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精錬

「強化とどう違うんだ?」


 文字だけだと違いがあまり伝わって来ない。

 だから茂信が試す様に徐に持っている武器に施そうとする。

 ……の前にラムレスさんが手あげて焦った様に説明する。


「精練ですよね!?」

「あ、はい」

「凄いですね……このLvで精練を習得するとは。さすが異世界人のサカエダ様です」

「どんな能力なのか知っているみたいだな」


 依藤がラムレスさんに尋ねる。

 するとラムレスさんが頷いた。


「はい。鍛冶に携わる能力の中でも恩威と争いを産む能力と言われております」

「え? ヤバイの?」


 茂信が焦った様に答える。


「ある意味……争いの種になりかねないでしょうね。我が国も所持している方もいない事は無いのですが、人間関係の問題から使用を忌避する傾向があります」

「そ、そうなのか?」

「で、どんな能力なんだ?」

「私達の能力の場合、例えば『槍精練』等になるのですが、サカエダ様の場合は精練……これは強化の限界を超えた強化を行う拡張能力だと思われます」

「ああ、+10から上の強化を出来る様になる訳ね」


 そりゃあ優秀だ。

 だが、ラムレスさんの話から察するに裏がありそうだ。


「何が問題あるんだ? なんとなく想像は出来るが」

「俺も想像が付くぞ」


 俺と依藤が揃って嫌な汗を流す。

 するとラムレスさんがゆっくりと口を開いた。


「精練が上手く行けば+1につき今までの強化で得られる恩威の+5相当、13以降は更に増えると言われていますが――」

「あーもう何が言いたいのかわかった。失敗すると武器がぶっ壊れるんだろ?」


 完全にネットゲームの過剰精練じゃねーか!

 そんなもんに頼る暇があったらもっと良い武器でも漁ってろ!


「精練か……じゃあポイントさえ稼げればサカエダに今までの武器を更に――」

「依藤、それは危険な考えだ。絶対にやめろ」

「ちなみに+15以降の物ともなると冒険者内でも高額で取引されると言われております。確か私の知り合いの騎士の家宝に普通のナイフですが+15の物がありますよ。とても神々しい光沢がありました」


 精練ギャンブルはやめろ!

 破産するぞ。


「サカエダ様は見た事が無いでしょうか? 鍛冶場にキラキラと光る武器を持った冒険者を」

「あー……ってアレが精練で強化された武器だったのか! 見てたらお前にはまだ早いって注意されたけど!」


 え? ボーナス的な光り方もする訳?

 ゲーム的過ぎるだろ!


「+15クラスになると刃先自体が発光していて明かりの代わりになるんですよ」


 嫌なマメ知識を教えられてしまったぜ。

 普通にランプや松明で良いだろ。

 茂信と依藤が好奇心に負けそうな顔をしている。

 そっちの側に行かせてはいけない。


「鍛冶場の親方に腕を認めてもらう為に……安物のナイフを作って試してみるか」

「茂信、過剰精練は危険だ!」


 俺のネットゲーム経験が教えてくれる。

 今、止めないと親友がギャンブルに嵌ると!

 最初はナイフでも、その内メタルタートルの剣とかでやりだす未来しか見えない。


「そんな焦る事か? 店の看板にも成るから仕事が増えて助かるんだが」


 依藤も同意しているが……問題はそこじゃない。


「看板には良いでしょうが気易く依頼を請けない様にお願い致します」

「なんで?」

「茂信、良く考えろ。この世界の冒険者って割と武具で財を成しているんだぞ?」


 さすがに異世界の流通を見てきたら俺だって理解出来る。

 貴族の類も武具には金を掛けていて、更に授かった能力を駆使している。

 治安維持のためには結界維持の為にポイントを上納しないといけないし、金だって必要だ。

 その金の方は……まあ色々と稼ぐ手段がある。

 だけど、武具の方は茂信の知る所にある、ポイントの大量消費……天井知らずな面が存在するんだ。

 それだけ苦労して作った武具が、一瞬で消し飛ぶ事を考えて欲しい。


「冒険者が引退する際、所持している武具を売り捌いて財産にした後、蓄えにすると言う話があるのです。身の丈に合わない魔物を倒す為に、武具を強化しようとして失敗、その恨みを鍛冶師に向けるという話は良くある話なのですよ」

「うお……」


 やっと茂信が理解したか。

 理屈じゃないんだ。


「狩りをすればポイントがそれなりに手に入るのがこの世界の問題だな」

「金だと理性が働くけど、ポイントは通貨に出来るのは能力持ちに頼まないといけないからなぁ……」

「ポイントで売買してくれる店もあるけど、若干価値が落ちるのが罠だ。生活出来る金を持っているとやりたくなるんだろう」


 結果、武器が壊れて廃業に成るかもしれない冒険者の恨みが行く先は?

 鍛冶師の元なんだろう。


「そこまでして倒さないと行けない魔物とかいる訳?」

「だよな。ネットゲームじゃないんだからさ」


 俺と依藤が揃って疑問に持つ。


「他者より秀でた物を持つ優越感は貴族でも冒険者でも変わりません。ファッションとしての価値もあるのですよ。元が高価であればあるほど、その価値は上がります」

「ファッションって……」


 実用は度外視?


「もちろん、実用で使う方もいらっしゃいます。自分の身の丈に合った魔物の素材を沢山所持し、少しでも先へ行く為に予備を作って挑む方もいるでしょう」

「そっちの気持ちはわかるな……」


 依藤が同意を示す。


「羽橋達はまだわからないだろうが、伸び止まり時期ってのが来るんだ。その時期を越える為に良い装備が欲しくなる。生産系のみんなが高価な装備を回してくれているから俺達はLv上げに集中出来ているんだ」


 まあ、みんなで稼いだポイントやお金で装備や道具を作っているからな。

 俺も日本から仕入れた物をみんなに渡して、それを商人やら貴族やらに売っている訳だし。


「なるほどな……しかし、それならアダマントタートルの剣でも作ってもらえば良いんじゃないか? 素材なら渡すぞ?」

「幸成、言い忘れたがそのクラスとなると他にも色々と厄介な素材が必要になるんだ」


 え? 簡単に作れないのか?

 どんだけ厄介なんだよ。


「良い武器を作るだけの素材を集める為に、精練に挑戦しなくちゃ行けなくなる時が来るって事だ」

「嫌な状況だな」


 そんなの諦めて別の武器に挑戦したら良いんじゃないか?

 この世界には未知の武器だってあるだろ。

 茂信の新しい能力、合成を駆使しようぜ。


「なんか難しそうなお話でしたね」

「ガウー」


 クマ子のグローブの方は茂信の能力でどうにかなるもんじゃないしな。

 実さんに関してはよくわかっていないご様子。

 一生知らない方が良い世界の話だと思う。


 そんなこんなで実さんのLvが30に到達した。

 割と早かったなぁ。

 ホントサクサク上がって助かる。


「えっとねー激運だって」

「激運……」


 昨日の夜にクラスの連中が熱中していたゲームが思い出される。


「依藤、魔物の死骸とかにレアとかあるのか?」

「稀に魔物の死骸を解体していると、希少な素材とか採れる事があるぞ。この辺りだと空海石っていう石の様な魔物の体内で生成される、魔力の結晶があるんだ」

「……たぶん、それだろうな」

「あー、海底に潜る装備に必須の素材だぞ、それ」

「じゃあ掛けてみますね。えーい」


 実さんが俺達に何かを施す。

 その後出てくる魔物が依藤の話では珍しいはずの空海石をボロボロと落とした。

 というか、倒すと同時に俺達の体から何か魔物に入って行って生成させている様に見えたぞ。


「凄く便利だな」

「あーでも再使用に物凄く時間が掛るみたいだよ」


 効果時間も1時間……ここぞとばかりの時に使うのが良さそうだ。


「大物を倒す時に姫野さんを連れていきたい所だが……」

「そんな危ない所に実さんを連れて行って大丈夫か?」


 俺の言葉に依藤は首を横に振る。


「身の丈に合った相手が良いに決まっているだろ」

「歯痒いな。俺達は依藤よりも遥かに弱いって事だしな」

「本来は適材適所なんだろう。坂枝がもっとも効率良く回れるのは岩石系の魔物が出現する火山辺りだろうし」


 最近、茂信はハンマーを武器にするようになって来てるのはそれが理由か。

 火山周りか。

 ……一応、拠点に良い場所はあるな。

 あの温泉地だ。


「茂信が山籠りする時は教えてくれよ」

「してたらみんなの装備はどうするんだよ。そりゃあ他の鍛冶師に頼めば良いだろうが……今の所、効率を考えると適材適所が良いだろうな」

「そりゃそうだ」


 とはいえ、俺は強くなりたいから出来る限り装備を揃えて、そろそろ本格的にLvを上げて行きたい。


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