調味料
割と長い間日本にいなかったはずだけど、相変わらず日本では俺がいた事になった扱いを受けた。
そういやテストがあった気がする。
どうなっているか後で確認したんだが、平均点を取っていた。
テスト勉強なんてしてないのにさ。
むしろ低速飛行して留年しそうだ。
テスト日は絶対に異世界にいた方が良い。
なんて思いつつ、近所のスーパーへ走る。
ポイントを金銭に……うん。
変換候補にライクス硬貨がある。
どうやら俺の知る金銭に変化するみたいだ。
手持ちのポイントを円に変換して、調味料のコーナーにある調味料……砂糖や塩、胡椒、他うま味調味料とか、スパイス類、ハーブ類、カレー粉等も籠に入れていく。
ついでにケチャップやソース、思い付く限りこちらでしか手に入らなそうな物を全て入れる。
そうしてレジに持って行った。
もっと大量に購入する時が来るかもしれないが、今はこれくらいで良いだろう。
財布から万札を出すと、毎回の事ながら悪い事をしてるんじゃないかと思えて来て怖い。
まあ、包丁やバールなどを買ってくるよりはマシか。
なんて思いつつ、スーパーを出る。
ああ、クマ子への土産に蜂蜜を買ったぞ。
ついでに玩具もな。
ボクシングの本とか……クマ子が本を読むかわからないから、その内で良いか。
「よし……」
そのまま異世界へと戻るか。
買い物を終えると同時に人気の無い場所を探す。
視覚転移で茂信達の様子を見ると、クマ子が芸をしている。
最近だとボール芸を覚えてきた所だ。
俺が買ってきた大きなバランスボールにツメを立てない様にして乗っかって玉乗りをしているな。
萩沢が一輪車を今度買ってこいと言っていたが……うん。毎度助かる事をしてくれている。
クマ子のお陰でみんなを引き付けておく事が出来るんだ。
そんなこんなで狙いを定めて俺は異世界に戻った。
「お? 帰って来たな」
「ガウー」
「ああ、助かったよ。みんなを留めていてくれてな」
クマ子に土産の蜂蜜を渡して俺は机に買って来た調味料と香辛料を置く。
「スーパーで売っている物でも結構あるのな」
「ああ、とりあえず料理屋で出す分は省くとして、多めに買ってきたぞ」
料理能力を持ったクラスメイトに頼まれた分を渡して、俺達は持ってきた調味料を吟味する。
確かに、並んでいた奴を適当に買って来たけど、結構種類があるな。
こんな調味料誰が買うんだ? って感じのも混ざっている。
「は・か・た・の」
萩沢が塩の袋を持って遊び始めた所で茂信がチョップする。
「ネタに走るのも大概にな?」
「わかってるって、いやー幸成には色々と買ってきてもらって助かってはいるんだぜ?」
「はいはい、わかってるよ」
道具作成に必要な機材、ビーカーとかアルコールランプとか、萩沢は俺に注文したからなぁ。
必要な物があれば、いくらでも買って来るさ。
「とりあえず足掛かりとなるかわからないけど、明日この調味料をどれくらいで買い取ってくれるか聞いてみよう」
「おう」
で、翌日の事。
俺達は城の方へ荷物を持っていき、城に食材や香辛料、調味料を搬入している商人と会う事となった。
城が公認しているだけに良い所の出だそうで、良識と信頼の厚い人物だそうだ。
異世界人を優遇するって方針で色々と助かるよなぁ。
俺達を騙そうとする連中も居そうだし、十分に注意しないと行けないけどさ。
国からしても市場を荒らされると困るとの事で、審査の意味もある。
未知の香辛料とかで一財産稼ぎ過ぎると……色々と厄介事に巻きこまれかねないと注意された。
で、俺達が持ち寄った調味料と香辛料を査定してもらう。
まずは砂糖だ。
スーパーとかで売ってる白いあの砂糖の袋だな。
白砂糖って言うんだっけ?
ガッチガチだけと封を切るとさらさらと流れる。
紹介された商人は袋から取り出した砂糖を見た後、鑑定の能力を使った様だった。
やはりその辺りの能力はあるんだなぁ。
ちなみに萩沢の鑑定だと、砂糖でしかなく、ポイント価値も購入した時と同じ金額だ。
魔力的付与が無いので、この世界じゃ価値が低い物になる可能性だってある。
「驚くほどの白さですね。これは何でしょうか?」
「はい、砂糖ですね。この世界の調味料だと樹液とか、蜜に当たる物なのはわかるかと思います」
料理の能力を持ったクラスメイトが説明する。
指先に砂糖を付けて舐める。
商人も許可を得てから、それに続いた。
「おお……蜜とも樹液とも、果実とも異なる甘さ……ここまで高純度の砂糖となると珍しい品ですね」
商人の目がキラキラと……未知に挑戦するかのような顔になる。
「ろ過等の能力を使って凝縮した砂糖と同じ物ですね。ですが、それよりもさらに密度が高い……」
そんなにも?
ろ過なんて能力があるんだなぁ。
作成系の能力だろうか?
水をろ過して飲める水にする能力みたいなイメージがある。
そういや甘みだけを抽出するのってかなり難しいとか聞いた様な気がする。
その点で言えば、安く良い物を日本で確保する事が出来るんだな。
「ここまで品質が良いのでしたら……これくらいでどうでしょうか?」
白砂糖1kgでライクス銀貨6枚……。
約10倍くらいだ。
俺達が返答に迷っていると、商人は釣り上げなのかと錯覚したらしく一枚、二枚と増やして行く。
「これが限界です。さすがにこれ以上となると儲けが……」
で最終的にライクス銀貨10枚になった。
どんだけだよ。
「お聞きします。この砂糖を貴方が買った時にどう扱いますか?」
茂信が尋ねる。
「え? まずは安全だと確証が得られた場合、珍品として売ります」
「ライクス銀貨10枚でも買うと言う事は、もっと高値で売れる宛てがあると言う事ですよね?」
「そりゃあ、ここまで高品質なのですから買わない商人はいないと思いますよ」
なるほど……珍しさもあるし、品質の高さも評価対象となる訳か。
確かにこの世界で甘味というと蜂蜜とか樹液とか、それに準じた味付けな気がする。
他、ジャムとか、果物由来の甘味ばかりだ。
日本の砂糖は比較的に珍しい甘みだと思う。
いくら抽出の能力と言っても、黒砂糖位が限界なんだとか。
だから、正確な値段は未知数だから、多少安めに購入したいのかもしれない。
「……商人はこうして儲けている訳ですし、こちらも似た様な事をしてる訳だから文句は無い。商談成立です」
「では次……」
次は塩の方に意識を向ける。
塩もスーパーで普通に売っている、袋に入っている塩だ。
「これも品質が高い……しかも塩ですよね?」
「ええ」
「塩商人がおりますし、馬車で運ぶか、冒険者の中には帰還の水晶玉を所持する物が持てる限りの塩を持って、小銭稼ぎする者もいます」
あー……距離的な問題とかは道具でどうにか出来る事も多いんだよな。
となると普通の塩だと、そこまで稼げないか。
「かと言って、ここまで純度の高い物はやはり珍しいですね。粗さも無いので、好む方がいるかと思います」
お? こっちも高評価?
あ、でもミネラルとか少なめかもしれないから、砂糖よりは安めか。
それでも購入費の十倍だ。
良い商売になるかもしれない。
「こちらは?」
旨味配合のうまみしおだ。
これと同じく、一応いくつか種類を揃えてある。
砂糖の方も氷砂糖とか準備してあるしな。
「うまみ成分配合の塩、うまみしおですね。お試しください」
「ふむ……」
と、商人はうまみしおを舐める。
すると若干驚きの表情を浮かべる。
「ただの塩とも違う……まろやかなうまみ、確かにうまみしおと言うのは間違いない。塩とも少し異なるのが面白さを出していますね」
「この世界の塩ってどんな感じなんだ?」
料理の能力を持つクラスメイトに尋ねる。
「塩は海水で作れるけど純度の関係で違う感じ……かな。岩塩とかもあるらしいけど、やっぱり人気があるのは海水の方だ」
「どちらにしても大量に卸して下さるならその分、買い取らさせていただけないかと頼む程のモノですよ。この程度なら市場に被害は出ないでしょう」
買った分の十倍で売っても商人には利益が出るのか……利用されている様な気がするけど、こっちで売りさばくには少々面倒な手順が掛る。
それ等の面倒な事を全て任せる手数料的な感じで売るのは悪く無い。
うん。大量に買ってきて異世界で売るっていう交易で稼げそうだ。
「次は……これは香辛料ではありませんか?」