天魔一刀
「さっきの話だけど、戦闘向け能力の拡張がどういう物なのかを羽橋にはもう少し教える」
仕様が異なるのはわかっている。
まあ、戦闘向けの能力の拡張ってあんまり知らないし聞いて置いた方が良いだろう。
「Lv5で出たのが探知、クマ子の野生の勘みたいな奴な。Lv10で攻撃予測、凝視していればある程度攻撃が予測できるようになる。他にも色々とあるけど、必殺技とかも拡張能力枠だ」
「へー……」
「見てな……」
と、フロスティグレイクラブが新たに砂場を掻き分けて出てきたので依藤が構える。
「天魔一刀!」
と、叫ぶと同時に剣先が光って大きく伸びる。
後はそのまま振りかぶってフロスティグレイクラブに叩きつけた。
やがて刀身から伸びる光が霧散し、普通の剣に戻る。
あー……何か記憶の片隅で小野の結界相手に見た様な光な気がする。
ただ、あの時は結界を破壊出来ていなかった。
剣術の能力を奪われていたからだろうか?
武器もあの頃は今に比べて貧相だったしな。
フロスティグレイクラブを見ると真っ二つだ。
一撃か……まさに必殺技って感じだ。
「武器が良い事もあって、威力は天井知らずになっている。俺の切り札だ」
「凄いな」
「難点はクールタイムが結構長い事と魔力が結構減る。まあ、戦闘向けって言われていた連中の拡張は総じてこんな物が多い」
「なるほどなぁ」
「用途で言えば生産系の方が拡張能力を得た時に効果はデカイんだよな」
戦闘系の能力者からすると、そういう風に見えるのか。
確かに俺にしても茂信にしても、拡張能力が増える毎に出来る事の幅が増えている。
戦闘系はあくまで戦闘に特化した能力構成って事みたいだ。
「後はクマ子が持ってるインセクトキラーみたいな特定の魔物に対して効果があるとか、切れ味向上とか持っている武器の攻撃力を底上げする物だな。だから手に入る技能も多いから、頼りにしてやると良いんじゃないか?」
と、依藤はクマ子を指差した。
あー……なるほど、クマ子を上手く使って行く事が強くなる為に鍵と言いたいのか。
そういう事か……グローブを使って強くなれば戦闘向けっぽく俺も戦えるようになる。
依藤は俺が戦いたがっているのを察して教えてくれたのか。
「ガウ!」
時に俺がクマ子と力を合わせる時もあるか。
考えておくべき案件なんだろう。
「わかった。考えてみる」
なんて感じに俺達はそのまま海岸沿いを歩いて魔物を倒して行った。
やはり村から離れて行けば行くほど、出現率が上がっていくようだ。
途中で海岸と陸地を分ける様に高低差のある崖が出てきた。
依藤の指示で海岸の方を歩いて行くと崖がドンドン高くなっていった。
やがて洞穴が見えてくる。
若干足場が湿っぽいなぁ。
「この辺りは時間によっては海水が流れ込んでくるんだ」
「じゃあ満潮時には来れない?」
「そこまで深くは無いから問題は無いが、魚類系の魔物の出現率が上がる」
なるほど。
やっぱり時間によって出現する魔物が違うのか。
で、洞穴の方に依藤は行く様で、ついて行く。
するとそこにはフジツボが生えていた。
何か、俺達を見つけるなり水を吐き出してくるぞ。
「アイツらは動きが遅くてフジツボだからあの場から動かない。強さの割に経験値が多いから、倒して行こう」
確かに、それは安全に行く意味で狩りやすい。
「しかも羽橋、お前のクマ子と相性が良いはずだぞ」
「え?」
「ガウー!」
依藤の指示を察したクマ子が洞穴の壁を叩く。
壁伝いに衝撃が発生し、フジツボ共に命中する。
するとポロっと剥がれ落ちていった。
大量の経験値が俺達に入る。
「おおおお……」
効率良いな。
何かサクサクと経験値とポイントが入って行く。
戦闘向けの連中がお勧めするだけの事はある。
「凄いな」
「ま、安全で狩りやすい魔物をしばらくは重点的に狩って行くから、みんなは警戒をしながら一緒に来てくれれば良い」
「ネットゲームで言う所の頭でっかちになりそうで怖いな」
「その辺は少しずつ覚えて行けば良いだろ。羽橋も坂枝も戦闘経験がしたいなら、良さそうな魔物を見繕うよ」
と、俺達は依藤の案内の下、安全にLvを上げた。
その日の内に俺のLvは32になった。
驚くべき成果だ。
入手した拡張能力は聴覚転移……視覚転移とセットになる拡張能力のようだ。
「聴覚転移だとさ」
設定すると視覚転移とセットで作動する。
「盗み聞きとかし放題だな」
「悪用するつもりはないぞ」
茂信の言葉に俺は苦笑いを浮かべる。
出来れば音声は聞きたくなかったなぁ。
日本に帰っている時に茂信達の声……俺を知らないみたいな台詞は聞きたくない。
オンオフが出来るみたいだから、基本的には切っておこう。
「茂信は合成だったか。ますます鍛冶師になって来たな」
「冷やかすなよ」
その言葉、そのまま返そう。
で、合成だが、武具同士を合成させて新しい武具を作る事が出来る様になったっぽい。
鍛冶のレシピが大きく増えたんだそうだ。
武器同士ってのがミソだな。
何でもパッと見でわかるのは任意で炎と氷を切り替え出来る剣とか作れるそうだ。
依藤が状況次第で持ち代えていたのが短縮できる事になりそうだと話していた。
ちなみに、ユニーク系の装備は合成出来ないらしい。
なんて感じにその日は狩りを終えて村に戻る。
今までの工程と同じく大工の能力持ちのクラスメイトが宿を大改造している最中だった。
真面目に働くというかなんと言うか。
「カニー!」
そんでみんな倒した魔物であるクラブを集めて大興奮だった。
他に海の幸がふんだんに集められている。
料理能力のクラスメイトは元より、他の連中も思い思いに食材を捌いて大きな鍋に蟹を投入したり、採れた魚や貝を調理して行く。
「ガウー?」
クマ子は……クラスメイトがワカメで作ったカツラみたいな物を被せられて、変なラッパーみたいな格好にさせられていた。
何をしているんだ?
「わははははは! なんだクマ子! その格好は!」
萩沢が帰って来るなりクマ子を指差して爆笑している。
「ガウガウ!」
さすがに笑い物にされてクマ子もやっと不快感を現した。
そうだよな。
笑わせるのは良いけど、笑われるのは嫌だよな。
「ウー……」
「ダメだよみんなークマ子ちゃんは女の子なんだし、もっと可愛らしい格好をさせてあげないといけませんよ」
そう言って実さんを筆頭に女子が今度はクマ子に水着を着せる。
誰だよ、クマ子の水着なんて作った奴!
「それもどうなの?」
「ガゥ……?」
クマ子が俺の方を見て恥ずかしそうにしている様に見えるのは、気の所為じゃないはず。
「料理が出来るまでは海水浴だけど」
地味に日差しがきついなぁ……。
「あんまり沖には行くなよーサメ型の魔物が出る」
「途端に泳ぎたくなくなったんだが……」
「村に設置された結界が海岸沿いにも拡張されてるからある程度は大丈夫だとよ」
茂信が範囲を知らせる浮き輪を指差す。
地味に範囲が広いな。海岸から100メートルくらいあるんじゃないか?
あそこまでは魔物が入って来れない訳ね。
「じゃあ適度に浜辺で遊んでいるとするかー」
「サンオイル……」
「日焼け止め……日焼けしちゃう」
女子達がポツリと呟く。
「……買って来いと?」
思い切り俺がお使いに行く雰囲気があるんだが……。
まあ別に良いんだけどさ。
という所で、萩沢と男子が女子と俺の間に入った。
「それは萩沢に頼んで解決済みだ!」
「おうよ!」
解決済みか、それは気が利く。
なんか引っ掛かるけどな。
「ささ、レディ達。順番に俺達が塗ってやるぜ」
サンオイルや日焼け止めの中身を手に塗り込んでジワリジワリと萩沢達が女子に近付いて行く。
そういう方向かよ。
女子達が少しずつ二の足を踏んでいるぞ。
「い、いや」
「なんかいやらしい」
「私達で塗れるから、アンタ達は海で泳いでなさいよ」
「そんな遠慮なさらずに」
「俺達に塗らせてくださいよー」
という所で女子達が揃って逃げ出す。
「待てー」
「イヤー!」
と、何か浜辺で追いかけっこが始まっている。
俺の目には結構必死に追いかけっこをしている様に見えるのだが、周りの連中は良くやると呆れ顔だ。
「ま、待て……本気で待って――」
あ、萩沢が息切れして膝を突いている。
相手は戦闘系で、しかもLvの高い女子だ。
「ふふふ、私を捕まえるなんて萩沢くんじゃ無理よ」
「く……」
余裕があるなぁ……必死に逃げてる様に見えたのは俺の幻覚だったか。
それにしてもどんなセリフだ。