講習
異世界人の中で強くなりたい、戦闘をしたい者を集めての講習に俺は参加した。
一応、クラスの戦闘向けだった連中も一緒に受けている。
まずはこの講習を受けてから出撃との話だ。
で、これが終わるとLv別の狩り場というか、遠征が始まる。
経験値重視か物資調達重視、ポイント重視、トレジャーハントと目的は多岐に渡る。
仲の良いクラスメイトとも一緒に行動出来るらしい。
「あ、羽橋……」
そこに剣術の能力を持ったクラスメイト……依藤隼人が俺に声を掛けてくる。
一応、茂信が作ったメタルタートルの剣もあって、戦闘能力がクラス内ではトップになった奴だ。
小野事件の時に生き残った戦闘組でもある。
尚、黒本さんの彼氏だ。
「お前も戦闘に出るのか?」
「ああ」
「そうか……」
沈黙が俺と依藤の間に支配する。
なんだ? 何を言いたいのだろうか?
「なあ、その……あのな……羽橋、俺達と――」
「それでは……ハネバシ様、貴方はどのような能力でしたでしょうか?」
順番になって俺が講習の教官に尋ねられる。
依藤が丁度何かを言おうとしたタイミングを遮られた形だ。
「……お話中でしたか?」
講習の教官が気まずそうに言った。
俺は依藤になんだ? っと顔を向けると何でも無いと答えられてしまった。
「俺の能力は転移です」
「転移……」
で、教官が分厚い資料を何度も捲って探している。
聞いた話によると異世界人の能力は国がかなり蓄積して資料にしているらしい。
だから該当能力の応用方法等の助言、Lvによる適した環境の提供など色々としてくれるそうだ。
「送還ではなく、転移なんですよね?」
「はい」
言葉のニュアンスの違いも異世界人にはあるらしいが、俺はしっかりと転移と告げる。
「該当はしないようですね。新しい能力の様です。出来る事は何でしょうか?」
「えっと、自分以外の生き物を飛ばせず、物を任意の場所、大雑把に想像で指定しても飛ばせます。飛ばした先に物があると押し潰してしまう攻撃性もありますが、詠唱に時間が掛ります」
「なるほど、わかりました」
と、何やら書類に教官が記載する。
俺の情報も今後の為に書いていくんだろう。
「とりあえず物資運搬系能力カテゴリーに指定します。何か目新しい事に気付いたら教えてくださると助言しやすくなるのでよろしくお願いします」
「はい」
珍しい能力か? と思ったが、似た様に過去に無い能力者もクラスメイトにはいたそうだ。
死者に該当する谷泉の炎とかもそうらしい。
過去の能力者は火だったそうだ。
捻って黒炎なんてのもあるそうだけど。
若干違うだけでも今までに無い能力に該当するのだとか。
能力名が少し違うだけで出来る事に差があるそうなので、詳しく調べているらしい。
で、俺のLvに見合った狩り場と同じ場所に行くクラスメイトを提案される。
他に騎士が保護者として同行する事になり、そのまま魔物退治へ行く事になった。
「ガウ」
クマ子も一緒だ。
クマ子を撫でまわしていると教官がクマ子を指差す。
「ガウ?」
「えー……今回、この場にいる皆さんに説明しないといけない事がありましたね。魔物のテイミングによるパーティー増加等です」
「あ、はい」
講習を受けているクラスメイト全員が頷いた。
何人かはクマ子を見ている。
まあ俺達の中で魔物のテイミングと言えばクマ子だよな。
「まず魔物がどんな存在であるか、その点に関しては実はよくわかっていないのが現状です。過去の異世界人様達の残した記録によりますと、野生動物が凶暴化した様な生き物だそうです」
まあ、そういう認識で良いよなぁ。
逆に普通の動物とどう違うのか説明する方が難しい。
「繁殖力が強く、滅多な事では絶滅せず、倒すと経験値とポイントを入手出来ます」
乱獲しても絶滅しないとか凄いな。
クマ子も繁殖力が強いのか……発情期とかになると他のクマの所に連れて行ってあげた方が良いのかな?
無理やりテイミングしたみたいなものだし。
そういや、クラスメイトが集まって講習を受けさせられたっけ。
ポイントに関する運用方法。
何でもポイントって言うのは街を守る結界を構成する装置の燃料になる物で、冒険者とか騎士とかは一定の寄付、税が課せられるそうだ。
その時に代価として通貨をもらえる。
ここで俺はポイントを通貨に変換出来る拡張能力があると報告した。
偽造通貨とか問題がありそうならば使用しないと報告したんだが、授かった能力ならば問題が無いと答えられた。
なんで問題が無いかと言うと、能力の中には通貨を使用する物がそれなりにあるそうで、むしろ枯渇しない様に定期的に補充しないといけないそうだ。
貴族とかに授かる事が多い能力で、戦闘や物の作成で稼いだは良いけど、通貨自体が少なくなってしまう問題があるらしい。
そう言った物を補充する事の出来る両替と言う能力もあるから問題ないんだとか。
一応、ポイント=通貨という扱いではあるそうだ。
ただ、ポイントの方が金としての意味合いは低い。
魔物さえ倒せば無尽蔵に得られる物だからだろうか?
茂信などの生産系の人に武器を作らせる場合、ポイントだけでなく金銭も一緒に提出するらしい。
ま、萩沢が売買で物をポイントに出来るけど、魔物を倒して得られるポイントって案外少ないから流通に困る事は……どういう原理かはわからないが、無いそうだ。
むしろ俺達が森を出るまでの工程で倒した魔物の話を国の連中は聞いていて、メタルタートルの下り辺りで呻いていた。
勿体ないそうだ。
メタルタートルって倒すのがとても大変な魔物で、仮にメタルタートルの甲羅を綺麗に手に入れる事が出来た場合、相場は五万相当は下らないとか。
萩沢は五千前後で変換してたっけ。
確かに勿体ない。
と、話が脱線したな。
「ここで魔物と特殊な魔物……と、テイミングに関して説明します」
「はぁ……」
何か違うのだろうか?
「まず普通の魔物です。こちらは皆さんも戦った事があるでしょうし、この先も戦う事になるでしょう。事前に魔物がどんな生態を持っているか、資料を配布致しますので入念にチェックをお願い致します」
事前知識があれば怖くない。
今まで通りに戦って行けば良いって事を説明された。
「こちらの魔物もテイミングし、仲間として戦力に入れる事が出来ます。職業に魔物使い等もあるので興味がある方は、後ほど詳しい方法をお聞きください」
「やっぱあるんだな」
で、テイミングの具体的なやり方を説明される。
魔物によって色々とやり方が違うけれど、基本は餌付けだそうだ。
萩沢達の道具作成系で作れる物に該当する道具があるらしい。
他に虫網とか捕獲してから調教して仲間にする、とか魔法で操るとか色々とある。
植物系の魔物は栽培系……学級委員みたいな能力者が種を植えて育てるとテイミングが出来るらしい。
色々種類があるんだな。
「ここからが特殊な魔物……ユニークウェポンモンスター類の説明に入ります」
ユニークウェポンモンスター?
俺が首を傾げていると、教官がクマ子を指差す。
「皆様の仲間になっている魔物が該当するのはなんとなく察しているかと思います」
「ああ……はい」
みんな揃って頷く。
「このユニークウェポンモンスターは、冒険者の中でも特に人気の高い魔物で、狙われる傾向が高い魔物です。その理由はわかりますか?」
……たぶん、倒した時に得られる武器とかに入っている拡張能力の所為だろうな……。
そう思っていると手を上げた生徒がそのまま答える。
「そうです。能力を授かっていないこの世界の住人、望まない能力を授かった冒険者が戦いやすい環境を維持する為に狙うのです。ボスを倒すことで武器が入手できます」
「ガウ?」
「なるほど、取り巻きはテイミングですか?」
「いいえ、このタイプの魔物は餌付け等の方法ではテイミング不可能とされています」