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香辛料

 で、胡椒やカレー粉、スパイス等を商人は驚く様な、まるで宝石を見るかのような目で答える。

 なんか明らかに砂糖や塩と反応が違うんだが……。


「ええ」

「香辛料までご用意しているとは……これは素晴らしい!」


 満面の笑みを浮かべられる。

 この笑みはどういう笑みなんだ。

 金の成る木を見つけた様な顔、というのはこういう顔なんじゃないだろうか。


「しかも見た事も無い香辛料が多い! これは世紀の大発見になりますよ! ただ、十分に注意すべきでしょうね」


 そりゃあ異世界には無い品種かもしれないし。

 日本で調達した物だしなぁ。


「とてもスパイシーで鼻をくすぐるこの風味! どれだけの金銭になるか、私の一存で決められるものではありません」

「香辛料って調達がやっぱり難しいのか?」

「胡椒とかで船が手に入るゲームを思い出すな」


 萩沢の言葉に俺もゲームを思い出す。

 有名なゲームだよな。俺もやった。

 勇者一人旅が楽しいと思う。


「ええ、貴族のお客様や冒険者の皆さまは喜んで食事に使うでしょうし、肉の臭みを消すのに使用しますからね。ライクス国も農業に力を入れている所はありますが、何分結界の範囲での栽培も――」


 と、商人は熱弁を始めた。

 思い切り金の成る木を見つけたって感じなんだろう。

 商人の話を要約すると、魔物の被害に遭う事もあるが、野菜類、果物の調達は出来ている。

 魔物の中には植物系の魔物もいるので、食糧事情は悪くない。

 更に言えば生産系の能力である程度の供給は出来ているらしい。

 それでも安全を考えると結界の内部に田畑を作る関係から、肉や魚より生産量は高くないみたいだ。


 ただ、香辛料となると場所によって育たない事も多いので人気が高いそうだ。

 能力で育てる事も出来るけど限界があるとか。


 ……栽培は学級委員の能力だったな。

 後で日本産の野菜の栽培とかしてもらってみようかな?

 というか既に料理屋に卸してるんじゃなかったっけ?

 俺が買って来た野菜の種を利用して。


 で、日本で手に入れた香辛料は似た物はあっても違う風味なので、絶対に人気が出るそうだ。

 ただ、貴族や金持ちの商人がどれだけの金銭を積んでくれるか未知数なので、俺達が相手している商人の一存で決める事は出来ないとの話だ。

 出来ない訳じゃないが、俺達を結果的に騙しかけないから手を出せない。


「じゃあ誰か一緒になって交渉の場に行けば良さそうだな。まずは試しとして貴族に振舞ってもらってから値段を決めよう」

「ええ、是非とも一枚噛ませていただきたく思いますよ。これもあくまで貴族に対して売るのであれば国にもあまり打撃は無いと思います。娯楽の支給の様な物ですからね」


 なんて感じに商人の目が光っている。

 こういう社交的な人、苦手なんだよなぁ……。

 いつも面倒な人間関係は茂信に任せていたからな。

 まあ苦手だからと言って逃げるつもりは無いけどさ。


「あー……確か、俺達の世界でも昔、香辛料は宝石や黄金と同じ価値があったとか、聞いた覚えがあるな」


 萩沢がポツリと呟き、料理のクラスメイトが頷く。


「日本じゃ簡単に手に入って安いけど、異世界だと宝石と同価値って事か。中々面白い」


 茂信が楽しげに答える。

 そうだな。

 こっちでは珍しい物を簡単に入手して売りさばけるならポイントが足りない問題もすぐに解決する。

 みんなの装備を揃えられそうだ。


 交渉の結果、売り上げの二割をこの商人が受け取る形で、貴族に売り込む事になった。

 好意的に考えれば、良い協力者と契約出来た……のか?

 足元を見られるよりは、マシだろう。


 で、香辛料を売る交渉は萩沢が同伴して観察する事になった。

 道具販売とか商人の目線を学びたいらしい。

 結果的に言えば、砂糖と塩で購入金額の10倍が約束され、香辛料は未知数となった。

 ああ、醤油と味噌は似た味がする木の実と野菜がある所為で、そこまで値が付かなかった。

 絞るだけで醤油っぽい味がするトマトみたいな実の汁を舐めた時は驚いたなぁ。

 そういやトマトの味ってしょうゆに近いとか何かの記事で読んだ覚えが……気の所為かな?


 とにかく、俺が購入して来る物を売るだけでかなりの金銭が稼げるのが確定しているっぽい。

 異世界で手に入れた金銭をポイントに変換し、円にして日本で品物を購入、異世界に戻って商人を介して貴族に売る。

 それだけで金が稼げる縮図が構築された。

 後は毎日、日本で物を適度に買い占めて売るだけで俺達に金が入る。

 まあ、物珍しさで売れている側面は否定できない。


「羽橋の仕事が決まったな。日本の物を買ってきて、交易だ」

「確かにそれが一番手っ取り早い仕事になりそうだ」

「ああ、幸成にしかできない仕事だと思う。がんばってくれ」

「ガウ?」


 クマ子はよくわかっていない感じだ。

 まあ……クマにこれを説明するのは難しいよなぁ。



 なんて感じに俺は日本で調味料を購入しては異世界の商人の所に届けるという交易をする事になった。

 ちなみに……約一週間で金銭とポイント合わせて総額200万も稼ぐ事が出来た。

 元手を考えると儲けしかない。


 しかも未知の香辛料って事で需要が集まってきたって話でまだまだ値段が上がる見込みがあるらしい。

 貴族内でブームになりつつあるそうだ。

 国を通さずに茂信の工房に押し掛ける貴族まで出てくる始末だ。

 丁重にお断りしてるけど。

 人気が凄くなって来てる様な……とは思うけど、良い傾向だよな。


 もちろん、金の相場とかに大きな変動が掛り過ぎると国家として困るだろうという事で、値切りも寛容に受け入れている。

 なんでも金銭だけではなく、ポイントでも取引可能、というのが助かるそうだ。

 以前にも聞いたが、お金としての価値は硬貨の方が高いみたいだ。

 俺がいれば金だろうとポイントだろうと変わらないから、俺達はどっちでも良いのが幸いしたな。


 手に入ったポイントで何をするのかという話になり、俺はめぐるさんの剣をフルメタルタートルの剣にするかと考えた。

 が、俺の役割は金銭を稼いでみんなを生き残れる様にする方向の方が、まだ良さそうだ。

 稼いだと言っても200万だからな。


「どうする?」


 茂信が俺に聞いてくる。

 みんなで稼いだ金銭なのに、決定権が俺にあるのか?

 ……まあ、大本は俺が調達した物だという事なのだろう。

 フルメタルタートルの剣を手に入れて、俺が劇的に強くなれるか?

 いやいや、さすがにありえない。


「依藤辺りに作ってやってくれ。俺が使うよりも効率が良いと思う」


 フルメタルタートル系の装備は防具を優先して作っていた。

 だからまだ依藤は剣の方はメタルタートルの剣で繋いでいる。


 俺が交易をしている間に依藤が狩りに行けば、もっと良い装備が作れる様になるだろう。

 確かに俺は少しでも早くみんなを帰す為にLvを上げて、帰還用の拡張能力を得たい。

 だけど今は装備品を揃えた方が結果的に効率が良くなる様な気がする。


 ……これでもゲーム経験は豊富なんだ。

 クラスメイトを集めてギルドやクランを作ったと思えば良い。

 ギルドマスターは茂信か依藤かな?

 ……なんてな。


 ともかく、その中で戦闘能力が低い俺が良い武器を手に入れても大して貢献出来ない。

 もちろんLvを上げてみんなを帰したいけれど、欲しい能力が何Lvで出るのかわからない。

 少ない元手で出せる最高出力を視野に入れたら、今は依藤に剣を作るのが一番だろう。

 依藤達も魔物退治でかなり稼げる土壌が見えてきたとか言っていたし。


「ただし、依藤に無茶をさせないでくれよ」

「幸成に言われるまでもなく無茶なんてさせないさ」


 茂信が頷き、依藤から預かっていた剣を工房で鍛えて行く。

 かなり本格的に鍛冶を覚えた茂信……かまどの熱量は森に居た時とは異なる高温度なのは一目で分かるほど、煌々と燃え盛っている。

 燃料は石炭とかその辺りと、ポイントらしい。

 ふいごを踏んでかまどの温度を上げ、熱したメタルタートルの剣とフルメタルタートルの素材をかまどに入れて溶かして行く。

 茂信の話じゃ、この段階まで来るとポイントだけで出来る物では無いそうだ。


「いくぞ! せーの!」


 熱して赤くなったフルメタルタートルの甲羅とメタルタートルの剣……それを叩いて混ぜ合わせて行くっぽい。

 フルメタルタートルの甲羅を切りだして作られた重そうなハンマーを茂信と鍛冶仲間が集まって振りかぶって行く。


「幸成、時間が掛るからお前は自分の仕事をして来れば良い。いや、気の向くまま行動したら良いと思うぞ」

「……わかった」


 俺はクマ子を撫でながらラムレスさんにLv上げに行く事を伝えて狩りへと出かける事にした。

 転移のお陰で交易品の調達に関して言えば時間はそこまで掛らないからな。

 時間を見つけたら、少しでもLvを上げておこう。

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