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書記

「更に何か知りたい事がアレば我が国は出来る限りの協力を致します」

「じゃあさっそくですが……この世界の言葉は日本語なのかね?」


 学級委員が手を上げて、問う。

 その言葉使い、王様とかの前でも変わらないのな。

 喋り方が学級委員の方が大臣っぽいぞ。


「過去の異世界人の反応が資料に存在いたします。答えは違うそうです。口頭の言語は能力を授かった時に理解したとされております。その代わりに――」


 大臣が手に持っている羊皮紙の文字を俺達に見えるように見せる。

 ……見た事も無い文字で書かれたモノだったが……黒本さんが近づいて読む。


「異世界人は学ぶことなく文字を読む事は該当の能力を持っている者以外、例が無い……?」

「黒本さん、やっぱり読めるのか?」

「ええ、はっきりと読む事が出来るわ」


 書記の能力を持つ黒本さんが異世界の文字を翻訳する能力なのがここで判明した訳か。

 森では使い道がなかったけど、これからは用途が大幅に伸びた。


「私は国の人達に力を貸してもらって色々と調べる仕事をした方が良さそうね?」


 みんな同意する。

 今の俺達は会話は出来ても文字は読めないみたいだしな。


「じゃあ、どれくらい長くこの世界にいなくちゃならないかわからないけど、みんな文字を理解できるように、力になるわね」


 黒本さんの仕事が決まった瞬間だった。

 まあ、能力で色々と弄れば良いって事らしいけどさ。

 過去の文献とか専門家との話は黒本さんが調べてくれるそうだ。

 ちなみにこの後、黒本さんの能力は更なる可能性に目覚める。

 魔法書を使えば……魔法を使用出来る能力と判明するのだ。


「以上です。我が国の人々はこれから起こる災厄の可能性と、異世界人の皆さまが国にしてくださる利益を期待しております」

「期待に応えられないかもしれないのは?」

「異世界には商売は無いのでしょうか? リスク無くして膨大な利益はありえません」

「……わかりました」

「では、城下町の一角を皆様に提供致します。店舗等もご意見いただければ用意しますので、どうか末永く我が国に滞在頂けるよう宜しくお願いします」


 そういう事で、俺達はライクスという国に厄介になる事になった。



 その日は城で休ませてもらえる事になった。

 修学旅行みたいに、城内の近い部屋でみんな各々休まされている。

 少し時間が経ってから揃って集まり、俺達は各々会議をする。


 戦闘組……戦闘向けの能力を持ったクラスメイトは騎士、もしくは冒険者になる道を基本的に選び、拠点組……どちらかと言えば物作りに向いたクラスメイトは店を開く方針を一応、する事にした。


 戦闘向けじゃない人は危険な人間に恫喝等をされない様に、騎士が店に常駐する事になるらしい。

 俺達を重要な人材として抱え込む厳重な姿勢が取られたって感じだ。

 元々戦闘向けの能力者は森で戦い慣れてきたし、拠点向きの能力者はここからが力の出し所だもんな。

 一応、仲が良い者同士が集まって店の管理、戦闘向けと仲が良い奴は同居って感じに決まって行く。


「ガウ?」


 俺は茂信と萩沢と同居する事にした。

 茂信と萩沢は能力的な相性が良いしな。

 とはいえ、しばらく茂信は国の鍛冶師の所へ勉学へ行き、萩沢は錬金術とかその辺りの学問を学びに行くそうだ。


 実さんは街の教会で拠点回復の仕事をする事になったらしい。

 スカウトに来た教会関係者が日給とかの交渉をしていた。

 俺はどうするか……。


「幸成は黙って見ていたが、何か引っかかる所はあったか?」

「いや……ただ、みんなが危険な仕事に就かないか心配だ。冒険者や騎士なんて危険な職業になって大丈夫なのか不安だ」

「安全第一を推奨されていたじゃないか、だから黙っていたんだろ?」

「……ああ」


 死なない様にと推奨されているんだ。

 冒険者をするにしてもクラスメイト以外で、国が認めた者の同行が義務づけられている。

 安易に異世界人から身ぐるみを剥ぐ、恫喝をしない様にと指示されていると説明された。

 嘘みたいな好条件に俺だって驚きだ。

 多分、穴があるとは思うが指摘するのが難しい。


「それだけ、何か不吉な事が起こるんじゃないかって不安に思っているみたいだな。俺達を抱え込んで強くなって欲しい、というのはそういう事なんだろう」


 ……だろうな。

 何に警戒しているのかは知らないが、未来に対する不安が見え隠れしている。

 それは村人や騎士、王様に至るまで、この国の人全てが抱えている物の様だ。


「なあ茂信」

「なんだ?」

「死者を出さずみんなを日本に帰すにはどうしたら良い?」


 俺の質問に茂信は腕を組んで唸る。


「それを調べる為にみんながんばるんじゃないのか?」


 ……確かに。

 ちなみに茂信が作った森を抜ける為の装備品の類は国の連中が調査した結果、かなり優秀な物であると証明されたそうだ。

 足りない物は支給してくれるそうだが、クラスの戦いたい奴は茂信に武具を作ってもらう事になる。

 なんでも、今まで使ってきた茂信の武器の方が信用出来る、とかこの世界に来る前には絶対言わないであろう、玄人っぽい話をしていた。


「どっちにしても今、俺達がしなきゃいけないのはLvを上げて、元の世界へ帰る為の手段を探す。これだけだろ」

「……そう、だな」

「萩沢からも聞いただろ? 幸成、お前が無茶をしなきゃいけない訳じゃない。そりゃあこれからの日々で誰かが死ぬ時があるかもしれない」


 茂信の言葉に腕が震える。

 そんな事は絶対にさせたくない。


「だけどな幸成、それと森で起こった出来事とは大きく違うんだ」

「……」

「戦闘向きの連中だって、小野との戦いで思い知った。拠点向きの奴等だってそれは同じだ。あの時みたいに選択する事も出来ずに殺されるのとは違う。みんな自分で選んで行動している。決意したんだ」


 茂信が俺の肩を掴んで、真剣な目をして言った。


「死ぬかもしれない。だから全て幸成に任せて安全な所にいよう、なんて事をしてもらってもみんなは喜ばない。みんなは選んだんだ。その先に死があるかもしれなくてもな」

「みんなが……」


 こんな異世界で、戦いたくも無い、いたくも無い世界で、帰る為に選択した……。


「めぐるさんは幸成、お前を庇った。庇われた気持ちは痛いほど……わかるだろ?」


 俺は茂信の問いに頷くしか出来ない。

 庇われて……死なれたら、どうしたらいい?

 この命を、めぐるさんが成し遂げる事に使いたいと思っているのに、前に進めない気がする。

 とても歯がゆい。

 もしも命を賭ける事でみんなを日本に帰す事が出来るなら、俺は喜んでその賭けに乗る。


「だからな幸成、みんなはお前に庇われて死なれるのが嫌なんだ。それに……もしかしたら日本に帰る手段なんて無いかもしれない。その可能性も十分ありえる」

「いや、それは――」


 俺の言葉を遮って茂信が強い目で言う。


「だけど、このまま何もしないのはもっといけないってみんなもわかっている」


 森でのみんなを思い出す。

 谷泉の支配を……受け入れてしまった。

 何もしないでいたから。


「可能性はゼロじゃない。それこそ前から言っている通り、幸成、お前がLvを上げて強くなれば日本に転移させてもらえるようになるかもしれないだろ?」

「ああ」


 今の俺がしなくてはいけない事はLvを上げる事……か。

 みんなを生きて日本に帰す為に。


「だから、死に急ぐな。機会はきっと来る。その時に後悔しない様、今は備えるんだ」

「……わかった」

「ガウ!」

「そのクマも、幸成と一緒に強くなりたいだろ?」

「ガウガウ!」


 クマが同意する様に何度も頷いて鳴く。

 こうして俺は、当面する事はLv上げだと決めたのだった。


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