転移サポート
「そういえば幸成、聞いたか?」
「何を?」
「さっきの遺跡の話だけどな、この国には結構あるそうだぞ。アダマントタートルに襲撃された温泉地の近くにもあるそうだ」
「そうなのか?」
「ああ、依藤達も何かあるんじゃないかと勘ぐっている所だ」
遺跡か……考えてみれば、あの森にも遺跡の様な残骸があったよな。
そんなに遺跡ってほいほいある物なんだろうか?
「何かあるかもしれないと思うのは自然な事だな。異世界人しか解けない仕掛けとかさ」
「そう思って色々と調べてる所だけど、特に無いみたいなんだ」
「ゲーム的思考が過ぎたって事か?」
かもしれない。
と、茂信は黙って頷く。
ステータス、能力等、ゲームの様な異世界だけど、遺跡の攻略までとなると色々と難しいと。
どっちかと言うと異世界人の人達も合わせて、ネットゲーム寄りな感じだよな。
なんて、脳裏に過るけどさ。
ともかく、今まで通りみんなを帰す為に出来る事をして行くしかない。
遺跡の調査もその範囲だろう。
「その遺跡を攻略したら元の世界に帰る手段が、とかの可能性がありそうだけど……」
「ありえるのが怖いな。だから手を尽くしているって所だ」
そういう訳で遺跡の探索をしに行くと。
という所で、依藤がやってきた。
茂信と話をする為の様だ。
「坂枝、お? 羽橋もいるなら調度良い」
「なんだ?」
「明日の海底探索だけど、延期になった」
「何があったんだ?」
「倒しても定期的に出現する海竜ってのが出たらしい。それを倒さないと遺跡には近寄れないそうだ」
「へー……」
「戦闘向けの俺達でも倒せない相手じゃないけど、みんなを連れて行くのは厳しい。海が荒れるから海岸でも気を付けないと危ない」
厄介な魔物が出るんだな。
そういう事ならしょうがないか。
「城の騎士と冒険者総出で討伐する計画が立った。明日はゆっくりしていてくれ」
「そうか……」
という所で依藤が俺に視線を向ける。
「作戦内容によると遺跡近くの洞窟に海竜は住み着いているらしい」
「なんで俺を見る?」
「長期戦が出来るように洞窟に空気を送れないか? 動きまわると酸素が足りずに撤退する羽目になりかねない。それに洞窟内に空気があれば海竜も戦い辛くなると思う」
「ああ、そういう事ね。かと言って俺がそこまで行って大丈夫か?」
と、尋ねると依藤が腕を組んで唸る。
難しいのか。
というか依藤、お前等そんなボス臭い奴を仕留められるほどに強いのかよ。
「なら依藤、幸成に視覚転移を掛けてもらって遠隔で酸素を飛ばせば良いんじゃないか?」
「そうだな……というか、羽橋の能力ってやっぱり便利だよな」
「五分間の詠唱と連携が肝だが……大丈夫か?」
「俺が合図を送るから指定した場所に空気を送ってくれれば良い」
……なるほど。
それなら誤射の危険性が薄まるな。
「わかった。まあ、依藤の目で海竜の住処さえ一度見ればなんとなくで飛ばせるとは思うしな」
俺は茂信に登録していた視覚転移を依藤に指定する。
明日は海竜の討伐を援護する事になりそうだ。
「じゃあ行ってくる」
という事で翌日は依藤達と国の騎士が海中装備を着こんで海へと向かって行く。
空模様は……暗雲が立ち込めている。嫌な感じだ。
海竜が現れたからなのだろうか?
村民も船が出せずに困ってるって様子だ。
「海竜か……確かこの前、鍛冶の親方が打ってた武具にあった気がする」
「勝つ事前提だが、大丈夫なんだろうか……」
俺は依藤の視界を確認しながら茂信と話をする。
「大丈夫なんじゃないか? 冒険者も揃って退治しに行くんだろ?」
「前例があるから問題は無いんだろうけど、それでも死者が出たら嫌だと思ってさ」
「気にしたってしょうがねえだろ」
萩沢がそんな話をしている俺達の所へやってきて言い放つ。
この辺り、萩沢は割り切ってるよな。
「俺達が出来る事なんて頼まれた仕事をするしかないんだから、待つしかねえよ」
「そうだね。今は依藤君達の無事を祈るしかないよ」
俺の魔力を定期的に回復させる為に実さんも一緒にいる。
何度転移を使うかわからないからな。
「ガウ」
クマ子は俺が挑みに行かない事に疑問に思っているようだが、海の荒れ具合を見て認識を改めた様だった。
今はセイウチモードで頭にバランスボールを乗せて芸の練習をしている。
それはアザラシがやる事だと思う。
「というか……」
拠点向けの連中が揃って俺の元に集まっているのは何故だろうか。
ゲームや漫画でもしていれば良いだろう……とは思うが、気になるんだろうな。
「依藤達、どんな感じ?」
「まだ普通に進んでるだけだ。ただ、凄いな。出てくる魔物を瞬時に屠って行く、足も速い」
俺達と一緒に狩りに出てる時は随分と手加減、というか俺達に合わせていたんだな。
つーか、何Lvなんだお前等は。
凄い順調というか、特に危険も無く進んで行く。
一緒の冒険者や騎士も負けずって所だけど、若干遅れ気味か。
異世界人の方が強いという話は本当なのかもしれない。
声も聞こえはするけれど、別段何か問題がある訳じゃない。
「だろうな。何でもLv80超えてるそうだし」
高いな。俺のLvの倍もあるのかよ。
もっと危険な所でLv上げを……ってクラスメイトが死なない様に気を使ってくれてるのか。
というか俺達の上りが悪すぎか?
依藤の奴、俺が見ているのがわかってるのだろうか?
今度、良い狩り場を教えてもらって本格的に引き上げてもらおうかな。
というか、キョロキョロと海岸の方角を見るなよ。
みんなが気になるのはわかるけど、安全地帯なんだから気にするなと言いたい。
……俺も似た様なもんか。
「へー……海底を進むとこうなっているのか」
「羽橋、あのな。お前は見えるかも知れないが俺達は見えないんだから説明してくれ」
「若干薄暗いけど、サンゴとか色々と海底は生えててカラフルな森って感じだ。依藤達はそこを進んでる。うわ……でっかいウニみたいな魔物と戦ったり、タツノオトシゴみたいな魔物と戦ってる」
「そんな魔物がいるんだな」
「あ、素材回収せずに捨てて行った」
「調度良いから羽橋が取り寄せたらどうだ?」
良い手かもな。
俺は依藤達が倒して行った魔物に転移を指定して引き寄せようとする。
あ、倒した依藤が気づいた。
……視覚転移ってステータスや承認アイコンの是非とか見えないみたいだ。
許可してくれたみたいだ。詠唱が始まる。
『羽橋がみんなの所に素材を引き寄せてくれるみたいだ』
依藤が周りのクラスメイトに説明する。
『良いなそれ! 羽橋がいれば素材を運んでもらえるのかよ』
『承認許可すれば良いだけだ』
『おおー……』
『今度から羽橋にサポートしてもらおうぜ』
残念だが俺が見てないといけないんだぞ?
常時見ていたら魔力が枯渇する。
近くに実さんがいるから出来る荒技だと後で説明すべきだな。
五分後に依藤達が仕留めた魔物が俺の指定した場所に転移する。
「「「おおおー!」」」
「すっげ! 羽橋って依藤達の荷物持ちを安全な所で出来るんだな」
萩沢が若干興奮気味に答える。
荷物持ち、ね。
まあそんな感じの能力だよな。
「まあな」
「もうさ、依藤達にしか倒せない魔物の動きを封じてもらって遠隔で仕留めれば経験値稼ぎ放題じゃねえの」
俺もそれくらいは考えていたけど、それもどうなんだろうか?
というか問題は遠隔で仕留めるにしても見張ってないといけないし。
こっちの言葉は飛ばせない。
「能力に遠距離通話とかあれば良いんだが」
「あるらしいわよ」
女子が俺の愚痴に返答する。
あるのか……残念だが俺には無い。
持っている奴に依藤に囁いてもらわないといけないな。
通信網でなんとかする感じか?
「そんな面倒な事しなくても安全そうなら幸成が転移して依藤の所へ行けば良いんじゃないか? 幸成自身は転移で行けるんだから」