討伐依頼
「で、次は萩沢だな」
すると萩沢はウンザリした顔をしている。
何かあったのか?
「連日学校みたいな研究機関を回った。ポイントに関する話も坂枝と似た様なもんだ。とりあえず色々と勉強して機材集めて、錬金術みたいな事をやっていくって所だ」
「能力でどうにか出来るけど、専門知識があれば尚良い……か」
萩沢は頷く。
「能力依存で楽してーけど、どっかで行き詰る匂いは確かだ。下位能力だと薬品作成とか爆弾作成とかがあるらしいけど、俺はそれを全てカバーしてるってさ。後は自作で本当に上手く作れるとポイントが安くなるって話を聞いた」
「前にキノコで爆弾作った時は大したものじゃなかったのに?」
「ああ、なんか他にも色々と物を使ってほぼ同じ物を自作出来ると下がるんだそうだ」
いろんなシステムがこの世界の法則に存在するって事なんだろう。
何かもかもが能力頼りではないって事か。
「で、色々と見させられて、珍しい素材を見て……出たレシピを見ると確かにポイントが天井知らずになっているんだよなぁ……」
「俺もだ」
茂信もウンザリした口調で答える。
この辺りは生産系能力者共通の悩みなんだろう。
それにしてもポイントが天井知らず、か。
「どれ位消費するんだ?」
「一本作るのに百万ポイントも使う武器を見て、それ以上の物を見るのを止めた。鍛冶場にあった一番良い剣を強化しようとして、似た様な結果になったよ」
「うわ……」
それはインフレが凄いな。
どんな武器なんだろうか?
「結構強くなった自覚はあったのに、俺達は初心者をやっと抜けだした程度だったみたいだぞ。そんな感じだな」
「何かあった時に備えるって話だけど、現状じゃこの国の連中に手も足も出ないだろうな」
それほどに差があるのか……。
「結構優秀な装備って話だったのに?」
「そのLv帯じゃ優秀と付いた。使用ポイントも考えると馬鹿にならない。今は少しでもポイント消費を下げる事を考えないといけないって感じだな」
なんとも悲しくなる事で。
「Lv上げたらポイント消費軽減とか発現しそうだけどな」
「あるにはあるが、それだけに頼った鍛冶はいけないってのが一目でわかったよ」
「ふーん……」
何か、能力持ちじゃないとわからない事があるのかもしれない。
まあ、俺の場合は空間把握が鋭敏になった様な気がするから、それに近いのかも。
「そんなこんなで自分で素材を集めて、ポイントを集め、武具作りをして行くって感じだな」
「俺もポイントを寄付するからな」
「助かる。とはいえ、幸成はクラスメイトや他の連中から色々と頼まれる物もあるだろ」
「そうだなぁ。日本の食い物とか良く頼まれる様になったしな」
「これからはもっと増えるかも知れねえぞ?」
まあ……みんな思い思いの生活を始めている訳で、俺に頼めば日本の物を取り寄せられるんだ。
きっと欲しがる奴は増えて行く。
それくらいは想像出来る。
「とはいえ、ここ三日は缶詰だったし、Lv上げに出かけた方が良いと思ってる」
「じゃあ、明日はみんなで行く?」
「悪くないんじゃないか?」
「ガウー」
「クマ子も元気そうだな」
「ガウガウ」
クマ子がシャドーボクシングを始めている。
萩沢がそんなクマ子を微笑ましいとばかりに声を掛けたのだった。
なんて感じにその日は過ぎて行った。
翌日の事。
茂信達とLv上げに行こうとしていると、ラムレスさんが何か急務って事で俺に声を掛けてきた。
「ハネバシ様!」
「そんなに慌てて、何かありました?」
妙に焦った表情に俺は首を傾げる。
何か問題でも起こったのだろうか?
例えばクラスメイトに何かあったとか。
やばい。とたんに不安になってきた。
「どうか御力を貸してくださいませんか?」
「はい?」
俺達はその足で、ラムレスさんの案内の下、国が斡旋したギルドに通された。
「よくおいでなさいました、異世界人の……サカエダ様御一行様方」
工房を借りているのは茂信な訳で、萩沢と俺は同居人という扱いだ。
一緒に出かけようとしていたので代表は茂信になる。
「あの、何かあったんですか?」
茂信が心配そうに尋ねると、ギルドの代表は優しげに微笑んで応じる。
「ご安心を、同じ異世界人の皆さまに何かあった訳ではありません」
「そ、そう……じゃあ何が?」
「その事なのですが、どうか助力が出来ないかと協力を要請したいのです」
「だから何の話をだよ」
萩沢が苛立ちながら答える。
確かに、なんていうか内容があやふやでよくわからない話ばかりだ。
何を協力すれば良いんだって話だ
「そ、そうでしたね。まずどのように説明したら良いかと思うのですが……」
という所で俺に視線が集まる。
いや、正確には俺の腰辺りか?
徐に腰に差しているメタルタートルの剣を持って指差す。
「はい。異世界人の……皆様はメタルタートルという魔物をどう思っていらっしゃるでしょうか?」
「物凄く硬い魔物」
「魔法が効かない」
「ポイントが多い」
「素材が高値」
思った事をそのまま伝える俺達。
メタルタートルのイメージはこんな感じだ。
「概ね間違いありません。そうです、それは我等とて同じ……倒す事がまず叶わない魔物という認識で間違いありません」
「はぁ……」
倒せない魔物?
いやいや、俺の転移でアッサリ死ぬぞ?
メタルタートルの剣を持った依藤でも結構簡単に倒していた気がする。
「確かにメタルタートルクラスの魔物ならば騎士や魔法使いが長時間魔法を掛ける等で仕留める事は可能です。ですが、労力に見合わない挙句、敵意が無いので無視されるのが相場なのです」
「へー……」
「甲羅を盾代わりに出来ればかなり優秀そうだから狙われると思ってた」
「確かに、その点は否定致しません」
否定しないのかよ。
そういやメタルタートルを相手にメタルタートルの剣で戦ったらどうなるかを試した事があったっけ。
結果、正面で切っても無理。
硬すぎるだろ、あの魔物。
依藤は中に刺し込む感じで倒してたな。
「ですが一介の冒険者には身に余る魔物なのも道理……」
「それで……何が言いたいんですか?」
「我が国の僻地にて、その系譜の魔物が大々的に出現し、村を占拠してしまったのです」
メタルタートルが出現して村に乗り込んで来た……と。
まあ、結界の能力とか無視して突入してきそうなのは確かだな。
おそらく、結界は無効化されるだろうし。
「無害なんですよね? 無視して……重くても強引に除去すれば良いのでは?」
「上位となると隙あらば攻撃をしてくるのです。なのでどうにか出来そうな人材がいないかと話が挙がり、メタルタートルを軽々と撃破したと話があったハネバシ様の助力が得られないか、という話になりまして」
「なるほど。確かにメタルタートルは幸成の得意な魔物だな」
「まあ、確かに」
「ガウー?」
「して、どのようにメタルタートルを撃破したのでしょうか?」
ギルドの代表が俺に尋ねてくる。
「どのようにって……転移を使ってメタルタートルの内部に物を送り込んだだけですけど」
何か壊しても良い物が無いかと尋ね、指定された鉄の鎧と剣を手渡される。
だからメタルタートルを仕留める時と同じく、剣を鎧の中に、危ない角度で飛ばした。
バキっと鎧に剣が突き刺さる形で転移した。
「おお……」
「詠唱が五分も掛るから実戦向きじゃないけどさ」
「それでも此度の問題には大いに役立つと思われます。どうか……試してくださらないでしょうか?」
そこでラムレスさんが俺達に助言する。
「成功報酬は十分に用意するとの事です。具体的にはライクス金貨10枚、撃破後の魔物の死骸の所有権の半分、更に魔物の被害に遭った村の復興後、永久滞在費無料の約束、近隣の鉱石の提供となります。ちなみに温泉地なので良い風呂がありますよ」
凄い破格な内容だ。
それだけその場所にいるメタルタートル系に困っているという事か?