プラントハンター
そんなこんなで俺はLvを上げつつ、交易を続行した。
週間で収入が着実に伸びつつある。
鎧とか盾とかにもフルメタルタートルの装備が全員に作れる日も近いだろう。
ちなみにLvが25にまで上がり、新しい拡張能力を得た。
損傷転移というダメージを受けた所を転移させる能力だ。
発動までに10分も掛る。
で、倒した魔物とかにも掛ける事が出来る能力で、疑似的な回復に使えるかなー? くらいの代物だ。
致命傷を受けて、死ななければどうにか……って10分も掛ったら際どいか。
多分、使わない能力だと思われる。
回復魔法が存在するこの世界じゃあんまりな。
そうして交易品を取り寄せる日々を続けていると、今度は学級委員が俺に何か頼みがあると仕事場に招待してくれた。
茂信や萩沢、実さんは各々の仕事が忙しいので、俺だけだ。
「やあ羽橋君。よく来たね」
学級委員の能力は栽培。
それ故に城下町のはずれにある田畑が学級委員の職場だった。
何分、彼は戦闘向きの性格では無かったし、能力を使っての戦闘よりも植物などを能力で急成長させて店に売買する方針だそうだ。
ちなみに、野菜の種などは俺が日本から提供している。
料理とか道具作成の素材を毎回買いに行くのは骨が折れるからなぁ……量産やコスト的に率先して育ててくれている。
学級委員は出来あがった大根をクマ子に渡す。
「ガウー」
クマ子が早速食べ始める。
こちらの世界でも熊は雑食らしく、肉でも野菜でもなんでも食べる。
若干ヘルシー傾向がある様な気もするが、甘い物も好きだ。
ラムレスさんの話では日本とは違い、人間の食べ物を食べても問題無いらしい。
「俺に何か用?」
「ああ、羽橋君だけじゃなく、みんなが一丸になって金銭やポイントを稼いでいるだろう?」
「ああ、依藤達の助けになる様にな」
依藤達も森にいた時みたいな態度は完全に鳴りを潜め、俺達には頭が上がらないと会う度に言ってくる。
どうも谷泉の統治状態じゃありえない程の効率を叩き出せているそうだ。
誰かが言ったが縛りプレイをやっていた感覚だったか。
そういう訳で近々拠点向けの連中を大々的にLv上げに行く計画が進みつつある。
まあ……茂信や萩沢の例を考えるにLvを上げれば便利になるのは目に見えているからなぁ。
そういや戦闘向けの連中も苦戦する岩石系の魔物を茂信が容易く仕留めたとか。
メタルタートル系の討伐を俺に依頼されたりする。
「その事で、羽橋君に僕からも助力が出来るんじゃないかと思ってね」
「何か名案でも?」
「新種の植物と言うのはお金になるというのを知っているかい?」
「品種改良とかその辺りの拡張能力でも手に入れた?」
俺の問いに学級委員は否定する様に手を振る。
「違うよ。羽橋君、確かにその可能性は大いにあるが、それはこの世界の人達にも発現する能力だそうだ」
栽培はカテゴリーが結構広いらしいが、違うのだろうか?
この世界の人達の能力にも専門的ではあるが、あるそうだ。
「その程度では画期的な物とは言い難い。もっと根本的に金の成る木が転がっているのがわからないのかい?」
「いや、そんな遠まわし的な言い回しをされても困るんだけど」
「ガウー?」
頭は良いんだろうけど、ゲームには無頓着だったし……何が言いたいのだろうか?
まあ俺達には無い着眼点があるとも言えるが。
「最近、君達は香辛料を貴族に売りつけて儲けているそうじゃないか。その香辛料も元をただせば大体植物じゃないかい?」
「そうだな……学級委員にも一枚噛んでもらってるし」
ミントやクレソンとかの手に入りやすい香辛料……というよりハーブなどの品を学級委員に栽培してもらっている。
これが中々品質が良い。さすがは栽培能力だ。
「日本の香辛料でさえ飛ぶように売れるのならば、植物も同様の効果を期待出来ると僕は言いたいのだよ」
「この前とは状況が変わったしな」
ちょっと前に話した時、植物に関してはそこまで売れないんじゃないかって意見が出ていた。
この世界特有の植物、魔物を含めてそんな珍しくも無い物を持って来たって何にもならない……という話だった訳だけど、香辛料が凄く売れているからやり方しだいだろうな。
「うむ。それでね、中世に似た文化を持つこの世界ならではの、高く売れそうな話を僕は思いついたんだ」
「それは何だ?」
頭が良いのかもしれないけど、問題形式で遠まわしな言い回しは止めてもらいたい。
もっと簡潔に教えてほしいな。
「羽橋君、君はプラントハンターという職業を知っているかい?」
「ゲームとかだと、植物系に特攻になる奴だな。学級委員が覚えそうな拡張能力かな? もしくは茂信辺りに頼めばそんな付与効果がありそうな武器が作れそうだけど」
あ、学級委員がこけた。
見当違いの事を言ったっぽい。
まあそういう方向じゃない事はわかっていた。
なんかで聞いた覚えはある。
「違う違う。日本……ではないか。僕達が元々いた方の世界で存在した職業の事だよ」
「そんな職業があったんだ?」
俺の問いに学級委員は頷く。
「あったとも。主に17世紀から20世紀頃に掛けて活躍した職業だけどね。世界各地の木々や草花を採取したそうだ」
「だからプラントハンターなのか」
「うむ。元々はスギやヒノキだってこのプラントハンターが中国の方から採取したと言われているよ」
「へー……」
「一番有名なのはチューリップバブルと呼ばれる、チューリップの高騰だろうね。まあ……あまり経済的な意味では良い事ではないだろうし、やり過ぎは危険だろうけど、大きく儲ける事が出来ると僕は考えている」
「チューリップってこの世界にもあるじゃないか」
魔物にも存在する花だ。
あの森で戦った魔物にいる。
だから別段、珍しいものではない。
だが、学級委員は引く様子が無い。
「羽橋君、結論を急ぎ過ぎだよ。どうやら何処の世も貴族と言うのは似た傾向の趣味を持つ様でね。僕の畑に直接取引を望んで来る者が後を絶たない」
「貴族の趣味?」
世界史の授業で聞いた様な覚えがあるけど、結構曖昧だ。
時代によって変わるんだけど確か……ガーデン、フィッシング、シューティングだったっけ?
学校の授業じゃないよな? 何かで覚えていたのかな?
ともかく、どれも維持するのに膨大な金が掛かったと聞いた気がする。
それこそ当時は金や土地が有り余っている貴族でも無いと出来ない趣味だったそうだ。
日本だと、江戸時代に金食い虫と呼ばれた趣味が骨董、園芸、釣りだったとか。
何処も似た様な趣味だなぁ。
フィッシングと釣り、ガーデンと園芸なんて被ってるぞ。
って……園芸?
「そう、この世界の貴族も有り余る金銭を趣味に費やす人が多くてね。食事に然り、園芸にも手を染めている者もいるって訳さ」
学級委員の話ではこの世界の貴族の趣味は、ガーデン、マジック、ハンティングだそうだ。
ハンティングは言うまでも無く魔物退治だ。
しかもポイントも稼げるから比率はハンティングに傾いている。
趣味という言うよりは生活に近いかもしれない。
まあ土地の管理や政治を司るのが仕事の貴族的には趣味と実益と言えるのか?
更にハンティングにはフィッシングも該当しているらしい。
魚類系の魔物特化の装備品や道具で金が掛かるらしい。
マジックは名前の通り、魔法の事だ。
実用的な物もあれば実用度外視の物もあるとの事。
独自の魔法技術を研究しているとかなんとか。
高額の媒介や魔導書、魔法的な道具など……アンティークの収集に近い。
つまり骨董品の収集だと学級委員は考えているらしい。
このマジックも本気でのめり込むと相当な金銭が掛かるそうだ。
「つまり日本の植物を持ちこめば金に糸目をつけないと?」
「そういう事だね。園芸店で手に入る物でも問題は無いだろう。先ほどのチューリップの例はあるけれど、日本の……チューリップであろうと、植物を趣味にしている者は飛び付きたくなるだろう。彼等からしたら似て異なる新種の植物だからね」
なるほど。
チューリップにしても色とか種類があるから熱中している人ほど珍しい物に見える訳だ。
そもそも日本の植物なんて絶対に異世界の生態系とは違うだろう。
少なくともチューリップが襲ってくる、なんて事は絶対にない。
「ちなみにどの程度の目算が?」
「チューリップ一つにしてもこの世界のチューリップとは似て非なる物だ。僕の目算では間違いなく高く売れると思う」
で、学級委員は貴族の庭園に仕事で行った事があるそうだ。
その時に色々とチェックした結果、売れると判断したんだとか。
「花一つでそんなにも?」
「そうだよ。これから強くなる為に僕達には沢山のポイントが必要になるのだろう? ならば羽橋君、どうか頼めないかね?」
「わかった。なんか珍しい物だし、ちょっと夢があるしな」
俺が出来る事は日本から物を買って来る事が基本だ。
Lv上げに行っても、俺一人が稼げる金銭やポイントなんて、転移で行なっている交易に比べたら高が知れている。
ならばやらない手は無い。