒険者や騎士、依藤達が戻って来る。
「「「おおー」」」
「安全な場所で捌けるのは良いな。ゆっくりと行こう」
感心するのは良いけど、目をギラ付かせるなよ。
何でも、異世界人四割、冒険者三割、国(騎士)が三割と海竜の死骸の権利は事前に発生しているそうだ。
「しかし……見事にボロボロだな」
「ある程度修復を施す事は出来なくはないけど……」
と、選り分ける前に損傷転移をして、破損した箇所を処分に困っていた別の魔物の死骸に移して見せる。
もちろん所有権のある連中全員の了承が必要みたいだけどさ。
「修繕技能持ちか! これなら、良い感じに修繕して寄り分けるべきだな」
この感覚、アダマントタートルを倒した後を思い出すぞ……。
嫌な予感というのは的中する物で、その日、俺は海竜の死骸の修復を実さんの援護の元にやる羽目になった。
割と小奇麗になった海竜の死骸を依藤達や冒険者、騎士達が選り分けて清算は終了。
ああ、冒険者同士で、どの部位を手に入れるか争いが発生したらしいけど、俺達には知った事じゃない。
「何から何まで羽橋に援護してもらった一日だったな」
依藤達戦闘向けの連中が揃って言い出す。
実際に戦ったのはお前等だけどな。
「褒めたってこれ以上出ないぞ……いい加減疲れた」
「そうだねークマ子ちゃん慰めてー」
「ガウー」
くたくたになった俺と実さん。クマ子は実さんに抱きつかれて優しく実さんを撫でている。
ほぼ一日中、俺の回復をしていた様なもんだもんな。
ウンザリするよな。
「こう……今までにないくらい楽で困る事の無い狩りだったと思う。羽橋に頼めば動かない相手なら必殺の奇襲が出来るし」
「またやってくれって事か?」
頷かないでほしいな。
まあ、俺に損は無いんだろうけど。
ついでに俺のLvも上げてもらえるかもしれないし。
「召喚獣、羽橋様って感じだな!」
「羽橋様ー」
依藤と一緒にいたクラスメイトが茶化してくる。
「待て待て、羽橋様をそんな簡単に酷使してはならないだろ」
「様付けはやめろ! クラスメイト同士で様付けはきつい」
寒気がするから本気で止めてほしいわ!
こう……小野を思い出してやばい。
様付けだけは許さん。
「とにかく、羽橋と姫野さんお疲れ様」
「とりあえず狩りで手に入れた物資は茂信の工房に送り届けているから、帰ってから山分けしよう」
「了解!」
そんなこんなで翌日から海竜を仕留めて平和になった海……海底探索をクラスメイトのみんなで行った。
依藤達の活躍のお陰で海中にある遺跡とやらには、簡単に辿り着く事が出来た。
海底を歩いて行くというのはやっぱり不思議な感覚だと思う。
テレビとかでダイビングの映像とか映し出されていたりするけど、それに近いかもしれない。
「で、ここが遺跡だ」
「ほう……」
依藤の案内で海中遺跡に目を向ける。
パッと見は神殿か? 密封率が高くて、完全に人工物って感じだけど。
海中に壁が苔むしているけれど、石造りの建物がそのまま建っているんだ。
ただ、一見すると屋根のある家にも見えなくもない。
「ポセイドンの神殿とかそんな感じだな」
「あー……確かに、そんな雰囲気」
どんな雰囲気だよ。
ギリシャ風と言いたいんだろうか?
「中に入れないのか?」
「窓から中を少し覗く事は出来るけど、入ったと言うのは聞かない。海底を掘って入ろうとしても凄く強固な材質で作られているみたいでな」
「そうなのか?」
「羽橋の転移でどうにか中に入れないのか? 扉を壊すとか色々とさ」
「やって見るか。適当に岩でも何でも扉に転移させりゃどうにかなるかもしれないし」
「さっすが羽橋ー動かない相手なら最強だな」
昨日からそればっかりだな。
称賛も過ぎると嫌味にしか聞こえないぞ。
という訳で適当に岩を遺跡の扉に向かって飛ば……そうとした。
すると砂時計が発生はしたが、バチンと魔力が変に削り取られた。
「うぐ……な、なんだ?」
「どうした?」
「わからない。失敗した」
どうなってんだ?
「窓から中が見えるなら転移で飛んで見るか」
「危なくないか? 中に危険な魔物とかいるかもしれないだろ」
俺は窓から中を確認する。
角度の関係で分かり辛いけど中を確認出来た。
地下への階段があるっぽい。
その手前には何か置いてあるようだけど、よく見えない。
「かと言ってこのまま観光で帰るのも間違ってるだろ。羽橋の力で攻略できるならやって見る価値はあると思うぜ」
そんな訳で俺は自分を指定して内部への侵入を試みる。
上手く侵入して、攻略が出来無さそうなら速攻で帰れば良い。
そんな気持ちで詠唱が終わると、俺の視界が切り替わり――。
一瞬ではじき飛ばされた。
「あいて!?」
水中なので衝撃は逃がされたが、結構な速度で跳ね飛ばされた。
「ヴォフー」
クマ子が跳ね飛ぶ俺を抱きかかえて、衝撃を逃がしてくれた。
「な、なんだ? 幸成が消えたと思ったら凄い勢いで跳ね跳んできたぞ」
「今、一瞬だけだけど、建物からすり抜けるように羽橋が飛び出してきた様に見えたぞ」
「これは……」
同行していたラムレスさんを初め、騎士のみんなが顔を合わせている。
「何か心当たりが?」
「はい。犯罪を犯し、賞金首に指定された冒険者が、知らずに帰還の水晶玉を使用した時の反応に良く似ております。結界の外へ強制的にはじき出す。おそらく、結界に弾かれたのだと思われます」
「そんな事までやってるのか……じゃあ侵入は出来無さそうだな」
「目の前にまで迫っているのに、何も出来ないとか歯がゆいなぁ」
「あー……痛って……建物を貫通して追い出されるとかどんな構造なんだよ……」
とは思ったが、厳重な警備って事なんだと思う。
転移を使っての不法侵入も安易に出来ないな。
「ゲーム的発想だけど、何か足りないとかなんだろう。封印を解くなり、結界を解く方法がさ」
「みたいだな……ま、どっちにしても機会を見るしかないか」
別に俺達は世界を救う勇者って訳じゃないけど、冒険心から呟いてしまった。
そんな訳で遺跡の近くの魔物をみんなで倒したりしながら、強化合宿は過ぎて行った。