表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/233

適材適所

 俺は学級委員と別れてから、その日の買い出しの時間に園芸店を回り、順当な品をそれぞれ購入して行く。

 チューリップの球根に始まり、パンジーやビオラ、コスモス……もはや日本の植物なら何でも売れそうだと思いつつ、一式を買って持ち帰った。

 ……ステータスの影響か、重くないんだよなぁ。

 店から出たら他の客に変な目で見られた。


 それを学級委員に預け、栽培してもらう事になった。

 もちろん、持ちこめる範囲での事だけどさ。

 日に日にその種類を増やして行き、花屋の物なども買っていった結果、一週間後辺りに学級委員がやってきた。


「羽橋君、僕の読みは間違っていなかったよ」


 学級委員のテンションが高い。

 言葉通り相当儲けたみたいだな。


「おお、じゃあ売れたんだ?」

「まだ始まったばかりだけどね。ははは、わざわざ貴族が僕の畑に何十人も押し掛けて来るようになったよ」


 そこでラムレスさんが資料を見て呆れる様に同意した

 事実らしい。

 ただ、国の威信に関わる様な大規模な問題にはなっていないそうだ。

 とはいえ、ある程度注意すべき要件にもなり、学級委員の畑は評価が上がって王室に抱え込まれるらしい。


「はい。どうやら異世界人の皆さまが提供なさった未知の植物を貴族の品評会に持ち込んだ様でして……かなり高評を博したそうです」

「まさに天井知らずの金銭が積まれる結果になって来てるよ。やはり読みは間違いなかったね。これが今週分だ」


 と、学級委員は総額300万相当の金銭とポイントを俺に手渡した。

 なんだこの額は……香辛料よりも多いぞ。

 というか、今週分とか言ったな。

 来週には同じ金額、下手をするとそれ以上の金が振り込まれるのか?


「一週間でそれほどとは……ハネバシ様の持ちこんだ異世界の品は素晴らしいですね」


 ラムレスさんも感心した様に答える。


「継続して振りこめると思う。存分に使ってくれたまえ」

「あ、ありがとう」


 なんだろう。谷泉相手に悪い扱いをされていた学級委員が物凄く頼もしく見える。

 まあ谷泉に交渉はまったく通じなかったからな。

 適材適所という言葉がやはりピッタリ来る一幕だ。

 知識って持っている人は持ってるんだな。

 ゲームばっかりやっていた以前の自分に対して、少し反省しようと思った。


 もちろん、今回の金銭も基本的には依藤達の装備代に当てる事になる。

 依藤達もかなり稼いで来ているし、人数分揃う目処が茂信の話だと立ってきたそうだ。

 この調子なら……俺もフルメタルシリーズを揃えてLv上げに行ける日も近いかな?

 なんて思いながら、ラムレスさんの方を見る。


「荒稼ぎしてる様な物ですけど、国の問題とか大丈夫ですか?」

「未知の植物や香辛料で市場が活気づいておりますが……大きな問題に至る事にはなっておりません」

「それは何故ですか?」


 俺の質問にラムレスさんが茂信の方に目を向ける。


「ハネバシ様達が魔物と戦う為に悩んでいる案件が大きく関わっている為ですよ。武具が真にポイントを使う為、異世界人の皆さまが稼ぐ程度の金銭では革命的な規模に膨らまないのです」

「はあ……」

「そもそも生命に関わる案件ではありません。あくまで……香辛料や植物という趣味の範囲ではありませんか」


 異世界の常識って事?

 つまり武具の作成等の方が重点に置かれていて、その武具があまりにも高くポイントを消費するから、貴族を含めて大きく問題視していないと……。


「この前のアダマントタートルの襲撃の様な、ハネバシ様でないと解決できない様な案件が多発したのであれば、国や貴族、冒険者は大きな問題だと判断したと思いますが……」

「うん」

「とはいえ、今後我々の知らない所で大きな問題になる可能性もあります。大事があった場合、自らの力でも解決できるように、今まで通り皆さまで強くなるよう努めて頂けると、私達も嬉しく思います」


 このまま、いろんな交易をしてこの国は元より、他国に目を付けられたとしても、自分達の力で陰謀を跳ね返せるように努めてほしいという……事か。

 今日までのラムレスさんやこの国の人達の反応を見るに、協力はしてくれると思うけどさ。


「それに我が国も商売に一枚噛ませて頂いております。利益は軍備の拡張に使われているので、その分、皆様を守れる様になっております。当面はご安心ください」

「頼りになるのか、怖い脅しなのか」

「いやはや……すいません」


 なんて感じに俺達は日々の仕事に追われる事になった。



「ガウー」


 Lv上げとは別に、暇な時間、クマ子に色々と玩具を買い与えて芸を仕込む。

 バランスボールとか一輪車とかを与えたら練習を始めたんで、そのまま付き合っている。

 みんなを楽しませるのがクマ子の楽しみであるらしいから、俺も協力を惜しまない。

 まあ、余裕のある時だけだけどさ。

 他、スパーリングの練習に付き合ったりもしている。


「幸成、来客だぞ」

「ん? またか?」


 金の成る話がまた転がって来たのだろうか?

 香辛料に植物となると今度は動物か?

 牛や豚は生き物だから持ちこむのは難しいと思うんだが……。

 ピッグとか居たけど、花の例を考えて品種改良された日本の豚肉は高評価されるかもしれない。

 とは言っても、牛や豚の種を持って来れるかって話だ。

 俺の能力は生き物は持ってこれないからな。


「よ、よう……」


 そう思っていると依藤だった。

 剣術の能力者でフルメタルシリーズもあって現在、戦闘向けの連中の中でも飛び抜けてLvが上がっている奴だ。


「何? 俺に何か用? Lv上げとかしてくれる感じ?」


 依藤達の話によると拡張能力の発現は30以降は10Lvおきに変わり、更に先は感覚が広がっていくらしい。

 ただ、拡張能力内で性能が上がるとかはあるそうだ。


「それもあるけど……」


 依藤が困った様な顔をしている。

 どうしたんだろうか?

 そういや基本的に依藤は俺と相対するとこんな顔ばかりしている。

 俺の事をそんなに嫌っているのか?


「俺が出来る事なら何でも言ってくれよ? そうすればみんなが生き残れる様になると思ってるからさ」


 最近、みんなの力になっている実感が少しだけ湧いてきている。

 やはり転移で物を持ってきて荒稼ぎしているからだろうか。


「えっと……」


 すると依藤は更に困った様な顔をして茂信に顔を向ける。

 なんか茂信もため息交じりだ。

 ああ、萩沢は最近なんか仲間を募って狩りに出かけて行った。

 手伝うと言ったんだが、俺達は別に必要ないそうだ。

 それよりもポイントと金を稼いでいてくれ、とか言っていた。


「幸成、ちょっとこっち来てくれ」


 と、茂信が俺の手を引いて別室に案内する。


「どうした?」

「あのな幸成? 前にも言ったが献身的に俺達に尽くすってのはお前のキャラじゃないんだ。わかるな?」

「そんな事言われてもな……」


 俺が傍観者でいたから、谷泉や小野の暴走を早く止める事が出来なかった。

 だから俺は、後悔しない様にみんなの力になりたい。

 一人でも死んで欲しくない。

 俺が前に出るよりも、みんなを一人でも守れるなら手段を選ばない。

 結果、交易で稼いだポイントを武具に回して、それを依藤達が使った方が効率良く稼げる。

 それは今までの事で実証されている。


「特に依藤は、小野に殺されそうになっていた所でめぐるさんが強く小野と口論していたから生き残れたって話でな。めぐるさんと仲が良かった幸成、お前には色々と罪悪感が強く出るらしいんだ」

「……」


 あの時、めぐるさんに小野が声を掛けた時に殺されそうになっていたクラスメイトの一人が依藤だったし、小野も依藤の能力を気にいっていた。

 まあ剣術だからな。

 ゲームをやった事のある日本人で剣術の能力に興味を持たない奴は珍しいだろう。

 なるほど……依藤はめぐるさんに助けてもらったんだな。


「幸成、もうアレから随分と経つ。少しくらい元気な姿を見せても良い頃なんじゃないか? 昔のお前ならではの態度で依藤は相手して欲しいんだよ」

「なるほど……」

「ガウ?」


 クマ子も難しい注文に首を傾げている。

 まあクマ子は以前の俺を知らない訳だが。

 それにしても昔みたいに接しろと言われてもな。

 しかし、要望なら出来る限り応えて上げるのが重要なんじゃないのか?

 ……はぁ。


「わかった」


 昔の様に振舞う要望って事だな。

 俺は昔の自分を思い出しながら茂信と一緒に依藤の所に戻る。


「えっと……」


 依藤が言葉に詰まっている。

 昔の俺だったら依藤にしそうな会話……。

 うん。たぶん、これだろうな。


「やあ、預かり物屋に何の用だい? 君が俺に頼んだ品は……既に降ろされていて何もないね?」

「は?」


 茂信が呆気に取られた表情で俺を見ている。

 あれ? 違ったか?

 だが、もう後には引けない。


「え、えっと……」

「預けるのかい?」

「日本の……」

「そんなサービスは知らないなぁ」


 多分、昔の俺だったら依藤の蛮行を根に持っていて、知らぬ存ぜぬを言い張ると思う。

 もうどうでも良くはあるんだが、森に居た頃、剣を頬に当てられた事があったからな。

 それこそ仲の良い相手、もしくは拠点組を優遇する形で物を提供しただろう。

 俺はそういう奴だ。


「あの時は申し訳ございませんでしたー!」


 いきなり依藤が俺に土下座した。


「預かり物屋とかタダ働きさせた揚句、脅して悪かった! めぐるさんは俺の命の恩人だし、羽橋、お前のお陰で助けられた様なもんだ! だけど、どうか願いを聞いてくれ!」


 と、深々と依藤は頭を下げ続ける。

 なんだろうこの罪悪感。

 どうして俺は依藤を土下座させているんだ?

 意味がわからない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ